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046 第二次訓練開始

フライツェンの山の中、アバロン達13人には懐かしい(と言うほど良い思い出ではないが)場所だ。


初日は前回同様テントの設営から始まる、が騎士達13人の内テントを張るのはアバロンとクレイトンだけだ、後の11人は元騎士達がテントを張っている間に開拓地へと連れて行く。

アバロンとクレイトンは透視で見てディーンとアーネストに次ぐ実力を持っていたので指揮官候補としてさらに鍛えるのだ。


この日だけは夕食をブレイザーが用意した、テント設営後に料理の出来ない者に教えていては夕食の時間が遅くなりそうだったので仕方ない。


ヨネ子は11人の騎士を開拓地に送った後訓練場に戻る前にルンビニーに向かった、また娼婦を雇うのだ。


「お久しぶりキャサリン」


「誰かと思えばマーガレットさんとエルさんじゃないの。また娼婦の御用命?」


「ええ、今日から訓練を開始したからまたよろしく。今度は2ヶ月の予定だから」


「今日からって事は急ぎで?」


「そうね、出来れば1週間か10日で用意してくれると助かるわ」


「良いわよ、前回と同じで良い?」


「人員が?それとも条件が?」


「どちらもよ」


「それなら良いわ」


「じゃあ1週間後にまた来てちょうだい」


「わかったわ。それじゃあよろしく」


商談が終わると訓練場に戻った。


訓練初日は前回同様元騎士達に「ファイア」と「ウォーター」の魔法を教える所から始まる、しかし今回は魔法使いが5人いるのでこれはエル、エレン、アバロン、クレイトンの4人に任せた、ヨネ子とアスカは魔法使い達の短剣術から始めるのだ。


「さあ、あなた達は先ず短剣術からやるわよ。昨日の短剣を出して構えなさい」


「あの、私たちは魔法使いなんですが?短剣術って必要ですか?」


ヨネ子に質問したのはリーグという魔法使いだ、透視で見ると5人の中で1番魔力が多かったので魔法使いとしての腕に自信があるのだろう。

尤も5人の中では最も成長しているだけで魔力の最大値は5人とも大差が無い上にミランダよりは少し多いくらいでしかない、ヨネ子は兄流一を見ていないので分からないが流一と同じくらいだ。


「当然でしょ、魔法を躱されて懐に入られたらどうするつもりなの?」


「私は懐に入られるような真似させませんよ」


ヨネ子は呆れた、が、認識の違いは早期に改めた方が良い、なのでここで不満を言ってくれた方がダラダラとサボタージュのような訓練をされるよりはマシだと思う事にした。


「じゃあそれを証明して見せてちょうだい。アスカ、手加減はするのよ」


『証明』ではなく『手加減』だ、つまり死なない程度に攻撃しろと言ったのだ、ヨネ子はついでなので治癒魔法の実践もしようと考えていた。


「わかりました」


アスカもヨネ子の言いたい事はわかった、なので素直に返事する。


「じゃあ他の皆んなこっちに来なさい」


ヨネ子に言われて残り4人の魔法使いはヨネ子の横にやって来た。


「ではリーグさん、好きなだけ離れてから魔法を打ってください。それを開始の合図にします」


アスカがリーグに言った、懐に入られないようにすると言ったのだ、最初から距離が近ければ意味が無い。

しかしヨネ子やアスカが勝手に距離を決めても「最初が近かった」と言い訳をされては証明の意味が無い、なのでリーグに距離を決めさせたのだ。


リーグは少しバカにされたように感じた、しかしアスカが只者では無い事は感じ取っていた、なので油断する事なく距離をとっていく。

その距離約100メートル、野戦ならまだしも市街戦だともっと近い距離で接敵するものだがそれだけリーグがアスカを警戒している事の表れだろう。


そこまで離れるとリーグはいきなり詠唱省略で「フレイムランス」を放って来た。

詠唱省略とは相手に使う魔法を悟られないように声に出さずに詠唱する技術だ、ヨネ子やエレンのような無詠唱とは違うしリーグには出来ない、つまりリーグはスポーツで言うフライングをしていた、これもアスカを警戒しているゆえだ。


しかしアスカからすれば100メートルも離れていればいきなりであっても避けるのは余裕だ、なので「フレイムランス」が放たれたと同時にその射線を避けてリーグに迫る。


リーグは避けられるのを計算して次の魔法の詠唱を声に出さず始めていた、そして近付いてきたアスカに「ウィンドカッター」を放つ。

リーグとしては最初にフレイムランスを見せる事で火属性の魔法使いだと思わせて不可視の風魔法を声に出さず使えば仕留められるという計算があった。


しかしアスカからすれば魔法の「属性」など全く考えていない、ヨネ子達と居ればそんなもの魔法には一切関係ないとわかっているからだ。

なので「ウィンドカッター」も危なげなく避けてリーグに肉薄した、もちろん短剣術など必要ないと言っていたのだからなす術は無い。


ドガッ!

「グォッ」


「リーグ」

「「「リーグさん」」」


リーグはアスカの前足の攻撃で腹部を大きく抉られて10メートルほど吹き飛んだ、それを見ていた他の魔法使いがリーグの名を叫んだ、そしてリーグの元に駆け寄って行く。


「ひ、酷い」

「これはもう助からないかもしれない」


悲痛な目でリーグを見つめる魔法使い達、そこへヨネ子がアスカを連れやって来る。


「退きなさい」


「酷いじゃないですか、何も殺さなくても」


ヨネ子に詰め寄ったのはリーアという名の魔法使いだ、しかしヨネ子はそれを無視して瀕死のリーグに質問する。


「どう?これでもまだ短剣術は必要無いと思う?」


「た・しかに・・必よ・・う・ですね。でも・・も・う・私・・には・必要・・・なさ・そうで・・す」


「何?あなたはこれくらいで死ねると思ってるの?そんな事じゃこれからの訓練で生き残れないわよ」


「は・は・は・・・・」


その後は何を言いたかったのかはわからないが気絶してしまった、なのでヨネ子は治療を始める。


「ギガヒール」


全ての傷を治すと同時に流れ出た血液も少し増やしておいた、この血液を増やす魔法はエレンもまだ使えない。


「さあ、リーグは今日はこのまま寝かせておきなさい」


「えっ?リーグは生きているんですか?」


再びリーアが聞いた。


「当然でしょ、これくらいの傷治せなくてどうするの」


「え?そんな凄い治癒魔法って、私見た事ありませんよ」


「今見たでしょ。それにこれからは皆んなにもこれくらい出来るようになってもらうわよ」


「「「「ええーー」」」」


4人とも驚いた、そして全員首を横に振っている、声にはなっていないが「無理無理無理」とか言っているのだろう。


しかしそれを無視してヨネ子は訓練を始めた。


昼になると魔法使い達はエレンに任せてヨネ子は元騎士達の訓練に向かった、前回と同じように疲労除去しながら走り込みからの素振りだ、前回との違いは先導するのがディーンからアバロンとクレイトンに変わったところだけだ。


エレンは最初に魔法使い達の特徴を聴いた、魔法についての認識が自分とどれほど違うか知る事はその認識を壊す上で重要だと考えているからだ。


それによると、いまは寝込んでいるリーグが火属性と風属性のダブルで上級の魔法使いと認識しているらしい。

後はリーアが水属性と風属性のダブルで上級、ケイティーが水属性で上級、ダリオが土属性で中級、エマが火属性で中級と言う認識だった。


「なるほど、わかりました。では最初に全員魔力を使い切って下さい」


エレンは聴きながら全員を透視で見ていた、なので全員まだ魔力量の上限に達していない事がわかったので魔力枯渇から始めるようにしたのだ。


尤もこの世界の魔法使いで魔力量が上限に達する者はほとんどいない、それは魔力量を増やすためには魔力を使い切るのが最も効率が良いのだが、そうすると意識を失ってしまうためだ。

子供の時なら意識を失ってもそう問題は無いが大人になると色々と問題があるのでほとんどの者は魔力を使い切る事がない。

さらに魔力が上がりにくくなった時点を魔力の最大値と誤認する者が多いのも理由の一つだ。


「わかりました」


全員素直にそれぞれ得意な魔法で魔力を使い果たす、リーグの例があるので不満や反対意見を述べる者はいない。


そして全員が気絶したところでマナチャージを使い魔力を少し回復させた、少しなのは後を自然回復に任せるためだ、その間に座学を行う。


座学とは言っても最初は常識を壊すところから始める、全員が属性など関係無く全ての魔法が使えると言うことを知らなければ先に進めないからだ。


そして座学の終わりにもう一度魔力を使い果たしてから初日の訓練を終えた。


1日の訓練が終わるとヨネ子がリーグを呼び起こした。


「リーグ、さっさと起きなさい」


「う、うーん。え?俺は、いや私は生きてるのか?」


「そうよ、早くこっちに来て食事にしなさい」


リーグは言われたようにヨネ子の元に行く、流れ出た血のせいで身体が重い。


リーグの食事はブレイザーが作っていた、その量は「何処のフードコロシアムだよ」と言いたくなるほど多い。


「あ、いや。この量はチョット・・・」


流石にそれを見たリーグは量の多さに引いていた。


「良いから食べ切れる所まで食べなさい」


「わかりました。いただきます」


リーグには最早ヨネ子に反抗する気は全く無かった、なので素直に食べ始める、当然ながら3分の1も食べ切れ無かった。


「じゃあチョットジッとしてなさい」


そう言うとヨネ子はリーグの骨の内部にある骨髄を活性化させた、要するに血液を作り出しているのだ。

通常血液を作るのは赤色骨髄と呼ばれる器官だが、大怪我をした時などは黄色骨髄も一時的に赤色骨髄に変化して血液を作る。

今のリーグの身体は怪我こそ治っているが血液が少ない状態なので黄色骨髄も赤色骨髄に変化している、なので魔法の補助により効率よく血液が作られて行く。


ただ、その血液になる材料は食事から取らなければ筋肉や内臓から転用せざるを得なくなる、なのでヨネ子は大量の食事を用意していたのだ。

そして骨髄と同じように胃と腸も活性化させていた、これにより食事の栄養を直接血液に変えて行くのだ。


「そろそろお腹が空いたでしょ、さっさと食べなさい」


「あれ、本当だ。わかりました」


リーグが食事を再開するとエレンが聞いてきた。


「マーガレットさん。もしかして血を作ってるんですか?」


「そうよ、貴方にもそのうち教えるつもりよ」


「本当ですか?楽しみにしてます」


しばらくするとリーグがまた満腹になったので再び造血を始めた、さらにもう一回繰り返すとリーグは本調子に戻った。


「あの、申し訳ありませんでした」


リーグはヨネ子に失礼な態度をとったことを謝罪した、そして強くなる決意を固めた。


「貴方は他の4人より1日分遅れたのよ。明日から頑張りなさい」


「はい。ところでアスカさんはあれでも手加減していたんですよねぇ?」


「そうよ。そもそもアスカもゲートの魔法を使えるからね。貴方の元まで走って行く必要は無かったのよ」


「えっ?ゲートって氷河に行ったり、ここまで連れてきてくれた魔法ですよね。アスカさんも使えるんですか?」


「そうよ、それに空中を走ることも出来るわよ」


「な?え?なるほど、私なんかでは絶対に勝てませんね」


「そのうち貴方達全員にゲートと飛行の魔法も教えるわよ」


「わかりました。気合を入れて頑張ります」


リーグは改めて決意を固めた、そしてその会話を聞いていた他の4人も気合を入れ直した。


訓練2日目からも内容は初日と同じ、ヨネ子とアスカの2人が午前中魔法使いの短剣術の担当、昼からは魔法使いの担当がエレンに代わる。


そして1週間、魔法使いのカリキュラムは変わらないが元騎士達は身体強化魔法を使い始める、だがその前に1日休みにした。


そしてヨネ子とエルはルンビニーへと向かった。


「来たわよキャサリン、用意は出来てる?」


「これはいらっしゃいませ。準備は出来ております」


最初に迎えてくれたのはエクトルだった、そしてキャサリンも迎えてくれる。


「出来てるわよ。それより時間があるなら少し話したいんだけど良い?」


「良いわよ、何?」


ヨネ子とエルは側にあったソファーに座った、その対面にキャサリンも座る。


「貴方は将来的に娼館を始めるって言ってたでしょ。それを私に任せて欲しいと思ってるの」


「それは私達の作る国の国民になるって事?」


「そのつもりよ」


「理由は?」


「独立したいからよ。ここではどうあってもボスの下に居るしかないからね」


「ボスとは折り合いが悪いの?」


「折り合いは悪くないわ、今は。でも気分屋でね、機嫌を損ねると簡単に切られちゃうのよ」


裏の世界の「切られる」とは「殺される」とイコールだ、なので気の休まる時が無いのだろう。


「なるほどね。でも私達のところに来るって言ったら切られそうね」


「そうね、でも貴方達なら守ってくれるでしょ」


「守る価値が有ればね」


ヨネ子はキャサリンをジッと見つめながら言った。


「私に価値が無いと?」


キャサリンは生唾を飲み込みながら恐る恐る聞いた。


「マーガレット、そのボスと戦おうって考えてるの?話し合おうと考えてるの?」


エルが聞いてきた、ヨネ子がキャサリンを受け入れると思っているからだ。


「流石によくわかってるわねエル。まあ取り敢えず会ってから決めるわ」


エルにそう言ってからキャサリンに向き直る。


「じゃあ今からそのボスのところに連れて行ってくれる?」


「わかったわ、じゃあ付いてきて」


キャサリンはそ言うとヨネ子とエルを連れて事務所を出た。


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