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040 調査

応接室に入るとさっそくグレンデルが聞いて来た。


「で?この魔道具をいくつ作りゃ良いんだ?」


最初はブラキオ商会で作る予定だったが、グレンデル工業も製作に参加せざるを得なくなったので気になったのだ。


「取り敢えず至急で100。いつ出来る?」


「おれの所はそう時間は掛からんが、ブラ、お前のところはどれくらいかかるんだ?」


「うーーーん・・・・・7日後だな」


ブラキオはしばし考え込んでから答えた、特殊な魔道具なので作れる職人が限られるのだろう。


「ではそれで作ってちょうだい。素材は後で渡すわ」


「わかった、引き受けよう」


注文が完了すると再びグレンデルが聞いて来た。


「それで、今度はどんな条件で俺たちの分を作らせてくれるんだ?」


「条件と言うほどの物でも無いけど、もうすぐ最初の開拓を始めるようになったのよ。だから私達の国への移住者を募るのが条件よ」


「人数に上限や下限はあるのか?」


「無いわ。今回は一緒に開拓から始めてもらうからやる気さえ有れば誰でも歓迎するわよ」


「お前さんにしちゃ甘い条件だな?また職人を何人か寄越せって言うかと思ったんだが」


「それを言うにはまだ早いからね。未開地の開拓は重労働だから無理矢理連れて来た者は使い物にならないのよ」


「なるほど、わかった。任せとけ」


「じゃあ1週間後にまた来るわ。素材はどこに出せば良い?」


そう言ってヨネ子達が帰ろうとするとグレンデルに呼び止められた。


「ちょっと待ってくれ、もう一つ相談、いや頼みが有るんだが」


「何?」


「ドラゴンの素材を分けてくれねえか?」


グレンデルは職人を返しに来た時にヨネ子が10体以上のドラゴンの素材を持っている事を聞いている、なのでそれを分けてもらいたかったのだ、通信の魔道具の材料として。


「この前渡した分は使ってしまったの?」


「ああ、元々俺の分は半分だったんだが、鱗は使いやすい素材なんでもう大分使っちまったんだ」


「そう、で?見返りは何?」


「それなんだが、お前さん達は金は要らねえんだろ?代わりに何が欲しいか言ってくれねえか?」


「じゃあ貸しにしといてあげるわ。その変わり利子として通信の魔道具の代金は貴方が持ちなさい」


「ああ、良いだろう。商談成立だ」


グレンデルとの話が終わるとブラキオの案内で倉庫に向った、そしてドラゴンの素材の内鱗だけを数千枚出した、あまりに大量なので一々数えてはいられない。

次に3等級の魔石も数百個出した、こちらも一々数えてはいられない。


素材を出し終わるとグレンデル工業に向かう、ここではドラゴン一体分の素材を出した、職人を借りた報酬として渡したドラゴンと同じ種類のドラゴンだ。


ドラゴンの種類が同じなら個体が違っても通信の魔道具が使える、なので前回と同じドラゴンにしたのだ。

因みにヨネ子達の分として渡したドラゴンとは種類が違う、なので氷河人とヨネ子達の通信の魔道具では話す事が出来ない。


「じゃあ1週間後に」


「ああ、1週間後に」


そう言ってヨネ子達はボレアースを後にしてコルムステルに戻った。


「マーガレット、一週間どうするの?」


帰るなりエルが聞いて来た、この後の予定が何もないからだ、元々魔道具の製作に何日かかるのかわからなかったので予定を立てているはずもない。


「そうね、開拓予定地に行って資源調査でもしようかしらね」


「それは良い考えですね。どの道いつかはしないといけない事ですもの」


エレンが真っ先に賛同した。


「マーガレットしか知らない資源とかもありそうで楽しみだわ」

「確かに」


エルの意見にはエレンも同意した。


そして夕食時、他のメンバーにも資源調査をすると伝えた。


「あの、マーガレット様、せっかくですから開拓予定地に命名してはどうですか?」


ディーンが提案した、フィールマ大森林が終わった部分から南の海まで続く地域はどの国も名前を付けず未開地と呼んでいた、そのためヨネ子達も「開拓予定地」や「建国予定地」という言い方をしていたのだ。


「そうね、そろそろ必要な場所には名前を付けた方が良いでしょうね。それで何か良い案でもあるの?」


ヨネ子は提案者のディーンに聞き返した。


「いえ、それは皆さんで考えればと」


「マーガレットが決めたら?いきなり名前を考えろって言っても無理があるもの。それならマーガレットのいた世界の名前を付けたらいいと思うわよ」


ディーンが意見は無いと言うのでエルが提案した、地球の名前を付けるならこの世界の名前とは被り難いので分かりやすくなると思っている。


「それは良い案ですね。これから沢山の場所や物に命名する事を考えれば新しく考えるより良いと思います」


エレンも賛成する、実際何も無い状態で幾つもの名前を考えるのは苦労するものだ。


「なるほどね。じゃあそうね、今回解放した地域全体は「キューシュー地方」でどう?」


「良いんじゃ無い?」

「私も良いと思います」

「ではキューシュー地方と呼びましょう」

「良いですね」


エル、エレン、ディーン、アーネストはすぐに賛成した、しかしアスカは賛成はしているが好奇心から聞いて来た。


「良いと思いますけど、名前に意味とか有るんですか?」


「私の生まれた日本では、八地方区分と言って大きく8つの地域に分けてるの。北から「北海道」「東北」「関東」「中部」「近畿」「中国」「四国」「九州」って言うの」


「なるほど、1番南を解放したから「キューシュー」なんですね」


「そうよ」


アスカは直ぐに納得した、他の者も全員納得したように頷いている、ここまで大人しいブレイザーもだ。


「では明日からキューシューに資源調査に行くわよ」


「「「「「「了解」」」」」」


翌日、キューシュー地方では無くその入り口、討伐を開始した場所に全員で向かった。


「じゃあディーン、アーネスト、ブレイザーの3人はここで「道標」を作っていてちょうだい」


これから開拓するキューシュー地方は関東よりも広い未開地だ、なので開拓者が来た時にどの方角に向かえば良いのか目印が無ければ遭難してしまう。


「「「わかりました」」」


「エルはアスカと一緒に近くの魔物領域の調査をして頂戴、どんな素材が採れるか調べるのに幾らかサンプルも欲しいわね」


「良いわよ。じゃあ最初は西の魔物領域から行きましょうか」


「はい、でも遠いですけどゲートで行けるんですか?」


アスカは魔物領域を解放する戦いではずっと魔物領域内で戦っていた、なのでそこから西側に広がる地域の事は知らないので近くの魔物領域であっても場所がわからずゲートでは行けないので聞いた。


それに対してエルはドラゴンの討伐&追払いでキューシュー地方全域を回っていたので何処にでもゲートで行けるのだ。


「私はキューシュー地方を全部見て回ってるから行けるわよ」


「じゃあお願いします」


「エレンは空から動物の種類や分布を調べてちょうだい。多分今まで見たことの無い生き物も多いでしょうけど特徴を覚えていれば良いわ」


「わかりました。私はサンプルを取らなくても良いんですか?」


「ええ良いわ。この世界の動物はドラゴンと亜竜以外は私の世界とほとんど同じだから種類さえ分かれば良いのよ」


「そう言う事ならわかりました」


「私は植物と鉱物の調査をして来るわ。では全員作業開始」


「「「「「「了解」」」」」」


揃って返事をすると全員それぞれの仕事に向かった。

エルとアスカはエルのゲートでキューシュー地方の西端へ、エレンは空を飛んで西方へ、ディーンとアーネストとブレイザーは近くの森へ、それを確認した後ヨネ子も出発した。


キューシュー地方は基本は草原だが広い森も点在している、そして大きめの川が流れており標高1000メートル前後と思われる山地も北西方向にある。


ヨネ子は先ずその山地に向かった、鉱物資源を求めてだが期待に反してその山には有用な鉱物も宝石類も無いようだった、ただ良質の花崗岩類(御影石やそれに近い石)と安山岩の山を見つけた。

どちらも石材に適しているので石造りの建築物を作る時に役に立つ。


次に向かったのは森、ただ植生は手入れのされたジャングルのような雰囲気だ、日本で言うなら熱帯植物園に近いだろうか。

ここでは野生のバナナやマンゴーの木が見つかった、ただどちらも既に知られた植物ではある。

しかしここでゴムの木を見つけた、この木も他の国にも有るとは思われるがゴム製品を見たことが無いので有用性は知られていないのだろう。


さらに生活に必要な物では無いが香木の一つ沈香木も見つけた、日本では蘭奢待の名で広く知られる黄熟香と同じ物だ。


他にもタロイモに似た芋やパイナップルも見つけた、パイナップルはまだこの世界では見たことが無かったのでここにしか無い可能性もある。


キノコ類も多く見つけたがこれは毒の有無を見分けるのが困難なため今回は調査対象からは外した。


次に草原、ここにはハーブ類が数多くあった、ただ自生しているのでわざわざ栽培する必要性が見出せず無視する。

中央部の草原では玉ねぎの採れるネギ類の他小松菜やほうれん草のような葉物野菜の原種をいくつか見つけた。

他にもスパイス類をいくつか見つけたがこちらは既に知られた物ばかりだった。


北部の草原にシロバナムシヨケギクいわゆる除虫菊の群生地があった、これで蚊取線香を作ると良いかもしれない。

そしてもう一つ、アブラナの群生地も有った、これで菜種油も取れるようになる。


河口に近い場所には結構大きな三角州があり半分ほどが湿地になっている、そこで運良く米を発見した。

開拓者にとって連作障害がほぼ無い米は非常に有用な作物だ、麦などと違い土地を休ませる必要が無いので土地の有効活用が出来る、しかもこの地は亜熱帯気候のため二期作が出来るはずだ。


今回の調査は全6日、広さの割には満足出来る結果だったと言える。


ヨネ子以外では、エルとアスカの魔物の素材で蜘蛛の魔物の糸が現代の釣り糸並の強度が有る事がわかった、これで釣り糸を作るのはもちろんだが魚網を作る事もできる、さらに服を作る繊維としても使えるようだった。

ただ個体数は少ないので養殖を試みるしか無い、商品化出来るのは大分先だろう。


後はラーテルの魔物の素材が目を引く、地球でもラーテルは「世界一怖いもの知らず」と言われているがその獰猛さはこの世界でも変わらない、理由は皮膚が厚くコブラの毒にも耐性があるからだが、魔物の方は皮膚が薄く動きやすくなっているのにもかかわらず強靭さが上がっていて毒に対する耐性も上がっていた、非常に優秀な防具の素材になるようだ。


他には珍しい魔物という事以外にめぼしい物は無かった。


エレンの方は報告だけ、この世界の者が知らない動物が多かったがヨネ子が知らない動物はいなかった。

その中で危険な動物は魔物にもいたラーテル、これは動物であっても危険なので排除するか生息域には一般人を近付けないようにするしかない。


次にヤマアラシ、こちらもラーテルと同じような物だが生息域がラーテルと被っているので対処は同じだ。


他にはダチョウがいるようだ、こちらは危険ではあるが家畜化した方が良いように思える。


キューシュー地方の中央部より南は草原と言うよりサバンナに近い感じだ、だがライオンやヒョウのような大型猫科動物は見ていないらしい、朗報とはいえるが見つからなかっただけの可能性もあるので注意は必要だ。


後はキューシュー地方最北の魔物領域との境でミツバチの魔物を見つけていた、魔物の蜜蜂は既に知られてはいるが蜜の採集を行うハンターはほとんどいないらしい。

蜂の巣は大きく高額で取引されるが身体のサイズが雀蜂ほどに大きく獰猛だからだ、唯一の救いは毒性があまり強く無い事だが毒消しが無ければアナフィラキシーショックで死んでしまうので結局敬遠されている。

ヨネ子的にはこれも家畜化したいと思っている。


一般的に有用な動物も居た、牛と野豚だ、牛は和牛のような品種では無くアフリカ辺りで飼われているツノが長く痩せ気味の品種だ、それでも家畜化はしやすいので食肉としても乳用としても重宝する。

野豚の方もイノシシほど獰猛では無いため家畜化はしやすいし、成長が早いため開拓初期に家畜化出来れば米と並び食料問題が起きにくく出来る。


エレンの報告で分かった事はこれくらいだ。


最後にディーン、アーネスト、ブレイザーの3人、作った道標は開拓の拠点とする予定の場所までの一本道(正確には方向を示すだけで道など無い)なので設置は簡単だった。

ただ距離はかなりあったのでこの6日でギリギリ設置し終えた感じだ。


調査結果の共有が終わると今度は全員でボレアースに向かった。


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