004 魔物を一狩り
魔物領域に到着したヨネ子は早速ホームにゲートを繋げた、今回の入り口は少し大きめだ、もちろん馬をそのまま連れて帰るからだ。
そしてセリーヌと2人ホームに帰った、もうすぐ夜なので今日はホームに泊まって翌日ヨネ子のゲートで狩りに行くのだ。
そして翌日、狩りの準備が整うと早速ヨネ子のゲートで魔物領域へ。
「で?私はエレンと2人でも良いけど、貴方達はどうするの?」
ヨネ子はセリーヌに聞いた、一緒に行くとは言ったが一緒に狩るかどうかはまた別問題だからだ。
「最初はマーガレットさんの戦いを見せてもらえませんか?その後は別々に狩りをしましょう」
セリーヌはそう提案した、『知恵の魔法』が自信満々で戦えると言う以上それを疑う事はない、しかしどれ程の腕を持っているかを知りたいと思うのは戦いに身を置くものとして当然の欲求だ、だからこその提案だ。
「良いわ、じゃあ付いて来なさい」
ヨネ子は二つ返事で了承した、そして索敵魔法を使う、範囲は1キロほどだ。
ヨネ子は流一とメールが繋がった事で元の世界に居る頃から魔法が使えていた、なので魔法少女歴(?)は2年になる。
そのため魔法の訓練も2年間続けており魔力量はこの世界の誰よりも多いし魔力操作も誰よりも巧みだ、更に豊富な知識がイメージ力を補完するので魔力強度も桁違いに大きい。
なのでヨネ子の索敵範囲1キロは、エレンの索敵範囲300メートルと同等以上の正確さで範囲内の状況がわかる。
この魔物領域は森や草原や湿地が入り組んだ非常に複雑で広大な領域だ、それだけに住んでいる魔物も強力で種類も多い。
この魔物領域で最も強いのはグリーンバジリスクとキングリザードという2種類の亜竜、どちらもSランクだが遭遇率は非常に低いので今回のメインターゲットからは外している、もちろん遭遇出来れば倒すのは言うまでもない。
今回メインターゲットにしているのは虎の魔物、象の魔物、コブラの魔物、水牛の魔物の4種類、いずれもAランクの魔物で魔石も素材も高額で売れる。
ただ一つ懸念があるとすれば氷河人の地でも高額で売れるかどうかはわからないと言う事だろう、なんといっても氷河では入手不可能な素材ばかりだ、その素材にどれだけの価値を見出してくれるかは行ってみないとわからない。
ヨネ子は1人魔物領域へと入って行く、その後ろ20メートルほど間隔をおいてエレンと『デザートイーグル』の5人が付いて行く。
魔物領域に入って800メートルほど、最初の魔物と遭遇した、虎の魔物だ。
ただしここまで魔物と遭遇しなかったのは偶然ではない、ヨネ子は索敵魔法で弱い魔物の位置もわかっているのでそれらを避けて目的の魔物の所へと向かったからだ。
ヨネ子が近付いて来たのがわかった虎の魔物は茂みに紛れて待ち伏せた、知能は高いのだろうが位置がとうにバレているなど思ってもいないからこその行動だ。
ヨネ子は元の世界の虎の襲撃範囲を参考にその3倍の距離で一旦止まった、そこからなら飛び掛かって来られても余裕で捌ける自信があるからだ。
そして収納から戦闘用のサバイバルナイフを取り出した、刃渡り30センチの大型ナイフだ。
ヨネ子は銃も数種類持っているし銃を使う方が早くて確実に仕留めることが出来る、しかし今回は素材採取のためなので銃は使わない。
この世界には無い武器なのでそれを隠すために毛皮なら穴の部分を大きく切り取ったり、骨など硬い素材なら砕いたり売るのをやめたりと必要以上に素材を傷めなければならなくなるからだ。
それを見た『デザートイーグル』も戦闘準備をする、『デザートイーグル』もエレンとミランダの索敵魔法で虎の魔物の位置を確認している。
『デザートイーグル』の戦闘力はAランクなら余裕で勝てる、しかしそれはパーティーでであってソロなら前衛3人がギリギリ勝てるくらいの強さだ。
それだけにヨネ子の勝利を疑ってはいないが戦闘に絶対は無いので、何かあった場合は救助出来るようにと準備をした。
そしてヨネ子が虎の魔物の襲撃範囲を探るべくゆっくり近付いて行く、尤もゆっくりとは言ってもヨネ子にしてはだ、見ている6人には普通に歩いているようにしか見えない。
結果、2倍より少し遠い位置で飛び掛かって来た、これによって少なくとも虎の魔物が魔物化して上昇する戦闘力は2倍強ということがわかる、他の魔物は確認が必要だがそう大きくは違わないと思われる。
飛び掛かって来た虎は背中を大きくそらして右前足を振りかぶっている、そしてヨネ子めがけて振り下ろす。
ヨネ子はそれを虎の魔物の右側へと避けた、そしてサバイバルナイフを虎の魔物の右前脚のやや後方胸側から斜めに突き刺した、その位置に心臓があるのだ。
後ろから見ていた6人はヨネ子が一瞬ブレたように見えた次の瞬間、虎の魔物の横で虎の魔物の胸に手を当てているヨネ子の姿を確認した。
そしてヨネ子がサバイバルナイフを抜くと虎の魔物は『ドサッ』という音と共に倒れた、いくら魔物とは言え生物である以上心臓や頭を傷つけられれば生きてはいない、虎の魔物は既に絶命している。
結局6人はヨネ子が何をしたのかわからなかった、かろうじて虎の魔物からナイフを抜いたのと、その直後に虎の魔物が倒れた事で攻撃していた事がわかったくらいだ。
6人はヨネ子の強さに恐怖した、ただ強さに対してだけでヨネ子そのものには恐怖ではなく尊敬した。
ヨネ子は虎の魔物を収納に仕舞うとエレンたち6人に声をかけた。
「次に行くわよ」
「「「「「「はい!」」」」」」
6人も元気よく返事する、まるで学校の教師と生徒のようだ。
次に向かったのは象の魔物、象の魔物は女性社会でメスと仔象が群を作って生活している、そしてオスは繁殖期以外は単独で行動している、今度はそんな単独のオス象だ。
ヨネ子は今回も普通に歩いて象の魔物に近付く、後方の6人は今回も戦闘準備を怠らない。
ヨネ子の強さは実感したが、武器が刃渡り30センチのナイフだと象相手には厳しいかもしれないと思ったからだ。
象の魔物はヨネ子に突進する気マンマンだ、そして威嚇の雄叫びをあげる。
「パオーーーン」
魔物化しても鳴き声は変わらないようだ、戦闘力は格段に上がるのに。
ヨネ子はそれでも歩みを止めない、もちろん怯んだり速度が落ちたりと言うことも無い。
そんなヨネ子目掛けてとうとう象の魔物が突進を開始した。
ドドドドドド
象の魔物は動物の5割増しほどの体格がある、その巨体が向かって来れば当然のように地響きが起きる。
それに対しヨネ子はアースウォールで進路を塞ぐ、しかし象の魔物はそのアースウォールを強大な突進力で粉砕した。
ただそれにより突進は止まった、もちろんヨネ子の作戦通りだ。
象の魔物はアースウォールにより突進が止まった上にヨネ子を見失った。
その時ヨネ子は象の魔物の右横に移動していた、象の魔物がヨネ子を見失ったのはアースウォールのせいもあるがヨネ子が気配を消していた事の方が大きい。
そしてヨネ子は虎の魔物同様象の魔物の心臓を一突きした。
ドドドドーーン
ナイフを抜くと同時に象の魔物は大きな音を立てて倒れた。
それを見ていたセリーヌが疑問を呈した。
「あの、マーガレットさん。なぜそんな短いナイフで象の魔物が倒せるんですか?」
セリーヌには刃渡りが高々30センチでは刃が象の魔物の心臓に届くとは思えなかったのだ。
「それは魔力刃よ」
「魔力刃?何ですかそれは?」
「元々は剣身を魔力でコーティングして強化する魔法よ。それを剣身が60センチあるようにイメージしたのよ。そうする事で剣身60センチのナイフを持っているのと同じ効果が得られるわ」
「そんな事が出来るんですか?」
聞いて来たのはミランダだ、『デザートイーグル』の一員として補助魔法に有効そうな魔法は見逃せない。
「出来るわよ、その内機会があれば教えるわ」
「本当ですか、お願いします」
機会がいつ来るかはわからないがそれでも嬉しそうだ。
話も終わると象の魔物を収納に収めた。
「で?まだ付いてくる?そろそろ貴方達も戦いたくなったんじゃない?」
「はい、マーガレットさんほど綺麗に倒す事は出来ませんが戦いたいです」
『デザートイーグル』は全員ヨネ子の戦闘を見て興奮していた、自分達の目指すべき高みを見せつけられたように感じたからだ。
なので自分達も戦いたくて仕方なくなっている、結局これ以降は『デザートイーグル』だけで狩りをすることになった、エレンは引き続きヨネ子と行動を共にする。
エレンと2人になったヨネ子は次にまた虎の魔物に向かう、ヨネ子は索敵範囲が1キロあるので常時複数の獲物の姿を捉えている、なので近い順に狩るつもりでいるのだ。
「エレン、350メートル先、わかる?」
「はい、虎の魔物がいますね」
「今度は貴方がやってみなさい」
「えっ?私がですか?私はマーガレットさんほど綺麗に倒せませんよ」
「そんな事は期待してないわ。貴方がどんな魔法を使うか見たいのよ」
「わかりました、それなら次は私がやってみます」
今度はエレンが前に出て虎の魔物の方向に向かった、そしてまたも虎の魔物は待ち伏せた。
エレンはヨネ子が虎の魔物と戦った時に立ち止まって武器を取出したのと同じ距離まで近付いた、そこまでなら襲われないとわかったからだ。
「クイックサンド・ソーンコントロール」
エレンは2つの魔法を並行起動した、クイックサンドは日本語なら流砂の事で足場を砂に変え足の自由を奪う魔法だ。
そしてソーンコントロールは植物の根や蔦のようなしなる部分を使って色々な事をする、今回で言えば虎の魔物をグルグル巻きにして動けなくする。
どちらも単独だとAランクの魔物を拘束する威力は無い、しかし同時使用なら短時間ではあるが拘束する事が出来る。
「ウォーターカッター」
ブシュッ
ボトン
虎の魔物の自由を奪ったエレンは水の刃で首を切り落とした、ヨネ子ほど綺麗には倒せないとは言っていたがこの世界ではあり得ないほど綺麗な倒し方だ。
「見事ねエレン、魔法の使い方も威力も精度も言う事がないわ」
「本当ですか?ありがとうございます」
マーガレットの最大級の褒め言葉に大喜びするエレン、やはり褒められるのは嬉しいのだろう。
その後はヨネ子とエレンが交代で狩っていく、ヨネ子は虎、象、水牛の魔物は心臓を、コブラは脳天をいずれも一突きで倒していった、必要最低限の傷しかない美素材だ。
エレンも虎とコブラの魔物は首を一撃で切り落として美素材と言えるのだが象と水牛の魔物はそういうわけにはいかなかった、やはり重量級の魔物に魔法だけでは倒すだけでも苦労する。
ヨネ子もそれはわかっているので特にアドバイスをする事はなかった、それよりも素材の価値が下がるとわかっていてエレンに単独で狩りを続けさせたのはヨネ子流の訓練の一環なのだろう。
太陽も地平線に沈み始めたのでそろそろ帰ろうかと思っていたその時、運良く2人の索敵にSランクの魔力を持った魔物の反応が現れた、グリーンバジリスクだ。
「あらあら、最後に運良く亜竜が現れたわね」
普通のハンターであれば疲れの溜まった夕方にSランクの魔物など悪夢でしかないが、ヨネ子にとってはただの素材でしかないので喜んでいる。
エレンも以前『デザートイーグル』にいた頃なら「もうひと頑張り」と気合を入れ直していたところだが、ヨネ子の強さを目の当たりにした今は落ち着いてヨネ子の戦いを見学しようと考えていた。
グリーンバジリスクは目がクルクルとは動かないカメレオンのような見た目だ、頭から尻尾までの長さは7、8メートル、亜竜なので鱗は硬い、注意すべきは尻尾と舌の攻撃だ、特に舌は強酸を吐き出す能力があるので避けたからといって油断は出来ない。
ヨネ子は早速グリーンバジリスクと対峙する、そして舌と尻尾の攻撃を避けながら近付くとグリーンバジリスクの脚を足場に背中へと駆け上がりその脳天にナイフを突き立てた。
しかし硬い鱗に阻まれて傷を付けることしか出来なかった、どうやら元の世界製のナイフでは強度が足りないようだ。
ヨネ子は武器の新調が必要だと改めて思った。
そのヨネ子にグリーンバジリスクの舌が襲いかかる、舌の可動範囲は360度で長さも2メートルちょっとあるので武器が使えないのはかなり不利だ。
ただ勝てないという事は全く無い、素材の質を落とさずに倒すのが難しいと言うだけだ、それも難しいと言うだけで不可能では無い、それがヨネ子なのだ。
ヨネ子はまずグリーンバジリスクの舌を避けながら診断の魔法を使う、内臓、特に心臓の位置を確かめたのだ。
これまでの魔物は筋力や瞬発力といった戦闘能力は向上していたが身体構造そのものは動物と同じだった、なので一々診断などしなくても内臓の配置は知っていた、だがグリーンバジリスクは元の世界にはいない亜竜なので身体構造を知る必要があったのだ。
その結果心臓は前足の内側に1つずつ2つ有った、この位置なら上からの攻撃は肩甲骨で防げるし横からの攻撃は前足で防げる2つあるので1つを潰されても致命傷にはなるが戦闘は続けられる、さすが亜竜と言うべきか。
ただ身体構造上下から攻撃される事がほとんどないので腹側の鱗は柔らかい、そこが弱点と言えた。
ヨネ子は診断の結果からナイフではなく魔法で倒す事を考える、そしてグリーンバジリスクと少し距離を取ってから魔法を起動した。
「アースピット」
アースピットは言うなれば落とし穴だ、ヨネ子はグリーンバジリスクの形とほとんど同じ形で深さ15メートルほどの穴を作った。
グリーンバジリスクはヨネ子の思惑通り立っているそのままの形で穴に落ちていった、そして絶命した。
穴の下にはちょうど心臓の位置に突起を作っていた、グリーンバジリスクの腹側の鱗は柔らかいので硬化した土でも落下の衝撃と合わさる事で簡単に突き刺さったのだ。
穴を塞ぐと美素材となったグリーンバジリスクがヨネ子とエレンの前に横たわっていた。
それを収納に仕舞うとエレンとヨネ子は『デザートイーグル』のホームへと帰って行った、もちろんゲートの魔法で。