037 討伐開始
ボレアースでの2日目、ヨネ子はエルと出かける事にする、最初の討伐地に行くのだ、1度行ってみなければゲートを使えないので仕方ない。
「エレン、私とエルは最初の討伐地を見に行ってくるからみんなをお願いするわ。アスカと2人通訳でもしてやってて」
「はい、わかりました」
「それからクーラ村にゲートを繋げて頂戴、そこから飛んで行くから」
「はい。ゲート」
エレンは言われた通りクーラ村にゲートを繋げた、クーラ村はエレンが『デザートイーグル』時代に訪れた事があるフィールマ大森林に隣接した村だ、エレンが知っている場所の中で最も討伐地に近いので時間の節約のためそこに向かった。
「「じゃあね」」
そう言うとヨネ子とエルはクーラ村に向かった。
クーラ村に着くと直ぐに村を離れた、ここは村の周りが高い木に囲まれているので道路から少し外れただけで人目につかなくなる。
なので早速エルが本来の姿になって南へと飛んで行く。
ヨネ子の移動魔法やエルの飛行魔法では速度が速くても1000キロと亜音速までしか出ない、それに対してエルの本来の姿での飛行は音速を超えマッハ2近くまで速くなる、なのでエル本来の姿で行ったのだ。
クーラ村のあるレベンド王国の南にはブーストン王国が海まで続いている、そのブーストン王国の西側が最初の討伐地域だ。
ここの海岸近くはマングローブの林になっているがその先は大きな川の三角州があり、その川の周りは草原地帯になっている。
ここはSランクの魔物領域が3つ重なりあって存在している他、その魔物領域の中にさらにAランクやBランクの魔物領域が複数存在している特殊な場所だ。
ただそれは海岸部からフィールマ大森林の南側の一部に至る未知の範囲全てがそう言う状態なのだ、だからこそ未だどこの国の物にもなっていない。
ヨネ子とエルはその魔物領域の東端に降り立った、この近くには町はもちろん小さな村さえ無いので人目を気にする必要が無かったのも降り立った理由だ。
マングローブの林は満潮時に潮が満ちてくる場所より陸側はほとんど生えていない、そこより陸側は草原地帯になっているので野営場所には苦労しないようだ。
野営地と魔物領域の確認が終わるとヨネ子とエルはボレアースへとゲートで向かった。
「どうだった?トラブルとか無かった?」
帰るなりヨネ子がエレンに聞いた。
「何もありませんでした。それよりトイレを3つと超言語の指輪を4つ作ったんですけど良かったですか?」
エレンはメアリとシェンムーとマルコのためにトイレを、シェンムーとブレイザーとディーンとアーネストのために超言語の指輪を作ったのだ。
「ええ、でも指輪はまだそのままじゃ使えないんでしょ?」
ヨネ子が聞いた、超言語はイメージが特殊なためエレンであっても魔道具が無ければ使う事が出来ないのだ。
「はい、なのでお願いします」
エレンはそう言って超言語の指輪をヨネ子に渡した、ヨネ子はその指輪にイメージを流すとエレンに返した。
その後ヨネ子はエルと共に今度はグレンデル工業に向かった。
「お邪魔するわよ」
「おうどうした?心配しなくても明日には終わるぞ」
工房に直接行ったのでグレンデルが返事した。
「それは心配していないわ。それより明日から1ヶ月職人を何人か借りられない?」
「職人を?どうしてだ?」
「明後日から1ヶ月かけて魔物領域をいくつか潰すつもりなの」
「なるほど、武器のメンテナンスか」
「そう言う事」
グレンデルは少し考えた、1ヶ月の長期に渡って数人の職人が居なくなるのは難しいからだ。
「俺のところは出せても一人だな。だが三軒隣のグレガリんところが最近大口の注文を仕上げて今職人に余裕があるはずだ。俺が話を通しとこうか?」
「ええ、じゃあそっちから2人借りてくれない?報酬は1人経費別で10万ダグマ、プラス魔物の素材を幾らかでどう?」
「その条件なら問題無え」
「後道具も貸してもらえる?」
「ああ、良いぞ。こっちに来い」
グレンデルはヨネ子を倉庫に連れて行った。
「ここにある道具を貸してやる。使い古しだが1ヶ月だけならこれで十分だろう」
「ありがとう。借りて行くわね」
ヨネ子はそう言うと鍛治の道具を収納に入れてグレンデル工業を後にした、そして次に宝石屋を訪れた、また超言語の指輪を作ってもらうためだ、今度は武器のメンテナンスに来てくれるドワーフ達の分を。
翌日昼過ぎ、アーネストの武器を仕上げた後、鍛治職人のドワーフ3人を連れて早速ブーストン王国の討伐地に向かった。
そしてヨネ子は娼婦一行を、エレンは『デザートイーグル』一行を迎えに行った。
『デザートイーグル』一行が来るとセリーヌは直ぐにセラフィムを呼んだ、これで今回の討伐軍が全員揃った。
その日は全員で焼肉パーティーとなった、そして元騎士達と『デザートイーグル』一行がお互いに紹介しあう。
アバロン達元ハンターにとって『デザートイーグル』は憧れの存在だったらしい、フランドル王国はリシュリュー王国ともアルバート王国とも隣接しているのでマンモスとバハムートの討伐と叙勲をギルドの情報掲示板で見ていたからだ。
ただあくまでもハンターだった者にとってはであり、それ以外の者にとってはただの美少女軍団でしか無い。
食事が終わり元騎士達とブレイザー、メアリ、シェンムーで後片付けをしている間、それ以外のヨネ子一行と『デザートイーグル』一行それにドワーフ3人は食後のティータイムを楽しんでいた。
因みに娼婦一行は後片付けはしていないが既にテントで休んでいる。
「明日はアスカとディーンとアーネストは訓練の時と同じように元騎士達を連れて行きなさい。『デザートイーグル』もいつも通りで」
「「「わかりました」」」
「了解」
3人とセリーヌが返事した、全員そのつもりだったので即答だ。
「それで私達だけど、エレンとエルはいつも通り上空待機でいい?」
「いいわよ」
「はい、大丈夫です」
エルとエレンも即答した、が、ここでセリーヌが不思議に思ったので聞いてきた。
「あの、エルさんはわかるけどエレンも空を飛べるの?」
セリーヌ達はエルが神龍なのは知っているので上空待機と聞いても不思議には思わなかったが、エレンも空を飛べる事には驚いた。
「はい、正確には飛んでいるんじゃ無いんですけど。マーガレットさんに教えてもらいました」
「マーガレットさんに?・・・さすが知恵の魔法ね」
『デザートイーグル』にとって「知恵の魔法」は万能の存在なのだ、それだけの実績を残しているからだ。
「それで私とセラフィムは先行してドラゴンの討伐をするわ、いい?」
「わかりました」
セラフィムも即答した。
「ドラゴンは討伐させないの?」
エルが聞いて来た、余裕では無いが各リーダーを中心にすれば下位龍程度討伐は不可能では無いからだ。
「『デザートイーグル』ならそんなに時間はかからないでしょうけど、騎士達は倒せても時間がかかるでしょうからね」
「ああ、今回は1ヶ月で魔物領域を7つ潰さないといけないから確かに時間がもったいないわね」
エルが納得すると今度はエレンが聞いて来た。
「ところで主は倒しても他の魔物が代わりに主になるんですよね。それはどうするんですか?」
「魔物領域は中心部に主が居ないといけないでしょ?だから取り敢えずは主を討伐した後中心部を「アースウォール」で囲んで他の魔物が来れないようにするつもりよ」
「取り敢えずって事はその後どうかするんですか?」
「魔物領域の中心部は私達の世界で「龍脈」と呼ばれる場所にあるみたいなの。だからそのうち街を作るか魔法で龍脈そのものを移動か消滅させるつもりよ」
「そんな事出来るんですか?」
「もちろんよ、魔物領域が出来る原因や理由をしっかり理解出来ればね」
この世界の住人にとって魔物領域はあって当たり前のものであり、何故存在するのかとかどう言う理屈で出来上がるのかなど考えた者は居ない。
唯一経験則として魔物領域の中心部に街を作れば魔物領域は消滅すると言うことを知っているだけだ。
「魔物領域が出来る原因や理由なんて私でも考えた事は無かったわ。さすがマーガレットね」
エルが感心したように言う、そしてその顔は笑顔だ、ヨネ子といれば本当に退屈しないとでも思っているのだろう。
ここで後片付けを終えてブレイザー、メアリ、シェンムーの3人が帰って来た、その後はただの雑談で終わった。
一夜明けると朝食はブレイザー、メアリ、シェンムーの3人が娼婦一行以外の全員分の朝食を作ってくれた。
そして後片付けもその3人に任せ元騎士達と『デザートイーグル』は全員魔物領域へと入って行った。
セラフィムもそれに合わせ空から魔物領域を進む、この地域は下位龍ではあるがドラゴンも数多く生息している。
ただ全滅はさせない、そんな事をすれば素材が取れなくなるので追い払える物は一旦追い払う、殺す事はいつでも出来るからこそだ。
ヨネ子は出発前にドワーフ達に鍛治の道具を出して渡した、そしてアースウォールで簡易的な鍛冶場を作ると魔物領域へと飛んで行った。
今回解放するのは東京23区と同等の広さのSランクの魔物領域3つだが、それぞれかなりの領域が重なっているため全体では東京都の半分くらいの広さでしかない。
しかしその魔物領域の先は魔物領域に囲まれているため未開地となっているだけで広大な草原や森が広がっている。
なので今回の魔物領域解放が成功すれば関東全域よりも若干広いくらいの土地が手に入る。
ただドラゴンは魔物領域に影響されずに生息しているためヨネ子とセラフィムが討伐もしくは追い払う範囲はかなり広い。
ヨネ子は最初に魔物領域内にあるAランクとBランクの魔物領域の主4頭を討伐して中心部をアースウォールで囲った、この4つの魔物領域は先に潰しても問題ないからだ。
しかしSランクの魔物領域の主は討伐の進捗に合わせて討伐しなければならない、そうしなければそこに居た魔物が多く逃げ出し多くの魔物がはぐれ魔物として周辺の動物達を襲いかねないからだ。
元々全滅はさせずに一部は他の魔物領域へ追いやるつもりだが、それにしても限度はある。
小さい魔物領域を潰したヨネ子はしばらく魔物領域内のドラゴンを探していた、しかし見つけたのは1頭だけ、それを簡単に討伐するとその先の草原の方でドラゴンを探す。
今回手に入る予定の土地を縦横無尽に飛び回りドラゴンを探すと夕方までに5頭見つけた、その中で元騎士達が戦っている魔物領域の近くに居た2頭は倒したが遠かった後の3頭はさらに遠くへと追いやった。
ヨネ子が野営場所に戻ってくると直ぐにセラフィムも戻って来た、それを合図にしたわけでは無いが元騎士達と『デザートイーグル』も戦闘を終了して戻って来た。
セラフィムも3頭のドラゴンを倒していた、さらに3頭のドラゴンを追いやったという事だった。
元騎士達の成果はアスカチームがSランク2頭、Aランク12頭、Bランク以下31頭とかなり成果が上がっていたがディーンチームもアーネストチームも同じような成果だった。
ただ各チームともSランクの魔物は解体していない、これも時間の節約のためだ。
Sランクの魔物はアスカは自分の収納に入れているがディーンとアーネストのチームはエルが預かっていた。
なので戻ってから食事の準備をする前にそれぞれのチームのSランクの魔物をそれぞれのチームで解体し始めた。
『デザートイーグル』はSランク4頭、Aランク17頭、Bランク以下44頭と元騎士達より成果が上がっている、人数は少ないが解体をせずに討伐した魔物は全てミランダの収納に入れたおかげだ。
これだけ多いと流石に5人では解体に時間がかかり過ぎる、なので少し安くなっても全てそのままハンターギルドに持って行く事にした。
ヨネ子はセラフィムの倒した分と合わせてドラゴンだけ解体する事にする、ただし解体するのはディーン、アーネスト、セリーヌ、アメリア、ユリアナ、シェーラに任せる、2人合わせて6頭なのでちょうど良い。
そしてヨネ子はミランダと共にコルムステルのハンターギルドへと向かった、ヨネ子もAランク、Bランクの魔物領域の主を持っているのでそれを売るのだ。
コルムステルのハンターギルドではあまりの量の多さに困惑していた、さらに近隣に居ない魔物ばかりなので査定にも困ってしまった、結果料金は翌日受け取る事にして野営地へと戻っていった。
今日はまだ初日であり全員の武器はメンテナンスしたばかりなのでドワーフの出番は無い、なのでヨネ子は翌日も暇を持て余すドワーフ達にドラゴンの素材を提供する事にした。
そしてなんでも好きに作るように言った、全員独立していないだけで一人前の職人だ、滅多に手に入れる事の出来ない素材をどう活かすか興味もあった。
日が沈みきったのと同じくらいに解体も終わった、後は食事をして討伐初日を終える。
因みにここでももちろん風呂は作った、本格的な戦闘の1日なので訓練の時とは比較にならないくらい汗をかいているだろうから。




