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032 ヒュドラ

エムロード大王国の王都サフィーアは花の都としても知られている、街のそこかしこに一年中色々な花が咲き誇っている。

そんなサフィーアに着いたヨネ子一行は直ぐに宿を取ると今後の予定に着いて話す。


「今日はこれからエムロード王に会いに行くわよ。明日からは手分けして訓練の準備。アスカはディーンとアーネストを連れて装備の買い物。エレンはブレイザーと野営道具の買い物。エルはトイレを作りに行って頂戴。それぞれ50人分よ」


指示が終わった後エルが聞いて来た。


「それは良いけどマーガレットは何をするの?」


「私は食用油を調達しに行ってくるわ」


それを聞いたブレイザーが質問する。


「また氷亀を狩りに行くんですか?」


「いいえ、今回はここで植物油を作らせるわ。そのためにも先にエムロード王に話を通しておきたいから今から行くのよ」


「植物油ですか?それは氷亀の油と同じような物ですか?」


「使い方は同じね」


「わかりました」


ブレイザーは自分と関係ある事なので聞いた、そして気が付いた、騎士達にも使わせるのだと、そしてそれは自分が使い方を教えるのだと。


話が終わると全員で王宮に向かう、先頭は面識のあるエレンである。


「元『デザートイーグル』のエレンです。国王陛下に面会をしたいので取り次ぎをお願いします」


「はっ、少々お待ち下さい」


門衛は直ぐに上司へと報告に行った、『デザートイーグル』の名前は忘れられてはいないようだ。


しばらくすると門衛は上司を連れて戻って来た。


「ようこそこられました。こちらへどうぞ」


門衛の上司はヨネ子達を宰相の元へと連れて行った。


「ようこそエムロード大王国へ、『白金神龍』の皆さん。私が宰相のジェラルドです。国王陛下もお待ちですのでこちらへ」


そういうとジェラルドはヨネ子達を謁見の間へと案内した、そこには国王の他王太子のギルスバートも居た。


「お久しぶりです陛下、それにギルスバート殿下も」


最初にエレンが挨拶する。


「久しいのう、まあ先ずは座って話そうではないか」


そう言われて全員席に着くと数人のメイドが紅茶を用意して下がっていった、そのタイミングでヨネ子が話し出す。


「初めまして陛下、私は『白金神龍』のマーガレット、隣から順にエル、ディーン、アーネスト、ブレイザー。エレンの隣に居るのがアスカです」


「エレン殿が『デザートイーグル』を辞めたと言うのは本当の事だったのだな」


王太子ギルスバートが聞いた、ギルスバートは『デザートイーグル』と狩りに行ったこともありその絆の強さは良く知っていたのだ。


「はい、今は『白金神龍』のエレンです」


エレンが答えた後、今度はヨネ子が国王に聞いた。


「リシュリュー王国からですか?」


リシュリュー王国とエムロード大王国は珍しい事だが隣国同士でありながら中が良い、それはヨネ子も流一の報告で知っていた。

なのでヨネ子は『白金神龍』を知っていたこと、アスカの事を知っている様子だった事、簡単に国王と謁見が出来たことから既にリシュリュー王国から報告を受けていると考えたのだ。


「聞いていた通りお主に隠し事は出来んようじゃな」


「では何故ここに来たのかも?」


「うむ、わかっておる。結論から言えばリシュリュー王国と同じ内容で認めようと思う」


「それはありがとうございます。ではこれで失礼します」


「せっかく来たのじゃ、そんなに急ぐ事もなかろう」


「・・・・・何をして欲しいんですか?」


「本当に良くわかるものじゃ。なら駆け引きなどせず言うとしよう。ドラゴンの魔石が欲しいのじゃが手に入らぬか?もちろん適正な価格で買わせてもらうが」


「理由を聞いても?」


「もちろんじゃ。実は隣のリシュリュー王国にはマンモスの魔石があって事あるごとに自慢されるのじゃ。さらにアルバート王国でもバハムートの魔石を手に入れたと聞く。どちらも『デザートイーグル』のお陰のようじゃが。この2国と我が国は国力が拮抗しておる、だからこそ遅れを取りたくは無いのじゃ、そんな事でもな」


国王は『デザートイーグル』のくだりあたりからエレンを見て言った、エレンは苦笑いを浮かべている。


「そう言う理由なら自国の魔物を討伐しないと意味が無いのでは?」


「まあそれはそうなのじゃが我が国ではドラゴンの被害は出ておらぬでなぁ。じゃから魔石だけでもと思っておるのじゃ」


それを聞いたヨネ子はしばし考えた、魔石ならヨネ子も2つ持っているしエレンも持っている、それを売る事自体に問題は無い、ただそれでは本当の意味でエムロード王の希望が叶うわけではない。


「エル、貴方の力でドラゴンかそれと同等の魔物の居場所はわからない?」


「Sランクの魔物領域くらいの広さの中に居ればわかるわ。でも今その範囲にはいないわね」


「そう・・・。陛下、直ぐに要る訳では無いんでしょ?」


「もちろんじゃ。ドラゴンなど『デザートイーグル』が一体倒しただけの魔物なのじゃ、そんなに直ぐに手に入るとは思っておらん」


その返事を聞いて再びしばらく考える、そして出した結論は。


「では明日狩りに行きましょう。報酬はその時に相談でどうですか?」


「明日?そんなに簡単に見つけ出せるのか?」


「さあ?それはどうでしょう。討伐自体は問題無いですが居なければどうしようもありませんから」


「討伐は問題ないのか・・・ドラゴンなのに・・・リシュリュー王が報告をよこすはずじゃな」


エムロード王は呟くような小声で言った。


翌日、ヨネ子とエル以外は予定通り買い物へと出かけた、そしてヨネ子とエルはトイレと指輪を注文するとサフィーアを出た。

しばらくは歩いてサフィーアから遠ざかっていたが、十分離れたところで空を飛んでドラゴン探しに向う、もちろんここからはエルの神力頼りだ。


向かった方向は西、ドラゴンの被害が無いと言っていたので人がほとんど近寄らないところを探すためだ。

西には険しい山脈や大きな湖などがありSランクやAランクの魔物領域が散在している、そのため開発があまり進んでおらず人が少ない。

こんなところに来るのはハンターくらいしかいないからこそドラゴンが居ても被害が出ない、そう考えてやって来たのだ。


今回もエルに本来の姿になってもらい移動したのでかなりの距離を移動したが時間は二時間程しか経っていない、そしてエルが神力を発動しながら移動する。


捜索を開始して三十分ほど、エルが強い魔物の反応を捉えたのでそこへ行く、大きな湖から続く川の中央部辺りに居たのは頭9つのヒュドラだった。


「アレの魔石は透明だと思う?」


ヨネ子がエルに聞いた。


「反応からすれば間違い無いわ」


「そう。ならチョット行ってくるわ」


ヨネ子はエルの事を信頼しているのでその言葉を疑うことはしない、なので直ぐにヒュドラの元に向かった。


ヨネ子はヒュドラの背中にサバイバルナイフを突き立てる、地球製のサバイバルナイフでは普通の亜竜にさえ通用しなかった事を考えるとさすがドワーフ謹製というほかない。


「サンダー」


ヨネ子はサバイバルナイフを突き立てたままその剣先からヒュドラの体内に向け電撃を放った、さすがに身体の内部への直接的な電撃は有効なようで簡単に感電して動けなくなった。


感電したヒュドラはまだ殺さない、そのまま収納に入れてゲートを使いサフィーアに帰った。


そしてその足でトイレと指輪を受け取りに行くと宿屋へと向かった、王宮には翌日行くのだ。


宿屋には全員帰って来ていた、なので直ぐにヨネ子、エル、エレンの3人でトイレの設置と絨毯の設置、さらに棚の設置をすると、ディーンとアーネストとブレイザーの3人で棚に野営道具等を並べていく。

50個全ての作成が終わると全員で夕食に向かった。


「取り敢えず九頭のヒュドラを捕まえて来たから明日はまた王宮に行くわよ」


「捕まえたって、まだ生きているんですか?」


アーネストが聞いて来た、まだ常識を壊しきれていないのだろう、まあ時間の問題だが。


「もちろんよ、せっかくだからエムロードの騎士達に討伐させた方が恩を高く売れるでしょ」


「はあ、さすが師匠です」


アーネストはそれ以上何も言えなかった。


翌日、再び全員で王宮に向かった、今回は待たせられる事なくすんなりと王宮に入れた。


「ドラゴンでは無いけどヒュドラを捕まえて来たわ。透明の魔石を持っていたら問題無いでしょ?」


謁見の間でヨネ子が開口一番国王に向け聞いた。


「ヒュドラは亜竜であろう?透明の魔石を持ってはいないと思うが?」


「それは八頭までよ。九頭になれば魔石も透明になるのよ」


「何?九頭のヒュドラを倒したのか?」


「違うわよ、捕まえて来たって言ったでしょ」


「なっ!生け捕りにして来たのか?」


「そうよ、かなり弱らせてるから騎士達でも倒せるわよ」


「そうか、そう言う事か。何が望みだ?」


国王はヨネ子の心理を読み取った、そして素直に聞いた、前回の邂逅でヨネ子相手に駆け引きしても何も意味がないと理解しているからだ。


「今は紅花の季節でしょ。産地の村を一つ丸ごとでどう?」


紅花は名前の通り口紅の原料となる花でありこの世界でも口紅加工に使われている、しかしそれ以外にも染物の染料にもなるし食品添加物としても使える、ただヨネ子はそれ以上に食用油として手に入れたかったのだ。


「紅花の産地?一つで良いなら問題は無いが、その花にはそんなに価値があるのか?」


「私達にはあるとしか言えないわね」


「そうか、まあ良かろう。宰相、王国の直轄地で適当な村は何処がある?」


「少々お待ちください。調べて参ります」


そう言うと宰相は謁見の間を出て農業大臣に相談に行った。


「それで、ヒュドラとは何処で戦いますか?」


「その前に、いくら弱っているとは言っても九頭であろう?我が国の兵士や騎士団で倒せると思うか?」


「そうですね、騎士団の精鋭30人程でなら倒せると思うわよ。私達がサポートするので」


「そうか、その言葉を信じよう。なら場所は中央広場で国民の見ている前で戦わせよう」


国王はそう言うと護衛の1人に命じて騎士団に準備をするよう伝令に行かせた。


しばらくして宰相が帰って来た。


「お待たせしました。王都サフィーアから南に1日の場所にあるイルデ村でどうでしょう。人口は200人ほどですが紅花の作付け面積は12(ちょう)程になります」


(ちょう)」はこの世界のほとんどの国が使う広さの単位で地球なら1町約0.8平方キロメートルといったところだ、なので12町は約10平方キロメートルくらいになる、これは東京の台東区と同じくらいの広さだ。


「良いわね、ではそこをもらうわ」


貰う村が決まるとヨネ子達は中央広場に向かった、さすがに国王と一緒と言うわけにはいかないし何より国王にはそれなりの準備がある。


中央広場には騎士団の精鋭30人が整列していた、国民の多くも何事かと集まって来ている。


ヨネ子達はその騎士団の団長のところに向かった。


「貴方が騎士団長ね。チョット剣を見せて頂戴」


騎士団長は突然の事に訝しんだ、しかしヨネ子の事は伝令に来た国王の護衛の騎士から聞いているので素直に言う事を聞く事にして剣を渡す。


ヨネ子はそれを一目見て直ぐに騎士団長に返した、それなりの業物のようだがヒュドラ相手には傷を付けるのがやっとだろう。


「貴方にはこれを貸してあげるわ」


ヨネ子は自分のショートソードを騎士団長に渡した、その剣を見た騎士団長はその出来に驚いた、騎士団長まで上り詰める程の剣士だそれなりに目利きもできる、だからこそ驚いたのだ。


「こんなすごい剣を使わせてもらえるのですか?」


「ええ、そうしないと倒せないかも知れないからね」


「ありがとうございます」


騎士団長はヨネ子に礼を言って剣を腰に刺した。


「貴方が副団長でしょ。貴方にはこの剣を貸すわ」


エルは副団長に自身のバスターソードを渡した、副団長も騎士団長同様感謝して受け取った。


そうこうしている内に国王がやって来た、そして役人の1人が国王の前に立ち全員に今回集まった理由を説明すると中央広場の中心部がかなり広く開けられた、全員巻き込まれて死にたくは無いので当然だろう。


そしていよいよヒュドラのお披露目である、ヨネ子は収納からヒュドラを出した。

異次元収納の中は時間の流れる速さが約3500分の1しかない、なので取り出されたヒュドラはヨネ子から与えられたダメージから回復していない。

観衆からは大きな悲鳴にも似た歓声が上がった、一般市民は弱い魔物でさえ見る事は稀なのだから弱っていても恐怖を感じるのだろう。


それでも九頭のヒュドラは下位龍と同等の強さなのだ、騎士達は油断する事なくヒュドラにかかっていった。


ヨネ子の思った通り騎士団長と副団長以外の騎士の剣では中々傷つける事さえ出来ない、しかもヒュドラの反撃により吹き飛ばされ大怪我を負っている騎士もいる。

ただ怪我をした騎士はエレンがすぐに治癒魔法を使い回復させていたので騎士の数が減る事は無かった。


そんな戦いが1時間超も続きいよいよ最後の時がやって来た、騎士団長と副団長の2人で八つの頭まで切り落として残りは頭1つになっている。


ここまで来れば流石のヒュドラも瀕死状態だ、もうほとんど反撃の力も残っていない。

最後は騎士団長が渾身の一撃で首を切り飛ばすと、とうとうヒュドラは絶命した。


「皆の者良くやった!」


ヒュドラの討伐を見届けた国王は立ち上がって騎士達を称賛した、それを聞いた観衆も盛大な拍手で騎士達を称えた。


そして騎士団長と副団長はそれぞれ剣を返しに行く。


「「ありがとうございました」」


2人はヨネ子とエルにお礼を言うと深々と頭を下げた、そこへヨネ子が声をかける。


「ここで魔石だけ取り出して国王に献上しなさい」


それを聞いた騎士団長ははっとした顔でヨネ子を見つめる、そして軽く頷くとヒュドラの元に向かった。


国王も観衆も突然の騎士団長の行動を驚きながら見守っている、その衆人環視の中騎士団長は自分の剣を使い腹部から魔石を取り出した。

その魔石を国王の元に持って行き献上するとそれまで以上の歓声が公園中を包んだ。


騎士団長は自分の剣で魔石が取り出せるか不安だったが、死んでいる事で外皮に魔力による強化がかかっていない事と筋肉も弛緩したままである事と鱗の柔らかい腹部という事で苦労はしたが取り出すことが出来てホッとしていた。


その後ヒュドラの死体は兵士が王宮に運んだ、素材として有効活用するのだ。


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