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031 商談

ハンバルングを出たヨネ子一行は一路エムロード大王国の王都サフィーアを目指す、が、その前にルビー公爵領の領都ルンビニーに向かった。

サフィーアまでの通り道でありエムロード大王国で3番目に大きな町だからでもある。


リシュリュー王国とエムロード大王国の国境にはそれぞれのAランクの魔物領域が近接している場所があり通商の難所となっている、ただその魔物領域に挟まれた道を迂回するとかなり時間的にロスするため通常は腕利きのハンターを護衛に雇って通る道でもある。


今回はルンビニーに行く途中、そこで訓練をする事にする、もちろん道中の夜営時にも訓練はするのだが。


この世界の国境は基本的には何も無い、出入国を管理する国境砦は通常国境から1キロ近く離れて作っているが、ここの街道だけは魔物領域のせいで両国とも国境より10キロ近く離れて作っている。


なので今回はリシュリュー王国の国境を通りエムロード大王国側で入国せずに夜営し訓練を行う。


今回は訓練のためブレイザーの護衛はエレンだ、そしてアーネストを集中的に訓練するためヨネ子がアーネストを連れて、エルはアスカとディーンを連れて魔物領域へと入って行く。


アーネストは途中の野営でも訓練してはいたがまだ数日の事なので大して実力は上がっていない、なのでヨネ子はBランクの魔物を中心に探して狩らせた。


アーネストは元々Bランクの魔物をソロで狩れるくらいの実力はあったのだが、基本が騎士なので対人戦闘に特化した動きが癖になっている事と、通常の訓練ではヨネ子達も対人戦闘メインで訓練していたため倒すのに苦労していた。


それでもBランクの魔物ばかり5頭も対戦すればその動きにも慣れてくる、訓練の後半は割と順調に狩れるようになって来た。


夕方、夜営地に戻るとエル達は既に帰っていた、ここからはブレイザーの料理を堪能する。


「どうだった魔物戦は」


ディーンがアーネストに聞いた。


「やっと魔物の動きに慣れて来たってところだ。それよりお前達はどうだったんだ」


「俺たちは今回集団戦に慣れるために猿の魔物と戦った。流石に1人で11頭相手は疲れたよ。それでもアスカさんは13頭相手に俺より早く倒してたからな、まだまだ修行が必要だ」


自分の名前が出た事でその会話にアスカも混ざる。


「私は対人戦闘より魔物戦の方が得意ですからね」


「そうなんですか?それにしてはこの前の模擬戦の動きは凄かったですよ」


「それはまだ弟子にさえなっていなかった人に負けるわけにはいきませんから」


「それは俺も同じだったぞ」


ディーンもアーネストに向かって言った、そこへエルが口を挟む。


「まー、アスカとディーンは勝っても無様な試合内容なら猛特訓を課してたところだしね。良かったわね」


2人に微笑みかけるがアスカとディーンは背中が寒くなった、今でも十分猛特訓と言えるほどなのにそれ以上だと言われたのだから。


翌日はもう一日訓練をする、ただし今回は資金調達も兼ねる、なのでヨネ子は同じアーネストと組むがエルはディーンを連れて行くだけでアスカは別行動とした。


ヨネ子は今日はAランクの魔物を中心に戦う、とはいえメインで戦うのはもちろんアーネストだ。

ヨネ子はアーネストの補助に徹する、声をかけて動きを誘導しつつ危険な攻撃が来そうな時は牽制したり防御したりしていた。


そのため収穫はあまり上がらない、1日戦ってAランクの魔物4頭とBランクの魔物2頭しか狩れなかった、それでもアーネストの訓練としては最高に効果的だったので不満は無い。


「Aランクの魔物と戦ったんだろ、成果はどうだった?」


前日に引き続きディーンがアーネストに声をかけた。


「全然ダメだ、マーガレット様に守られながらでも4頭しか狩れなかった」


「お前はまだ弟子になって数日なんだからそれでも十分だと思うぞ」


「確かに狩りの成果としては十分なんだろうが・・・今までの修行は何だったんだろうな」


「ああ、その悩みはおれも良くわかる。だがまあ今はいい師匠に巡り会えたんだ、これからまた頑張ればいいだけさ」


「それもそうだな。ところでお前はどれくらい狩れたんだ?」


「おれはAランクの魔物だけ9頭だな」


「そうか、お前はソロなんだろう?騎士だった頃は俺の方が強かったのに大分差をつけられたな」


「まあそうだが、お前も直ぐに追いつくと思うぞ」


「そうだな、頑張るよ」


そして翌日からは再びルンビニー目指して歩き始める。


ルンビニーはルビー公爵領の領都でありエレンにとっては思い出深い場所でもある、『デザートイーグル』時代にここで受けた依頼が元で叙勲される事になったからだ。

なので当然領主であるルビー公爵とも面識はあるが今回は会いには行かない、と言うより会いに行く理由がない。


イリアの時は友人だったので無理なお願いも出来たが、ルビー公爵相手では友達と言うには烏滸がましいと思っているからだ。


なのでヨネ子達は普通に宿に泊まって町を散策する、もちろんスカウトする人材を見つけながら。


ルビー公爵は割と善政を敷いている、そのため良い人材がリシュリュー王国内のどの街より多く感じた、しかし探しているだけでまだ勧誘はしない。

それはエムロード王と交渉した後にするからだ、そうしなければただの人攫いになってしまう。


その夜、ヨネ子はエルと共に町に繰り出した、そして繁華街の方へと向かった。

繁華街と言っても日本のような飲み屋街と言うような場所は存在しない、この世界での繁華街とはほぼ売春街の事だ、そしてほぼ違法だ。

ただこの手の施設はやはりどこも見て見ぬフリをしている、禁止はしていても必要悪だと考えているからだ。


そんな場所に若い女性2人で向かえば当然絡まれる。


「よう姉ちゃん達、客を探してるんなら俺が買うぜ」


そこへ強面の男が現れる。


「そこのお嬢さん方、見ない顔だが新人か?勝手に客引きされちゃあ困るんだがな」


それを見て絡んできた男は退散した、台詞からこの繁華街を仕切っている組織の者だとわかったからだ。


ヨネ子はその強面の男に質問する。


「ここを仕切ってるのは誰?会いたいんだけど」


「会ってどうする?雇ってもらうのか?」


「いいえ、商談よ」


「商談?お前達が娼婦を買うのか?それともお前達も雇う側になるって言うのか?」


「将来的にはそのつもりだけど今は買う方ね」


その答えを聞いて男は考えだした、そもそも素性のわからない人間をおいそれとボスに合わせる訳にはいかない、こんな場所にいながら落ち着き払っているのを見れば只者では無いこともわかる。

将来的に雇う側になるということは商談と言うのも嘘とは思えない、それなら無碍に断る訳には行かない。


「良いだろう、事務所に来い。そこで先ず俺の上司と話をしろ」


「良いわ、案内して頂戴」


そうして男の案内で事務所に向かう、場所は繁華街の1番奥だった。


事務所にはかなり立派なソファーが用意してある、やはりこの手の仕事は儲かるのだろう。


ヨネ子とエルがソファーに座ると男は上司を呼びに行った、その時にエルがここに来た理由を聞いて来た。


「マーガレット、何でこんなところに来たの?」


「来月から騎士達を訓練するでしょう、その時に必要と思ってね」


「騎士達に娼婦を当てがってやる気を出させるとか?」


「そんな事じゃないわ。エルにはわからないと思うけど人間は死に直面すると本能が刺激されるのよ、「生存本能」と「種の保存本能」がね」


「「種の保存本能」って要するに性欲の事?」


「そういう事ね。「性欲」や「食欲」、「睡眠欲」なんかは一次的欲求って言って生命活動に直結しているの。だからこそ阻害されると非常なストレスを感じるのよ。それを予防するわけ」


「ふーん、でも普通戦争とかになってもそんなに問題になったって聞いたことは無いわよ」


「問題にならないだけよ。敵の襲撃を受けた村や町では強姦が横行してるのは聞いた事ない?」


「ああ、そう言えばそれは聞いたことがある」


「それに性欲を満たすのは別に女である必要は無いの」


「それって男同士でって事?」


「そうよ、戦場での男色は日常茶飯事よ。だから別に対策をしなくても大きな問題にはならないわ」


「だったら必要無いんじゃない?」


「そうも行かないわ。別に男色を批判する気は無いけどそれに適性の無い者も居るし、何より女性騎士も居たでしょ?まだ何人か女性騎士が増えるならその娘達が仲間に襲われないようにしないといけないからね」


「なるほどねー、って事は最初から厳しい訓練を課すってわけね」


「そのつもりよ」


ヨネ子とエルの会話が終わった頃、男が上司を連れてやって来た、30代前半と思われるセクシー系の女性だ。


「お待たせ、私はキャサリンよ」


「初めまして、私はマーガレット、隣はエルよ」


「そう、それで商談って言うのは?」


「来月から3ヶ月娼婦を雇いたいの、何人か都合は付く?」


「来月から3ヶ月だって?いったい何が目的なんだい?」


「娼婦を買う目的なんて一つでしょ。ただこちらは30人以上いるのでそれなりに数を揃えたいのよ」


「それで?3ヶ月ここに通うってわけでも無いんでしょ?」


「ええ、連れて行くつもりよ」


「何処へ?」


「それはまだ決めて無いわ。これから決めるの」


「そう、でもそれは許可出来ないわね。大事な商品ですもの他人に任せる訳にはいかないわ」


「では管理する者の同行を認めるわ」


「そいつらの給金もあんたが出すのかい?」


「そのつもりよ」


キャサリンは少し考えてから隣に控えていた男に聞いた。


「エクトル、貴方はどう思う?」


「あまり多くなければ良いんでは無いでしょうか?」


「じゃあ貴方がついて行くとしたら何人連れて行ける?」


「良くて5人と言ったところでしょうか。ただ補佐を2人用意していただけるのならば10人は行けます」


それを聞いてからヨネ子に向かって言った。


「聞いた通りよ、娼婦10人に管理者3人なら良いわ」


「十分よ、それで料金は?」


「娼婦は来月から3ヶ月で92日ね、1日1人500マニとして46000マニ、10人で46万マニ、管理者の給料は3人で月15000マニ3ヶ月で45000マニ、合計で50万5000マニ、これに全員の保証料を入れて55万マニよ」


「それで良いわ、では連れて行く時に前金として30万、返す時に残り25万でどう?」


「商談成立ね」


「いえ、まだよ」


「今度は何?」


「ここで売れない娼婦ばかり寄越されても困るもの、それなりの質は保証して欲しいわね」


「さすが抜け目は無いわね。良いでしょう、さすがに上位5人は無理だけどそれなりの質は私が保証するわ。その代わりこちらからも要求があるわ」


「何かしら?」


「娼婦が妊娠させられたら貴方が保証しなさい」


「具体的には?」


「堕胎費用として1人1万マニよ」


「随分高いのね」


「娼婦が自前で賄う時はもっと安い処置をしてもらうんだけどその分命に関わる危険な物なのよ。でも貴方達から妊娠させられた時は高級な薬と治癒術者を雇って堕胎させるつもりよ」


「そういう事なら良いわ」


「今度こそ商談成立で良いわね」


「ええ、商談成立よ」


「じゃあこの件はこれでお終い。それで将来的には雇う側になるつもりって言ったらしいわね?」


「そのつもりよ」


「どこで?」


キャサリンは将来的にライバルになる事を懸念している、まあ当然ではあるが。


「警戒しなくてもこの近くでは無いわ、この国でも無いし」


「そう、では女の子を集めるのもここでは無いと?」


「それは自分達で集めるのは面倒だから貴方達のような人達に集めて貰おうと思ってるわ」


「それだと自分達の分を集めるだけで手一杯だと言われるわよ」


「1ヶ所に依頼するつもりは無いわ、たくさんの街で依頼するつもりよ」


「それだと集めるのが大変じゃ無いの?」


「私達には大変じゃ無いわ、それにそれは数年もすれば必要なくなるからね」


ヨネ子的には国家建設が軌道に乗れば自国で賄えると思っている、というよりそうするつもりだ。


「そう、なら良いわ」


商談が終わるとヨネ子とエルは宿へと帰って行った。


その後キャサリンはエクトルと話す。


「エクトル、来月からの3ヶ月であの2人の事を徹底して調べなさい」


「何か気になることでも?」


「歳の割に肝が座っていたからね、纏う雰囲気も只者とは思えなかった、何より私の感が絶対に敵対するなって訴えるのよ」


「それでですか?いつもならもっと有利な条件で交渉するところでしたのに」


キャサリンは普段なら交渉ごとは高圧的な態度で半ば脅すように交渉していた、エクトルもそれは良く知っている、だからこそ普通の条件で交渉する事を不思議に思いながら聞いていたのだ。


「そうよ、よろしくね」


「ははっ、わかりました」


その命令を受けたエクトルは補佐の人選を開始するのであった、娼婦の管理より諜報に長けた人材を選ぶために。


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