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027 刺客

ギガントヒルを捕獲した翌日、一旦ハンバルングに戻って奴隷商を回ってみる事にした、また何人か買うつもりで。


その頃ハンバルングのハンベル辺境伯領領主邸では領主のハンベル辺境伯が密偵からの報告を受けていた。


「現在件の『白金神龍』はこの町に逗留中でございます」


「何!本当か?なるほど、それは好都合。それで、何人集められる?」


「はっ、精鋭のみ8人。既に召集済みです」


「そうか、確実に仕留めよ。大事な資金源を潰されたのだ、一人も生かしてはならん」


「御意」


その日の夜中、夜陰に紛れてハンベル辺境伯の放った刺客が『白金神龍』を襲う。


ヨネ子達は男性と女性に別れて二部屋部屋をとっている、が、その日は全員女性の部屋に集まって息を潜めていた。

ヨネ子が暗殺者の嗅覚とでも言うのか、今夜夜襲を受けると感じていたので全員同じ部屋に集まっていたのだ。


女性側の刺客は3人、息を殺して密かに部屋に入って来た、ヨネ子とエル以外は全員寝ている。

エルはヨネ子がどうするか見たいだけで手出しをするつもりはない、なので部屋の端の方から様子を伺っている、ドラゴンの目なので灯りが無くても夜目が効く。


ヨネ子も身体強化の応用で夜目が効く、なので気配を消して刺客に近付くと鍼麻酔で3人とも簡単に眠らせた。


男性側を襲撃したのは2人、しかし当然そこには誰も居ない、2人は嫌な予感がしたので一旦部屋を出る事にしたが一足遅かった、既にヨネ子に気付かれていた、そして同じく鍼麻酔で眠らされた。


その後ヨネ子は索敵で残りの刺客を探した、すると宿の外で3人待機しているのを見つけた、気配は消しているが魔力は消せないのでヨネ子にはバレバレだ。

その刺客を同じく鍼麻酔で眠らせ、一旦収納に入れて襲撃して来た全員を男性側の部屋に集めるとエルに見張りを頼んだ、起きる事は無いが助けに来る者が居ないとも限らない。


そこまでしてからヨネ子が向かったのは平民の住宅街に有る一軒の民家だ、そこにヨネ子達に害意を持つ何者かがいる事を索敵魔法で知ったのだ、おそらく襲撃者のリーダー的立場の者が報告を待っていると思われる。


ガタン


その民家のドアが開けられる、すると直ぐに部屋の灯りが消された、リーダーらしき者は異様な気配から仲間が帰って来たのでは無いと即座に判断したのだ、かなり優秀な者のように思える。


民家のドアを開けたのはもちろんヨネ子だ、そしてリーダーらしき者が素早い反応で姿を消そうとしたが当然ながら無駄な足掻きだった。

リーダーらしき者は灯りを消すと直ぐにドアとは反対側の窓から外へと飛び出した、そして即ヨネ子に捕まり鍼麻酔で眠らされた。


ヨネ子はドアを開ける前に民家の周囲を見て回っていたのだ、そして索敵魔法を使いながらドアを開けるとリーダーらしき者が反対側の窓から逃げようとするのがわかったのでゲートで先回りした。


これで全員捕縛したのでリーダーらしき者も収納に入れ連れて帰ると、全員を男性側の部屋に集めて一旦縄をかけた。


次にヨネ子は全員を眠らせたまま診断した、このような刺客は通常奥歯に自殺用の毒薬を忍ばせているものだからだ。

結果は、思った通り全員が奥歯に毒薬を仕込んでいた。


ここでヨネ子は歯科医が患者の歯を抜くときに使う器具、抜歯鉗子を持ち出してその歯を抜くとヒールで傷を塞いだ。

抜歯鉗子はもちろん拷問用として持っていた物だ、通常抜歯はヘーベルや鋭匙(えいひ)と言う器具も使ってもう少しだけ複雑な工程で行うが、拷問用なので無理矢理歯を抜くための抜歯鉗子しか持っていない。

しかし抜いた歯は元々薬を仕込む為に一度抜いた物なので抜歯鉗子だけでも簡単に抜けた。


大して騒いだわけでは無いがエレンとアスカとディーンも不穏な気配で目を覚まし男性側の部屋にやって来た、全員が同じ部屋に居たので熟睡していなっかたと言う事もあるが。

ブレイザーは戦闘員では無いのでそのような空気には鈍感だ、なので1人だけ熟睡している、だからと言って起こしたりはしない。


「みんな起きて来たのね」


「はい、それにしてもよく今晩襲撃が有るってわかりましたね?」


エレンは感心しながら聞いた。


「まあそれは経験ね」


ヨネ子が答える、納得してもらえるような答えでは無いが自分でもこればかりは説明しようがないので仕方ない。


「それより誰が送り込んで来たんですかねー」


エレンはまだ尋問していないようなのでそう聞いた。


「それはこれから尋問するけど違法奴隷の密売絡みでしょうね」


「えっ?それは黒幕の準男爵まで全員捕まったんじゃ無いんですか?」


「多分本当の黒幕は別にいるのよ」


「知ってたんですか?」


「いいえ、でもあそこまで組織的に動くには準男爵の爵位では難しいとは思っていたの。それに普通あれだけ周到に動いていたら奴隷の隠し場所は自分の側にはしないでしょ。そこに違和感を感じていたから警戒はしてたのよ」


「なるほど、さすがマーガレットさんです」


「さあ、尋問を始めるわよ」


そう言うとヨネ子はリーダーらしき刺客を起こした。


「お、お前はマーガレット。それに『白金神龍』のメンバー」


「もう状況は掴めてるわね」


「仲間は、仲間はどうした」


状況など直ぐにわかる、なのでその事よりも部下の事を心配しだした、仲間と言ったのは指揮命令系統を分からなくするためだ、有り体に言えば自分がリーダーだと分からないようにだ。

尤もヨネ子達には1人民家にいた事で既にバレているとは思っているが、ごく薄い確率でもまだ知られていない可能性がある以上自分からバラすような事は言わない。


「あそこよ」


ヨネ子は部屋の端でロープを巻き座らせたままの8人を指差して言った。


「そうか、くそっ・・・・・何?」


リーダーらしき刺客は服毒自殺をしようとしたが失敗した、そして驚きの表情でヨネ子を見た。


「歯に仕込んだ毒薬は処分したわ」


ヨネ子はそう言いながら全員分の抜いた歯を見せた。


「お、お前は何者なんだ?」


驚愕、恐怖、諦念、様々な感情が合わさって複雑な表情をしている。


「質問するのはこちらよ。貴方の雇主は誰?」


「教えると思うか?」


「教えてくれないの?それとも教えたくても教えられないとか?」


「なっ?どう言う意味だ?」


リーダーはドキッとした、だが流石に刺客のリーダーである、表情には全く出していない。


「まあそれは置いといて。では先ず貴方の名前を教えてちょうだい。それなら喋っても問題ないでしょ?」


「お前、何故奴隷紋がわかった?」


そう、リーダーらしき刺客は魔法による奴隷紋により行動が制限されていたのだ、質問の仕方からヨネ子がその事を知っているとわかった、だからこそ聞き返したのだ。


「私にかかれば簡単よ。それより名前を喋るの?黙秘するの?どっち?」


ベイルートで奴隷紋を消した時、その中の2人は魔法による奴隷紋だった為見た目ではわからなかった、ヨネ子はその時にその2人を診断して魔法による奴隷紋の特徴を覚えたのだ、なので全員を診断した時に全員奴隷紋を刻印されている事を知った。


「名前はスクレだ」


「そう、スクレね。ではスクレ、貴方自分の意思で奴隷になったの?それとも嫌々なってるの?」


「そんなのは決まっている。誰も好き好んで奴隷になどなるものか」


スクレと名乗った刺客は声を荒げて反論した。


「なら奴隷紋が無くなればこんな仕事はやめるの?」


「・・・・・・・いや、それは出来ない」


かなり考えてから答えた、その表情はわかりにくいが辛そうに見える。


ここでエルが質問して来た。


「ねーマーガレット。なんでそんなどうでも良いことばかり聞いてるの?」


「私が聞きたい事は奴隷紋のせいで喋れないからよ」


ヨネ子がエルに答えた。


「奴隷紋って奴隷の証明だけじゃ無いの?」


「魔法による奴隷紋は行動を制限する事ができるの。だから私が知りたい事を喋ろうとすると身体中に激痛が走ったり声が出なくなったりするのよ」


「あー。それでそんな事ばかり聞いてるのね」


エルも理解した、これは交渉なのだと。

ヨネ子にかかれば奴隷紋など簡単に消せるのは実証済みだ、それでも敢えてその事を言わずに話しているのはこの男が使えるかどうかを調べているのだと。


「そうよ。でも出来ない・・ね」


ヨネ子はスクレの答えを少し考えた、そして次の質問をする。


「貴方はその仕事を辞めたいの?」


「・・・・・ああ」


スクレはまた少し考えてから答えた、余程複雑な事情があるのだろう。


「貴方私の元で働かない?」


ヨネ子はいよいよ本題に入った、診断で全員奴隷紋を刻印されている事がわかった時点で考えていたのだ、奴隷紋を刻印しなければ出来ない仕事という事は自分の意思でやっているわけでは無いとわかる。

しかも全員それなりに腕は立つ、なら奴隷から解放すれば使えるのではないかと。


「無理だ、そんな事をすれば・・・」


苦悶の表情で答えるスクレ、続く言葉は話せない内容なのかも知れない。


ヨネ子はこれまでの話から何となく理解した、刺客は無理矢理やらされている、奴隷紋が無くても辞められない、そして奴隷紋により話せなくされた内容、それらから導き出した答え、それは家族、または一族そのものを人質に取られているのでは無いかと。


そしてそれを言葉にする。


「そんな事をすれば家族が殺される?」


流石にこの一言にはスクレは驚いた、そして思わず叫んだ。


「ど、どうしてそれを!う、ぐわーーーーー」


叫びは直ぐに悲鳴へと変わった、人質がいる事を肯定した言葉は当然ながら禁止用語になっているはずだからだ。

そしてこの事がヨネ子の推論が正しい事を証明した。


「そんな、酷い」


エレンが思わずそう漏らした、人質を取った上に奴隷紋まで施すなどエレンにとっては許せることでは無い。

尤もここにいる全員思いはエレンと同じだ。


しばらくして苦しみから解放されたスクレはやや憔悴していた、そこへヨネ子が手をかざす、そして無言のまま奴隷紋を消した。


「奴隷紋は消したわ、これで自由に喋れるわよ」


「えっ?そんな簡単に?まさか?」


魔法による奴隷紋は刻印した時も消した時も見た目には何も変化がない、なので「消しました」と言われても「はいそうですか」と納得するのは難しい。


「試しに貴方の出身地の名前でも言ってみなさい」


ヨネ子に促され半信半疑ながら恐る恐る故郷の名前を口にする。


「ウィンス村」


何も起きない事を確認してさらに別の名前を口にする。


「ナダル・・エイミィ・・・苦しく無い、本当に奴隷紋は無くなったんだ」


涙を流すスクレ、だがこれで問題が解決したわけではない。


「さて、これで話はし易くなったわね」


そう言って尋問の続きが始まる、そうこれは尋問なのだ。


何でも話せるようになったスクレは何でも忌憚なく答えた、どの道ヨネ子達にはどんな事をしても敵わない事は理解した、なので意地を張ろうと何をしようと今回の命令は失敗なのだ、本来なら既に殺されているか服毒自殺しているところだ、そう考えれば開き直りと言われようと裏切り者と言われようとヨネ子に真実を話すのが最良の選択だと思えたのだ。


そして明かされる刺客を放った張本人、何と今居るハンベル辺境伯領の領主ハンベル辺境伯その人だった。

理由はやはりヨネ子の読み通り違法奴隷の組織を潰した為、本当の黒幕はハンベル辺境伯だったのだ。


次に人質の問題、これは一筋縄ではいかない。

スクレの話によると、スクレ達の故郷は人口500人超の大きな村だそうだ、但しそこがどこなのかはスクレ達にもわからない。

その村にはハンベル辺境伯軍が150人から200人常駐しており、村人を24時間体制で監視しているそうだ。


そしてその村には商人はやって来ず、村で自給できない物資は軍が持ってくる事になっているので外部との連絡も取れない。

そこまでするのは村全部が人質だからだ。


その村では物心ついてしばらく経った子供はランダムに半分が村から強制的に連れ出され訓練が施される、物心ついて直ぐで無いのは家族への愛着を植え付ける為だ、そうしなければ家族は人質とはなり得ない。

半分なのは村を維持するため、ランダムなのは優秀な者から順番だと優秀な子供ができなくなってくるからだ、遺伝について詳しく知っているとは思えない文明レベルなので経験則か何かだろうが理にはかなっている。

因みに連れて行く子供には事前に通知が行く、その方が別れを惜しみ家族の絆を深める事につながり人質としての価値が上がるからだ。


その上で奴隷紋である、そこまでしてもなお命令に失敗し敵に捕まれば拷問を受けて都合の悪い事を喋られるかも知れない事を懸念しているのだ、ハンベル辺境伯の周到さには恐れ入る。


そして当然ながら子供達の全員が生き残れるわけでは無い、連れ去られた半分のうち更に半分が訓練中に命を落とす、そして無事一人前になっても1割は任務失敗により命を落としているという事だ。


「なるほどね、ならその村を私達がハンベル辺境伯の手から解放すれば私達の元に来てくれる?」


ヨネ子は再度質問した。


「無理だ、何処にあるかもわからない村で200人の兵士が守っているんだ、そんな事出来っこない」


「出来るわよ、私達ならね」


ヨネ子は不敵な笑みを浮かべながらスクレに向かって言った。


「・・・・・・・・・・・もし本当に出来たなら俺の命はあんたらに預けても良い」


長く長く考えた末にスクレはそう答えた。


「契約成立ね。みんな、次の目標が決まったわよ」


ヨネ子が他のメンバーに向かって言った。


「まあそうじゃないとね」


エルは当然とでも言いたげに答えた。


「人を道具のように使うなど許せません」


エレンは思った以上に人道的な考え方をする、これから国のトップに立つのには相応しい。


「人間の事はまだ良くわかりませんが、そのハンベル辺境伯が悪人だと言うのは良くわかりました」


価値観の違うアスカから見てもハンベル辺境伯は悪人に見えるようだ。


「私もハンベル辺境伯には怒りを覚えます」


ディーンは元騎士らしく正義感が強い、だからこそ王弟の謀反に際し騎士を辞めたのだ、その騎士魂が震えている。


こうして次の目標は蹂躙されたウィンス村の解放となった。


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