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023 奴隷

「今日はイリアさんにお願いしたい事があるんです」


エレンが本題について話し始める。


「お願い?私で出来る事なら良いわよ」


イリアは軽く答えた、エレンを信頼しているからだろう。


「実は私達は新しい国を作ろうと思ってます、それで協力してもらえないかと思いまして」


「国を作る?本気なの?それで私にどうしろと?」


イリアはいきなりのスケールの大きな話に驚いた、なので今一つピンと来ていない。


「イリアさんの治めている村をいくつか貸して欲しいんです。と言っても特別何かする訳ではなくて、ただこれから国民になる予定の人を連れてくるのでその村で生活させて欲しいんです」


「それは国が出来るまで居させて欲しいって事かしら?」


「それもありますが、その人達に町を作らせて欲しいんです。国を作る時に新たな土地を開拓する訓練をさせて欲しいんです」


「じゃあその村の近くに町を作る土地も貸して欲しいって事?」


「はい、その通りです」


イリアは少し考えた、村や土地を貸しても良いものか、領主としてメリットやデメリットを考える、しかしどちらもあまり浮かばない、初めての事であり似たような話も聞いた事がないので想定がうまく出来ないのだ。


「村の住民に不利益が無ければ良いわよ」


イリアはそう答えた、わからない事は悩まない、ただエレンなら信用できる、マーガレットも流一の兄妹なら信用できる、なら最後まで信用しよう、そう考えたのだ。


「ありがとうございます」


エレンが礼を言い、一番重要な案件の決着がつくとイリアが話を変えた。


「ところでみんなはこれからどうする予定なの?」


「私達は今ベイルーンに向かってるの、国王に今と同じお願いをしようと思ってね」


ヨネ子が答えた。


「そうなの?でもそれなら急ぐ訳では無いんでしょ?今日は是非泊まって行ってちょうだい」


「じゃあお言葉に甘えるわ」


ヨネ子がそう決断したのでこのまま領主館に泊まる事になった。


一旦解散となった所でヨネ子とアスカはハンターギルドに向かう、魔物の素材を売るためだ。

お金に困っているわけではない、バーニア子爵領のギルドで売れば幾らかは領に税金として入ってくるためだ、ヨネ子なりの感謝の気持ちの1つと言って良い。


翌日はイリアと共に借りる村を見に行った、村人達に挨拶する為でもあるが、1番の目的はゲートで来れるようにする事だ。


村の確認が終わると再びベイルーンへ向けて旅立った。


バーニア子爵領を出たヨネ子一行はバーニア子爵領の南隣のローランド伯爵領で元の街道に戻るとそのままベイルーンを目指す。


そして十数日後、この日はパレルモ侯爵領の領都ラタンに宿をとった、フライツェンとベイルーンを結ぶ主要街道沿いのためかなり発展している。

王都ベイルーンにも近いので堅固な城塞が築かれている、戦争になった時には重要な支城の1つとして機能させるためだろう。


街の門の前には他の街同様入場待ちの列が出来ている、その最後尾に並んでいるとその後ろに商人が並んできた、その商人が引いている馬車には奴隷と思われる人間が乗っていた。


「あなた奴隷商なの?」


ヨネ子がその商人に話しかける、それと同時に索敵を使って馬車に何人乗っているか確認した、ヨネ子は奴隷も国民として受け入れるつもりだから気になったのだ。


この世界で商人が扱う奴隷はほとんどが借金奴隷だ、それも本当に借金して散財した者は少ない、大抵は本人や家族が働けなくなって税金を納めるためにした借金のために奴隷にされたのだ。

逆に言えば借金をしてでも税金を払おうとする真面目な者達と言えなくもない、だからこそ国民として受け入れる事にあまり抵抗は無い。


「はいそうです、よろしければ私の店に見に来ませんか?お気に召す奴隷も居るかも知れませんよ」


「そうね、ところでこの馬車には何人乗せているの?」


「ここには5人ですね。クラウディア辺境伯領の奴隷市場で購入してきたばかりです」


ヨネ子はここでこの商人は信用出来ないと悟った、索敵では8人乗っていたからだ、だからと言ってこんな場所でその事を追求したりはしない。


「そう、それで、やはり全員借金奴隷?」


「その通りです、如何ですかな?」


「では街に入ったら寄らせてもらうわ」


「これはありがとうございます、是非お気に入りの奴隷をお求め下さい」


その後は当たり障りのない会話に終始して町へと入って行った。


「マーガレットさん、なぜ奴隷は8人居るって言わなかったんですか?」


エレンが聞いてきた、エレンもヨネ子が人数を聞いた時に索敵魔法を使っていたのだ。


「えっ?ではあの商人は嘘をついていたのですか?」


ディーンが驚いたように聞いてきた、真面目そうな印象の商人だったので完全に騙されていた。


「まあそう言う事ね。あそこでそんな事を言っても何も解決しないからね」


「ではやはり残りの3人は違法奴隷と思っているんですね?」


「そうよ」


「それで、どうするんですか?」


「先ずは普通にお客として店にいきましょう。店の大きさや奴隷の数に警備状況、知るべき事は多いからね」


「それもそうですね。ところで奴隷の事を聞いたのは国民にするつもりだからですか?」


「そうよ、本当の役立たずは要らないけど借金奴隷には真面目な人間も多いからね」


「ああ、確かにそうですね」


ヨネ子達は取り敢えず宿を確保した、そして早速奴隷商へと向かった。


「早速きたわよ」


「おお、早速お越しいただきありがとうございます。今店の者に案内させますので少々お待ち下さい」


商人は1人の店員を連れてきてヨネ子達の案内をさせた。


「ではこちらへどうぞ」


店員はヨネ子達を奥の部屋に連れて行く、そこには刑務所の独房のような檻がいくつもあり、そのほとんどに奴隷が単独で入れられていた。


店員は奴隷一人一人丁寧に説明して行く、金額の他名前、年齢、性別、病気の有無、奴隷になった理由、前職や特技まで良く把握している。


「如何ですか?気に入った奴隷はいますでしょうか?」


「そうね、ここ以外には居ないの?」


ヨネ子は索敵魔法で二階と地下にも奴隷がいる事は確認している、それでも知らないフリをして聞いた。


「二階にも居ますが・・・」


口籠る店員、何か隠しているようだ、が実はヨネ子達相手には言いにくい奴隷だっただけだ。


「何か問題でも?」


「二階は・・その・若い女性だけでして・・・」


「娼婦候補って事?」


ヨネ子がズバッと聞いた、ヨネ子らしいと言えばヨネ子らしい。


「はい、まあ、そうです」


店員の方が恥ずかしがりながら答えた、どちらが店員かわからない。


「そう、取り敢えず見せてちょうだい」


「えっ?わ、わかりました」


店員は素直に二階にも連れて行き同じように全員の説明をした、娼婦候補と言っても若くてある程度の美貌を持った者を集めているだけで元娼婦とか愛人崩れとか言うわけではない。

奴隷商としては普通に売るより娼婦として売った方が利益が上がる、特に処女だった場合は高値が付くので特別に分けているのだ、奴隷になった時点で本人の意思など関係無く扱われるので仕方ないと言えば仕方ない。


「他には?」


ヨネ子はさらに聞いた、まだ地下の奴隷が残っているからだ、尤も地下という時点で隠すべき奴隷、つまり違法奴隷と察しはついているので教えてもらえるとは思っていない。


「いえ、これだけです」


「そう、では数日中に何人か買いに来るわ」


ヨネ子はそういうと奴隷商を後にした。


宿に帰るとエルが聞いてきた。


「マーガレット、何で地下の奴隷の事を言わなかったの?」


「それは、あの店員は地下の事を知らなかったからよ」


「どうしてそんな事がわかるの?」


「それは心理学とか観相学とかを使ってね。詳しくは言わないけどあの店員は嘘を言ってなかったの。つまりあの店員は一階と二階の奴隷の存在しか知らなかったと言う事ね」


「それで?知らないから聞いてもわからないって事?」


「そうじゃないわ、少なくとも商会ぐるみで違法奴隷を扱っているわけじゃないってことよ」


「あそこで揉めるとお店ごと潰しかねないから黙っていたって事ですね」


エレンが答えを言ってくれた。


「そうよ」


「でもそれならどうするの?」


「取り敢えず国民に出来そうな奴隷は何人か居たから買うわ。そしてあの商人を信用させてから違法奴隷のことについて聞き出すようにするのが良いでしょうね」


ヨネ子は普通の奴隷を力尽くで奪うような事は考えていない、なので普通の奴隷は普通に買う。

しかし違法奴隷は別だ、そもそも違法なので存在している方がおかしいのだ、なのでそれについては組織を潰して解放なり勧誘なりする事に躊躇はしない。


それから2日は違法奴隷の調査を行った・・・ヨネ子とエレンとディーンの3人で、エルとアスカとブレイザーは街の散策だ。

そもそも神龍であるエルに調査など無理がある、アスカは目立ちすぎる、ブレイザーには料理以外の才能はない、なのでまあ妥当な判断だろう。


調査の結果商人以外の犯人は特定出来なかった、しかし違法奴隷を買ったらしい顧客は数人判明した、いずれも王都ベイルーンに居る貴族や裕福な平民だった。

結果が思わしくないのは調査期間が2日しか無いからだ、奴隷売買の現場がベイルーンのため現地調査が出来ないので仕方ない。


奴隷商を出てから3日、ヨネ子達は約束通り奴隷商を訪れた、対応してくれたのは都合よく商人本人だった。


「奴隷を買いに来たわ」


「これはこれはいらっしゃいませ。先日は店員に任せて失礼をしました。そういえばまだ名乗っていませんでしたな、私はこの店の店長をしておりますティグレと申します」


この店はベイルーンに本店を持つリンクウッド商会のラタン支店でティグレは言わば支店長だ、そして今日ティグレがヨネ子達の対応をするのは偶然では無い、前回帰り際に「買いに来る」と言っていたので自身の点数稼ぎのためにヨネ子達を待っていたのだ。


ヨネ子は最初に奴隷を買う、一階の奴隷22人の内15人、二階の娼婦予定の奴隷8人の内6人、いずれも税金が払えず奴隷になった者や知人の借金の保証人になった者等真面目に生きてきた者達だ。


「こんなに一度にお買い上げ頂けるとは、ありがとうございます。ところでお買い上げ頂いた中でまだ奴隷紋を施していない者が2名おりますので受け渡しはしばらくお待ちいただけますか?」


この世界の奴隷は例外無く奴隷紋を身体の一部に施される、基本的には犯罪奴隷は焼いたコテを押し付ける焼印、借金奴隷は刺青となる。

例外として高級な娼婦として売る場合は魔法による刻印が施される事が多い、これは魔法による刻印は見えなく出来るためだ。


焼印や刺青は主人に逆らっても何も影響は無いが魔法による刻印は主人に逆らうと身体中に激痛が走るようになっている、なので見えなくできるからと言って逃げられるわけではない。


全ての奴隷に魔法による刻印を施せば管理は楽になるが、そもそも刻印魔法が使える魔法使いが少ないので物理的にも無理があるし金額的にも割に合わなくなる、なので現状魔法による刻印は娼婦の中でも高級な者だけにしか使われない。


「奴隷紋は入れなくても良いわ。それより直ぐに引き渡しをしてちょうだい」


ティグレは奴隷紋を入れなくても良いと言われたのは初めてだったので少し戸惑ったが、一度に21人も買ってくれた上客なので細かい事は気にしない事にした。


「わかりました、それでは連れて来ます」


そう言って店員に指示して買うと言われた21人全員を応接室に連れて来た。

ヨネ子はその全員をしっかり確認すると料金を払った、もちろん現金でだ。


「じゃあエルは残って。他のみんなは全員を宿に連れて行って私の帰りを待っててちょうだい」


「「「「わかりました」」」」


4人は返事をすると買った奴隷全員を連れて宿へと帰って行った。


「それで、相談があるんだけど」


奴隷達を見送った後、ヨネ子はティグレに言った。


「はい、どんな事でしょう」


「獣人が欲しいんだけどどこかに伝は無い?」


ヨネ子は違法奴隷の中に人間とは違う感触の反応があったので獣人だろうと思っていた、なのでそれとなく聞いてみたのだ。


「獣人ですか・・・今は当商会では扱っておりませんが・・・そうですね、王都に行けば扱っている者を紹介は出来ます」


ティグレは違法奴隷を売るべきかどうか考えながら答えた、21人もの奴隷を即金で買うほどの金持ちでしかも奴隷紋を入れなくても良いという、それは自分達で奴隷紋を入れられるほど奴隷慣れしているからでは無いのか、それなら違法奴隷も買い慣れているはず、そう結論づけして売ることにした。


王都で紹介すると言ったのは店ではなく人なのだ、ヨネ子もその答えを聞いて違法奴隷に間違い無いと確信した。


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