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199 全城奪還

最終的にこの日の夜までに城塞に戻って来れたカペラ宗主国軍の兵は15000人ほどだった、リヒテン将軍としては初めての本格的な負け戦だ。


その夜、リヒテン将軍は秘密裏に14000の将兵と共にカペラ宗主国へと撤退していった、残った1000人の将兵は元々ディラルク王国の国民だった者達だ。


リヒテン将軍としては元々ディラルク王国の国民だった者達など捨て駒でしか無い、なのでその兵士を使ってディラルク軍に籠城すると思わせて安全に撤退しようと考えたのだ。


普通の将軍であればここは籠城戦を考える所だろう、城攻めは3倍から5倍の兵力が必要になると言うのが一般的な見解だからだ。


だが今回のような状況ではその常識は通らない、そもそも攻城戦にそれだけの兵力が必要なのは敵が籠城する事を前提で準備しているからだ。


しかしカペラ宗主国軍は侵攻軍であり城は敵国ディラルク王国の城だ、そしてその城の施設を一部破壊して占領したのだから籠城の準備などしているはずはない。


さらに言うなら籠城とは基本的に援軍を期待しての戦法だが、三方面作戦を強いられているカペラ宗主国軍に援軍などあろうはずもない。


なので兵数が再び逆転された事と未知の強さを誇る一団が出現した事で戦況が完全に不利になってしまったこの時点で早々に撤退の判断をしたリヒテン将軍の判断力の良さはさすがとしか言えない。


翌朝、グリムト伯爵は早朝から行動を開始する、敵の残兵は正確には把握していないが一万数千人と言う事はわかっている。


さらにカペラ宗主国軍に籠城戦の準備が無い事もわかっている、だからこその全軍投入による攻城戦を行うつもりだった・・・そうだっただ、城の前に全軍整列し号令をかけようとしたその時に白旗が振られたのだ。


それを確認するとグリムト伯爵は直ぐに入城して残敵の確保を指示しリヒテン将軍がどこまで撤退したのか確認するため斥候を放った。


そしてその夜幹部を集めて会議を開始した、もちろんその中にはセラフィムと騎士の代表及び魔法師の代表1人づつが混じっている。


そして挨拶もそこそこにグリムト伯爵は先ずセラフィム達に礼を述べる。


「みなの者大義であった。そしてセラフィム殿、ドラゴニアの騎士殿、魔法師殿、今こうして城の1つを取り返す事が出来たのは皆さんのおかげです。本当にありがとう」


グリムトは深々と頭を下げた、本来なら貴族としても全軍を統べる将軍としても一介の傭兵達(あくまでも今の立場は)に対する行為としてはあまり褒められたものでは無いが、目の当たりにした戦闘力やドラゴニアと王家との繋がりを考えればあながち間違った行為でも無い。


これにはセラフィムが応える。


「グリムト殿、我らは傭兵としての責を果たしたのみ。顔を上げてください」


恐縮しながら顔を上げたグリムトは次に本題に入る。


「では今後の事について皆の意見を聞きたい。今回我々はこのフェネス城を敵から奪い返す事が出来た、そしておそらく東のミスコット城も奪い返していると思われる」


後半はウェンディー侯爵の方を見て言った、数的に不利な状況にも関わらず7000もの兵をミスコット城奪還に向かわせたと知ったからだ、ドラゴニアの傭兵がいなければ危なかったと心底思っているからでもある。


それを聞いたウェンディー侯爵は不機嫌に顔を背けた、それを確認したグリムト伯爵は話を続ける。


「2つの城を奪還したとは言えまだもう2つの城が敵の手に渡ったままなのも事実。ただ斥候の報告によれば敵の将軍は残り2つの城のどちらにも入城した形跡がないと言う事だ。それを踏まえて今後の方針を決めたいが意見のある者はいるか?」


これに対してウェンディー侯爵が驚き半分喜び半分と言った顔で確認の質問をする。


「それは本当か?本当に残り2つの城のどちらにも敵の姿は無いのだな?」


ウェンディー侯爵としては最終的に全ての城を取り戻せれば自分の戦略の失敗は帳消しになるのでは?と思ったからこそ喜び半分なのだ、しかし実際は多数の将兵を無駄に死なせた責任があるので懲罰対象にはなるがそれがわかるのは戦争終結後だ。


「取り敢えず詳細な調査も行ってはいるが第一陣として帰還した斥候によればその通りだ」


「おお、ならば明日は全軍を二手に分けてそれぞれの城の奪還に向かうのが良かろう」


再びウェンディー侯爵が言った、まだ詳細な調査結果が出ていないと言われたにも関わらず短絡的な事だ。


しかし、やはりと言うべきか、それを聞いた軍団長の1人リエスト子爵に嗜められる。


「お待ちくださいウェンディー侯爵、まだ城の詳細が掴めていない以上早急に事を運ぶべきでは無いと心得ます。2つの城が敵の手に落ちて既に1月ほど経っているのです、それだけあれば何か罠など仕掛けらている可能性もあります」


さらに別の軍団長のマルルーク子爵もそれに続けた。


「そうですな、リエスト子爵の言う通りだと思います。それに本当に我が国の城に篭らず逃げ帰ったのなら焦らずとも簡単に取り返せますからな」


2人の軍団長の正論にウェンディー侯爵は恥ずかしくなったのか下を向いて黙ってしまった、その顔には先ほどまでの喜びの表情は既に無い。


ここでグリムト伯爵はセラフィムに話を振る、それだけ信頼していると言う事でもある。


「セラフィム殿は今後どうすべきと考えますかな?」


「私は貴殿らとは立場が違うので口を挟むつもりはありません、我らはあくまでもディラルク軍の方針に合わせて行動するのみです」


セラフィムはそう言ってお茶を濁した、セラフィム達はディラルク王国防衛のためにこの場にいるのだから当然だろう。


なまじ勝ち戦の勢いに乗って『敵国の城を1つ2つ奪ってやろう』などと言われても同意も参戦もするつもりは無いからだ。


結局、翌日は全軍を持ってカペラ宗主国との最前線の城となるハータ城攻略に向かう事になった、斥候の第二陣の報告はその道中で聞いてその後の戦闘方針を決定するつもりだ。


残りのもう一つのレボルタ城については第二陣の報告を聞いてから決定する事にしている、もし何も無ければミスコット城攻略に向かった7000の将兵を向かわせるし、何かあるようならばミスコット城攻略組7000にドラゴニアの傭兵団と必要数の兵を攻略に送り出す予定だ。


翌日は出発が昼過ぎになった、ハータ城攻略が上手く行った場合籠城の準備が必要なのでその作業に追われたからだ。


これは別に全ての城を取り戻した後は籠城すると決めたからではない、もしミスコット城攻略に兵士を割かねばならなくなった時や、ハータ城に入場して疲弊したタイミングでカペラ宗主国軍が援軍を連れ攻撃しに来ないとも限らないための用心のためだ。


そして夜営時、グリムト伯爵は斥候の報告を受けた、それによるとカペラ宗主国軍は完全にディラルク王国内の城を放棄して自国の最前線となるメンデルヴァ砦で戦力の増強に努め始めたと言う事だった。


つまりハータ・レボルタ両城とも罠も伏兵も無い事が確定した、なので前日決定した通りミスコット城に向けレボルタ城の現状報告と攻略命令の伝令を放った。


翌日はハータ城に入城するだけで戦闘が無い事が確認出来たので、この日のうちに入城出来るよう全員身軽な格好にすると共に早朝から出発した。


そして予定通りディラルク軍30000はハータ城に入城する、その日は見張り番以外は皆早々に身体を休めた。


翌日は遅めの朝食の後会議が開かれた、メンバーはフェネス城の時と同じだ。


そして前回同様グリムト伯爵から口を開く。


「みなの者ご苦労であった、これで我が国の城は全て取り戻す事ができた。しかしこれで戦争が終わったわけでは無い、敵のリヒテン将軍は直ぐ先のメンデルヴァ砦で戦力の増強に努めていると報告があった。さらに友好国であるエムロード大王国・グランドラス王国では今も戦争が続いている。それを踏まえて今後の方針を話し合いたいと思うが意見のあるものは言ってくれ」


ここで真っ先に意見を述べたのはフェネス城でウェンディー侯爵に最初に意見したリエスト子爵だ。


「そう言えばエムロード大王国とグランドラス王国の戦況については情報はあるのですかな?」


「すまないリエスト子爵、他国の戦況については全く把握出来ておらぬ。しかしそれがどうかしましたかな」


「うむ、今回の戦は3国の共同による防衛戦と聞いておる、故に他国が防衛出来ているようならこのまま籠城を、押されているようならこちらに兵力を割かせるよう攻撃をするべきと愚行した次第」


「なるほど、確かに他国と共同している以上足並みを揃える必要はありますな」


この意見にまたもウェンディー侯爵が口を出した、無駄に爵位が高いだけに無碍にも出来ない。


「何を言っておる。ここはミスコット城攻略組をこちらに呼んで全軍でメンデルヴァ砦を攻略するべきだろう」


この意見にはグリムト伯爵始め他の軍団長達も顔を顰めた、そしてグリムト伯爵が心意を問う。


「なぜそう思われるのかなウェンディー侯爵」


「何故とな?お主こそなぜわからぬ?お主も見たであろう、占領されていた間の村や町の状況を。ほとんどの村や町では略奪が起こり食料は奪われ無理矢理徴兵された者もおる、これらの復興にいったいいくらの金がかかると思う?これらの費用をカペラ宗主国に払わせるためにはここでメンデルヴァ砦を落とすしか無いでは無いか」


ウェンディー侯爵の意見は一見正しい、このまま戦争が終結すればそれは戦勝ではなく停戦になってしまうためだ、賠償を求めるなら少なくとも自国軍には侵略出来る実力があると示すか、奪った人や土地を賠償金と交換で返還するようにしなければカペラ宗主国から金は引き出せない。


尤もここまでディラルク王国が蹂躙されたのはウェンディー侯爵が原因だと言う事を抜きに考えればだ、普通にこう着状態で戦闘が終結していれば賠償金など必要なかった。


グリムト伯爵は別にして他の軍団長達はそのウェンディー侯爵の功罪はしっかり認識している、なので皆心の中では『誰のせいでこうなっている』と悪態をついていた、しかしそれでも占領されていた村や町の現状が悲惨すぎたためカペラ宗主国からの賠償は必要ではないかと考える者も現れ出した。


その後の会議は紛糾する、その間セラフィム達ドラゴニア側は黙って会議の推移を見守っていた。


そしてここでグリムト伯爵が重要な事に気付いた、つまりはメンデルヴァ砦を攻めたとして勝てるのかと言う事だ。


他の軍団長達はフェネス城奪還戦からの戦勝で忘れているが、そもそもフェネス城を奪還できたのはドラゴニアの傭兵達のおかげなのだ。


確かにドラゴニアの傭兵達がいても最初は敗戦ばかりだった、そして潮目が変わったのはウェンディー侯爵に変わりグリムト伯爵が指揮を取り出してからだ。


しかしそれはウェンディー侯爵が欲に釣られてドラゴニアの傭兵達を戦闘に使わなかったからであり、セラフィムがその事を王宮に伝え将軍を更迭したからだ、さらにはグリムト伯爵に請われたドラゴニアの傭兵達が最前線で戦った事でようやく勝てたのだ。


なのでグリムト伯爵は素直にセラフィムに質問した。


「セラフィム殿、貴殿らはメンデルヴァ砦を攻略するとして助成頂けるのかな?」


これには再びリエスト子爵が驚いたように質問する。


「それはどう言う意味ですかなグリムト伯爵。セラフィム殿達は傭兵では無いのか?傭兵ならば指揮官の指示に逆らうのは軍法会議物では無いか?」


この質問にはセラフィムがグリムト伯爵の質問と合わせて答える。


「確かに我々は傭兵ではありますがハンターギルドを通したディラルク軍の傭兵ではありません、王国と契約を交わした遊軍です。その上でグリムト伯爵の質問に答えるなら我々の契約はディラルク王国の防衛ですのでメンデルヴァ砦の攻略には参戦しません」


グリムト伯爵だけはこの契約の事を知っていた、だからこそ質問したのだがそのまま素直に受け入れる事も出来ない。


「そうですか、しかしリエスト子爵の言う通り他国と歩調を合わせるためだとしてもダメなのでしょうか?」


「そう言う理由ならば可能ではあります。ただ現状エムロード大王国もグランドラス王国も戦線は膠着状態なのでその必要性を認めません」


「なんと、セラフィム殿は他の戦場の状況がわかるのですか?」


「はい、グリムト伯爵ももう知っていると思いますが国王と宰相が持っている通信の魔道具、あれをドラゴニアの者達で持っている者は多いのです。その者達と連絡を取り合っていますので」


「なるほど納得いたした。では今後の方針はここハータ城にて籠城とする」


ウェンディー侯爵を始め素直に納得出来ない者も多かったが、ドラゴニアの戦力抜きでメンデルヴァ砦を攻略出来ると思っているのはウェンディー侯爵だけだったので会議はこのまま終了した。


ウェンディー侯爵は最後まで無能を晒してしまったが、本人には全く自覚が無い。


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