表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
197/208

197 カペラ宗主国

ドラゴニアの諜報体制はまだ弱い、現在は諜報員320人、現地定住型のいわゆる『草』が1500人弱いるが西洋全体をカバーするには当然ながら全く足りていない。


なのでベルネット首長国連邦の事は内戦が起きていた事以外はあまり情報が入っていなかった、それでも少ない情報を整理すると、最初の戦争はヨネ子達が最初にリレント地域を訪れた頃始まったようだ。


先ず最初に行動を起こしたのは8つの首長国の内のアショカ首長国だった、アショカ首長国はスルタン(他国の王に相当する地位)のアガリタ2世が就任と同時に密かに軍政の拡大を行っていた、さらに優秀な騎兵の多くを秘密裏に組織して特別訓練を施していた。


そしてアガリタ2世が訓練の成果を確認して他の首長国に対して十分以上に強くなったと確信した時、突然隣接するリングル首長国に攻め込んだ。


突然の事だった事もありリングル首長国は大した抵抗もできず僅か3週間で陥落、その後アショカ首長国はその勢いのままもう一つの隣接したヒッタイト首長国に攻め入りこちらも3週間ほどで攻略してしまった。


これに対して残りの5つの首長国が危機感を覚え連携する動きを見せる、だが元々連邦とは名ばかりで本心から統一する気のなかった首長国なので急に連携と行っても上手くはいかなかった、その居を突かれさらにカーメル首長国も攻略されてしまった。


ここに来てやっと他の首長国も事の重大さに気付き連携するようになる、そして盟主となったのがカペラ首長国だ。


カペラ首長国が盟主になったのはこの国の2人の将軍の影響が強い、これまで戦争が無かったおかげであまり目立たなかったが、アショカ首長国が4つ目の攻撃対象にカペラ首長国を選んだ事でこれを撃退し大いに名を上げたのだ。


将軍の名前はリヒテンとクロンジェクトと言う、この2人の活躍により両陣営の力は拮抗し戦乱は泥沼化するかと思われた、しかしそうはならなかった。


この2人の将軍の力は想像以上に高く直ぐにアショカ首長国の軍勢を押し戻して行った、そして大して時間をかけずに攻略されたリングル、ヒッタイト、カーメルの各首長国の国民を味方につけるとそのままアショカ首長国を急襲しスルタンアガリタ2世を誅殺してしまった。


これにより反撃軍の盟主であったカペラ首長国が全首長国を統一しカペラ宗主国を建国、スルタンのエンガジェル12世がスルタンの上に立つ者として『ツァール』の称号を創設しその地位に収まった、因みに他国では皇帝と同じ扱いになる位だ。


この一連の流れについては、ドラゴニアの諜報員では把握していないが全てカペラ首長国のスルタンエンガジェル12世の謀略だった。


アショカ首長国の前スルタンが死んだのも、アガリタ2世がスルタンに就任したのも、アショカ首長国が他の首長国を攻撃するよう仕向けたのも全てカペラ首長国の陰謀だったのだ。


理由はもちろんエンガジェル12世の覇権主義から来ている、リヒテンとクロンジェクトという2人の優秀すぎる将軍を擁した事により世界征服の野望に取り憑かれたのだ。


とは言え元々カペラ首長国は小国である、このままでは人口も少なく世界を相手にするには兵士の数が圧倒的に足りない、そこで考えたのがベルネット首長国の統一だ。


ただいくら強い将軍がいるとは言え力で制圧するだけでは問題は解決しない、国民が増えても自分のために命を投げ出してまで戦おうとする兵士は増えないからだ。


そこで考えたのが正義の味方作戦だ、他国を覇権主義に染め戦争を起こさせる、それを正義の味方として討伐する事で他の首長国もエンガジェル12世を支持するようになると考えた、アショカ首長国はそのための生贄に選ばれたのだ。


そして事はエンガジェル12世の思った通りに運ぶ、この作戦にはもう一つメリットがある、それは実践経験を持つ強兵が増える事だ。


基本的にこの世界は戦争が少ない、そして兵士はそのほとんどが民間からの徴兵だ、なので戦争という非現実的な空間に投げ出された時その空気を経験しているかどうかは士気や戦闘力に大きく影響をするのだ、もちろん実践経験のある方がかなり有利になるのは言うまでもない。


こうしてエンガジェル12世は思惑通りベルネット首長国連邦を統一した、カペラ首長国を始め8つの首長国は単体なら全て小国だ、しかしそれでもその全てが集結するとその国土は大国であるエムロード大王国に迫るほどである。


そしてもちろんエンガジェル12世の野望はこれで終わりではない、次はいよいよ世界へ打って出るのだ、そのため大層な会議『クリルタイ』を行って全国民に世界征服の野望を周知した。


普通の国ならこの事はあまり受け入れられない、これから長く大きな戦争を続けると宣言したようなものだからだ。


しかしカペラ宗主国では受け入れられる、国民にはエンガジェル12世がベルネット首長国連邦の救世主のように写っている事と2人の偉大な将軍がいる事で自分たちの国が世界の覇者になれると本気で信じているからだ。


そしてカペラ宗主国の最初の標的になったのがグランドラス王国だった。


グランドラス王国ではこのカペラ宗主国の動きは早々に掴んでいた、なので早い段階で南の国境付近に迎撃の兵を出していた、その数約40000、グランドラス王国の通常戦力の実に半数だ。


グランドラス王国はカペラ宗主国の進軍の確認と同時にディラルク王国、エムロード大王国にも通信の魔道具で近況の報告と出兵要請をした。


これに対してカペラ宗主国はリヒテンを総大将とする総勢30000の軍勢で攻めてきた、数だけならグランドラス王国に分があるが総大将がリヒテンという時点でグランドラス王国側は不安を覚えた。


グランドラス王国に遅れる事3日、ディラルク王国でも国境に兵を集結させた、その数約55000、3国間の約定通りカペラ宗主国に宣戦を布告したのだ。


エムロード大王国でも同様に兵をあげる、こちらは戦場が属国のザールクリフとなるので少し遅れて要請から5日後の布陣となった、こちらの兵力は約50000となる。


カペラ宗主国は流石にこの連携に驚いた、元々隣国3国が連携するのは想定していた、だが通信の魔道具の事は知らないのでここまで早く反応するとは思ってもみなかったのだ。


しかし驚いたからと言ってエンガジェル12世は呆けてしまうほど無能ではない、そこで今後について思案する。


カペラ宗主国の最高戦力は騎士・兵士合わせて120000ほど、魔法師もいるが数は2000にも満たないし大半は攻撃も出来るが回復要因、地球で言うなら衛生兵扱いになるので戦闘員には数えない。


その内30000は既にグランドラス王国に出兵している、そして首都防衛にも最低でも20000は確保する必要がある、そうなると残りは70000しかない。


ディラルク王国とエムロード大王国が合わせて105000の大軍なので70000では心許ない。


さらに人材にも問題がある、大軍を率いて戦えるのはリヒテンとクロンジェクトの2人しかいないと言う点だ、その内のリヒテンは既にグランドラスに向かっているので残りはクロンジェクトしかいない。


大軍を指揮するだけなら人材が居ない事もないが、数的に不利にある状況下でも任せられる者となるとリヒテンとクロンジェクトの2人以外には居ないのが現状だ。


元々の計画では3国が連携するとしても通信の妨害さえすれば一月以上は持ち堪えると思っていた、その間にリヒテン将軍がグランドラス王国を落とし、後のグランドラス王国の残党狩りを他の将軍に任せてリヒテン将軍がエムロード大王国を牽制しつつクロンジェクト将軍のディラルク王国侵攻を補助する予定であった。


結局グランドラス王国侵攻は保留する事にした、とは言え国境を越えるのを断念しただけだ、3万の兵はそのまま国境付近で待機させグランドラス軍の侵攻を防ぐべく守りの陣を敷かせる。


そしてリヒテン将軍を呼び戻して今度は35000の兵を率いてディラルク王国国境に向かわせた、そして残りの35000をクロンジェクト将軍が率いてエムロード大王国領ザールクリフに向かわせた。


ここまでの戦況は諜報員から逐一ドラゴニアに報告が上がっていた、なのでヨネ子はもちろんエレンや流一も現状を正確に把握している。


「さて面倒な事になったわね」


「そうね、ある程度予想はしてたけどこれじゃあミダス海貿易の開始はしばらく延期ね」


ヨネ子とエルが話し合う、そこへエレンが質問する。


「グランドラス王国は助けなくてもアルピナ子爵領・・・いえハダ村だけでも助けないんですか?」


「そうですね偶然手に入った素材代とは言え港の整備資金はこちらが出しているんですものね」


リアもそう言ってヨネ子を見た。


それに対してヨネ子が答える。


「別に助ける必要はないわ。リアの言った通り偶然手に入れたお金で整備しただけでドラゴニアには損はないもの。それにベルビューの時と違って今回はミダス海沿岸の全てをカペラ宗主国が手に入れる可能性が高いでしょ、そうなれば荷物を輸送する事ができないわよ」


「それもそうですね・・・では今回は経過を見守るだけですか?」


エレンはわかってはいても納得は出来ていないようだ。


人はよく損をする事と損はしていないが利益を得られない事を同じように「損をした」と感じる事がある、エレンに限らずヨネ子とエル以外は皆このように感じて納得出来ていない。


「もし港を保護するならグランドラス王国に助成する大義名分がいるわよ。友好国ではあっても同盟国ではないんだから助ける理由が無いわ」


「そうですね。ミダス海貿易は諦めるしか無いかもしれませんね」


エレンもまだ納得は出来ていないが諦めはついた。


ここで今度はセラフィムがヨネ子に質問する。


「マーガレット様は今度の戦いをどう見ているのですか?先程の話ぶりですとカペラ宗主国が勝つと思ってるようですが」


この質問にリアも同意する。


「そう言えば兵士の数も質も3カ国の方が上みたいなのにカペラ宗主国の方が強いような言い方でしたね」


「そうね、多分エムロードは別にしてカペラ宗主国が本気になればグランドラス王国とディラルク王国は直ぐに落ちるでしょうね」


「根拠は有るんですか?」


リアのさらなる問いにヨネ子が答える。


「根拠というほどでは無いけど2人の将軍リヒテンとクロンジェクトが強すぎるみたいね。それと兵士が実践経験を積んでいるのも大きいわ」


「じゃあ逆にエムロード大王国が大丈夫な理由は?」


「別に大丈夫じゃあ無いわよ、単に時間の問題。エムロードは大国だし属国を2つ持ってるでしょ、だからエムロードを落とすには時間がかかると思ってるだけよ」


「なるほど、なんだか西洋東部は絶望的な展開ですね。でもだったらその後はここまで進行してくるって事でしょうか?途中で拡大が止まるという事は無いんですか?」


今度は再びエレンが聞いた。


「無いわね、覇権主義国家が力を手に入れたら少なくとも今の国王、カペラ宗主国的にはツァールが死ぬまでは拡大政策を続けるでしょうね」


「ではそれを妨害する事は出来ませんか?他国を助ける事は出来なくてもカペラ宗主国の侵攻を妨害する事は出来るのでは無いですか?」


これにはヨネ子があっさりと答える、さも当然これから行おうと思っていたように。


「もちろん妨害の方法はあるわよ」


「あるんですか?それはどんな方法ですか?」


エレンは驚いて聞き返した、エル以外は皆同じように驚いている。


「傭兵よ。ハンターが傭兵として3国のどこかに雇われれば良いのよ。『白金神龍』はもちろん参加するわよ、どこかはわからないけど。後『デザートイーグル』にもエムロードに雇われるようお願いしても良いかも。それからハンターに登録している騎士たちにも行かせるなら有休扱いにしてあげなさい」


「ああ、なるほど。国として直接助力は出来ないけどハンターとしてなら問題ないですね。さすがマーガレットさんです。では早速騎士団で有志を募りましょう」


そうしてドラゴニアとしての方針は決まった。


因みに『白金神龍』は今回メンバーを正式に入れ替えてヨネ子、エル、セラフィム、リアの4人とした。


エレンとアスカは別の仕事があるから外した、そしてリアは特例として13歳(自称だが)でCランクハンターとするようギルドマスターのライカスに受け入れさせた、もちろん断られる事は無い。


そして『白金神龍』はグランドラス王国に雇われるべくグランドラス王国に向かった、もちろん港を最優先で守る為だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ