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195 連邦加盟?

フライツェンに到着した一行は宿に宿泊する、エレンはこの国の元王族で国王のウィルヘルムとは従兄弟同士だが他国の国家元首としての体面があるため王宮には泊まらない。


フランドル国王ウィルヘルムの誕生祭は2日後から2日間の予定で開かれる、なのでヨネ子達と官僚は今日明日の2日間フランドル王国側との交渉を行う。


参加者はドラゴニア帝国側がヨネ子、エルと官僚2人のみ、フランドル王国側は宰相、外務大臣、内務大臣、金融大臣、商業大臣に官僚12人と大所帯だ。


今回セラフィムは李香蘭と共にエレンの護衛をしている、尤も実力的には李香蘭1人でも問題はないのだが他国の大使が最低5人から最大で20人ほどの護衛を連れているので少しだけ見栄えを良くした程度の理由でだ。


交渉はヨネ子によるフィールマ大森林の現状の報告から始まる、フランドル王国側はフィールマ大森林の状況どころかドラゴニアとの間に街道が整備された事も最近知ったばかりなので先ずは現状を把握してもらうのだ。


「フランドル王国の皆さんご機嫌よう。これから交渉を行うにあたりフィールマ大森林の現状について報告いたします。先ずはお聞き及びとは思いますが我がドラゴニア帝国とここフランドル王国との間に『大森林中央街道』と名付けた街道を敷設しました。この街道の途中にはエルフの郷がありますが、フィールマ大森林のエルフは全員ドラゴニア帝国に帰属しました、これに伴い我が国は国境をフィールマ大森林全域且つ辺縁部より1キロメートル、この国の単位で約0.6マテル(1マテルは約1.6キロメートル)内側と設定しました。これをご理解の上交渉を始めたいと思います」


鉱山やフィルエン村の事など重要な案件はまだあるが、それらは交渉を始めるのに必須の情報というわけでは無いので今回は割愛している。


この報告に対しフランドル王国側は先ず外務大臣が質問した。


「先ほど国境線を辺縁部から0.6マテルと言われたがいささかそちらが広すぎるのではないか?」


「フランドル王国ではフィールマ大森林で林業を行う者でも0.5マテルも奥地に踏み込んでいないのは確認済みです、つまりフランドル王国が管理出来ない場所なので妥当なところだと考えています」


「ではドラゴニアでは国境線の管理が出来ると?」


「出来るのではなく既に管理しています。そもそもフィールマ大森林はエルフの活動圏内であり、街道を1マテルほど進んだところに村もあります。その村を拠点に国境警備もしています」


「な!既に国境に村があるですと!なるほど外堀は既に埋められている訳ですな」


「理解が早くて助かります」


これ以後国境についての質問は出なかった事もあり国境については承認された。


今度は商業大臣が質問する。


「国境の問題はそれで良いとして、街道を作ったということは商人の往来を認めるという事で良いのですかな?」


本来なら「人の往来を」と言うところなのであろうが商業大臣と言う職務上商人を一番に考えている故の質問だ。


「ええ、そのつもりです」


「では関税と街道の使用料について話し合わねばなりませんな」


「いいえ、街道の使用料は必要ありません、それはドラゴニアで持ちます。なので関税についてのみの話し合いで結構です」


「ほう、使用料は要らぬとな?ではその分を関税に転嫁するのですかな?」


「そこは想像に任せます」


ここからはヨネ子と大臣ではなくお互いの官僚が交渉を始めた、関税と一口に言っても品目ごとに細かく設定が必要な物が多いからだ。


例えば自国で保護している農業製品や工業製品などは他国から安く入ってくると困るので関税を高く設定するが、自国で不足している物は安く設定する。

また自国で生産過剰気味の商品は他国に関税を安くするよう要請すると言った具合だ。


この後もヨネ子達や大臣達の見守る中官僚同士の駆け引きの応酬が続く、特にドラゴニア帝国とフランドル王国では金融システムが根本から違うので為替や商取引に関する法整備や実務的な取り扱いについて長い時間協議を重ねていた。


2日間の交渉で完全な決着はつかなかったがおおよそヨネ子の想定通りの内容で推移しているようなので後は官僚に任せる事にした。


明けて翌日、予定通りフランドル王国国王ウィルヘルムの誕生祭が開会した。


フライツェンの街中はどこも収穫祭のような賑わいを見せている、エレンを含む各国の大使も昼間は町に出て楽しんでいた。


夜になり王宮では晩餐会が催される、そこにはエレンだけでなくヨネ子、エル、セラフィムの3人も参加している。


今回エレンはウィルヘルムと従兄弟なのでやって来たが、本来この程度の催しには国家元首はもちろん伯爵以上の上級貴族が来る事も稀だ。


なので他国の大使は皆子爵位か男爵位の者達ばかりだ、要するにエレン達と面識が無いのは元より話の合う大使はいない・・・ハズであったが一人いた、リシュリュー王国はエレンが参加する情報を得てバーニア女子爵イリアを大使に任命していたのだ。


そのイリアにエレンが声をかける。


「あらイリアさん久しぶり、リシュリューの大使はイリアさんだったのね」


「あらエレンさん、いえエレン皇帝陛下お久しぶりでございます」


「もう、そんなに畏まらないでよ」


「いえいえそう言うわけにはいきません、私も大使として立派に職務をこなしませんと」


言葉とは裏腹にイリアの顔は少し笑っていた。


そこへヨネ子達もやって来た。


「へー、リシュリューの大使は貴方だったのね、リシュリュー王は中々粋な人物のようね」


「これはマーガレットさん、エルさん、セラフィムさんお久しぶりです」


「ええ久しぶりね」


「久しぶりじゃな」


エルとセラフィムも軽く返した。


5人の会話が盛り上がったところで国王が挨拶のために壇上に現れた。


「みな様今宵は私の誕生日の祝いにようこそお越しくださいました。私も本日晴れて成人を迎える事が出来ました、これも一重に皆様方の協力の賜物と感謝しております。今宵は日頃の感謝の意を込めて宴を開催しましたのでご存分にお楽しみ下さい」


国王としては少しへりくだった挨拶で重みは無いが本日が成人初日と考えればまあ及第点の挨拶だろう、しかしこの後ウィルヘルムは衝撃の発言をする。


「そして成人した国王としてここでみな様に重大な発表があります、我が国フランドル王国はこれよりドラゴニア連邦に加盟致します」


この発表を聞いた全員が驚きザワザワと騒ぎ出した、ここでヨネ子がエレンに向かって言った。


「まずい事になったわ、エレン、貴方は今直ぐゲートで宿に戻りなさい」


「はい、後のことは頼みます」


エレンは素直に騒ぎに紛れて宿へと戻った。


「あの、マーガレットさん、もしかしてマーガレットさん達も知らなかったんですか?」


イリアがエレンがいなくなった事で不思議に思って聞いた。


「ええ、私たちは誰も聞いてないわ。それどころかフランドル王国側の重臣たちもみな驚いているところを見ると完全な独断専行でしょうね」


ヨネ子はイリアにそう返事するとウィルヘルムの方へと歩いて行った、そしてこの場を引き取った。


「みな様、私はドラゴニア帝国の相談役でマーガレットと申します。先ほどのウィルヘルム陛下の発言について、現在我が国の皇帝陛下は体調不良で欠席しているため詳細は明日改めて発表いたします。お騒がせして申し訳ありませんでした」


このヨネ子の言葉に来賓の各国大使は納得した、と言うより詳細がわからない以上明日の発表を待つしかない、しかしフランドル国内の貴族たちは当然ながら納得していない、それでも各国の大使達を前に醜態を晒すわけにもいかず納得したふりをしている。


この後は大きな騒動には発展せず宴が滞りなく進行していった。


翌日、当然のようにヨネ子達は早朝から王宮に向かった、そして同じくフランドル王国の重臣たちも参内して来た。


そして会議室で緊急会議が開かれる、参加者はドラゴニア側がヨネ子とエルとエレンに官僚2人、フランドル王国側が国王ウィルヘルムと宰相、各大臣と副大臣の総勢14人の合計21人だ。


ここで最初に声を出したのは国王のウィルヘルムだ。


「みんな昨夜は突然で驚いた事だろう、しかし私は最初から成人して国王として正式な決定権ができたらドラゴニア連邦に加盟すると決めていたのだ」


フランドル王国はこれまでウィルヘルムが未成年であることを鑑み国王といえども単独の決定権はなく常に宰相と後見人である2人の公爵の承認を必要としていた、しかし成人すればその枷が外れる、そしてフランドル王国は絶対君主制国家のため単独での決定権が発生したのだ。


「陛下!なぜ一言相談してくれなかったのですか?それに今のお話ですとドラゴニア側にも知らせていないようですが」


宰相が声を振るわせながらウィルヘルムに詰め寄った、実際国の重大事を最側近である宰相が全く知らなかったと言うことは自分と国の両方の恥となるので怒りや悲しみや情けなさなど複雑な気持ちに支配されている。


「ごめん、でも相談したら止めてただろう?」


「当然です、我が国は大きな戦争で被害は出しましたがその後は平穏に治めてこれたではありませんか?」


大きな戦争とはエレンの父であるグスタフ前々国王とウィルヘルムの父で前国王サイラスとの内戦、そしてその父の仇討ちであるエレン達旧『デザートイーグル』との戦争の事を指す。


「でもそれはそこにいるエレンの、いや『デザートイーグル』とセラフィムさんのおかげじゃないか」


これは戦争後に近隣3国から戦争を仕掛けられようとした時エレン達『デザートイーグル』とセラフィムでそれを回避した事を指す。


「そ、それはそうかもしれませんが。それでも戦後の混乱にもめげずによく統治して来たと思っております」


この宰相の言葉に他の大臣達も頷いている。


ここでさらに話が長くなりそうだったので、ヨネ子がいつものように空気を読まずに発言する。


「もう良いでしょ、それより時間が無いんだから今後について話すべきだと思うけど?」


「ぐっ・・・まあ確かにそうですね、それでは本題ですが私は宰相としてドラゴニア連邦加盟には反対させていただきます」


しかしヨネ子はこの宰相の言葉を無視してウィルヘルムに質問した。


「国王陛下、貴方はなぜそこまで連邦加盟にこだわるの?これまでの経緯以外にも理由があるでしょ?」


「そ、それは・・・それは・・・この国が発展していないから、僕ではこれ以上発展させきれないから。エレノア姉さん、いやエレン姉さんは凄いよね、何も無い場所を開拓して国を起こして、まだ建国して数年なのに他のどの国よりも発展してる。同じ血を継いでるのになんでこんなに差があるんだろって思ったら、この国もエレン姉さんに任せたら国民はもっと幸せになれるんじゃ無いかと思ったらドラゴニア連邦に入りたいって思って・・・・・」


最後の方は消え入るような声で聞き取れなかった。


この言葉にはエルが反応した。


「ふーん、自分の限界を知って、それでも国王として国民のために決断したって事?」


これにウィルヘルムは力なく頷いて肯定した。


「そう、まあ国王の判断としてはどうかと思うけど国民のためという事なら評価は出来るわ。マーガレットはどう思う?」


「そうね、確かにドラゴニアなら発展の手助けは出来るでしょうね。それに下級貴族ばかりとは言え外国の正式な大使の前で公言してしまってる事だしドラゴニア連邦としては受け入れない訳にはいかないわね。尤もここにいる大臣達の意見次第ではあるけど」


ヨネ子は前日の発表について騙し討ちのような方法ではあっても外国の大使の前で公言された以上受け入れる以外の選択肢は無くなっていると思っている、ただしそれは国王の独断ではなくフランドル王国の総意としてならだ、そのため急遽エレンを不在にしてまだなんとか発言を反故に出来る状況を作ったのだ。


しかしヨネ子の発言以降フランドル王国側の人間に発言する素振りが見えない、そこへ今度はエレンがウィルヘルムに向かって言った。


「ウィルヘルム、確かに私の国はまだ建国から日は浅いしそれでも発展してるわ、でもそれは私の力ではなくて周りのみんなのおかげよ、貴方にもそんな支えてくれる人達がいるでしょう?その貴方を支えてくれている人達も貴方の国民なのよ、なのにそんな重大な事貴方1人で決めても良いの?」


ここで意を決したように外務大臣が口を開いた。


「皇帝陛下、私たちのために国王陛下に意見してくださりありがとうございます。ですが私も覚悟を決めました、確かに私達は国王陛下の元努力はしてまいりました、ですが国王陛下の仰った通りドラゴニアはもちろん近隣他国に比べても発展が遅れていると感じてもおります。ならばドラゴニア連邦に加盟する事でそれが解消されるなら私はドラゴニア連邦加盟に賛成いたします」


これを聞いてやっとウィルヘルムは顔を上げた。


この後はフランドル王国側だけで協議した、結果賛成多数によりフランドル王国のドラゴニア連邦加盟が正式に決定した。


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