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019 子供の将来に向けて

「これから貴方達は私達の庇護下に入ります。良いですね」


食事が終わるとヨネ子が子供達に向けそう宣言した。


「あのー、庇護下ってどう言う意味ですか?」


孤児の1人が聞いた、5歳前後に見える女の子だ、流石にまだ言葉の意味がわかっていない。


「これから貴方達の面倒は私達が見ると言うことよ」


「本当?じゃあ毎日ご飯食べられるようになる?」


今度は同じ位の別の女の子が聞いてきた、ハンターの仕事を貰えたとは言っても生活が苦しい事には変わりなかったようだ。


「そうね、それくらいは当然ね」


「「「「「やったー!」」」」」


小さな子供達は無邪気に喜んでいる、しかしロンとバズとレックの3人は流石にそれほど楽観視はしない、「孤児達の」とは言えさすがリーダー格の男達だ。


「それで、俺たちに何をさせたいんだ?」


3人を代表してロンが聞いてきた。


「差し当たっては勉強よ。貴方達には全員学校に通ってもらいます。最低でも読み書き計算は出来る様になってもらわないとね」


「勉強?そんな事してもあんた達には何の儲けにもならないじゃ無いか」


「心配しなくても慈善事業をするつもりは無いわ。大人になってからタップリと働いて貰うわよ」


ロンは将来成人してからどんな事をやらされるのか不安になった、しかし少なくとも大人になるまではちゃんと面倒を見てもらえるようなので素直に従うようにした。


「わかった、よろしく頼む」


話しが纏まるとヨネ子達は子供達全員を連れてフライツェンに向かった、この場所には2度と来ないつもりだが子供達に荷物は何も無い、その事実がこれまでの子供達の状況を如実に表している。


入り口の門には相変わらず入場待ちの列が出来ているが、ヨネ子達はそれを避けて貴族用の入り口に向かった。


「ここから入れて欲しいんだけど」


ヨネ子が門兵に向かって言った、ここは普段使用される事が無いし一般の門からも近いので入場審査官は一般の門から必要に応じてやって来る、なので今は門兵しかいないからだ。


「何を言っている?ここは貴族用の門だ、あっちの一般の門に並べ」


「何をやっているのですか?」


門兵が断っているところへかなりベテランと思われる審査官の一人がやって来た、すぐ側なので様子を見に来たのだ。


「これは審査官殿、この者達がここから入れろと無理な事を言うので断っていた所です」


門兵が審査官に説明した、門兵としては一目で孤児とわかるみすぼらしい見た目の子供を10人以上連れた集団が貴族用の門を潜るなどあってはならない事だと思っている。


しかし審査官はエレンを見ると門兵に向かって入場させるように言った。


「良いでしょう、私の権限でこの者達の入場を許可します」


この審査官はエレンが王族とは知らない、しかし『デザートイーグル』の一員として何度もこの街に来ていたのは覚えていたのだ、その伝説(?)の一部と共に。


「なっ!こんな孤児を連れた得体の知れない者達を何の確認もせず城内に入れても良いのですか?」


「良いのです、問題が有れば全ての責任は私がとります」


その言葉に門兵は渋々ながら従った。


「ありがとう」


ヨネ子は審査官に礼を述べると全員を引き連れて入場した、そして最初に高級な宿を探した。


「マーガレット、何で最初に宿を探すの?それも高級なところなんて」


エルが聞いてきた、アスカはそう言うところはあまり気にしないがエレンとブレイザーも同じ疑問を持っている。


「もちろんこの子達を風呂に入れるためよ、こんななりのままじゃどこにも連れて行けないでしょ」


子供達を指差して説明するヨネ子、そこにはボロボロの布切れに身を包む子供達の姿があった。

ただしロンとバズとレックの3人は小綺麗にしている、ハンターとしてギルドに出入りするためには必要だったからだ。


「ああ、確かにね」

「本当、気が付きませんでした」


エルとエレンが納得した、ブレイザーも声を出さなかっただけで納得している。


宿を決めると早速全員を風呂に行かせる、ただし宿の従業員に追加料金を払ってついて行ってもらった。

どう考えても風呂など入った事の有る者など居はしない、なので従業員に風呂の入り方をレクチャーしてもらうと共に所謂「湯女」や「三助」のような事をして貰うのだ。


子供達を風呂に入れた後は下着や着物の買い出しである、女の子用はエレンに男の子用はブレイザーとアスカに買いに行かせた。

この世界の人間の着物の事ならこの世界の人間に任せた方が良いだろう、ただアスカがブレイザーについて行くのは荷物持ちとしてだ、人数が多いので大きな荷物を持つよりアスカの収納魔法を使った方が良い。


ヨネ子とエルはその間ハンターギルドに向かった。


「ちょっと聞くけど、この辺でドラゴンの住処ってわからない?」


ヨネ子は今後の子供達の教育資金や生活費を稼ぐ必要がある、なので手っ取り早く下位龍を狩ろうと思いギルドに情報を聞きに来たのだ。


「いえ、そのような情報はありませんが」


「噂程度でも良いんだけど」


「それでしたらここから南東に進んだアルバート王国との国境の手前に聳えるガガ山と言う山に二本足の蜥蜴のようなドラゴンが住んでいると言う話を聞いた事がありますが」


「そう、ありがとう」


ヨネ子とエルはそう言うとハンターギルドを後にした。


「どうする?行ってみる?」


エルがヨネ子に聞いた、所詮情報ではなく噂なのだ、本当にドラゴンが居る可能性は極めて低い。


「取り敢えず行っては見るけど今日じゃ無いわよ」


そう言って二人は宿へと戻った。


宿に着いたがエレンもブレイザーとアスカもまだ帰っていなかった、しかし子供達もまだ風呂から出てきていない。


最初に現れたのはブレイザーとアスカだった、やはり男の買い物は女の買い物より早いと言うべきなのだろう。

そんな事をヨネ子が考えているとエレンも戻ってきた、そしてエレンとアスカが風呂場に向かい子供達が出てくるのを待った。


しばらくして全員風呂から上がり真新しい下着と着物に身を包むとそれぞれの部屋へと向かった。

子供達は全部で13人、『白金神龍』は5人、部屋は6人部屋3つ、バズ以下の6人で一部屋、レック以下の6人で一部屋、ロンは『白金神龍』と一緒の部屋だ。


夕食は机をくっつけて全員一緒に食べ始めた。


「エレン、明日は国王に会ってきなさい」


「はい、この子達の学園入学の許可をもらいに行くんですね」


フライツェンには学校が3つある、1つは貴族だけが通うアミール学園、もう1つは主に下級貴族の子弟や裕福な平民が通うツヴェイト学園、最後はフライツェンの子供なら誰でも通う事の出来るフラット学園だ。


その内、アミール学園とツヴェイト学園は入学に国の許可が必要なのでエレンにツヴェイト学園の入学許可を取らせるのだ。

因みに子供達は貴族では無いのでアミール学園の入学資格が無い、街の外に住んでいた事と今後は新しく作る国の国民になることでフラット学園に通う資格も持っていない、必然的に通えるのはツヴェイト学園だけとなる。


「ブレイザーはこの子達が全員で住める家を探しておいてちょうだい」


「全員でですか?予算とかはどうなるんですか?」


「それは気にしなくても良いわ、ただしこの子達には身の回りの事は全て自分達でやらせるからそのつもりでね」


「わかりました」


「アスカは明日もブレイザーと一緒にいてちょうだい。貴方と一緒なら悪徳商人に騙されたりしないでしょうから」


ヨネ子は大商会の倉庫を暴いて違法奴隷売買を摘発した事が今日中に街中に広まると思っている、なのでそれを解決した者の中にアスカが居ると言うことも併せて広まると思っていた。

大商会を潰せるほどの実力者を前に騙そうとする者などそうそう居ないだろう。


「わかりました」


「私とエルは資金調達に行ってくるからそのつもりで」


「どこに行くんですか?」


エレンが聞いた、資金調達の方法が気になるのはしかたない。


「一応ガガ山って山に行くわ、それからどうするかはその時次第ね」


「ガガ山ですか、そう言えば下位龍が居るって話を昔聞いた事がありますね」


「そう、それが本当なら狩って来ようと思ってね」


「わかりました、ドラゴンが居る事を祈ってます」


翌日、早朝にヨネ子とエルは出発した、早朝なのはなるべく人目に付かないようにだ。

ガガ山には行った事が無いのでゲートは使えない、だからと言って悠長に歩いて行っていては日にちがかかりすぎる、なのでフライツェンを出た後は街から少し離れてからエルに本来の姿になってもらい飛んで行く事にしたからだ。


ガガ山までは馬でも5日ほどかかる距離にあるが、エルの本来の姿で飛ぶとヨネ子を乗せていても2時間ほどで着いた。


ガガ山はドラゴンが居ると噂されているだけに人は近付かない、なので人目を気にせず上空からドラゴンを探す事が出来る。


お陰で直ぐにドラゴンを発見できた、噂は本当だったのだ。


二本足の蜥蜴のようなドラゴンと言う事だったが実際は4本足だった、そしてその姿は恐竜のトリケラトプスに似ている、この世界でケントロスと言う名で呼ばれている。

違いといえば鳥の嘴のような口が犬や狼のような口になっている事と、尻尾の先にも4本のトゲが付いている事くらいだろうか。


尤も本当にこのケントロスが噂のドラゴンかはわからない、噂の主が見間違ったのか、偶然同じ場所に居たのか、それとも複数の種類のドラゴンが居るのかケントロスを見つけただけでは判断は出来ない。


それでも目の前に居るのは紛う事なき下位龍である、しかも12頭の群れ、内3頭は一目でわかる子供だ。


ヨネ子とエルはその群れから1キロほど離れた場所に降り立った。


「困ったわね、エル、あなた子供達の親が区別出来る?」


ヨネ子はドラゴンが1頭か2頭なら迷わず狩っていた、しかし10頭以上の群れ、しかも子供付きとあれば話が変わってくる。

全部を狩れない事はないが、「必要なら躊躇無く殺すが必要が無ければ殺さない」と言うのがヨネ子の信条なのだ、それに反する。

だからと言って何も考えずに必要数だけ狩ると言うのも良しとはしない、ケントロスの生態を知らないので子供の養育を親が行っているのか群全体で行っているのかわからない以上下手に親を殺すのは問題があるからだ。


「ええ、わかるわよ」


しかしその杞憂もエルが分かると言う事で解消された、これも数少ない亜神のまま使える神力の1つだ。


問題は解決したのですぐにケントロスの元に向かう、そして残り100メールほどの場所の岩陰から群れを観察する。


「じゃあ子供の親以外を2頭狩るわよ、どれを狩れば良いか教えてくれる?」


「だったらマーガレットは一番左のケントロスを狩って。私は別の1頭を狩るから」


「わかったわ、じゃあ行くわよ」


ヨネ子の合図と共にドラゴンに向けて飛び出した2人。


二人に気付いたドラゴンはすぐさま迎撃体勢をとる、3頭の子供達を背にして5頭のドラゴンが前方に立ち塞がる、そして残りの4頭は2頭づつに別れてヨネ子とエルに向かってきた。


運良くそれぞれ向かってきた方に狙っていたケントロスが混ざっていた、なのでヨネ子もエルも剣の一閃でそれぞれ狙っていたケントロスの心臓を貫いた。


残った2頭は急いで立ち塞がった5頭の更に前方に戻って立ち塞がった、ヨネ子とエルの強さに恐れをなして子供と後ろの5頭の仲間を逃がそうとしているのだ。


その子供と5頭のケントロスは守りに戻ってきたケントロスがヨネ子とエルの前に立ち塞がったのを確認すると急いで逃げ出した。


ヨネ子はそれを確認してから倒したケントロスを収納に収める、ついでにエルの倒したケントロスもヨネ子が収納に収めた。


エルは無防備にヨネ子の元に歩き出す、それでも残ったケントロスが攻撃を加える事はなかった。


エルが側まで来るとヨネ子はゲートを使いフライツェンの外まで帰って来た、早朝とはいえ普通にフライツェンを出たので門から帰らなければ次出るときに不審に思われるからだ。


ヨネ子達にも置き去りにされたケントロスはそれでももうしばらく戦闘態勢のままその場に立っていたが、本当に脅威が去ったと分かると逃げた仲間を追いかけて行った。


フライツェンに帰ってきたヨネ子はそのままハンターギルドに向かった。


「ちょっと解体場を借りたいんだけど」


「はい、ではこちらへ」


時間は12時少し前、ギルドの受付が最も空いている時間だ、なので受付嬢はすぐにヨネ子達を解体場に連れて行った。


ヨネ子は直ぐにケントロスを一体出して解体を始める、それを解体職人と受付嬢が見て驚いた。


「ウソ!これってケントロスじゃないの!」


驚きのあまり声を上げる受付嬢、さすがに本物を見るのは初めてだろうがギルド職員らしくドラゴンの名前は知っていた。


しかしヨネ子はそんな驚きを無視して黙々と解体を進める、体長6メートルほどの個体だがヨネ子にかかればものの40分ほどで解体は終わった。

その素材を一旦全て収納に仕舞ってから2体目の解体に取り掛かる。


「ええっ!?2頭もいるんですか?」


受付嬢はもう1頭出した事で更に驚いた、いくら空いている時間とは言え受付を長く空け過ぎな気がする。


それでもそんな受付嬢を無視して2頭目のケントロスも40分ほどかけて解体を終えると1頭目同様収納に仕舞った。


そしてこれから商談が始まる。


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