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017 出発

アスカの特訓が終わった翌日、いよいよ旅に出るための準備が始まる、とは言え『白金神龍』全員で必要な物の買い出しに行くだけだが。


最初は何と言っても調理器具だ、これはブレイザーの気の済むように選ばせた、これからの旅の料理の味が決まる重要な事なので妥協はしない、しかも全て2組づつ購入してヨネ子とエレンがそれぞれ1組づつ持った。


その後も調味料を買いまくると本格的なテントやベッドなど普通旅には持っていかない物もどんどんと購入していく、収納魔法のおかげでそれが出来るからだ。


全ての買い物が終わると一旦ハンターギルドに向かった、依頼を受けるためではない、2日前に狩ったムースを解体するためだ。

ムースは自分達の食用として狩った、しかし体重が約700キロと大型なのでホームで解体するのは憚られた。

なのでハンターギルドの解体場を借りて解体するのだ、ここなら不要な部位の処分に困らない。


解体も終わりホームへ帰るとブレイザーは早速料理に取りかかった、最後の晩餐では無いがお別れのパーティー的な意味を込めて食事会をするのだ、もちろんメインディッシュは解体したばかりのムースの肉料理だ。


『白金神龍』がホームに来てからは毎日全員揃って食事をしていたのでメンバー的には変わり映えしないが、今日の料理はブレイザーがいつも以上に気合を入れて作った物なので豪華だ。


「それで、これからどこへ向かうの?」


セリーヌが聞いてきた、やはり仲間の動向は気になるのだ。


「フランドル王国の王都フライツェンに向かうつもりよ」


「何か理由でもあるの?」


「最初にこの世界の地図を手に入れたいと思ってね」


「地図は軍事機密だからいくら王都でも売ってないと思うわよ」


「だからテレイオースじゃ無くてフライツェンなのよ。エレンが居ればフランドル王国の地図は手に入るでしょ」


「でもそれってフランドル王国の地図だけしか手に入らないんじゃないの?」


「どこの世界でも同じ、国っていうのは軍事機密だからこそ諜報員を使って調べているものよ。だから本国が作るものほど正確じゃ無いでしょうけど近隣の国の地図は手に入ると思うわ」


「なるほどねー。流石マーガレットさんね。それで、やっぱりゲートで行くの?」


「一応そのつもりよ。本格的に旅を始めるのは地図を手に入れてからね」


「そうなんだ。じゃあまたいつでも遊びに来て。どこに居てもゲートで直ぐ来れるんだから」


「ええ、たまにはここにも顔を見せに来るわね」


和やかな雰囲気の中食事が進んで行く、そして食後のティータイムにはメアリ特製のチョコレートケーキが振る舞われた。


「なっ?これは何ですか?」


ブレイザーはチョコレートは初めてだったので衝撃を受けた、因みにエルとアスカも初めてだがこの2人にとっては人間の料理そのものが珍しいのでチョコレートだからと特別驚く事はない。


「これはチョコレートケーキと言います。そう言えばブレイザーさんには料理ばかりでデザートは教えていませんでしたね」


「これも作り方を教えてもらえませんか?」


ブレイザーはパーティーの料理人になったからにはデザートも作ったほうが良いと思っていた、なのでチョコレートの作り方を知りたかった。

しかしこれはヨネ子が拒否した。


「やめておきなさい、チョコレートは作り方こそ簡単だけど手間と時間がすごくかかるの。旅をしながらでは作れないわ。それより必要な時にここまでゲートで取りに来る方が良いわよ。メアリも私達用に常に多めに作ってくれるわよ、ねえ?」


「あ、はい。この町では材料のガウガオの実が手に入らないのでそれさえ持ってきてくれれば作っておきますよ」


ガウガオの実とはこの世界でのカカオの名称だ、産地はここアルバート王国の南のガベン王国の更に南にあるレベンド王国だ。


「そのガウガオの実とはどこで手に入るんですか?」


ブレイザーはメアリに聞いたのだが答えたのはヨネ子だった。


「これから行くフライツェンなら手に入るはずよ」


「それは良かった、ぜひ手に入れましょう」


こうして旅立ち前夜は更けて行った。


翌日、『白金神龍』はエレンのゲートでフライツェンへと向かう、一応城壁の外から普通に門を通って街に入る事にした。

ヨネ子は別にしてエルとアスカは城塞都市に入るのは初めてなので、通常は列に並び管理の人間に身分証明書を見せて手続きする事を教えるためだ。


しかし『白金神龍』が入場待ちの列に並ぶと当然の如く周りがざわめき出した、もちろんアスカがいるからだ。

その騒ぎを聞きつけて警備兵がやって来た。


「何を騒いで、ウオッ!?」


警備兵はアスカを見るなりのけ反るように驚いた、そしてヨネ子達に質問する。


「何だコイツは、お前がテイムしているのか?」


この世界にはペットに相当する言葉は無い、そもそもこの世界の人間でペットを飼えるほど余裕があるのは上級貴族か大商人だけなので愛玩用に動物を飼っている者はほとんどいないからだ。

しかし愛玩用でない動物や魔物は飼われている、ハンターが戦闘用に魔物を飼っていたり、商人や貴族が馬車用の馬や軍馬を飼っていたり、猟師が狩猟用の犬や狼を飼っているがそれらは総称して「テイム又はテイミング」と呼ばれている。


なので警備兵はアスカをテイムされた動物と思ったのだ。

しかしその質問にはアスカが自ら答えた。


「私はテイムなんてされて無いわよ。私の名前はアスカ、れっきとしたハンターよ」


「なあっ?しゃ、喋った?今お前が喋ったのか?」


「そうよ」


「し、失礼しました!」


警備兵は驚きのあまりそういうと門の方へと帰って行った、少し足元が覚束ないようだがそれほどショックだったのだろう。


しばらくして『白金神龍』の順番がやって来た、そこには先ほどの警備兵が居る、どうやら審査の担当官に説明しているようだ。

そのおかげか審査担当官には余計な驚きや詮索は見られなかった、ただアスカのギルドタグを見たときは流石に驚いていた、本当にテイムされているのでは無くハンターとして登録されている事にだ。


何はともあれ無事入場出来た一行は早速王城へと向かった。


「私は元『デザートイーグル』のエレンよ、国王に会いたいから取り次いでちょうだい」


王城の門兵にエレンが告げたが取り合ってはもらえなかった、まだ新人なのだろう。


「何を馬鹿な事を言っている、そんな事ができるわけ無いだろう」


「じゃあ貴方の上司を呼んで来て」


「何故上司を呼ばねばならん、ここを守っているのは俺たちだ」


どうも話にならないと思ったヨネ子は一旦引く事にした。


「エレン、もう良いわ。一度ハンターギルドに行くわよ」


そう言ってハンターギルドに向かった。


「私は元『デザートイーグル』のエレンよギルマスに会いたいの、呼んでもらえる?」


流石にハンターギルドでは『デザートイーグル』の名前の効果は抜群だ、それだけの事をしでかしているからではあるのだが。


「はい、直ぐに呼んで参ります」


受付嬢は大急ぎでギルマスの元に向かった、そして直ぐに戻ってきた。


「ギルドマスターがお会いになるそうです、こちらへお越し下さい」


そう言って『白金神龍』のみんなをギルドマスター室に案内して紅茶を入れ始めた。


「お久しぶりですデニスさん」


「おう、久しぶりだな」


エレンの挨拶にそう答えるとギルドマスターのデニスは全員を見渡した。


「お前らが噂の『白金神龍』だな」


噂のとはギルドの、正確にはギルド上層部の噂の事だ。

『白金神龍』に関してはコルムステルのギルドマスターパチェックから詳細な情報が流れている、中でも人間でも亜人でも無いアスカのハンター登録についてその扱いを疑問視する者もいたのでギルド上層部限定で大きな噂になっていた。


「どういう噂かは知らないけど『白金神龍』は私達よ」


いつものようにヨネ子がリーダーらしく答えた。


「そうか、それで今日はどんな用事で来たんだ?」


「国王に会いに来たんだけど城に入れなくてね。だからギルマスの力で城に入れてもらおうと思ったのよ」


デニスはギルドマスターとしてエレンが元王族だと知っている、しかしその事を知っているのは本当に一握りしかいない。


「なるほど、下っ端の門兵や警備兵じゃあエレンの事を知らないから入れてもらえなかったって事か」


「その通りよ、お願い出来るかしら?」


「良いだろう、出来ればお前達とは敵対したく無いんでな。そのくらいならお安い御用だ」


デニスはそう言うと席を立った、それを確認してヨネ子達も席を立つ、そしてその足で王城に向かった。


「おう、俺はハンターギルドのギルドマスターデニスだ。国王に用があって来た、取り次いでくれ」


「はい、しばらくお待ち下さい」


門兵はヨネ子達の方をチラ見してバツの悪そうな顔をしながら城の中へと消えて行った。

自分達が相手にしなかった相手がギルドマスターを簡単に動かせる程の大物だったと知って不安になったのだ。


「おまたせしました、先ずは宰相様がお会いになるそうですのでこちらへお越し下さい」


門兵はそう言うと宰相の所へと一行を案内した。


「久しぶりね」


「これはエレノア様、お久しぶりでございます。では早速国王様の元へご案内致します」


宰相はギルドマスターのデニスが国王に会いに来たと聞いていたので用件を聞こうと思ったが、本当に会いに来たのはエレンだったと知って用件を聞く必要が無いと思い直ぐに国王の元に案内する事にした。


「その必要は無いわ、ここに来た目的は地図を手に入れたかったからなの、だから軍部の方に連れて行ってくれる?」


「地図?この国のですか?」


「いえ、わかる範囲で全部欲しいわね」


「わかりました、ではやはり国王に会って行ってください。その間にお渡しする準備を致しますので」


「そう?わかったわ」


宰相は当然ながら地図が軍事機密だと知っている、しかしエレンなら王国の不利になるような使い方はしないと確信していた、だからこそ二つ返事で地図を渡す事を了解したのだ。


「じゃあ俺はもう良いな」


「ええ、ありがとう」


そう言ってデニスはハンターギルドへと帰って行った。


宰相はそのまま『白金神龍』を謁見の間に連れて行くと、執事に国王を呼びに行かせ、自身は地図を用意しに行った。


謁見の間で用意された紅茶を飲んでいると、執事に連れられて国王のウィルヘルムがやってきた。


「よく来てくれたねエレノア」


国王ウィルヘルム=モレノ=フォン=フランドルとエレンは従兄弟同士の関係だ、エレンの父親は先先代の国王だったが政変により弟で現国王の父にあたるサイラスに殺されて王位を奪われていた。

その後エレンが家族の仇を打ったが国王の位は従兄弟であるウィルヘルムに譲ったのだ。

さらには王国のピンチにやって来て国を救ってくれた事でウィルヘルムはエレンに絶対の信頼を置いていた。


「国王様、私の名前はエレンです」


「そうだったねエレン、来てくれて嬉しいよ」


その後ヨネ子達『白金神龍』の紹介をしてから雑談をしていた、国王と会う予定は無かったので雑談以外に話す内容など無かったとも言える。


割と長い時間話をしていると、やっと宰相が地図を持って謁見の間へとやってきた。

時間がかかったのは一部の地図を転写していたからだ、印刷技術の無いこの世界では転写は手書きなので時間がかかる。


流石に一国の持つ軍事機密だけあり、たかが地図とは言え量が多い。

フランドル王国はもちろんだが、近隣4カ国はかなり正確に把握しているように見える、それ以外にも近隣4カ国の隣接国の地図もある、それ以外だとこの世界でリレント地域と呼ばれる地域の地図もある。

リレント地域とは今いる大陸の北西部一帯の事で、かつて人間の総人口がまだ一億人に満たない頃その全ての人間が住んでいた地域だ。

人間は人口が増え始めると南下や東進して生活圏を広げて行ったが、その頃は国同士戦争をしなくても土地を広げられたのでリレント地域の地図は軍事機密扱いになっていなかった事からいろんな国が地図を持っている。

ただしそう言う経緯なので内容は古く、一部現状と合っていないところもある。


「ありがとう、頂いて行くわね」


「あの、これから何か予定はあるの?」


国王が聞いて来た、いくら従兄弟とは言え今は平民と同じ扱いなので気やすすぎる喋り方のように思えるが。


「無いわ、今日はこのままフライツェンに泊まって明日出発する予定よ」


出発とは言ったがまだどこに行くか決めていない、最初に地図を手に入れたのはその行き先を考えるためでもあるのだから。


「だったらこのまま王宮に泊まったらどう?」


ヨネ子はその提案を受け入れるかどうか考えた、そして受け入れる事にした。

堅苦しいのはあまり好きでは無いが、この城はエレンの実家でもあるのでエレンの為にはなるかも知れないと考えて。


「じゃあそうさせてもらうわ」


ヨネ子がそう答えたので急遽全員に部屋が用意された、ただし個室はエレンとブレイザーだけでヨネ子はエルとアスカとの3人部屋にしてもらった。


そうなれば食事は当然国王との会食である、王宮に入ってからずっと居心地の悪かったブレイザーは終始恐縮しっぱなしだった。

ブレイザーはエレンが元王族だと言うのはわかったが、ヨネ子が異世界人であることもエルが神龍であることもまだ知らない、なので同じ平民なのに国王相手に堂々としている事を不思議に思っていた、それと同時にたのもしくも思っていた。


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