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016 アスカの特訓

「私とエルはちょっと魔物を狩って来るわ。アスカは残って魔力を上げるよう訓練しなさい。エレンは今日も料理の訓練。ブレイザーはメアリとシェンムーにここの料理のレシピを教えてもらいなさい」


昼食後にヨネ子が全員に指示した。


「えっ?パーティーの料理人が決まったのなら私は料理しなくても良いんじゃないんですか?」


エレンが質問した、ブレイザーが料理人として同行すると聞いて内心ホッとしていたからだ。


「言ったでしょ、流一の嫁なら出来るようになりなさいって」


「はい、わかりました」


エレンは素直に言う事を聞いた、前日セリーヌ達から褒められた事で料理が嫌いではなくなっていた事も素直に聞いた要因ではある。


「あのー、ここの料理のレシピと言うのは?」


今度はブレイザーが聞いた、レストランをクビになったとは言えプロの料理人としてのプライドがある、なので料理人でさえないメイドに聞くような事は無いと思っているのだ。


「黙って言う事を聞きなさい、そうすれば貴方の料理の幅が広がるわよ」


「料理の幅ですか?わかりました、ではメアリさんとシェンムーさんでしたね、宜しくお願いします」


メアリとシェンムーはアメリアとユリアナから「カレー」や「唐揚げ」や「餃子」などこの世界には無い料理をかなり教えられている、ヨネ子はそれをブレイザーに教えたかったのだ。


因みにこの世界では氷河人以外まだ揚げ料理が開発されていない、なので食用油というものが無い。

しかし旧『デザートイーグル』は氷河で狩った「氷亀」と言う動物から採れる脂を使って揚げ料理を作っていた。


「あの、マーガレットさん。料理を教えるのは良いんですが、実は氷亀の脂が残り少ないんです。どうにか出来ますか?」


メアリが聞いてきた、最近は脂の在庫が少ない事で揚げ料理をあまり作っていなかったようだ。


「わかったわ、じゃあ後で狩って来るわね。他に何かいる物はある?」


「いえ、それだけで良いです」


「そう、ならエル、行きましょう」


そう言うとヨネ子はエルを伴って南東の魔物領域に向った、この世界に来て初めて魔物を狩った場所だ。


ヨネ子とエルはすぐに狩りを開始する、が、まずは最初にヨネ子が見本を見せた、エルにいきなり狩らせると素材を傷めると思ったからだ。

案の定エルはヨネ子の狩り方に感心していた、強さではなく素材を傷めない方法にだ。


その後は別々に狩りをする、そして1時間ちょっとで魔物領域を出て2人は合流した。

たった1時間でもヨネ子とエルは十分すぎる収穫をあげている、2人でSランクの魔物5頭、Aランクの魔物12頭狩っていた。

ヨネ子はこれからの旅の準備資金と路銀のために魔物を狩りに来たのだが、それにしてはやりすぎ感が半端ない。


何はともあれ合流した2人は今度は氷河に向った、氷亀は氷河の奥地に生息しているためセンデールとスノーサーベルタイガーの郷との中間地点に現れた、そして索敵魔法を使う。

ヨネ子は普通の動物以上の魔力なら索敵範囲を半径2キロほどまで広げても感知出来る、なので直ぐに氷亀は見つかった。


氷亀は普通少数の集団で行動する事が多い、今回も5頭の集団で見つけた。

その氷亀を全て捕まえると、すぐ側にムースの大群がいたので1頭狩ってからホームに帰った。


徒歩3日の距離にある魔物領域で狩りをしてから徒歩で一月以上かかる氷河に行き戻って来るまでたった半日、ゲートの魔法の便利さは驚異的だ。


「帰ったわよ」


「あ、お帰りなさい。早かったですね」


シェンムーが迎えてくれた。


「まあね、それよりこれ」


ヨネ子はそう言うと5頭の氷亀を収納から出した。


「5頭あるから私達は2頭持っていくわ」


「3頭ももらえるんですか?ありがとうございます」


「じゃあ私はギルドに素材を売りに行って来るから」


ヨネ子はそう言うと2頭の氷亀を収納に戻してホームを出た、もちろんエルも一緒にだ、そしてアスカも同行する。


ハンターギルドで素材を売却した後はまた訓練である、料理人を確保した今旅に出るのに最も必要な事はアスカの戦力引き上げだ。

アスカは現在でもAランクの魔物と同程度の強さを持っている、しかしそれだけではヨネ子達と共に戦うなど到底出来ない、だからこそヨネ子が付きっきりで特訓するのだ。


「じゃあ訓練に行くわよ」


ギルドで素材を売った後は3人で再び魔物領域の側にやって来た、今回エルはアスカの特訓を見守るだけだ。


「じゃあ今日は魔力の底上げを重点的にするわよ。先ず魔法で魔力を使い切りなさい」


そう言われたアスカは特大のアイスを作る、そしてそれを圧縮する、今のアスカが最も早く魔力を使い果たす方法だ。

そして当然魔力が枯渇して倒れる、はずがヨネ子がすかさず「マナチャージ」の魔法で魔力を最大まで回復したので倒れなかった。


ヨネ子はこれ用に植物の種をいくつも持っている、そして今日狩った素材の内Sランクの魔物の魔石5個だけは売らずに持っていた。


そしてそれを何度も何度も続ける、流石にアスカも披露困憊だが強くなるためには必要な事だと気合を入れて特訓を続けた。


この日はヨネ子の予定通りこれだけで終わった、それでも魔力量だけなら中級の平均的な所まで上げる事ができた、これでヨネ子が思った魔法を教える事が出来る。


「さあ、続きは明日よ」


ヨネ子がそう言うと全員でホームに帰った、そして向かうのはお風呂、やはり特訓後はこれに限る。


夕食はエレンとブレイザーの料理をいただく、流石にプロの料理人と比べられるのはエレンには酷だがそんな事を考えてやるほどヨネ子は優しく無い。


幸い総勢13人の食事である、流石に1人で作るのはキツいので味を比べられる事を考えなければ丁度良かったと言える。


ブレイザーは料理人として他のみんなと一緒に食事する事には抵抗があったようだが、そこはもう料理人では無いのだと諭して全員で食卓を囲んだ。


食後、いつものティータイム、ヨネ子はアスカを呼んだ。


「アスカ、今から貴方の牙に魔法陣を刻むからちょっといらっしゃい」


「魔法陣?良いわよ」


アスカは何の魔法の魔法陣か聞こうと思ったが止めた、ヨネ子の事を信頼しているからこそだ。


スノーサーベルタイガーを象徴する牙は純白で大きく立派だ、ヨネ子はそれに歯医者の使うドリルのような器具を使い魔法陣を刻む。

これはヨネ子が現代から持って来た道具の1つだ、この世界に来る前から収納魔法が使えたヨネ子は暗殺者に必要な装備は一通り収納魔法に入れている。

本来なら必要な道具はその都度準備するのだが、収納魔法が使えるようになった事から必要な時にすぐ必要な道具が取り出せるようにしていたのだ。

因みにこの道具は本来情報収集のための拷問用として持っていたものだ、それがなぜか本来の使い方に近い使われ方をしている、動力はもちろん電気だがそこはヨネ子のサンダーの魔法で供給している。


ヨネ子は右の牙に「移動」の魔法陣を刻んだ、ただしエルとの戦いで使った本来のものではなく簡易的な物だ。

そして左の牙には「収納」の魔法陣を刻んだ、手が使えないアスカには便利だからだ、更に使いこなせるようになれば「ゲート」も使えるようになる。


魔法陣はごく浅い溝で書かれた、そのため意識して見なければ魔法陣が刻んである事に気付くのは難しい、アスカの牙の美しさを損なわないヨネ子の腕と優しさだ。


翌朝、この日は朝からアスカの特訓をする、場所は前日に引き続き南東の魔物領域の側、ハンターが来なければ人目につかない訓練にはうってつけの場所だ。


ヨネ子は早速アスカを走らせる、ただし自分の身体のどこにどんな力が加わっているかを意識しながらだ。

これは身体強化の魔法を教える前段階だ、先ず身体のどこをどう強化すれば身体能力が上がるのか知らなければ効率よく使えないからだ。

因みに身体強化は魔法陣が無くても使えるようにするつもりだ、なので前日魔法陣を刻まなかった。


走り続けるアスカに「右」「左」「ストップ」「ダッシュ」「ジャンプ」などヨネ子が指示を出す、アスカはその指示通りに動きながら主に筋肉の動きを感じるように集中していた。


この動きを2時間ずっと続けた、人間なら10分でもへばりそうな動きなのでさすがスノーサーベルタイガーと言ったところだ。


一旦休憩としてヨネ子がアスカをよぶ、そしてアスカの身体を「診断」すると疲労を回復する魔法を使った。

この世界に疲労回復の魔法などというものはない、この世界の人間にとって疲労はどうして起こるかなど知る者は居ないからだ、原因がわからなければ手の施し用は無い。

それに対しヨネ子はMD資格を持つ医師でもあるのだ疲労の原因など当然のように知っている、だからこそヨネ子だけは疲労回復の魔法が使えるのだ。


「どう?身体のどの部分をどう使って動いているのかわかった?」


「ええ、まだなんとなくですが」


ヨネ子の質問に自信なさげに答えるアスカ、言葉通り何となくしかわかっていないのではない、わかってはいるがそれが本当にヨネ子が知って欲しいと思っていることか自信がないのだ。

しかしアスカのそんな思いはヨネ子にもわかっていた、なので次の段階に進む。


「それで良いわ。次は動く時に動く場所を魔力で強化するイメージをしなさい」


「魔力で強化ですか?わかりました、やってみます」


疲労は既に回復しているので早速身体強化をイメージしながら走ってみる、流石に慣れないせいかさっきより遅くなった。

悪戦苦闘しながらもアスカは身体強化を使い続ける、そして遂に・・・・・倒れた、魔力が尽きたのだ。


ヨネ子は倒れたアスカの元に行き「マナチャージ」を使う、そしてアスカを起こすと再び走るように命令した。


そしてようやく最初より早く走れるようになると再びヨネ子の指示が始まった、しかしコツを覚えたアスカはヨネ子の指示を適確にこなしながらスピードを上げていく。


ヨネ子はここで一旦休憩を挟み、再び疲労を回復して昼まで同じ訓練を続けた、お陰で昼食の頃には身体強化の魔法を完全に習得していた。


一旦昼食をとって昼からはいよいよ本格的な魔法の訓練に入る。


「これから教えるのは右の牙の魔法で「移動」よ」


「それってどんな魔法ですか?」


ヨネ子とエルが戦っていた時ヨネ子はエルに空を飛んでいるのは「移動」の魔法だと言っていた、その戦いはアスカも見ていた、しかしその時は2人の言葉がわからなかったので「移動」と聞いてもどんな魔法かわからなかったのだ。


「エルと戦った時に空を飛んでいたでしょ、あれよ」


「ああ。じゃあ私も空を飛べるようになるんですか?」


「いえ、貴方の牙に書いたのはその簡易版よ。だから飛べるようにはならないけど空中を走ることは出来るわよ」


「そうなんですか?それでも嬉しいです。それでどうやるんですか?」


「先ずこの魔法だけど、これは空間を切り取る魔法なの。空間と空間が切り離される事でそこに足場が作られるのよ」


ヨネ子はそう言うと実際にやってみせる、アスカの目の前で空間の足場を作りそこに乗ってみせたのだ。


それを見てアスカも魔法を使おうとするが上手くいかない、流石にこれはこの世界に無い概念の魔法なので普通の魔法使いでも難しい、なのでそうそう出来るようにはならない。


「これは難しいですね」


「そうでも無いわよ、貴方は普段から同じような魔法を使っているんだから」


「えっ?どう言う事ですか?」


「貴方が使っているトイレよ。あれは亜空間の空間を同じように切り取って持ち歩いているのよ。それを亜空間ではなく現実の空間で使えば良いのよ」


「えっ?そうなんですか?でも私にはまだ良くわかりません」


「だったらそこでジャンプしながらトイレに行ってみなさい。イメージがし易くなるはずよ」


そう言われたアスカは直ぐに実行する。


「こうですか?」


ジャンプしながらトイレに入ったアスカは驚いた、自分が地上50センチくらいの場所に浮いていたからだ、そして直ぐに戻った。


そこにヨネ子が声をかける。


「わかった?それが空間を切り取るってことよ。しっかりイメージ出来るまで何度でもトイレに入ってみなさい」


「はい、わかりました」


アスカは何度も何度もトイレに入った、そしてようやくイメージの自信が付いたところで「移動」の魔法を発動した。


結果は・・・成功した、元々魔法陣の補助があることで出来やすかったのだ、しっかりとイメージができるようになった今使えない方がおかしい。

ともあれそれからは上空に向けて駆け上がったり駆け下りたりとさっきまで苦労していたとは思えないほど使いこなした。


その後は一旦休憩すると収納魔法の訓練に入る、とは言えこれはさほど難しい事はない、収納のイメージはつきやすいので魔力量さえ足りていえば問題無く使える、訓練するのはその使い方だ。


特に別々に収納した物は別々に取り出せるが、一度に大量の物を入れるとその一部を取り出すのは難しいのだ、尤もヨネ子やエレンほど使い慣れれば苦もなくこなすが。


ヨネ子がアスカにこの訓練をするのは1人でも買い物等が出来るようにするためだ、せっかくハンターになったのだから1人で依頼の受注から精算までできるようにもしたかった。

荷物を受け取ったり渡したりはさほど問題では無い、問題はお金の精算だ。

お金は収納の同じ場所にまとめて保管する物だ、なのでそこから必要な金額だけ取り出すのに訓練がいる。


最初はやはり必要額だけを取り出す事は出来なかった、それでも訓練を重ねる内に出来るようになった。

更にこの日のうちに「ゲート」も使えるようになった、アスカの成長は著しい。


ヨネ子はアスカの想定以上の成果にご満悦でホームへと帰って行った。

エルは今日はほとんど何もしていないがそれでも満足している、ヨネ子の教え方が興味深かったからだ。

アスカも成長を実感してホームへと帰った、早速自分で「ゲート」を使って。


「お帰りなさい。あら、アスカももう「ゲート」が使えるようになったの?凄いわね」


ホームではエレンが感心しながら迎えてくれた、そこへヨネ子が声をかける。


「エレン、明日からアスカに計算を教えてあげて」


「そうですね、わかりました」


次は身体では無く頭を使う特訓がアスカを待っているようだ。


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