013 パーティー結成
「ただいま」
自分達のホームでは無いが、既に自分の実家のような感覚のエレンは『デザートイーグル』のホームの玄関を開けるとそう言い放った。
「あっ!エレンさんお帰りなさい」
メアリもそれが当たり前のように返した、ファティマから帰るまでずっと一緒に過ごして来たので同じように感じているのだろう。
「またお邪魔するわよ」
「マーガレットさんも、いらっしゃいませ」
続いて入ってきたヨネ子には流石にお客さんとして挨拶した、しかし冷静でいられたのはここまでだった。
「こんにちわ」
「!?あ、あのマーガレットさんは双子だったんですか?」
エルの出現には慌ててしまい、挨拶も忘れて質問してしまった。
「確かに双子だけど流一とよ。エルはまあ友達ね」
「あっ、エルさんとおっしゃるんですね。いらっしゃいませ」
何とか持ち直した、しかし更なる驚愕には耐えられなかった。
「こんにちは。私はアスカです」
「キャーーーーー!」
ドシーン
アスカの登場には悲鳴を上げて尻餅をつき倒れてしまった、『デザートイーグル』のメンバーならそんな事は無いのだろうが魔物や凶暴な動物を見る事が殆どない者にスノーサーベルタイガーの姿は恐怖を覚えるのだ。
しかもそれが自分達の言葉を喋ったことで二重に驚いた。
「メアリ、しっかりしなさい。アスカも私達の仲間よ」
「は、はい、すいませんでした。改めてアスカさんもようこそいらっしゃいました」
ヨネ子に声をかけられた事で落ち着きを取り戻したメアリは、気を取り直してアスカにも挨拶した。
ドタドタドタドタ
「「!?!?」」
そして慌ただしく玄関にやって来た人物が2人、厩番のマルコとメイドで妖精のシェンムーだ。
2人はメアリの悲鳴に驚いてやって来たのだ、そして同じようにヨネ子そっくりのエルとスノーサーベルタイガーのアスカを見て固まった。
2人は悲鳴こそあげなかったが動揺はしていた、なので普通ならメアリの無事を確認する所だがそれもせずにヨネ子達を見ていた、特にアスカを。
「そろそろリビングに移動しましょ」
しばし固まったマルコとシェンムーを無視するようにエレンが言った、なんだか少しヨネ子に感化されて来たような気がする。
そしてサッサとリビングに向かった、ヨネ子もその後に続いてリビングに向かった。
「あっ、そうですね。エルさんアスカさんこちらです」
エレンの言葉を受けてメアリがエルとアスカを案内しようと思ったが既にエレンとヨネ子の後を追っていた、人間なら初めて訪れた家では勝手に奥に行ったりしないのだがエルとアスカは人間では無いのでそんな事は無かった。
「マルコ、仕事に戻って良いわよ。シェンムーは紅茶の用意をお願い」
メアリは未だ固まったままだったマルコとシェンムーに指示を出してリビングに向かった。
リビングでは既に3人はソファーに座り寛いでいる、アスカもヨネ子の隣で横になって寛いでいた。
「あのー、今皆さんのお茶を用意しているのですがアスカさんはどうしたら良いでしょうか?」
流石にメイド歴の長いメアリも人間以外を相手にした事は無い、なので素直に聞いた。
「そうね、ミルクがあるならそれをお皿に入れて出して。無ければ水でも良いわよ」
「わかりました。丁度ヤギのミルクがあるのでそれをお出しします」
メアリはそう言うとキッチンに向かった、そして直ぐにシェンムーと2人で3人分の紅茶とアスカ用のミルクを用意した。
「他のみんなはどうしたの?」
ヨネ子が2人に聞いた、それに対してメアリが答える。
「今仕事に行っています。でも何も聞いていませんので夜には帰ってくると思います」
メアリは『デザートイーグル』が依頼を受けているのか受けずに常時依頼をこなしているのかわからないので仕事と答えた、全員真面目なのでサボって遊んでいたりはしないだろうとの予測の元で。
「そう、なら私達は一服したらハンターギルドに行ってくるわ。夜には戻ってくるから夕飯は全員分お願いね。アスカの分は焼いた肉で良いから」
「「かしこまりました」」
ヨネ子の指示をメアリとシェンムーの2人は姿勢を正して受けた、そしてそれぞれの仕事へと戻って行った。
しばらくお茶を飲んで寛いだ後ヨネ子達は予定通りハンターギルドへと向かった、ここはゲートなど使わず歩いてだ。
そのせいで街中ではボレアース同様街の人達の悲鳴をBGMにハンターギルドへと乗り込む形になった、もちろん悲鳴の原因はアスカだ。
時間は昼過ぎ、ハンターギルドが最も暇な時間だった事もあり受付は空いていた。
「ギルマスはいる?」
ヨネ子は挨拶もそこそこにギルドマスターのパチェックを呼ぶように言った。
「はい。直ぐに呼んで参ります」
受付嬢はヨネ子に言われると直ぐにギルドマスター室へと向かった、普通ならギルドタグを確認して用件を聞いてから取り継ぐかどうか検討するのだが、ヨネ子とエレンはギルドでは既にかなりの有名人と言う事とアスカが一緒にいる事で確認の必要が無いと判断したからだ。
それからあまり待たずに受付嬢が戻ってくると、直ぐにギルドマスター室へと案内された。
「今日は何だ?」
パチェックは3人がソファーに掛けたのを確認するとそう切り出した、ヨネ子そっくりの人間とスノーサーベルタイガーを伴っているのだ、普通の用事の訳がないと思っている。
因みにパチェックは受付嬢に聞いていてさえも顔には出さないが少し動揺していた、エルが余りにもヨネ子そっくりだったからだ、姿形だけなら良いが戦闘力も同じなら脅威なので仕方ない。
「今日はとはご挨拶ね。前回は貴方の方が私達を呼んだんでしょ」
ヨネ子は軽く言い返した、これから話し合いを始めるので主導権を取るためだ。
「ああ、そう言えばそうだったな、すまん」
パチェックも交渉ごとには慣れている、なのでそこは軽く受け流した、しかしこれから顔には出ていなっかた動揺が顔どころか態度にさえ現れる動揺へと変わるようになる。
「まあ良いわ。今日来た目的はまたハンター登録をして欲しくてよ」
ヨネ子はエルの身分証明を作りに来たのだ、それが無ければこの世界では不便が多くなるからだ。
「そこのお前さんそっくりな姉さんのか?」
パチェックはエルの方を見ながら聞いた。
「そうよ、名前はエル」
しかしパチェックもそうそうギルドマスター権限を使う事は出来ない、なので二つ返事で了承とはいかない。
「お前達ハンター登録の方法は知ってるよな、お前さんの登録はSランクの魔物を倒した事によるサービスだ、そうそう出来るものじゃない」
パチェックは一般論で断って来た、しかしそれが通用するほどヨネ子は甘くない。
「サービスね。本当にサービスだったの?」
「何だ?もちろんサービスに決まっているじゃないか」
パチェックは内心動揺していた、本当はサービスではなかったからだ。
ヨネ子は返事がパチェックの性格上「当然だろ」等一言で終わるところがそうで無かった事で動揺したのを見抜いた、なので攻撃に移る。
「エルは私と同等の力を持ってるわよ。それでも良いのね」
「・・お前ほどの力を持つものがそうそう居てたまるか」
一瞬の沈黙はあったが何とか動揺を誤魔化した、尤もパチェックがそう思っているだけで誤魔化せてはいないが。
「そう、ならこのまま貴方達の前から消えても問題無い訳ね。どこかの戦場で傭兵になっててもその相手がこの国や貴方達でも」
「ななな、何の話かなー。そ、そんな事・・・」
流石にこの脅しには動揺を隠しきれなくなった、そして最後は言い淀んだ。
ヨネ子はそこへダメ押しをする。
「私には鈴を付けたのにエルには付けなくて良いの?まあ困るのは私達じゃ無いけどね」
それを聞いたパチェックは驚いた、隠していたつもりだったがヨネ子のハンター登録が動向を把握する為だとバレていたからだ。
「し、知っていたのか?」
「ハンターギルドがサービスでハンター登録する様な甘い組織のわけないのは知ってるわ。ならそれが必要な訳が有るって思うでしょ?普通」
パチェックは流石に諦めた、何より本当にヨネ子の言う通り同等の力があるならエルのハンター登録も義務だからだ。
「わかった。エルとか言ったな、Cランクのハンターとして登録しよう」
パチェックはしぶしぶハンター登録に同意した、が、本当の動揺はこの後起こる。
「ついでにこの子もハンター登録して頂戴。名前はアスカ、よろしくね」
ヨネ子はアスカもハンターにするつもりだ。
アスカは見た目通りスノーサーベルタイガーなので何もしなくてもテイムした動物もしくは魔物で通る、しかしヨネ子からすればアスカは仲間であってペットでは無い、なのでそれをアスカ自身にもわからせるためハンター登録したいのだ。
しかしそれを聞いたパチェックはまたもや「うん」とは言わない、流石に人間どころか亜人でさえない動物をハンター登録するなどあり得なかったからだ。
「な、いくらなんでもそれは無理だ。戦闘力も分からなければ亜人でさえない動物なんて・・・動物でいいんだよな?」
パチェックが聞いたのは普通ハンターがテイムするのは魔物だからだ、しかしアスカには魔物の特徴で有る赤い目や大きくなった牙や爪が見られなかったからだ。
氷河人がスノーサーベルタイガーを魔物と思ったのは最初に戦闘で強さを実感したからであって事情が違う。
「戦闘力ならSランクの魔物相当よ。さあアスカ、貴方も何か言いなさい」
「私の名前はアスカ、マーガレットさん達とハンターになりたいの、よろしくお願いします」
ヨネ子に催促されアスカは自らパチェックにお願いした。
「うわー!何だ、誰だ、今話したのは」
流石にアスカが喋るとこれまで以上に驚いた、最早動揺などと言うレベルではない。
「そこまで驚く事はないでしょう?ハンター登録しようって言うんですもの喋れなくてどうするんですか」
パチェックに突っ込みを入れたのはエルだ、ただ言葉とは裏腹にこの状況を楽しんでいる。
「そうですよパチェックさん。私からもお願いします、アスカもハンターとして登録して下さい」
エレンもパチェックにお願いした、こちらはいたって冷静だ。
何せ一緒にいるのは異世界人と亜神と知能を持ったスノーサーベルタイガーなのだ、唯一のまともな人間としてパチェックの気持ちもわからないでは無いので冷静にならざるを得ない。
パチェックはもうどうでも良くなった、なのでもう何も言わずアスカのハンター登録も了承した。
この数十分でパチェックは疲労困憊したのだ、主に精神的に。
それでも何とか仕事をこなす、ギルドマスターとしての矜恃がパチェックを動かす。
「わかった、それで、パーティーも組むんだろう?パーティー名はどうする?」
「パーティー名はどうする?」
ヨネ子は仲間に聞いた、パーティーを組む事を考えていなかったわけではない、ただ全て自分が決めるより相談した方がいいだろうと思ったのだ。
「『白金神龍』なんてどう?リーダーはマーガレットさんだけど」
エレンが軽口を叩く、が本人は割と本気だ。
「それ本気?まあ確かに私達にしか名乗れないパーティー名だけど」
ヨネ子が呆れて聞いた、しかし反対しているわけでもない。
「全員女性だから『ディーバ』とか?」
今度はエルが提案した。
「女神ねー、それも含みのある名前ね。アスカは何かある?」
「私はエレンさんの言った『白金神龍』が良いです」
アスカ的には自分達の神であり同行している主人(とアスカは思っている)であるエルの名前を戴けるのは名誉な事なのだ、なのでエレンの意見に賛成した。
「何だか固いイメージの名前だけどまあ良いわ、『白金神龍』に決めましょう」
ヨネ子的にはハンター登録さえ出来ればよかったのだ、なのでパーティー名は3人の多数決そのままに決める事にした。
「ではパーティー名は『白金神龍』でお願いします」
ヨネ子はそう言うと自分のギルドタグをパチェックに渡した、エレンもそれに続き自分のギルドタグをパチェックに渡した。
「ああ、わかった」
そう答えるとパチェックは足取り重くギルドマスター室を出て行く、2人分のギルドタグの作成とパーティー登録をしに行ったのだ。
パチェックはしばらく帰って来なかった、ヨネ子達の相手はそれほど大変なので仕方ない。
ただパチェックも単にヨネ子達の相手をするのが辛くて戻ってこなかったわけでは無かった。
ヨネ子と瓜二つのエルやアスカについて職員全員とたまたまその場にいたハンターに説明していたのだ、特に人間でも亜人でも無いアスカがハンターとなる事や喋れる事などをだ。
ギルドタグの作成とパーティー登録が終わるとパチェックはそれを持ってギルドマスター室に戻った、そしてそれを代表してヨネ子に全て渡した。
「もうこんな事はこれっきりにしてくれよ」
「出来ればそうするわ」
ヨネ子は暗に「また来るかもしれないわよ」と言い置きしてギルドマスター室を出た。
パチェックはギルドマスターをしているだけに馬鹿では無い、なのでヨネ子の返事の意味がわかり更に疲れが襲って来た。
そして一言。
「もう勘弁してくれ」
ただこの言葉を聞く者は誰もいなかった。
ヨネ子達がハンターギルドを出ようとするとその前にハンターから声をかけられた。
「あんたらのパーティー名『白金神龍』だって?最強の神龍の1体をパーティー名にするなんて大それた奴らだな」
「貴方は?」
「おれはBランクパーティー『黒い嵐』のリーダーブロスだ」
今ここにいるギルド職員やハンターはヨネ子達の事はパチェックから聞いたので驚いたり絡んだりはしない、しかしパチェックがそれほど気を使う者達として興味があったので声をかけたのだ。
「そう。私達のパーティー名は本人に了承を得てるわよ」
ヨネ子はエルが神龍だと教えるつもりはない、しかし嘘や言い訳めいた事を言うのも良しとはしないのでこう言った。
「は?本人の了承?まあいい。これからハンター仲間としてよろしくな」
ブロスは意味がわからなかったが、取り敢えず興味があったから声を掛けただけだったのでそこはスルーして挨拶だけに留めた。
「ええ、こちらこそよろしく」
ヨネ子も挨拶だけ済ませると『デザートイーグル』のホームへと帰って行った。




