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011 氷河人の街へ

〔そんな事が可能でしょうか?〕


スノーサーベルタイガーの出産のために人間達の土地を借りる、普通に考えれば無理がある。

何せつい最近お互いに殺し合った仲なのだ、双方それなりに犠牲を出している、その感情的シコリはそう簡単に無くなるとは思えない。


それを踏まえた上でのギロンの質問である、スノーサーベルタイガーの方の犠牲は全てヨネ子の活躍なのでこの場でわだかまりは払拭出来る、しかし氷河人の犠牲はそういうわけには行かない。


〔私が認めさせるわ。そもそもお互いコミュニケーションが取れないから戦いになるのよ、それくらい解決してあげるわ〕


〔とりあえずマーガレットに任せてみたらどう?〕


ギロンにそう言ったのはエルだ、エルとしてもヨネ子と共に行くなら今まで神として守ってきたスノーサーベルタイガー達の問題は片付けておきたい、だからこその提案だ。


〔わかりました、ではお願いします〕


ギロンも神である神龍から言われれば嫌とは言えない、まだ不安はあるがマーガレットに任せる事にした。


〔では取り敢えず人間と交渉する者を選んで頂戴〕


〔それなら郷長である私と補佐役としてガイル、サランの2頭が向かいます〕


ギロンがそう言うと、群れの中からガイルとサランと思われるスノーサーベルタイガーがギロンの横へと進み出た。


〔ではこれから向かうわよ〕


ヨネ子はそう言うとセンデールにゲートを繋げた。


〔エレン、最初に行きなさい〕


エレンから先に行かせたのはセンデールで余計な騒動を起こさないようにだ、街の近郊ではなく街の中に直接ゲートを繋いだから。

そしてエレン、エル、ギロン、ガイル、サランとゲートを潜り最後にヨネ子が潜った。


〔なっ!ここは人間とか言う者の郷なのか?い、いや、それより我らの郷からここまで一瞬で着いてしまったぞ。これも魔法なのか?〕


ギロンはかなり驚き動揺している、ガイルとサランも声こそ出していないが同じように驚いている。


それに対してエルは驚きより感動していた、ヨネ子の知恵と知識をもっと知りたいと思いついて行くと決めた直後に初めての魔法を体験したのだ、自分の判断は間違っていなかったと喜んでいる。


〔そうよ、ここは貴方達の郷から1番近い人間の街センデール。使ったのはゲートと言う魔法よ〕


ヨネ子はギロンに説明した、もちろんガイルとサランに対してもだ。


流石にいきなり街中に魔法陣が現れ3人の女性と3体のスノーサーベルタイガーが現れたのだ、余計な騒動を起こすつもりは無かったが街の中はプチパニック状態に陥った。


そしてこの状況の知らせを受けて真っ先にやって来るのは素材ギルドのギルドマスターだ、なのでヨネ子達はその場でグレッグがやって来るのを待った。

センデールではスノーサーベルタイガー対策本部と宿しか行っておらず、素材ギルドに行った事が無かったので場所が直ぐにはわからなかったからと言うこともある。


一応ヨネ子とエレンの事を覚えていた人もいたのでパニックは直ぐに治まったが、近付いてくる者はおらず遠巻きに3人と3頭を囲んでいた。


そして暫くするとヨネ子の予想通りグレッグが人混みを掻き分けやって来た。


「お前、今度は何をやった?」


別にヨネ子的にはセンデールでは何もやっていないのだが、グレッグとしては怪我人の治療をしたりスノーサーベルタイガーを追い払ったりと規格外の力を見せつけられた事で「予想外の事をするやつ」と思われている。


「まだ何もしていないわよ」


グレッグは「まだ」って今度は何をするつもりだ?と訝しんだ、ヨネ子の側に3頭のスノーサーベルタイガーが控えているのだから当然だろう。

更にヨネ子と瓜二つの人間が増えているのだ、訝しまない方がどうかしている。


「取り敢えず宝石屋に連れて行って頂戴。それからこの街の代表者も集めておいて」


「わかった」


グレッグは一言だけ言って全員を宝石屋へと案内した。


「マーガレット、宝石屋に行って何をするの?」


宝石屋への道中エルが聞いてきた。


「『超言語』の指輪を作るのよ。先ずは人間とスノーサーベルタイガーで話しが出来るようにね」


「ああ、コミュニケーションが取れるようにするって言ってたやつね」


エルには全ての生物の言葉が理解できる、それどころか多少感情的な物を持つ生き物ならその感情も読み取れる、亜神でも使える数少ない神力の1つだ。

それだけにそれぞれの言葉の壁と言うものに鈍感ではあったが、マーガレットといる事でそれが重要な事だと気付いた。


そうこうしているうちに宝石屋に着いた、宝石屋と言えば顧客はお金持ちが多いため店の外観も内装も豪華な事が多いが、センデールの宝石屋もご多分に漏れず随分立派だ。


「ここが俺のお勧めの宝石屋だ。俺は街の代表者を集めてくるから用事が早く終わってもここで待っててくれ」


「わかったわ」


グレッグはヨネ子の返事を聞くや否や足早にその場を離れた。


ヨネ子達は早速宝石屋に入った、流石に女性3人は別にしてスノーサーベルタイガー3頭には従業員も驚いた、それでも悲鳴を上げなかったのは立派だと言える。

その中で店長と思われる人がビクビクしながらではあるが近付いてきた。


「い、い、いらっしゃいませ。本じ日はどどどどのような御用向きでごございましょうか」


震え声で先頭にいるヨネ子に挨拶した。


「至急魔法陣を刻んだ指輪を作って欲しいんだけど」


「わ、わかり、まま、ました。あちらでででお伺いい、致します」


どうもこのままでは話がしにくくてたまらない、なのでヨネ子は1人で商談する事にした。


「じゃあ、私は商談に行くから貴方達は適当に店内を見ていなさい」


「わかったわ」

「わかりました」


エルとエレンはそう言うとスノーサーベルタイガーを連れて店内を物色しだした、店長以外の従業員はそれを何も言えず見守っている、というより恐怖でその場を一歩も動けなくなっていると言う方が正しい。


そしてヨネ子は店長に付いて店の奥にある小部屋に行き商談を開始する、が、その前にする事があった。


「ちょっと待ってて」


ヨネ子はそう言うとテーブルに紙と定規とコンパスを出した、そう指輪に刻んでもらう魔法陣を書き出したのだ、そもそもそれが無ければ作ってもらいようがない。

魔法陣はほんの10分もせず書き上がった、旧『デザートイーグル』用に1度作った物なので慣れたものだ。


「この魔法陣を刻んだ指輪を作って頂戴」


ヨネ子は書き上がった魔法陣の紙を店長に渡しながら言った。


「わかりました、それでは素材と数量はどう致しますか?」


「素材はプラチナで。数はそうね、これでいくつ作れるかしら?」


ヨネ子はボレアースでもらったスノーサーベルタイガーの討伐報酬を全額出して聞いた。


「これだけありますと・・・そうですね、30個ほどは作れるかと」


「そう、なら21個お願いするわ。それで、どれくらいで出来る?」


ヨネ子としてはセンデールの街に20個用意するつもりだ、そして残りの1個はエレン用、電池が切れれば使えなくなるのでいつまでも流一のスマホを使わせるわけにはいかない。


「至急でしたね・・・・・3時間ほど頂ければ十分で御座います」


「わかったわ、では3時間後に出直します」


ヨネ子はそう言うと全員を連れて宝石屋を出た。


宝石屋を出たヨネ子一行はゲートを使ってスノーサーベルタイガーの郷方面の氷河と土の土地の境界辺りにやって来た、周辺の土地がスノーサーベルタイガーの出産に適しているかどうか確かめるためだ。


氷河人は少ない土の土地を効率よく使うため空き地と呼べるスペースは少ない、しかし氷河との境界近辺は地熱が低い位置までしか届かないため農作物の出来が悪い、そのためここなら空き地は多いのだ。


そしてスノーサーベルタイガーにとっては低い位置まででも地熱が有れば出産には都合が良い、それを見越したヨネ子の提案だったが、あくまでヨネ子の案だけであった。

なので実際に使うスノーサーベルタイガーに有効性や使い勝手を確認してもらうためにやって来たのだ。


〔どう?ここなら出産に適しているんじゃない?〕


ヨネ子はギロンに聞いた、それを受けてギロンはガイルとサランを連れ周辺の確認を始めた。


暫くして3頭が何やら相談を始めた、そしてヨネ子の元にやって来た。


〔マーガレットさん、確かにここは素晴らしい場所ですが出来れば風も凌げる場所が良いのですが〕


ギロンは申し訳なさそうにヨネ子に伝えた、確かにこの場所には雪はともかく風を凌げる場所が無い。

そもそも氷河人は土の土地全部を利用するつもりで開墾していたので氷河との境界とは言っても綺麗に整地されている、空き地になっているのは整地した後に畑としては使えないとわかったからだ。

それにスノーサーベルタイガーには土地をどうこうする能力が無い、有れば元々いた土地に出産場所を作っている。


〔それはこれからの貴方達の交渉次第ね〕


〔〔〔???〕〕〕


ギロンとガイルとサランは揃って頭に疑問符を浮かべた、自分達は土地の確認のために来ただけで交渉はヨネ子がすると思っていたからだ。

何より3頭はまだ自分達が人間と話が出来る様になるとは思っていない、『超言語』の指輪を作る話は人間の言葉で交わされていたので3頭には理解出来なかったのだ。


〔ど、どう言う事ですか?〕


3頭を代表してギロンが聞いた。


〔さっきの店には貴方達と人間が話せるようになる魔道具を作りに行ったのよ。それが出来上がったら貴方達が直接人間と交渉するのよ〕


〔しかし、交渉と言ってもどうすれば?そもそもここでは風を凌げる場所がありませんが〕


スノーサーベルタイガーには今まで自然の物に手を加えるという発想が無かった、なので人間の街を見てもまだ「土地を自分達に都合よく改良する」と言う発想にはたどり着いていなかった。


〔だからそれを交渉するのよ。人間に穴なり壁なりを作ってもらいなさい。氷河で狩った動物や魔物を報酬にしてね〕


〔なるほどー〕


ギロンはようやくヨネ子の真意を理解した、これなら必要になった分だけ人間を雇って出産のための巣作りが出来ると言う事を。


その後暫くどんな巣が良いかエレンの魔法で試行錯誤した、アースウォールやアースピットで色々な深さの穴や高さの壁を作って使い勝手を検証してみる。


結局半径1メートルの円形で、深さ20センチのすり鉢状の穴を作り周りを高さ50センチの壁で囲う巣が最も3頭の評価が高かった。

氷河では雪ばかりで雨が降らないからこそ出来る巣だ、雨の降る地なら穴に水が溜まらないよう屋根も付けなければならない。


それに対しヨネ子は更に改良を勧める、穴の深さを30センチまで深くして人間から麦藁をもらって敷く事を提案したのだ。

これにはギロンもガイルもサランも大賛成だ、作ってもらう巣はこれで完成した。


そろそろ時間も良くなって来たので街に帰ることにした、今度はエレンのゲートで宝石屋の建物の前に移動する、エレンがゲートを使った事に他意は無いまあ「腕が鈍らないように」程度の気持ちだ。


全員で宝石屋に入ると直ぐに奥の部屋まで案内された。


「おう、待ってたぜ」


声をかけて来たのはグレッグだ、街の代表を集めたのでヨネ子達を呼びに来たのだ。


「そう、チョット待ってて。それで指輪は?」


ヨネ子はグレッグに待つように言うと早速指輪を要求した。


「はい、これで御座います」


店長がそう言うと、扉の向こうから21個の指輪が乗ったトレーを持った従業員がやって来てテーブルの上に置いた。

ヨネ子はそれをサッと確認した、ヨネ子にとって指輪の確認などその程度で十分なのだ。


そしてその1つを手に取ると『超言語』のイメージを流した、その指輪はエレンに渡す。


「エレン、スマホは収納に仕舞ってこれを使いなさい」


「えっ?これは私の分だったんですか?」


「そうよ、スマホだと電池が切れると使えなくなるからね」


「ありがとうございます」


エレンは嬉しそうに指輪を受け取ると早速指に嵌めてスマホは言われた通り収納に仕舞った。


それを確認するとヨネ子は残りの20個にも『超言語』のイメージを流した、全ての作業が終了すると代金を支払って宝石屋を後にする。


次にグレッグの案内で素材ギルドに向かった、街の代表者はそこに集まっているらしい、召集が急だったのでグレッグに権限のある素材ギルドの会議室を使うようにしたからと言う事だ。

それに宝石屋からは街の議会堂や集会所より素材ギルドの方が近かったと言う事も理由の1つだ。


氷河人の街は街ごとに首長が居て治めている、そして政治は50人の長老と呼ばれるその街の年長者達が取り仕切っている、日本の公務員で言えば部長クラス以上だと思えば良いだろう。

普通の国には居る大臣のようなポストもその長老達が担っている、なので名目上大臣に当たる役職の者は居ない。


その内素材ギルドに集まっていたのは、首長こそ居ないが実質的な大臣クラスの長老が5人、商業ギルドと工業ギルドのギルドマスター、ギルドでは無いが農業関連の団体の代表1名と豪華な顔ぶれだ。


その8人に素材ギルドのギルドマスターグレッグが加わった9人が街の代表だ。


「では皆さん、この指輪を嵌めて魔力を流しながら話してください」


ヨネ子はそ言うと9人全員に『超言語』の指輪を渡した。


「ではこれより氷河人とスノーサーベルタイガーの交渉を始めます」


ヨネ子の宣言により会議が開始された。


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