第七話
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ヴィオレッタは、昼食にはロアムも共にするとの連絡を受けて、鏡の前でにこりと笑みを浮かべた。
「ふふふ。アンナ。もしロアム様がバッセン様の恋人である場合でも私は負けなくってよ!」
その勘違いも甚だしい言葉に、アンナは冷静に髪の毛を結いながら言った。
「そうですね、負けないと思います、ですがお嬢様、根本的に、おそらくロアン様はバッセン様の恋人ではありませんよ?」
「あら、どうして?」
「ロアム様と言えば、バッセン様の右腕ですが、美しすぎる砦の守護者とも有名です。女性との浮名も数知れず。こちらへと来る前に調べは付けてあります。」
「あら、そうなの?」
「はい。男所帯へと入る故に、ちゃんとお嬢様の害となるかもしれない殿方については調べてあります。」
「さすがねアンナ。じゃあ、恋人説は薄いかしら。ふふ。なら、頑張ってバッセン様の右腕であるロアム様にも好印象を残して、恋を応援してもらわなければならないわね。」
にこにこと楽しそうに言うその姿に、アンナは首を横に振った。
「お嬢様。お嬢様は美しすぎるのですから、ロアム様に好印象を残しては、いらぬ諍いの種が生まれるやもしれません。あくまでも、バッセン様を優先なさるべきです。」
アンナの言葉にヴィオレッタは少し考えると頷いた。
「そう・・・・ね。バッセン様、すぐに勘違いされそうですものね。」
「はい。出来ました。今日も大変お美しいですよ。」
アンナに仕上げてもらい鏡に映るのは、妖精姫と呼ばれるヴィオレッタ。
ヴィオレッタは嬉しげに微笑みを浮かべると、アンナと視線を合わせて言った。
「アンナが傍にいてくれる私は幸せ者ね。」
アンナもにっこりと笑みを浮かべると、ヴィオレッタがあらぬ方向へと行きそうになった時には全力で軌道修正するのが自分の役目の一つでもあるなと内心思っていた。
昼食へと向かったヴィオレッタは、少しでもバッセンとの距離を縮めるぞと意気込み、会場の扉を開けた。
すると中にはすでにバッセンと、ロアムの姿が見えた。ロアムはこちらの姿が見えると一瞬驚いたような表情を浮かべたがすぐにそれを戻し、立ち上がると一礼をした。
なるほど。美しすぎる守護者と言われるだけあって、ロアムの外見は大層整っていた。
身長はバッセンよりは頭一つ分ほど低いが、その肢体はすらりとしている。銀色の長い髪を後ろの低い位置で結び、柔らかな笑みを携える姿は、砦の守護神と言うよりも、女神の方が似合いそうだなとヴィオレッタは内心思った。
それ故に、バッセンの恋人説がまた内心で浮上した。
バッセンはいつもよりも表情が硬いが、ロアムを紹介しないわけにはいかないとため息をついて言った。
「ヴィオレッタ嬢。これは俺の部下のロアム。ロアム、その・・・俺の現段階では婚約者扱いとなっているヴィオレッタ嬢だ。」
「お初にお目にかかります。この度、バッセン様と結婚する予定となっております、ヴィオレッタ・バレンタインと申します。」
嫁だと言えないのが口惜しい。
だが、現段階とはいえ、バッセンが婚約者として紹介してくれて顔がにやけそうになった。
ロアムはにこりと笑みを深めると、ヴィオレッタの前へと進み出て言った。
「ご丁寧にありがとうございます。私はロアム・ハウワーと申します。噂とは信じれないものですね。ヴィオレッタ嬢は妖精などよりもはるかに美しい。」
「まぁ、お上手ですわね。」
「いえいえ、真実ですよ。」
そう言うと、ロアムはヴィオレッタの手を取り、その甲へと口づけを落とそうとしたのだが、次の瞬間恐ろしい殺気が放たれて思わず身を固めた。
バッセンは鋭い眼光でロアムを睨みつけると、ヴィオレッタの手を取っていた腕を掴み、無理やりにロアムを椅子へと座らせ、自身も座った。
突然の事にヴィオレッタは驚いたものの、二人が席に着いたのであれば自分も席に着くべきだと、椅子に腰かけた。
ロアムは、こちらに殺気のこもった眼光を向けてくるバッセンに、内心苦笑を浮かべていた。
ヴィオレッタが自分が想像していたよりも美しい女性であったことにロアムは驚き、それと同時に少しばかり心配になっていた。
これほどまでに美しい女性である。
現段階でヴィオレッタはバッセンの婚約者としてこの場にいるが、婚約破棄騒動によって一時的に避難しているのではないかという考えもなくはない。
王子とヴィオレッタ嬢の婚約破棄騒動は問題にならないわけもなく、男爵令嬢の処分と王子への今後の方針についてで今かなりもめていると言う。
ただ、王命があったのは事実であり、この結婚はほとんど決まっているものと思うが、果たしてヴィオレッタ嬢はバッセンの事をどう思っているのか。
そんな事を頭の隅で考えながらも、食事中も楽しく会話をし、そして食べ終えた後には、ロアムも共に砦内にある庭へとその場を移した。
庭には今まではなかった可愛らしい机といすが準備されており、ロアムは少しばかり驚いていた。
ここしばらくの間、バッセンがこそこそと色々と準備を進めていたことは知っていたが、この野獣のような外見の男が、ヴィオレッタ嬢の為に庭を整備し、お茶をしやすい環境を整えるという考えを持っていたこと自体が面白くてたまらない。
バッセンの方は口ではなんだかんだと言いながらも、ヴィオレッタの事を大事にしているじゃないかとにやにやとしてしまう。
「へぇ、とても素敵な場所だな。こんな場所、初めて知ったよ。」
ロアムがバッセンにあてつけがましくそう言うと、ヴィオレッタは首を傾げた。
「まぁ。そうなのですね。」
「ええ。先月ここに来た時には、こんな場所無かったですからね。」
「え?それって。」
ヴィオレッタは、頬を微かに赤らめながらバッセンに視線を送り、バッセンは眉間に深いしわを寄せている。
ロアムはその様子を見て、ほっとした。
何だ。ヴィオレッタ嬢もバッセンに気があるんじゃないか。
なら、少しばかり手助けをしてやるか。
ロアムはヴィオレッタに甘い笑みを浮かべて、優しい声で言った。
「本当に美しい人だな。バッセンの婚約者でなければ俺が婚約をしたいほどだ。」
ヴィオレッタはその言葉にきょとんとした顔を浮かべた瞬間、体が突然宙に浮き目を見開くと小さく悲鳴を上げた。
「っひゃ。」
「それ以上見るな。」
バッセンはヴィオレッタを抱き上げるとロアムを睨みつけた。
「ば、バッセン様?」
顔を真っ赤にするヴィオレッタと、殺気を露わにするバッセンを見て、ロアムは腹を抱えて笑った。