第四十一話
ロアムは、中庭を楽しげに散歩をするアンナとヴィオレッタを、砦の上から見つめながら薄らと笑みを浮かべた。
ヴィオレッタとバッセンが結婚してからしばらく、アンナに元気がなく心配していたのだが調子を取り戻してきた様子である。
良かったと、ロアムは思った。
アンナは、特殊なメイドであることはすでに知っているが、自分達が思っている以上にヴィオレッタに対する思いがあるのだろうとロアムは考えていた。
だからこそ、少しばかり心配だった。
だが、楽しげにヴィオレッタと話す様子を見てほっとした。
「ん?・・・何で俺はほっとする?」
自分の不思議な感情にロアムは首を傾げると、今までになくアンナを気にしている自分が不思議であった。
女性とはそれなりに付き合ってきた。
浮気をすることはしないし、女性と付き合っている時はその人が幸せであろうようにと自分なりに気を配って付き合ってきたつもりだ。
だが、最後には女性から別れを告げられてしまう。
良く言われる一言が『将来が見えない。』『いつか貴方は私を捨てる。』『仕事と私どちらが大事?』『バッセン様と私どちらが大事?』最初は分かるのだが、最後にはなぜか皆が言うのだ。
『バッセン様に私は勝てない。』
意味が分からなかった。
そりゃあバッセンは自分達の上司であるし、バッセンが居れば砦が落ちる心配もない。
だが、俺の恋人はバッセンではない。
なのに、性格に反して色男と言われるこの外見からなのか、バッセンとの仲を疑われるのだ。
俺は男色じゃない。
付き合ってきた女性なら分かるだろうに、何故か疑われる。
そしてふと思う。
なるほど。
「俺はアンナ嬢が自分と似ていると感じているのか。」
つい言葉がこぼれる。
そうなのだ。自分がバッセンを尊敬し、互いに切磋琢磨し砦を守るために励んできた姿と、ヴィオレッタの為に常に尽くすアンナが自分と重なったのだ。
だからこんなにもアンナを応援する気持ちになるのかとロアムはふっと笑みを漏らし、そしてすっきりとした気持ちで落ち着いた。
いうなれば仲間意識である。
自分がバッセンに尽くすように、アンナはヴィオレッタに尽くす。
なるほどとロアムは思うと、午後の開いた時間でアンナに差し入れを持って会いに行こうと考えた。
お互いに頑張ろうと、何となく会いたくなったのだ。
そんなロアムの姿を陰から見守る騎士らは小さくため息をついた。
「いつになったら自分の気持ちに気づくんすかねぇ?」
「言うなって。あの人、今まで女の人から言い寄られるばかりで、流されるままに付き合ってきたような人だぞ。」
「はぁー。もしかして初恋ですか。」
「まぁ、小さい時からバッセン隊長の片腕として鍛えてきて、そういう色恋沙汰なんて身近になかっただろうからなぁ。」
「なるほど。なんか・・・あれっすね。」
「なんだよ。」
「ほら、本当はバッセン隊長の事が好きなんじゃないかって噂あったじゃないですか。」
「あー。女たちの嫉妬のウソな。」
「ええ。俺あながち間違いじゃないと思ってたんですよ。ほら、女に執着もたなかったじゃないですか。副隊長。」
「まぁな。」
「それがバッセン隊長のことになると女以上に真剣だから。ロアム副隊長の奥さんになる人は大変だなぁって思ってたんですけれど・・・バッセン隊長の対抗馬が出てきたってことですね。」
「いや、対抗馬って・・・え?お前、何、本気で疑ってたわけ?」
「いやいや。いや、でも、ほら、ね。ははは。でも上手くいくといいですけどね。」
「まぁなぁ。」
部下にそんな心配をかけているなんて事はつゆほども思わないロアムは、揚々とアンナの差し入れには何を買いに行こうかと悩むのであった。






