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第四十話

 アンナは幸せそうなヴィオレッタとバッセンが庭を散歩する姿を見守りながら、少しだけ胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちを感じていた。


 これまでヴィオレッタの一番傍にいたのは自分であった。


 なのに、今ではバッセンがいる。


 ヴィオレッタが幸せになって嬉しいのに、何故かそれがとてつもなくさびしくて、アンナはそんな自分が嫌で小さくため息をついた。


「どうしたんだ?」


 鍛練の帰りなのか、荷物を抱えたロアムにそう声を掛けられ、アンナは表情を繕うと言った。


「何でもありませんが。」


 その可愛げのかけらもない一言に、ロアムはじっとアンナを見つめてからヴィオレッタ達に視線を向け、そしてまたアンナに視線を向けた。


 アンナはその視線を振り払うように、背を向けると二人が返ってきたときに飲めるように、お茶の準備を始める。


 ロアムはその様子にぽりぽりと頭を掻くと、小さく息を吐いてから言った。


「ちょっと待ってろ。」


「え?」


 ロアムはその場から立ち去り、何だろうかとアンナが思っていると息を切らして帰ってきた。


 その手に荷物はなく、代わりに小さな包みが持たれている。


 可愛らしくラッピングされたそれをロアムはアンナに手渡すと言った。


「前にクッキーもらったお礼。」


「え?あぁ。」


 あれはヴィオレッタが持って行けと言ったから渡したのであって、お礼をされるほどではないと内心で思ったのだがロアムの視線が開けて見ろと言っているので仕方なく包みのリボンをほどいた。


「あ。」


 包みの中には、可愛らしいオルゴールが入っており、蓋を開いてみると、二人の女の子が寄り添って本を読んでいる人形がゆっくりと回る仕掛になっていた。


「ヴィオレッタ嬢とアンナ嬢みたいだろう? 仲良しな、まるで姉妹みたいな。」


「え?」


「ん?ほら、二人ってそりゃお嬢様とメイドっていう立場なんだろうが、仲が良くて姉妹みたいだろう?これ見た時に思ったんだよ。」


 姉妹。


 アンナはおこがましいな、なんて思いながらもその言葉が嬉しくて頬を緩めた。


 その姿を見たロアムはほっと息をばれないようにつくと、にっこりと笑った。


「アンナ嬢がいて、ヴィオレッタ嬢は幸せだな。」


「え?」


「だってそうだろう。普通の姉妹だったら結婚したら離れ離れだけど、二人はずっと一緒だろう?」


「え?え・・・えぇ。」


 そんな事考えてもみなかった。


 たしかに、そう思えば自分はこれからもずっとヴィオレッタの傍にいられるのだ。


 ロアムはからかうように、にやっと笑った。


「きっとバッセンの永遠のライバルになるのは、アンナ嬢だろうな。」


「え?」


「さっそくだな。ほら、呼んでるぜ。」


「アンナ! 見て! 見て! 来て頂戴!」


 ヴィオレッタがバッセンをほおって自分を夢中で呼んでいる。


 アンナはその声に慌てて二人の元へと駆け寄った。


「どうなさったのです?」


「ほら! 可愛い子猫ちゃん。アンナ猫ちゃん好きでしょう?」


 嬉しそうに自分に子猫を指差してくるヴィオレッタにアンナは苦笑を浮かべた。


 確かに好きだが、それはヴィオレッタが好きだからなのだが。


 ヴィオレッタの後ろでは、バッセンがアンナと視線が合うとにっこりと肩をすくめた。


「あ・・・あぁ。それ。」


 不意にバッセンがアンナの手にもつオルゴールを見て笑った。


「どうしたのですか?」


 ヴィオレッタが尋ねると、バッセンがにやっと笑って言った。


「ロアムが店の前でずっと悩んでたやつ。やっぱりアンナ嬢にだったか。あいつのあんな真剣な顔久しぶりに見たから面白かったが。」


「まぁ。」


 アンナはその言葉に、ロアムの姿を探して振り返ったが、もうその場にロアムはいなかった。


 ヴィオレッタはにっこりと笑みを浮かべると言った。


「可愛いわね。」


「はい。」


 心の中が温かくなるのを、アンナは感じた。







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― 新着の感想 ―
[一言] ロアムとくっついちゃえばヴィオレッタとも一緒に居られてバッセン相手に妬かないでも済むよねー(笑)
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