第三十九話
新婚初夜である。
ヴィオレッタは、薄明かりの中自分を落ち着かせるために、アンナの用意してくれていた紅茶に口をつける。
心臓がどくどくとして、バッセンに来てほしいようなそうでないような不思議な気分である。
その時、部屋の扉がノックされ、バッセンが入ってきた。
ヴィオレッタはバッセンの側によると、ふわりと石鹸の香りがして心臓が跳ねた。
バッセンはゆっくりとヴィオレッタを抱き締めた。
「ヴィオレッタ。」
「バッセン様。」
ギュッと抱き締められると、それだけで不安は消えていく。
大丈夫。
ヴィオレッタの唇にバッセンの唇が重なり二人はそのままベッドへと向かう。
そして。
ヴィオレッタは朝目を覚ますと、横で眠るバッセンの寝顔にそっとキスをした。
ハッキリ言おう。
夜のバッセンはすごかった。
最高に、可愛かった。
ベッドに行ったはいいものの、本当に大丈夫だろうかとこちらを伺ってくる姿は子犬のようであった。(他人が見れば野獣)
何度もキスを重ねるうちに、その瞳に熱がこもっていく様子は見ていて色香がすごかった。(他人が見れば恐怖。)
中々先に進まないバッセンに自分からねだるように身を寄せれば、とても大切に、ゆっくりとこちらの様子を見守りながら進めてくれた。
もう一度ハッキリ言おう。
最高であった。
ヴィオレッタは昨日の様子を反芻しながら身悶え、そしてせっかく今バッセンが寝ているのだからとその美しい体を拝ませてもらった。
ほう。
何という肉体美であろうか。
ヴィオレッタはごくりと喉を鳴らすと、そっとバッセンの逞しい腕の中に体をすり込ませて引っ付いた。
心地がいい。
ぎゅうぎゅうと抱きしめているヴィオレッタに、バッセンは身悶えたのち、ヴィオレッタはベッドから起き上がれないほどに抱きつぶしてしまうのであった。
アンナからは初めてなのですから配慮して下さいと苦言を呈されるが、すかさずにヴィオレッタが言った一言によってバッセンはいたたまれなくなった。
「アンナ! 最高だったのよ!」
その一言に、アンナは冷たい視線をバッセンに向けた。
そして、どこから情報が漏れたのか、稽古場でしばらくの間それを揶揄するような言葉が飛び交うようになった。
「おお! 剣さばきが最高の仕上がりだな!」
「最高に今日は気分がいい!」
「いやぁ、今日も天気がいいなんて最高だな!」
もちろんそんな事を言った騎士らは皆全てまるっと屍の山となっていくのだが、それでもバッセンが幸せになったという事に部下も喜びが隠せないのだろう。
屍の山はしばらくの間築かれ続けるのであった。