第三十八話
静かな朝であった。
いつも通りの静かな朝。けれど、その朝は特別な朝である。
ヴィオレッタは起き上がるとゆっくりと背伸びをした。そしてにっこりと笑みを浮かべると、アンナと共に準備を始める。
今日は、バッセンとヴィオレッタの結婚式である。
花嫁の準備は忙しい。
まずは入念に入浴を済ませ、メイド数人がかりで全身マッサージを行う。それが終わったら入念に化粧の前に香油を塗りこみ、それから化粧、そして髪の毛を結いドレスを着せられていく。
出来上がったヴィオレッタはまさに妖精。
メイド達は自分達の腕前とヴィオレッタの美しさに感嘆の声を漏らす。
アンナは、静かにハンカチで涙をぬぐった。
「お嬢様。本当にお美しいです。」
「もう、アンナ。本番はこれからなのに。」
「はい。でもアンナは嬉しいのです。お嬢様、幸せになって下さいませ。」
「ふふ。ありがとう。さぁ、アンナ。結婚式頑張りましょう!」
「はい!」
会場内はヴィオレッタの登場に誰もが呆然とその姿に見惚れた。
ゆっくりとバージンロードを歩く姿は絵本の一ページのようで、それを見つめていたバッセンは夢のようなひと時を過ごす。
だが、バージンロードを歩き、ヴィオレッタの父の小さな一言によって気を引き締める。
「幸せにしなかったら、すぐに迎えに行く。」
「生涯をかけて、必ず幸せにします。」
ヴィオレッタはバッセンに見惚れた。
やっと結婚できるのだと言う喜びが胸にあふれる。
誓いを行い、そしてヴィオレッタはバッセンの口づけを待った。
けれど、いつまでたっても唇に触れる柔らかさが感じられず、思わずそっと薄目を開けると、バッセンが真っ赤な顔を両手で覆っていた。
「バッセン様?」
「少し、少し待ってくれ。」
会場内が少しざわつく。
バッセンは大きく深呼吸をすると、ヴィオレッタの肩に手を乗せ、そしてほんの一瞬、皆が見逃してしまったのではないかと思うほどのスピードで軽くキスをした。
ヴィオレッタも頬を染めて顔を赤くすると、ロアムが他の騎士を盾にして自分だとばれないように声を上げる。
「一瞬過ぎて見えなかったぞ!」
盾にされた騎士は、バッセンに睨まれて小さく悲鳴を漏らしたが、ヴィオレッタはそれににっこりと笑みを浮かべるとバッセンに言った。
「バッセン様、少し屈んで下さいませ。タイが曲がっております。」
「ん?・・・あ・・・あぁ。」
バッセンが屈んだ瞬間、ヴィオレッタはバッセンのタキシードの襟を引っ張り、しっかりと唇を重ねた。
周りから一斉に祝いの声が上がり、ヴィオレッタは唇を放すとにっこりとほほ笑んだ。
「ふふふ。バッセン様。これからよろしくお願いいたします。」
「あ、・・・あぁ。こちらこそ。」
二人は顔を真っ赤にしながら、皆の祝福を受けるのであった。
ここまで読んで下さった皆様方ありがとうございます。
これにて本編は終わりですが、今後はヴィオレッタとバッセンの初夜のお話など乗せていきたいと思いますので、引き続きよろしくお願いいたします。






