第三十六話
バッセンとヴィオレッタの結婚式が数日に迫った頃、ヴィオレッタはアンナに髪の毛を結ってもらいながら窓の外を見て、ほうっと息を吐いた。
「ヴィオレッタ様、どうかされたのですか?」
「ん?・・・なんでもないの。」
最近こういう事がよくあるので、アンナとしてはとても心配しているのだが恐らくはあれである。
マリッジブルー。
なのでアンナは穏やかに、言葉を返すのだ。
「きっとヴィオレッタ様は良き妻になるでしょうね。」
「そうかしら・・・アンナ。私少し一人で庭を散歩してきてもいいかしら?」
「え?・・はい。かしこまりました。」
結婚式の準備は張り切り過ぎた故か早々に終わり、後は当日を待つだけだ。
ヴィオレッタは可愛らしい花柄のワンピース姿で庭へと降りると、美しく咲きほこる庭を歩き始めた。
そして、木陰に来ると小さな声で呟く。
「ロアム様。いらっしゃいますか?」
「もちろん。」
ひっそりと二人は木陰で、誰にも見られないように会話を続ける。
「それで、手筈はどうなのです?」
「はは。滞りなく出来ているよ。ヴィオレッタ嬢、これを。」
「例の物ね。ありがとう。では、またね。」
「ええ。では明日。」
二人は不敵な笑みを交えて別れる。
ヴィオレッタは青く輝く空を見上げて、ほうっと息を吐いた。
もうすぐ結婚式。その前に、お楽しみの時間がやってくる。
きっと、きっと素敵に違いない。
明日のバッセンの姿を思い浮かべてヴィオレッタはにまにまと笑い、そしてもどかしくて早く明日が来いと空に手を伸ばして願うのであった。
次の日の朝、アンナはいつもと同じようにヴィオレッタの朝の支度を整えながら違和感を覚えた。
今日のヴィオレッタはとてもうきうきとしていて昨日とは打って変わっているのである。
これは何かあるなと察したアンナは少し気を引き締めて、あえていつもと同じように声をかける。
「今日は何をなさいますか?」
「アンナ、今日は用事があるの。付き合ってくれるかしら?」
「用事、でございますか?」
「ええ。ふふふ。さぁ、今日はこの衣装を着ていきますよ。」
「え?・・・・・・これは。」
アンナは目をすっと細めると、自分の思い違いに気が付いた。
昨日までのはマリッジブルーなどではなかったのか。なるほど、これを用意していたのかと、アンナは良かったような、悪かったような、微妙な気持ちになった。
「だってほら、結婚式やらなんやらの準備で、出来なかったから・・・時期はずれてしまったけれど、いいでしょう?」
「まぁ、そうですね。きっと騎士様方も羽目を外したい日だってあるでしょうしねぇ。今は落ち着いていますし・・・ロアム様辺りとご相談されているのでしょう?」
白い目で見られたヴィオレッタは視線をそらすと、明るい声で言った。
「さぁ、楽しみねぇ!」
「ちなみにこれ、どなたの趣味なのです?」
「ん?バッセン様よ!」
「私の分は?」
「・・・内緒。」
アンナは小さくため息をつきながらも、主の可愛らしいお願いポーズに負けてそれを着る事になるのであった。






