第三話
野獣~筋肉~が好きな同志がきっといる事を信じてます。
砦のような石造りの城の前には門番がおり、そしてそこを通ってヴィオレッタを乗せた馬車は中へと入っていく。
見慣れない馬車に、砦にて訓練を行っている騎士らの視線が集まる。
物陰から、遠目から、たくさんの視線がその馬車に集まっていたのだが、次の瞬間、皆が息を止めた。
まるで、天から舞い降りた天使。
いや、精霊の森から抜け出してきた王女。
はたまた、この世界に迷い込んだ天女か。
「誰だ。」
「こんな南の砦に、天使か。」
「いや、妖精だろう?」
「あの紋章は王家のもの?」
「何という事だ。急いで皆に伝令で知らせろ!」
「そうだ!こんなむさっ苦しい所にあんな天使が来るなんて大変だ!」
「掃除だ!」
「とにかく、あの天使の目に映してはならないものを撤去するんだ!」
「急げ!事は急を要する!」
「もし騎士の宿舎などに足を運ばれたらと思うと・・・・」
「いっ急げ!大掃除だ!」
騎士たちは顔を青ざめさせるとバタバタと動き始める。
ここは辺境伯の城であり南の砦でもある場所。
つまり、男の数の方がはるかに多く、あんな天使?妖精?天女?に見せてはいけないものがたくさんありすぎる場所なのである。
「伝令だ!大掃除だ!手の空いている者、休みの者を叩き起こせ!」
騎士たちがバタバタと動いていくのを気配で感じ取ったヴィオレッタはアンナと視線を合わせるとこてんと首を傾げた。
「どうかしたのかしら?」
「そう、ですね。」
大変耳の良いアンナにはすべての会話が聞こえており、心の中でため息をついた。
そしてその会話の原因である妖精姫とうたわれるヴィオレッタに視線を移す。
「美しすぎる、というものは罪ですね?」
「ん?アンナ、何か言ったかしら?」
「いえ。お嬢様参りましょう。バッセン辺境伯様もきっとお待ちです。」
「ええ。ふふふ。楽しみね。」
ヴィオレッタの心は躍った。
あぁ、またバッセン様のあの神々しいまでのお姿を見ることができるのね。
でも、バッセン様は私の事など覚えていないでしょうし、最初の印象は好印象を残さなければならないわ。
ヴィオレッタは気合を入れると、所作をさらに気を付けてアンナと共に進む。
扉を執事が開くとそこには会うのを楽しみにしていたバッセン辺境伯がすごい眼光でこちらに視線を向ける姿があった。
身長は二メートルに近い巨体、筋骨隆々のその男の顔には戦で負ったであろう大きな傷がいくつもあり、雄々しさをさらに引き立てた。エメラルドの瞳は眼光が鋭すぎて普通にしているだけで威圧感を人々に与える。
髪を短く刈り上げたその雄々しい姿に、ヴィオレッタの心はきゅんっと高鳴った。
あぁ、何と言う凛々しいお姿。王城にいるあのへなちょこ王子様とは大違いの男らしく逞しいその姿。
熱い胸板に飛び込んでしまいたい。
けれどそんな事をしてはダメよヴィオレッタ。はしたない女だと思われてしまっては嫌われてしまうかもしれない。
好印象を残してみせる。
最初出逢って数分で人の印象とは決まる物だ。
ヴィオレッタは今まで培ってきた王妃教育の賜物を今こそ発揮する時だと美しく微笑み、そしてバッセンにそれは見事なカテーシーを行った。
その瞬間、その場にいた執事やメイド、そしてバッセンは息を呑んだ。
透き通るような白い肌、柔らかな肢体、美しすぎる所作、そして妖精や天使と見まごうほどに神々しい微笑み。
無理だ。
バッセンは思った。
こんな可憐な少女が自分の事など好きになるわけがない。
こんな可憐な少女がこんな辺境の砦で幸せに暮らしていけるわけがない。
けれどこれは王命。
どうしたらいいのだ。
ヴィオレッタの心とは裏腹に、バッセンの心はひどく動揺していた。
楽しんでいただけていたら光栄です。
頑張って更新していきたいと思います!