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第二十六話

 ヴィオレッタとバッセンは、しぶしぶといった様子のアレックスに先導されて、王城の一室へと通されると座るように促された。


 バッセンはヴィオレッタをしっかりとエスコートし、アレックスに付け入るすきを与えにないようにしている。


「バッセン辺境伯は、父上とヴィオレッタの父君と話に行くのかと思っていたが?」


 アレックスは紅茶に口をつけながら優雅にそう言うと、バッセンは凶悪な笑みを浮かべて言った。


「話はありますが、ヴィオレッタ嬢を優先するのは当たり前でしょう。」


「はぁ。お前が居ては話し辛いと言っているんだがな。」


「おや。私がいて話辛いとは、一体私の婚約者に何を言うつもりなので?」


 男同士がバチバチと火花を散らしている中で、ヴィオレッタはバッセンの自分を守ろうとしてくれている様子に胸がきゅんきゅんと高鳴っていた。


 こんなにも誰かに守られる立場になったことはない。


 ヴィオレッタは、やっと思い出してきたアレックスの顔をちらりと見て少しばかり感謝した。


 へのへのもへじも、役に立つことがあるのだなと、感慨深くなる。


「ヴィオレッタ嬢。」


 パチリとアレックスと視線が合い、ヴィオレッタは少しばかり気を引き締めると小首を傾げた。


「何でしょうか。王太子殿下。」


「・・・ヴィオレッタ嬢。キミには多大なる迷惑をかけた。すまなかった。」


 真っ直ぐにそう言われ、ヴィオレッタはその様子にクスリと笑みを浮かべた。


「あら、王太子殿下、正気を取り戻しましたの?不敬を承知でお聞きしますが、殿下はご自分に非があったことをお認めになりますの?」


 その言葉にアレックスは眉間にしわを寄せると言った。


「ああ。・・・私はニーナ男爵令嬢の手にまんまとはまり、お前と婚約破棄をした。だが、今はそれが過ちであったと、分かっている。」


 ヴィオレッタはその言葉を聞いて、アレックスが自身の髪をかき分ける癖を見つめてからニコリと笑みを浮かべると言った。


「うふふ。そんなに、ご自身の次のご婚約者様が嫌なのですか?」


 その言葉に、アレックスの動きが止まった。


 バッセンはヴィオレッタの言っている意味が分からずに二人の話を聞いていたのだがアレックスの顔色が先ほどよりも悪くなっている事に気づく。


 ヴィオレッタは楽しそうに言った。


「私、殿下のご婚約者様は誰に決まったのかしらと、楽しみにしておりましたが、殿下の反応で分かりましたわ。」


「ヴィ…ヴィオレッタ嬢。待ってくれ。私は謝っているのだ。それで、」


「あら殿下、それ以上はおっしゃらないで。私感謝しておりますの。」


「は?」


 ヴィオレッタはバッセンの逞しい腕にしなだれかかると、うっとりとした瞳でバッセンを見つめそして虫けらを見るような瞳でアレックスを見ると言った。


「バッセン様と婚約させていただけて、私は幸せですわ。殿下も、新しいご婚約者様とお幸せになって下さいませね。私はちゃんと存じておりますわ。殿下が、恋愛さえからまなければ、国王にふさわしい器をお持ちだという事を。」


 射抜くようなその瞳に、アレックスは耐えかねるように視線をそらすと、拳を強く握り、そして顔を上げると言った。


「そんな事を言うな。ヴィオレッタ嬢。頼む。私は・・・、私は!」


 その時であった。


 静かに部屋をノックする音が響き、アレックスが勢いよく立ち上がると、顔を青ざめさせた。


「アレックス様。フィオレリーナでございます。入ってもよろしいでしょうか。」


 ガタンと音を立ててアレックスはよろめくと、首をブンブンと横に振りながらヴィオレッタを縋るような瞳で見た。


「頼む。ヴィオレッタ嬢。私は、私には無理だ!」


 ヴィオレッタは楽しそうに微笑むと言った。


「あら、そんな事ございませんでしょう?ふふふ。お似合いでございますわ。」


「ヴィオレッタ嬢! 私はお前の方がいい! 」


 すがるようにしてアレックスが伸ばした手を、バッセンは阻むように手で制すと言った。


「それ以上、俺の婚約者に近寄らないでいただきたい。いくら王太子殿下とはいえ、許しかねます。」


 バッセンの鋭い眼光がきらめき、アレックスの血の気が一気に引いた。


 そしてそれと同時に、部屋の扉が開いた。


 扉の前には真っ黒な髪の毛をピタッと頭に撫でつけ、髪を一つにくくりつけた女性が立っていた。


 一重まぶたに黒縁眼鏡、背筋がピンと伸びたその女性は、今年二十五歳になる侯爵家令嬢であるフィオレリーナ・ルビエラであった。


 社交界で彼女は行き遅れの鉄面皮令嬢と陰で囁かれている。


 並外れた知性と教養を身に着けたフィオレリーナは令嬢として隙がない。


 ヴィオレッタも彼女であれば王妃教育も今からでも十分に間に合うと考えており、恋愛脳に染まってしまったアレックスを現実へと引き戻し、賢王へとするためには彼女が最も王妃にふさわしいと考えていた。


「お客様がいらっしゃる所、誠に申し訳ございません。ですが私は両陛下より、アレックス様の部屋への入室は本人が許可しなくとも良いと仰せつかっておりますので、失礼とは思いましたが入らせていただきました。」


 氷のように冷たい空気がフィオレリーナからは発せられており、それにアレックスが震えあがった。


 そして、アレックスはバッセンの静止を無視してヴィオレッタの手を取りその前に跪くと言った。


「お願いだヴィオレッタ嬢。もう一度私と婚約してくれ! 私にはキミが必要だ!」


 鬼気迫ったその様子に、ヴィオレッタははっきりと笑顔で言った。


「お断りいたします!」







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