第二十一話
ロアムは中庭にある温室までアンナを連れていくと手を離して笑い声をあげた。
「ははっ!さっきのバッセンの顔を二人にも見せたかった。」
「何を話されたいたのですか?」
「ヴィオレッタ嬢の安全を考えれば早く結婚した方がいいっていう話だよ。なら、二人で話をした方がいいだろう?」
その言葉に、アンナはヴィオレッタとロアムの思考回路は似通っていそうだなと苦笑を浮かべた。だが、このロアムという男がバッセンとヴィオレッタを二人きりにするというそれだけの理由で自分をここに連れてきたとは思えない。
「それで、私をここに連れてきた本当の理由は?」
ロアムはその言葉に小さく息をつくと、真剣な表情を浮かべてアンナに言った。
「今こちらの暗部も情報を集めているが、どうやら雲行きが怪しい。」
「というと?」
「手っ取り早いカイルア王国との争いを回避させる手段はヴィオレッタ嬢を渡すこと。それはわかっているだろう?」
「ええ。」
「まだ確かではないが、カイルア王国が軍を動かしたという情報が入った。」
その言葉にアンナの表情が曇る。
「だが、我らが領主様のバッセンの婚約者だ。我が砦は守り抜く。この砦内にいれば安全だ。」
「砦内・・・。」
「あぁ。カイルア王国もそれはわかっているだろう。ともなれば、狙われるのは砦の外へと出る時だ。」
「そうですね。」
「と言うことは、砦の外へと出ざるを得ない何かが起こると、ロアム様はお考えですか。」
ロアムは頷くと、ふと視線をアンナの手に持たれているリボンのかけられた袋に移した。
「あぁ。すまない。もしや、それはバッセンに渡すものだったのではないか?」
その言葉にアンナははっとした様子を見せると、しばらく無言の後に首を横に振った。
「ん?あぁ。後で二人で食べる用かな。とにかく、近々何かが起こるだろう。アンナ嬢も気になることがあれば何でも教えてくれ。」
「はい。・・・。」
「ん?何かあったのか?」
「いえ。」
アンナの様子にロアムは少し考えて、ヴィオレッタの先程の言葉を思い出す。
そして、少しばかり期待をしてしまう。
アンナは意を決した様子で包みをロアムへと差し出した。
「どうぞ。」
「え?」
しばらくロアムは差し出された包みを見つめ、そしてアンナに再度押し付けられてそれを受け取った。
「いいのか?」
「はい。」
ロアムは、これまで女性にたくさんのプレゼントをされたことがある。
だが。
「ありがとう。」
何だろうか。
この胸の中に広がる思いは。