第十四話
バッセンは、いざという時の為に武装しておくように部下に指示を出しておくと、ロアムと共に数名の精鋭をつれて馬にまたがった。
一度城を振り振り替えると、先程の細く柔らかなヴィオレッタの手を自分が握ってしまったことを思い出して顔に熱が籠るのを感じた。
震える手は儚さを感じ、守ってやらねばならないとバッセンは強く思った。
おそらく公爵は王都に敵の手の者がいるということで、王都よりもこの絶対に落ちないと言われる砦の方が安全だと判断したのだろう。
そして、自分とロアムには内情を話してもいいという判断をしていることからして、自分達が信頼されているというのも分かる。
まぁ、欲を言えば事前に話をしていてほしかったが。
そこについては、何らかの理由があったのだろう。
とにかく今は、その信頼に答えなければならない。
バッセンは手をギュつと握りると、精鋭達と共に馬を走らせた。
ロアムは、馬を走らせながら、敵にわざわざ捕まるという愚行を犯したアンナの言葉を思い出す。
「このままでは、何時まで立ってもヴィオレッタ様の安全は確保されません。一度内部を探ってきます。そのうち帰るので、ヴィオレッタ様をよろしくお願いいたします。」
「はあ?!お前は、馬鹿か!」
「えぇ。ヴィオレッタ様馬鹿なんです。」
クスリと笑ったアンナにの顔が瞼の裏に焼き付いている。
「ふざけるな!捕まえて吐かせればいいだろう!」
「そう簡単にいかないから、困るんですよ。では。」
「おい!待て!」
ロアムは手を伸ばすが敵に阻まれてしまい、その手は空を切る。
「アンナ!」
名を呼ぶも、答えはない。
姿は見えず、敵も数名を捕らえることには成功したものの、殆どの数に逃げられてしまった。
相手も相当な手練れの集団であり、ロアムは唇を噛むと、近くの木を一刀で斬り倒した。
ロアムの殺気に、捕らえた敵は顔を青ざめさせる。
「さぁ、知っていることを話してもらおうか?」
怒気をはらんだその冷たい瞳に、捕虜となった刺客らは自分の命を握られた。
「ロアム。殺気がもれているぞ。お前にしては珍しいな。」
バッセンのその言葉に現実に引き戻されたロアムは、呼吸を整えると、人好きの良さそうな笑顔を貼り付け直す。
「久しぶりに感情が思い通りにならないな。」
「ふっ。お前が女に左右されることもあるのだな。」
バッセンのその言葉にロアムは首をかしげてしまう。
「ん?何の事だ?」
バッセンはじっとロアムを見ると、苦笑を浮かべた。
「ほう。本当に珍しい。」
「おい。何の事だ?」
「さぁな。お前も悩まされればいいんだ。よし!急ぐぞ!」
刺客らが吐いたのは拠点の場所のみ。
いや、それ以外は知らされていないのだろう。
ロアムは、最初に会ったらアンナに何て言ってやろうと、冷たい笑みを浮かべて馬を急がせた。