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Unlucky  作者: 碧眼の黒猫
第九章 心と体の変化
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ナタリアの体調不良

 建物の出入り口に来た俺達は外へ出ることを躊躇っていた。

 先程の窓が強く揺れていた原因は吹雪で外が荒れ、来た時とは全く違う天候になっていたからだった。


「どうする?外へ出たら地獄を見ることになるが」


「あぁもう……ついてないわね。すぐに止んでくれればいいけど……」


 しかし、外を見る限り今は止むような感じはしなかった。

 とりあえず空腹をどうにかしようと俺は彼女にある提案をすることにした。


「料理を作れる場所はあるか?」


「えっ?……えぇ、あるけど……もしかして私に料理を作れって言うの?」


「いや、どっちでもいい、隊長が作らないなら俺が作る」


「そう、じゃあ貴方が作りなさい。私は今は料理したい気分じゃないから」


「わかった」


 俺が料理を作ることになり、俺は彼女の案内で食堂へと向かう。

 ライトがあるおかげかさっきとは違い、今は普通に歩いているが、それでも怖いのか、震えと汗が異常だった。


「震えと汗が凄いが大丈夫か?」


「だ、大丈夫よ。……ごめん、やっぱりちょっと休ませて……なんだか気分が悪いわ」


 彼女は壁に近付くとしゃがんでから廊下の壁に背中をつけ、その場に座り込んだ。


「大丈夫か?」


「頭が……痛いの……さっきまでなんともなかったのに……なんだか吐き気もするし………めまいも…………うぐっ!?」


 彼女は胸元を手で押さえると過呼吸をし始めた。


「おいどうした!?」


「はぁはぁはぁはぁ…苦しい、苦しいの……はぁはぁはぁはぁ……し、死んじゃう……はぁはぁはぁはぁ」


 彼女が苦しみを訴え、俺は大量の汗を流しながら過呼吸を続ける彼女をとにかく落ち着かせるために彼女の肩に手を置いた。


「落ち着け、落ち着いて息を整えるんだ。大丈夫だ、死にはしない」


 彼女に優しくそう言い、彼女は俺の言ったことに従うように息を整えようとしたが、過呼吸が止めることができない様子だった。


「はぁはぁはぁ…む、無理……はぁはぁはぁはぁ……できな…はぁはぁはぁ……はぁはぁはぁ……はぁ……はぁ……………はぁ……………」


 彼女は目を閉じると首が力なくうなだれるようにして頭が前へ倒れた。


「待て!目を閉じるな!おい!しっかりしろ!目を開けるんだ隊長、隊長!!おい!ナタリア!!……クソ!」


 彼女の呼吸を確認すると既に呼吸が止まっており、更に最悪なことに脈を確認すると脈が止まっていた。


「どうなってるんだ……。一体……考えるのは後だ。まずは……」


 俺は彼女を寝かせて彼女が着ている服の上から心臓の音を聞くために耳を胸元に当てて確認する。

 心臓は動いておらず、呼吸も無い、心肺蘇生法のことは知っているが、やったことがない上に本に書かれていた知識しかなかった。


「やってみるしかない……」


 俺は記憶を頼りに彼女の気道を確保し、手を組んで腕は肘を曲げずに真っ直ぐのまま垂直にして、心臓がある場所を強く、速く押し始める。







 私は何処かの街にいた。

 私がいた世界ではなく、何処か別の世界。

 周りには大量のゴミが溢れ、ゴミで作られた家の中で人が飢えをしのぐために缶詰を食べていた。


「ここは……?」


 私はさっきまで突然の過呼吸に苦しめられ、そして意識が薄れていったところまでは憶えているが、こんなところに来た覚えはないし、周りにはあいつの姿もなかった。


「ジャック!おい!ジャック、ちょっと手伝ってくれ」


 私は声のした方を見るとフードを被った少年……いや、少女?が男の荷物を両手で持って運んでいた。


「マーカス、お菓子が無いんだ。何処かにないかな?」


「ん?……そうか、わかった。ちょっと待ってろよジャック」


「うん!」


 可愛らしい子供が男に頷いて返事をすると男は男の家なのか、ゴミで作られた家へ入っていった。


 声を聞いてもどっちなんだかわからない小さい身体に合っていない黒いパーカーを着た子供は家の前で荷物を置いて大人しく待っていた。


 私は近付いて子供に声をかけようと近付くとその子が着ていたパーカーがさっきまで側にいたアイツが着ていたパーカーだったことに気が付いた。


「ジョン!」


「ん?なんだよ、ナタリア」


(ナタリア?……私と同じ名前の子なのね)


 自分と同じ名前の女の子がパーカーの子に近寄ると、手を前に出して握っていた手を開くとその手の中には紙に包まれたお菓子があった。


「お菓子が欲しいんでしょ?これあげる!」


「えっ?……でも、これナタリアの好きな菓子じゃなかった?」


「いいの、食べて」


「うーん……マーカスが持ってくるとも限らないし、わかった」


 パーカーの子は女の子からお菓子を貰い、貰ったお菓子を早速食べると女の子が期待をするような顔でパーカーの子を見ていた。


「うん、甘くて美味しい。ありがとうナタリア」


「えへへ、そうでしょ?このお菓子ね、甘くて凄く美味しいんだ~」


 女の子は嬉しそうに言うとパーカーの子の腕に抱き付いた。


「ジョン、私と一緒に遊ぼう!」


「えっ?……でも今は……」


「あーそーぼー」


「ごめんなジャック……、お菓子無かった。おっ、ナタリアじゃないか、元気そうだな」


 男が家から出てくると家の前にいる2人が男に顔を向けた。


「マーカス!ジョンと遊びたい!」


「ん?俺に聞くんじゃなくて、ジャックに聞けよナタリア」


「だってマーカスのせいでジョンが遊ぼうとしてくれないんだもん」


「おおそうか、それは悪かったな。ジャック、遊んでこいよ」


「だって、行こ!」


 女の子に引っ張られてパーカーの子はゴミだらけの道を走っていき、何処かへ行ってしまった。

 子供達の姿が見えなくなると突然周りが暗くなり、私は周りを見渡すと今度はアイツと女性がベッドの上に座っていた。


 見てはいけないものを見ているような気分になった私は出口を探すが、何処にも出口らしき所は無かった。


「ジョン……その……」


「…………」


「その……その子を守れなかったのは………」


「言わないでくれ……、言わないでくれナタリア……」


「でも、ジャック……」


「気休めにもならない言葉だ。運が悪かったなんて……な」


 どうやら夜の営みをするような雰囲気ではないことを感じ取った私は2人の会話に耳を傾けた。


「……ジョン、久しぶりに私と仕事をしないかしら?気分転換にね」


「………考えておく」


「もう、貴方らしくないじゃない、そんな暗い顔をするなんて」


「俺はいつもこんな感じだ」


「そうかしら?ずっと何処へ行ったのかってマーカスも私も心配して、帰ってきて安心してたのにそんな暗い顔をされてたらまた心配になるんだけど?」


「………すまない」


 あいつは立ち上がると何処かへ行こうとしたけど、それは女性に腕を掴まれたことで阻止された。


「ねぇ……私、ジョンのことが心配なのよ。だから、お願い……私を避けないでよ……」


「………心配しなくていい。ナタリア、今は一人にさせてくれ……」


 アイツは振り返って女性の手を離させると何処かへ行ってしまった。


「ジョン……」


 女性はアイツの名前を呟くと涙を流していた。


 また場所が変わり自分のいた街の道路とは違う、何処かの道路の歩道に私は立っていた。


 また周りを見渡していると建物の間の方から誰かが走ってくる音が聞こえ、私は路地の方を見るとさっきの女性とアイツが袋を持って走ってきていた。


「さぁ!今日は飲み明かすわよ!」


「おい!待て!」


 アイツは必死に女性を追いかけていたけど、女性の方が走る速度が速くて差が開いていた。

 そして、女性は後ろを振り返った。


「早くしなさい!遅いわよ!」


「後ろを向くな!前を見ろ!」


 女性は後ろを振り返ったまま路地から出てこようとした。

 私はふと道路を見るとトラックが走ってきていた。

 彼女の走る速度とトラックの速度を考えるとぶつかると私は予想した。


「危ない!!」


 私は彼女を止めるために彼女の後ろに立った。


 しかし、彼女は体を通り抜けて行ってしまった。


 そして……。


「平気だって……」


 トラックのタイヤが音を鳴らしながら彼女へ突っ込み、彼女はトラックの下へと消えていった。


「そんな……どうして……」


 私は彼女を引いたトラックをその場で膝をつき、呆然と見た。


「ナタリア……嘘だ……。そんな…………あぁ、クソ………ナタリア……ナタリア……」


 アイツがトラックへゆっくりと歩きながら近付いていくと足元に落ちていた何かに気付き、それを拾い上げた。

 トラックに引かれた衝撃で落ちたのか、袋から出たのかわからないけど、それは折り畳み式のナイフのようだった。


「おい!お前!この女の仲間だな!?捕まえろ!」


 トラックの周りに集まっていた人々がアイツを捕まえようと走ってくると、アイツはポケットへナイフをしまって袋を持ち直すと走り出した。






 彼女の意識が戻らないまま数十分の間、俺はひたすら心肺蘇生をしていた。

 汗を流しながら胸元を押し、人工呼吸を繰り返していた。


「クソ……もう限界が……起きてくれ……起きてくれナタリア……」


 俺は再び人工呼吸をするために少し横へずれて彼女の顎を上げて息を吸い込み、息を吹き込んだ。


「ゴホッ……ゴホッゴホッ……はぁ……」


 もう一度吹き込もうと息を吸い込もうとしていると彼女が目を覚まし、息を吹き返した。


「ナタリア!……大丈夫か?」


「ゴホッゴホッ……えぇ……大丈夫……」


「………そうか、良かった」


 彼女が息を吹き返したことに安堵し、俺は膝立ちの姿勢から姿勢を変えて彼女の側で座った。

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