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Unlucky  作者: 碧眼の黒猫
第九章 心と体の変化
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皇帝陛下

 時計が残り2秒のところで止まり、爆発を止めることができたことに俺は息を吐いた。


「……止まった」


「おぉ……」


 目を閉じていた少女は目を開けると自分の着ている服に付けられた爆弾を見て感心するような声を出した。


「凄いね、本当に止めちゃうなんて」


 さっきまでとは様子が違う少女に俺は違和感を覚え、どういうことなのかと思っていると個室の扉が叩かれた。


 俺が振り返ると少女は便器から下りて個室の扉を開けた。

 扉の向こうには研究所で会った失禁隊長が私服姿で立っていた。


「試験合格おめで……あっ……」


「……また会ったな、隊長」


「なっ、なんで……いいえ、今はそんなことより伝えることがあるの、聞きなさい」


 彼女は咳払いをして深呼吸をすると咳き込んだ。


「臭っ!トイレだってこと忘れて……ゴホッ!ゴホッ!ゴホッ!」


「……お姉さん、カッコ悪……」


 少女は思ったことを言ったのだろうが、その言葉が突き刺さったのか隊長の咳が止まり、うなだれた。


「か、かっこ悪い……私が……は……はは、そんなはず無いわ。だって私は完璧な女だもの、料理も洗濯もできるし、お風呂だって沸かせるし……」


「風呂は誰でも沸かせると思うがな。それで隊長様が一体何をしに来たんだ?」


 酷く落ち込みながら自己暗示をしている隊長に聞くと隊長は真剣な表情になって、手に持っている紙に視線を落とした。


「貴方に皇帝陛下からありがたい御言葉を伝えるように頼まれたの」


「あの女が?」


「貴方の勇気ある行動と判断を評価し、我が軍の兵として兵役に就く義務を与える。我が軍への入隊後、国から家と土地を与え、更に生活に困らない程の貨幣を与えることをここに誓う。エカテリーナ・ミラーシャ・ヴェジェルニコヴァ皇帝陛下より」


「お兄さん凄いよ。皇帝様直々に御手紙を貰うなんて、男の人だと初めてだよ」


「なるほど使い捨ての駒か、お断りだ」


 俺は個室から出てトイレから出ようとすると目の前に皇帝陛下が立ち塞がった。


「そう言うと思って来てやったぞ。お前には兵役に就く義務与えたんだ。拒否することは出来ない」


「俺はこの国の住民じゃない」


「ああ、手続きは済ませてある。お前はもうこの国の国民だ、私に従ってもらうぞ。ジョン・ウィリアムズ」


「くっ……なら力ずくで……」


「お兄さん、手を上げて」


 少女は何処からか銃を取り出して俺に向け、隊長も魔法で銃を取り出して俺に向けた。

 流石に少女に銃を向けられては俺も手を上げて大人しく従うしかなかった。


「よし、折角お楽しみだったところを悪いが、基地へ戻るぞジャック、それと手は下げていい」


 俺は手を下げて後ろから銃を向けられながらミラーシャに付いていくと外でヘリが着陸して待っていた。

 俺はヘリを見て操縦している奴が手を振っていることに気が付き、よく見てみるとサングラスをかけてヘッドセットをしている博士だった。


 ヘリに乗り込むとヘリの中にはエリカとソフィが先に乗っていた。

 俺はミラーシャの後に続くようにしてヘリへ乗り込むと最後に乗り込んだ隊長が扉を閉め、ヘリはゆっくりと上昇して少し傾くと進み始めた。


 エリカからヘッドセットを渡されて俺はヘッドセットを付けた。


「やぁ、ジャック、短いけど快適な空の旅を楽しんでね~」


 博士が研究所の時と同じように明るい声で言い、俺は窓の外を見るとさっきまで居た遊園地がもう遠くに見える距離になっていた。


 飛んでからすぐにヘリは降下し始めるとゆっくりとヘリポートへ着陸し、隊長がヘッドセットを外すと扉を開けて外へ出た。


 ミラーシャがヘッドセットを外して外へ出ると俺もミラーシャに続くようにヘッドセットを外してヘリの中に置くと外へ出た。

 外に出ると兵士達が敬礼をしてミラーシャを迎えた。


「出迎えご苦労、皆持ち場に戻れ」


「「「はっ!」」」


 ミラーシャの言葉に従って兵士達は散るとそれぞれ自分の持ち場へと戻って行った。


「お前達は別だ。ナタリア、案内してやれ」


「了解しました。付いてきなさい」


「ナタリア?……あの隊長の名前か?」


「あぁ、そうだ。ナタリア・カラシニコワ、元ハントレス隊副隊長で優秀な奴なんだが、暗いところとお化けや殺人鬼などのホラー系が大嫌いでな、天然なところもあってなかなか魅力のある女だが……どうかしたか?」


「……いや、なんでもない」


 俺は胸を締め付けられるような感覚と共にトラックの下敷きになり、前の世界で俺の相棒だった女性、ナタリアが死んだ光景がフラッシュバックして俺はまめいを起こし、頭を押さえてふらついた。


「おい!大丈夫か?疲れているのか?」


 俺がふらついているとミラーシャが俺の体を支えた。


「触るな!」


 俺はミラーシャの腕を振り払い、ミラーシャから離れようとして足がもつれて俺はその場に転んだ。


「陛下!!貴様っ!!動くな!!」


 俺がミラーシャを振り払ったことで俺は兵士達に囲まれて銃を向けられ、無理矢理兵士達に立たされて銃を突き付けられた。


「お前達、銃を下ろせ。私の心配はいい、こんな細い男に負ける私ではない」


「陛下、しかし……」


「銃を下ろせ、皆私のことを心配してくれるのは嬉しいが、少しは私を信頼してほしいな」


「……了解しました」


 兵士達は銃を下げると俺から離れていき、兵士達の間からミラーシャが俺に近付いてくると俺の腕を強く掴んで俺を引っ張り、俺はそのまま腕を引かれて基地の中へと入っていった。


 俺はミラーシャに腕を引かれて部屋へ入るとミラーシャは腕から手を離すと被っていた帽子を取って机の上に置き、俺の方を向いて机に寄り掛かった。


「ジャック、ここではあまり私に手荒なことはしない方が身のためだぞ」


「そうかもな、だが俺はあんたのことが嫌いだ」


「ふっ……いや、そんなにハッキリと言われると流石の私でも傷付くぞ……」


 少し悲しそうな表情をしているミラーシャだったが、俺はこの女に優しくしようとはどうしても思えず、謝罪をせずに部屋の中にあったソファに座った。


「……何故、あの時俺を殺さなかった?それが気になる」


 俺はずっと疑問に思っていたことをミラーシャに聞くとミラーシャは少し笑いながら俺の隣に来ると少し間を開けて座った。


「何故だと思う?」


「それがわからないから聞いているんだが……俺が女に見える男だからか?」


「フフフ、いや違うな。私と仲良くなると言うのなら、教えてやってもいい」


 俺は睨み付けるようにミラーシャを見るとミラーシャは微笑みながら俺を見ていた。

 その状態が続いていると突然扉が開いて中に兵士が入ってきた。


「閣下、お取り込み中申し訳ありません。緊急の報告があります」


 兵士は敬礼をしながらミラーシャに向かって言うとミラーシャは無表情になり、ソファから立ち上がった。


「なんだ?言ってみろ」


 ソファから立ち上がったミラーシャは机に向かって歩き、机に手をつくと背中を向けたまま話を聞いた。


「はっ!基地へ侵入者が現れたとのことです。閣下にすぐに報告を……」


「それなら心配いらない」


「もしや既にご存知で……」


「あぁ……わざわざ来てくれてありがとう、では……死ね」


 ミラーシャは振り返ると同時にマシンガンを兵士に向けて腰だめで撃ち、兵士を蜂の巣にした。

 部屋の中で銃声が響いて薬莢が転がり、兵士は扉まで撃たれた反動で扉まで下がると兵士は血だらけになって扉にもたれた。


「まるでハロウィンの仮装だな、血で服が汚れていい感じになった。これで死体役の完成だ」


 ミラーシャは銃から弾倉を引き抜き、新しい弾倉と代えながら言った。

 廊下から何人か走ってくる音が聞こえ、扉が蹴り破られて開いた。


「陛下!今のは!?」


 銃声を聞いてやって来た兵士達は部屋へ入ってくると扉の近くに開けられた反動で横向きに倒れている死体になった兵士を見た。


「そのゴミを処分しておいてくれ、処分したら持ち場へ戻っていい」


「はっ!了解しました!」


 兵士2人が銃を肩に掛けると死体の両脇を兵士2人で持ち上げて引きずるようにして部屋から出ていった。


「さて、今ので私が女に見える男だから殺さない、なんてことはしないことがわかったな?」


「さっきの奴が?……確かにどちらとも言えない感じだったが……」


「1年に一回は必ず殺すには惜しい程の美少年を寄越してくれるんだ。私を強く憎んでいる奴らがな」


「レジスタンス……すぐに殺したが、情報を聞き出さなくて良いのか?」


 ミラーシャは机にマシンガンを置くと机の反対側に回って椅子に腰を掛けた。


「情報など必要ない、奴等の居場所は突き止めている。野放しにしているのは丁度生きのいい新人が居なかったからなんだ。そこで……」


 ミラーシャは机の引き出しから葉巻を取り出し、右手で指を鳴らして人差し指を立てると指の先から火が出て取り出した葉巻に火を付け始めた。


「俺にレジスタンスの居場所を潰せと?」


「そうだ。安心しろ、お前一人で行かせる訳じゃない、ちゃんとお前の為に新人も一緒に行かせてやるさ」


「相手が素人とは言え、武装しているんだろう?しかも、そこに行くのはまだ入ったばかりの素人同然の軍人……死んでこいと言っているのも同じだと思うがな、それともそれが狙いか?」


「いいや?違うな。大丈夫だ、お前ならやれるさ、必ずな」


 ミラーシャは葉巻を咥えて葉巻を吸い始めた。


「……吸い辛いな、カットしてなかったか」


 ミラーシャは煙を吐き出すと何かを取り出して葉巻の口に咥えた方を切り落として、再び口に咥えた。


「何故、言い切れる?そう言えば、行ってくれるとでも?」


「違うな、お前のことをジェーンが高く評価していたからだ。私はジェーンが評価した人間は信用している。ジェーンが評価した兵は皆、優秀で個性的で期待も信頼も裏切らないからな」


「ジェーンが?……」


 俺が聞き返すとミラーシャは目を閉じて頷き、煙を吐き出した。

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