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Unlucky  作者: 碧眼の黒猫
第一章 犯罪者と異世界の少女
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アルの良心

 使用人らしき女性の報告を聞いたハルは、腕を組んだ。


「サドゥラーか……力を得てからあいつはおかしくなっていたが、まさか大魔王を殺すとは愚かな奴だ」


「いかがいたしましょう?」


 そう問いかけられたハルは腕を組んだまま使用人の方を向いた。


「今からでも奴のところへ行くぞ。これ以上勝手な真似をされては困る」


「かしこまりました」


 使用人にそう言った後ハルはこっちを向いた。


「ナディア、少し離れるが大丈夫だな?」


「うん、大丈夫。すぐに戻って来れる?」


「ああ、時間はかからない。だが後始末もあることを考えると夜までかかるかもしれん」


「わかった。じゃあ、この町の宿で待ってる」


 ハルは頷くと使用人と一緒に紫色の炎に包まれるようにして消えた。


「あれは?」


 思わずナディアに聞いた。


「あれは……移動に使ったりする魔法。瞬時に行きたい場所に行ける魔法」


「……魔法は凄いな」


 使えない事がとても惜しいが、使えないものは仕方ない。

 とりあえずさっきの会話から宿を探すことになったようだが時間的にはまだ夜まであるはず、周りは相変わらず霧で覆われているがさっきよりは先が見えるようになり、段々と周りが見えるようになっていた。


「ナディア、宿を探すんだろう?」


「大丈夫、もう見つけてあるから……付いてきて」


 いつの間に見つけたのかと聞きそうになったが恐らく魔法を使って見つけたのだろう、歩くナディアの後をついて行きながら後ろを見ると、さっきの女性を背負ってアルが付いてきていた。

 しばらくついて行くと屋根が無くなっていたり、壁が一部崩れているが使えそうな建物に着いた。


「ここ……好きな部屋使って」


「宿主は……居ないか」


「何処行っちまったんだろうな…」


 宿の前に中年の男性が横たわっていたがそいつが宿主だったのかもしれない。


「何処が良い?…ジョン」


「俺は何処でも良いが、とりあえず二階の部屋を取る。アルは一階に取ったらどうだ?」


「おっ、いいのか?。一階って無傷そうな部屋が多いけど、お前は一階にしないのか?」


「ああ、外が見える方が好きだからな」


「そうか、じゃあまずはこの人を寝かせてから部屋選ぶぜ。また後でな」


 アルに頷いて返事をするとアルは部屋を探しに行った。

 俺も二階で部屋を探すことにし、二階へ上がって行った。


「なんで着いてくるんだ?ナディア」


「ジョンと一緒が良い」


「別に構わないが、寒いぞ?」


「大丈夫……」


 そう言ってくれてはいるが本当に大丈夫だろうか。

 俺は適当に部屋を見て、他の部屋よりも被害が少ない階段の近くの部屋を取った。


「ここにしよう、アルの様子を見てくる」


「私も行く」


「…そうか」


 アルと合流するためにナディアと一緒に階段を降りようとした時、アルの悲鳴が聞こえた。

 急いで階段を降りて悲鳴の聞こえた場所に行くとそこにはアルとさっきの女性では無い別の女性がいた。


「おいおい!落ち着けって俺は敵じゃねえよ!」


「嘘をつかないで!子供は絶対に渡さない!魔王軍なんかに渡すもんですか!」


「だから違うって!魔王軍なんかじゃねえって!」


 どうやら勘違いされて、アルは女性に包丁のようなものを向けられているようだ。


「おい、大丈夫か?」


 声をかけると女性がこっち向いて包丁を向け、アルと俺を交互に見ながら警戒し始めた。


「落ち着け、そこの奴の言う通り敵じゃない」


「そんなの嘘に決まってる!貴方達も魔王軍の手下なんでしょう!?」


「おいおい、どう見たら魔王軍の手下なんかに見えるんだよ…」


「黒っぽい服だからじゃないか?」


「あぁ、なるほど。ってそうなると一番それっぽいのお前じゃね?フード被ってるし」


 確かに俺は今、パーカーに付いているフードを被っていて見た目からして一番怪しいのは俺だろう。

 だが、だからと言って魔王軍の手下と間違えるのは不自然な気がした。


「一旦落ち着け、本当に魔王軍の手下なら話しかけていない」


「いいえ、騙されないわ。子供達だけは絶対に渡さない」


 女性はどうやら後ろの部屋を守るためにそこに立っているようだ。


「ナディアなら説得できるんじゃないか?」


「確かにな、ナディア……何処へ行ったんだ?」


 ナディアに説得させようと後ろを振り向くとそこには付いてきたはずのナディアの姿が無かった。


「ナディアいないのか?どうすりゃ良いんだ」


「仕方ない、あまり興奮させるな。別の部屋を探せ」


「いやでもよ、放っておけないぜ」


「刺し殺されたくなかったら近寄るな」


「うーん、なぁ本当に俺たちのこと信じてくれないのか?」


「誰か信じるものですか!」


「分かった…じゃあ、こうするしかない」


 するとアルは両手を上げて、ゆっくりと女性に近付き始めた。


「アル、やめた方がいいぞ」


「いや、放っておけねぇって、大丈夫だ。俺に任せろ」


 そんなことをしたところであの女性が信じてくれるとは思いにくいが、俺もナイフを取り出す準備をしてアルの後ろから着いて行きながら様子を見守っていた。


「大丈夫だ、本当に俺たちは魔王軍の手下なんかじゃないんだ」


「う、嘘!絶対に信じないわ!」


「嘘なんかじゃない本当だ。魔王軍の手下が手を上げて説得なんかしようとするわけないだろう?だから信じてくれよ」


 アルが近付くと女性はゆっくりと後ろへ下がる。やがて扉に背中が付いた。


「おい、あまり近付くな、逆効果だ」


「ああわかった。なあ信じてくれ、その部屋で子供達がアンタが帰ってくるの待ってるんじゃねぇのか?」


 アルは近付くのをやめて少し距離を置いて説得し始めた。


「…………本当に」


 女性が小さな声で何かを言った。


「本当に魔王軍の手下じゃないの?」


「ああ、本当だ。だから信じてくれ」


 しばらく沈黙が続いた後、ゆっくりと女性は構えていた刃物を下ろした。


「信じてくれたか?」


「……えぇ、ごめんなさい私、私必死で」


「ああ、それはよく分かったぜ。早く子供達のところに行ったらどうだ?」


 アルがそう言うと女性は頷いて、守っていた後ろの部屋へと入って行った。


「ふぅ!、ヒヤヒヤしたぜ」


「そうだな、人騒がせな奴だ」


「うるせぇ」


 呑気に笑っているアルを見て俺は小さな声で言ったつもりだったが聞こえてしまったようだ。


「あそこから離れればあの女性も襲っては来なかった」


「いや、でも放って置けなくてよ」


 アルと話をしていると部屋から女性が飛び出して来てアルの肩を掴んで揺さぶった。


「大変!、子供達が!子供達が!」


「おお、落ち着けぇって!」


 揺さぶられて目を回したようでアルがふらついた。

 俺は女性とアルの間に入って女性の肩を掴んで止めに入った。


「落ち着け、一体何があった?」


「子供達が居ないの!部屋の何処にも!」


 部屋を見ると窓が開いており、どうやら外に出て行ってしまったようだ。


「ここで待ってろ、俺達で探してくる」


「あぁ、どうしたら良いの!あの子達に何かあったら私!」


「落ち着け、まだ遠くには行っていないはずだ」


「わ、私も一緒に!」


「いや、駄目だ」


「……」


「心配するな、アル行くぞ」


 アルについて来てもらおうとアルを見ると目を回して壁に背中をつけて座り込んでいた。


「あ、ああ、まかせぇろ〜」


「おい、大丈夫か?」


 しゃがんでアルの調子を聞いてみる。


「ああ、だぁいじょぉぶだぁ」


「駄目そうだな、すまないアルと一緒に待っててくれ」


「お願い…無事で居て…」


 宿から出るとまずは窓の外から続いている複数の小さな足跡を追う、足跡から見て恐らく3人。

 足跡をたどって行くと段々と周りの状況が酷くなっていった。

 建物は崩れ、死体がそこらじゅうに転がっていて、霧の中でも分かるまだ燃え盛っている炎。


(ちゃんと生きていると良いが…)


 足跡をたどって行くとやがて、広い通りでその足跡が消えた。

 周りを見てみるがどうやら足跡はここで途切れているようだ。

 何処かに手がかりがないかと探していると新しい足跡を見つけた。

 その足跡はナディアのものだった。


(ナディアがここに?)


 そしてその足跡の近くに同じ複数の小さな足跡があった。


(なるほど、どうやらナディアが保護してくれているようだ)


 ナディアが保護しているなら宿に向かっているはず、俺は来た道を戻り宿へと戻ることにした。

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