好きな色、好きじゃない色
エリカとソフィとクレープを買ってテーブルがある席に座って休憩をしていた。
エリカは食欲はあるらしく、クレープを頬張っていると段々と元気が戻り、追加でクレープを買って食べ始め、お化け屋敷に入る前と同じくらいまで回復していた。
ソフィと俺はその様子を見ているとソフィがクレープを食べようとクレープを口に運ぼうとしたが、何かに気付いて手を止めると俺の後ろに視線を向けた。
俺はソフィの視線の先が気になり、椅子に座ったまま振り向くと金髪の少女が立っていた。
少女はどうやらクレープが食べたいのか、まだ手をつけていない紙皿の上に乗った俺のクレープを見ていた。
「食べるか?」
俺がクレープを差し出すと少女はゆっくり受け取り、クレープを食べ始めた。
少女が美味しそうにクレープを食べている様子を見ていると少女の口にクリームが付き、俺は服を買うときに付いてきたハンカチを取り出して椅子から立ち上がった。
「待て、口に付いてるぞ。よし、これでいい」
少女の口元を優しく拭いてクリームを取り、少女を椅子に座らせると少女は再びクレープを食べ始めた。
「迷子でしょうか?ご両親は何処にいるの?」
ソフィが親の居場所を聞くと少女はクレープを食べるのを止めて横に頭を振った。
「私、お母さんもお父さんもいないの……」
「何?ならどうやってここに入ってきたんだ?」
「知らない人の子供のフリをして」
「なるほど、確かにそれほど厳しくもなかったからな。入るのは簡単か」
腕を組んで少女を見ていると目線が高いことで食べる時に少し姿勢が変わる為、その際に少女の服の中が少し見えてしまった。
少女の服の中には黒い長方形の物が少女の体に巻き付けられ、外から見ても少女の体型に合わせて不自然にならないような大きさにされていた。
俺はその黒い物の正体を爆弾ではないかと疑った。
この国は確かレジスタンスと呼ばれる反政府組織があったはず、リーナの屋敷が襲われた後にリーナが教えてくれたことを思い出した俺は少女の近くでしゃがんだ。
「何か他に食べたい物があれば、そこの白い髪のお姉さんに頼むといい、何でも買ってくれるぞ」
「えっ?」
エリカはクレープを食べ終わって幸せそうな顔から真顔になって俺を見た。
「ううん、大丈夫。お腹空いてないから」
少女がそう言うと少女のお腹が鳴り、空腹であることを知らせてくれた。
「フフ、遠慮しなくていい。まだ育ち盛りだろう?沢山食べた方がいい」
「あ、あのー……まぁ、いいでしょう。ジョンさんの言う通り、子供はいっぱい食べて大きくならないと!」
エリカは少し不服そうな顔をしていたが、子供の為と考えてくれたのか、俺の話に乗ってくれた。
しかし、少女は周りを見ると顔を横に振って俺の提案を断った。
どうやら何処かで少女を監視している奴がいるようだ。
「いいの?遠慮はしなくてもいいんだよ?」
「大丈夫、えっと……クレープ……ありがとう、美味しかった」
エリカが少女に聞くと少女はクレープを俺に渡すと何処かへ行こうとしていた。
俺は言葉で少女を止めるよりも先に手が出て少女の肩を掴んだ。
少女は驚いた表情をして振り返り、俺は少女の腕を引いて先へ行かせないようにした。
「クレープ……食べ終わってからにしてくれないか?」
「え?……ううん、もうお腹いっぱいだから……」
「……そうか、2人ともここで待っててくれ」
俺は紙皿にクレープを置いて少女を抱き上げ、急いでトイレへ向かうことにした。
「えっ?ちょ、ちょっとジョンさん!?」
エリカが立ち上がる音がしたがエリカは追っては来なかった。
俺は小走りで人混みを駆け抜けてトイレを目指した。
「お、お兄さん?……何処に行くの?」
「そうだな、安心できる場所だ」
思ったよりもトイレが遠かったが、俺は女子トイレへ入り、個室へ少女と一緒に入って少女を便器に座らせた。
「お、お兄……さん?……」
俺は人差し指を立てて口に当て、静かにするようにジェスチャーすると少女は怯えた表情をしながら体を震わせていた。
当たり前だろう、どんなに気が強くても知らない男に外からは見えない個室へ運び込まれたら怖いと思うのは当たり前だ。
俺は少女の両肩に手を置いて笑顔を作り、頷いた。
少女は怯えた表情から少し顔を赤くすると頷いてくれた。
少女に合わせて俺も頷き、服をゆっくりと上げて少女に持ってもらうと小さな少女の服の下にはどう見ても寒くて着ていると言えるような服ではなかった。
服の下には黒い子供用の服に外から見て服が不自然に見えないように小さくされた爆弾が貼り付けてあり、小さいマイクの様なものと腕時計が爆弾に貼り付けられて時を刻んでいた。
腕時計の時間からしてすぐに吹っ飛ぶような時間ではないが、あと5分程で爆発するようだ。
俺はゆっくりと焦らずに折り畳みのナイフを取り出し、刃をゆっくりと音を立てないように出して剥き出しになっている配線を選んで一本切った。
少し音が出てしまうが、一回ならまだ大丈夫なはずだ。
相手が馬鹿でなければ少女と運命を共にすることになるが、リーナの屋敷であった奴らは賢いようには見えなかった。
だが、だからと言って急いで切ればマイクで音を聞かれてしまい、俺は少女を救えずにあの世へ逝ってしまう。
それはなんとしても避けたい。
額から頬を伝っていく汗を肌で感じながら配線をなるべく音を立てないように切り、腕時計が止まってくれるように願う。
少し配線を切るのに手間取ったせいで5本中3本切ったところで残り1分になり、1分以内にどっちか選んで切らなくてはならなかった。
残った配線は黄色と水色、この2つのどれかが時計を止める配線、残りもう1本はありがたいことに少女の分もある地獄への片道切符だ。
黄色か?
水色か?
どちらかを選ばなければならない、俺は配線と時計を見ながらどっちを切るか考える。
あと残り30秒だ
どっちを切るか悩んで俺は切るのを躊躇っていた。
「お、お兄さん……私、水色が好き……なの……」
突然、少女がそう言って今にも泣きそうな顔をしていた。
俺は水色を切ろうとナイフを水色の配線に近付けて手を止めた。
少女が水色が好きなら俺は………。
残り10秒……。
「……そうか、俺は……黄色は好きじゃない」
俺は黄色が好きじゃないことを言うと少女は目を瞑った。
残り5秒……。
俺は水色から黄色の配線に切る配線を変えて黄色の配線を切った。