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Unlucky  作者: 碧眼の黒猫
第九章 心と体の変化
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街巡りのついでに

 俺達はレストランで食事を終えると再び服屋を探して街を歩いていた。

 レストランから出た後もレストランで話していた話題で2人は俺を置いて盛り上がっていた。


 そろそろ消えるように2人から離れたいが、エリカはしっかりと俺を監視しているらしく、離れようとすると俺の歩調に合わせたり、後ろを振り向いたりして俺が離れないように気にしていた。


 仕方なく2人の後ろで会話を聞いているが、お互いの趣味や服の選び方などを共有し合い、この短期間で2人はとても仲良くなっている様子だった。


 2人が笑って会話している姿を見ていると久々に平和だと思えた。

 思えば、この世界に来てから気を休める日はどのくらいあっただろうか、こっちに来てから散々な目にしかあってないような気もするが、向こうの世界でも同じようなものだった。


 毎日毎日、盗み、奪い、時には殺す。


 そんなことをばかりやっていた日々ののことが懐かしく思える。

 俺の周りにいる人間は死にやすく、一人になることが多かった。


 孤独には慣れたつもりでも、独りで居るのは寂しいものだ。

 共に話をして、食事をして、笑い合える友人がいる時とは世界が違うように感じる。

 もう長い付き合いの友人は皆、居なくなってしまったが、それでも俺は生きている。

 俺の周りにいた人間はほとんど死んだ。


 エミールにトーマス、ナタリアやマーカスも、皆俺を置いて居なくなってしまった。

 生きている意味があるのかと思う日々、死にたいと思う毎日、しかし、死ねず苦しんで毎日同じことを繰り返す。


 苦しむだけならさっさと死ねば良かったと思うこともあったが、人間は自分で死のうと思ってもその覚悟がある奴は死ねるが、覚悟がない奴は心を殺して生き続けるしかない。


 俺は心を殺して生きる方法を選んだ。

 俺には死ぬ勇気も覚悟も無かった。

 死ぬことが……怖かった。


 恐らく、マーカスの最後の言葉がなかったとしても、俺は自分と自分の生きている世界に絶望しながら生きていただろう。


 死ぬことが怖いから、死ぬことを恐れているから。


 得体の知れない恐怖が、俺を生かしていた。


「ジョンさん?」


 俺は自分の世界からエリカの声で現実へ戻されると前で喋っていた2人が俺を見ていた。


「あぁ、なんだ?」


「なんだ、じゃありませんよ。そんなに暗い顔をしてたら心配になります。大丈夫ですか?」


「あぁ、大丈夫だ。そんなに暗い顔をしていたか?」


「はい、まるで心が死んだ人みたいな感じでしたよ」


「……そうか、そんなに暗い顔をしていたか……」


 俺はこの世界へ来た時より表情が豊かになったのかもしれない、そんなことを言われたことはマーカスが死んでからは一度もなかった。

 エリカの言った通り、俺は心が死んだ人だったはずだが、いつの間にか表情が表に出ていたようだ。


「……エリカのおかげかもな」


「なんですか?」


 小声で言ったつもりだったが、どうやら名前のところだけエリカに聞こえていたようだ。

 もう一度聞こえるように言ったら、誤解されてしまうかもしれないと思い、俺は誤魔化す為に2人のことについて言うことにした。


「いや、2人とも仲良くなるのが早いなと言っただけだ」


「そうですね。私達、気が合うのかもしれませんね」


「フフフ、そうですね。お店に着いたらお互いに似合いそうな服を選んでファッションショーみたいなことしてみませんか?」


「良いですね!それじゃあ良いところを探しましょうか」


 俺はファッションショーの舞台となる服屋を探す2人の後についていき、2人の選ぶ服がどんなものなのか少し期待している自分がいた。


 エリカが選んだ服屋に入ると、早速2人はさっき言っていた通り服を選び始め、試着するための人一人が入れる個室へ入って着替えて出てくるとお互いに見せ合い、見た感想を話し合っていた。


 2人とも何回も選んでは着替えることを繰り返し、どの服も俺から見た感想だが、とても似合っていて綺麗だった。


 しかし、途中から俺も巻き込まれて2人の着せ替え人形にされ、中性的なファッションをさせられて少しばかり恥ずかしかったが、途中からは楽しませてもらった。


 そして、2人とも話が盛り上がる内に何故か着替えた服装で遊園地に行くことになり、俺は楽しそうに行くことを決めた2人を止められず、俺も行くことになった。


「さぁ!ジョンさん!ソフィさん!早く行きましょう!」


「待ってくれ、引っ張るな」


「元気が良いですね」


 俺は急ぐように言うエリカに腕を引かれて遊園地の入り口まで来ていた。

 ソフィも同じようにエリカに腕を引かれながら自分の子供を見守る母親のような笑顔をしながらエリカを見ていた。

 無事入り口を通り抜け、遊園地の中へと入ると子供や大人、老人などが行き交っていた。


「久しぶりに来ましたけどやっぱり童心に帰れますね~、ここは!」


 エリカは子供のように目を輝かせ、目の前に溢れる多くの遊具を見ていた。

 そして俺とソフィを引っ張ってエリカは俺達の手を引いて何処かへ連れて行こうとしていた。


 最初に来たのはお化け屋敷というところだ。

 不気味な感じのする廃病院がテーマらしく、外側からは想像できないようなほど不気味な廊下、そしてあれだけ騒がしかった声も聞こえず、ただ風が吹く音が聞こえるだけだった。


「なんだか背筋が凍るような感じがしますね。流石に最初からお化け屋敷は早すぎましたかね」


「さっきまでの人気もしないが、一体どんな作りになっているんだ?」


「お化け屋敷の作りはネクロマンサーとして適性を持つ人がお化け屋敷のお化け役を作り、空間は入り口で別の空間へと移動する仕組みになっています。詳しくは教えてくれないので、ボスから聞いた話ですが、何人ものスタッフの方々が試行錯誤をしながらこのように仕上げているそうです」


「秘密か、だが知らなくてもいいだろう。暗いところは嫌いじゃない」


 俺達は入り口前で渡されたライトを使って廊下を進んでいき、出口を目指して歩いた。

 特に時間制限は無いらしく、お化け役に手を出したり、施設を破壊したりしなければ自由に動き回っていいそうだ。


「ジョンさん、待ってください……歩くのが速いです……」


 俺は歩くのが遅い2人の先頭を歩き、エリカに言われて振り返ると2人は手を繋ぎながらお互いに身を寄せ合っていた。


「大丈夫か?」


「よくそんなに早く歩けますね……。入ろうと提案したのは私ですが、流石に怖くなってきました」


「そうか、ところでさっきから髪の長い女が後ろに……」


「えぇっ!!?どどど、どこ!?どこですか!?」


 エリカは顔を青くして後ろを振り向くとライトで天井や壁をライトで乱暴に照し、ソフィの腕に抱き付くとソフィもエリカの背中にライトを持ったまま手を回してエリカを抱き寄せていた。


「大丈夫ですよ!エリカさん!落ち着いて!」


「おお、落ち着いてって……ソ、ソソフィさんは落ち着き過ぎですよぉっ!?」


「ハハハ、やっぱりエリカは冗談を言うと面白い反応をしてくれるな」


「意地悪っ!!本っ当に意地悪ですね!!もう!!」


 エリカの泣きそうな顔に流石にキツイ冗談だったか、と反省しながらエリカの姿を見て俺は自然と笑顔になれた。


 良い反応を見せてくれるのもそうだが、何故かナタリアと一緒にいた時のような構ってみたい気持ちが出てしまい、俺はどうやらエリカのことを気に入ってしまったようだ。


 俺は進もうと前を照らすと前を照らした瞬間、床を這ってくる髪の長い濡れた女がいたことに気が付き、背筋が凍った。


「あぁ……ひとつ良いか?」


「なんですか!?」


 少し怒っている様子のエリカだったが、今は気にしている場合ではなかった。


「濡れた女は魅力的だな?」


「一体何を言って……」


 エリカは何を言っているのかわからないというような顔をして、俺の照している場所を見ると顔を青くさせた。


「走れ!!」


 俺が走るように言うとソフィが状況を察してエリカの腕を引いて走り出した。

 俺もエリカとソフィの後ろを付いていき、幽霊から逃げた。


 何時間かしてやっとの思いで病院から出るとエリカはソフィの腕に抱き付いてソフィに頭を撫でられていた。


「はぁ、お化け屋敷は疲れるな……」


「えぇっと、とりあえず休憩しましょうか。あのクレープ屋さんからクレープを頂いて食べましょう」


 ソフィが指を指した方向にはクレープを作っている屋台があり、俺達は一旦そこでクレープを買って休憩をすることにした。

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