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Unlucky  作者: 碧眼の黒猫
第八章 過去、忘れることのできない記憶
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異世界の歴史

 明日に備えて寝るはずだったが、ジェシカとの思い出を思い出してしまい、中々寝付けずにいた。


「ジャック、起きてるか?」


 寝付けずにいると小さな声でジェーンが俺の名前を呼び、テントの出入り口を開けて外に出ようとしていた。


「……あぁ、起きてるが?」


「少しばかり話しでもどうだ?」


 ジェーンはそう言ってテントの外へ出ていき、俺も寝袋から出て靴を履いてテントの外へ出ると洞窟の外は雪が降り積もって綺麗な銀世界になっていた。

 ジェーンはトラックの荷台に入っていくと何かを取って降りてきた。


「ほら、お前のパーカーだ」


 ジェーンは黒いパーカーを俺に差し出した。

 確かパーカーは屋敷に置いたままだったはずだが、ジェーンが取ってきてくれたのだろうか。


「確かに俺のパーカーだ。だが、何故俺のだと?」


「パーカーを着る奴があの屋敷には居なかったからな、リーナからお前があの屋敷に半年程居たと聞いた。だから、それがお前の持ち込んだ服だとな」


「なるほど、穴も綺麗に直してあるが……」


「ボロボロだったからな、少し手を入れさせてもらった」


 パーカーの至るところにあった小さな穴が綺麗に塞がれ、ちゃんと洗濯までされていた。

 俺はパーカーを着て髪を服の中に入れたまま、パーカーの前を閉じた。


「ありがとう、取りに行く手間が無くなったうえに直す手間も無くなった」


「それは良かった。さてと」


 ジェーンは葉巻を取り出すとオイルライターを取り出して葉巻に火をつけた。

 少し煙草よりも火をつけるのに時間がいるらしく、時間をかけて葉巻に火をつけるとライターをしまって葉巻を吸い始めた。


「ふう、吸うか?」


 彼女は葉巻をこっちに渡そうとしたが、俺が頭を横に振ると葉巻を口に咥えた。


「お前に渡したいものがある。来い」


 彼女はそう言うとトラックの方へと行き、俺はその後ろについていった。

 トラックは見るからに頑丈そうな見た目で銃では効き目が無いと一目見ただけでわかるようなトラックだった。


 そのトラックの後ろに行くと分厚い扉が車の後ろと同じように上に開いていて、そこからジェーンが中へ入っていった。

 俺はトラックの後ろから中へと入ると中には武器や弾薬が並び、防弾チョッキやヘルメットまであった。


「この中から好きなものを……と言うのは冗談だ。これは商品だからな、やることはできない、お前にやるれるのはこっちだ」


 彼女はライフルを取り出すとボルトを引いて銃に弾が込められていないか確認すると俺に渡した。


「これは……M1903か」


「フレデリカからのプレゼントらしいな、会ったら渡してほしいと言われていた。それの他にはガバメントがある。こっちはハンクが回収していたものを私が直した物だ」


 彼女は箱の中から拳銃を取り出して弾倉を出し、スライドを引いて銃の中に弾が入っていないことを確認するとスライドを戻してから弾倉を戻して俺に差し出した。


「それと……こっちはハンクから預かった物だ。お前のだろ?」


 受け取った銃を眺めていると彼女は折り畳みのナイフをポケットから出して俺に渡してくれた。


「ああ、間違いない、俺のだ」


 俺は受け取ったナイフをポケットへ入れ、銃をどうするか考えているとジェーンがライフルを手に取った。


「スプリングフィールドか、随分古い銃を貰ったんだな。銃はここに置いていい、今は持ち歩いていても仕方ない、ここに座っていいぞ」


 彼女は長い箱の上に腰を下ろし、俺もその隣に腰を下ろして座った。


「少し話をしようと言ったのは、お前に渡したいものを渡す為ともう1つある。この世界の歴史の勉強の為だ」


 ジェーンはそう言うと1つの本を取り出して俺に渡した。

 この世界で使われている物なのか、歴史の事が書かれた分厚い本だった。


「今から900年前、転生者だと言う奴が現れた。そいつの名前はシゲル・オオシマ、日本人だ。そいつはお人好しな奴だった、困っている奴がいるとすぐに手をさしのべて、自らが持つ力で人々を助けた」


「まるで本の物語の主人公だな」


「ああ、そうだな。だが、そいつはあまりにもお人好しだったから、悪いことをする奴らを次々と倒したり、捕まえたりした。奴隷商人を捕まえたり、危ない薬を売る奴を捕まえたり、悪行をしている奴らを片っ端から捕まえた。当時、魔王軍と呼ばれる軍勢が人々を脅かしていたが、その魔王軍をたった数名で壊滅まで追い込んだのもシゲル率いる仲間達、数名だ」


 彼女はホルスターからリボルバーを取り出すとそれを横に向けて両手で持って見つめていた。


「世界は平和になった。魔王軍は壊滅、復活するのは当分の間先の事だ。誰もが平和な日常を送れることだと信じていただろう。だが、世の中そんなに甘くはなかった。転生者の持ち込んだ異世界の武器、銃が新たな戦いの火種になった。周りの国はこれを欲しがって戦争を起こし、更に転生者を味方につけるために国は転生者が男だったことから、各国は綺麗な女性をシゲルの仲間にさせて自分の国へ誘導するように各国のトップがシゲルの仲間にさせた女性に指示した」


「色仕掛けか、それでそいつはどうしたんだ?」


 彼女はホルスターにリボルバーを入れ、葉巻を吸って葉巻を手に持ってから煙を吐き出すと再び話し始めた。


「結果を言うと各国が仕掛けた色仕掛けは通用しなかった。シゲルに戦争を止めるように説得する為の人を送っただけになってしまった国は他に打つ手を考えることになった。ある国は暗殺者を送り、またある国は殺し屋を送り、どの国にも味方しようとはせずに戦争を止めるように言うシゲルを殺そうとした。だが、シゲルの周りには多くの人が集まった。それこそ国を作れる程の人が、平和を愛する者としてシゲルを神の使いだと崇拝した。シゲルは人々の助けになるならと善意で国を作ったが、それは最悪の結果を招くことになった」


 俺は渡された本を開いて適当に流して見ているとあるページで手を止めた。

 ラーイ共和国による急速な植民地の拡大と大きく書かれた文字があるページで俺は手を止めて内容を読んだ。


「その国の名前はラーイ共和国、ラーイはロシア語で楽園を意味する単語だ。シゲルは楽園になることを願って名前をつけたのかもしれないが、彼が願った楽園とは程遠いものだった。ラーイ共和国はシゲルを崇拝しつつも周りの国への侵攻を行った。平和を愛するはずのシゲルを崇拝しているのに、何故国の人々は他の国へ侵攻して植民地にしてしまったのか、シゲルはこの事に気付くとすぐに行動に出た。だが、シゲルは騙されていたせいで行動が遅れ、もう手遅れだった。共和国を敵として見る国は多くなっていき、遂に世界中が敵になった。もうシゲルは平和を愛する者ではなく、狂気の国を作った極悪人として認識された。自分の国の人間以外にはな」


「皮肉だな。平和な世界を願って悪人を減らしていたのに、自分が悪人として認識されるとは」


「何故、シゲルが作った国の人々がこんなことをしたのかは後にして続きを話そう。シゲルは世界を敵に回した。だが、それでも尚、平和な世界を願い、周りの人々や仲間達に平和な世界を作ろうと言っていたが、もはや平和な世界など妄言だと感じた彼の仲間達は彼を殺し、その首を晒して「世界は平和など望んでいない、世界が、人々が望んでいるのはただ己の欲望のみ」と言った。彼が死んだ後は彼の仲間達が、渡された武器を国で量産し、世界征服へ向けた準備をし始めた。世界を平和にするには自分達が支配しなければならないと言ってな」


「だが、上手く行かなかったようだな……」


 俺は本を見ながら言うと彼女はまた葉巻を吸って煙を吐き出した。

 煙がトラックの中に充満し、煙草とは違った香りがしていた。


「フレデリカが自分で国を作る前の話だ。ラーイ共和国は名前を変え、ミール帝国と名乗った。ミールはロシア語で平和を意味する単語。彼は平和と言う意味の単語が好きだった。子供みたいなところがあるのも、また彼の魅力の1つだったな」


「まるでそいつとは仲間だったみたいな言い方だな」


「ふむ、お前には見せても大丈夫だろう」


 俺は思ったことを彼女に言うと彼女は葉巻を咥えて1枚の色付きの写真をポケットから取り出した。


「これは……」


 そこには8人の人が写っていた。

 写真の右端にまだ眼帯を着けていないジェーン、その隣にミラーシャと呼ばれていた女、写真の左端に博士、その隣に剣を腰に下げているハンク、そして男の隣に恥ずかしそうにして立っているウエディングドレスを着たナディアが写っていた。


「これはアナスタシアとシゲルの結婚祝いで取った写真だ。良い笑顔をしているだろう?」


「アナスタシア……まさか、ナディアは……」


「そうか、お前には偽名を使っていたのか、当然か……信用していた仲間達に夫を殺されて人間不信になったんだからな」


「……だが、今から何年前だと?」


「その写真を取ったのは大体、800年前だな」


 まるで少し前のことのように彼女は言っているが、彼女の話が本当なら人の寿命を既に越えている。

 だが、まだ彼女は見た目からして20代前半だ、

 とても800歳には見えない、それにそこまで人間が生きるなど不可能だ。


「フ、フフフ……冗談はよせ」


「本当だ。本に書いてあるだろ、ジェシカ・ワンダラーとな」


 俺は持っていた本を開いてその名前を探す、すると本当にジェシカ・ワンダラーと名前が載っていた。

 その人物は優れた美貌と身体能力を持ち、また現在軍で使用されている近接格闘術の基礎を編み出し、また魔法を一切使わずに魔王の1人を倒した人物である、と書かれていた。


「ま、まさか……そんなことが……」


「フフフ、驚いたか?」


 俺はジェーンの顔を改めて見た。

 その顔は整っていて、綺麗な長い金髪は彼女の美しさを際立たせていた。

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