遭遇、魔王軍幹部
お互いに睨み合う状態が続いている中ナディアの治療は続く、そして相手の装備を見る限りここに居た住人ではないことはわかった。
「まだ人間が残っていたとはね…」
「お前がこの村を襲撃した奴か?」
そう問いかけると女は黙ったまま、何もないところから剣を出して装備し、こっちに向かって走って来た。
その速度は速く、声を出すより先に俺の目の前まで迫ってきた。
「どおぉぉりゃぁぁぁああ!!」
俺は切られる覚悟をしていたが、切られる寸前のところでアルが女に体当たりをして女を突き飛ばした。
「くっ!」
突き飛ばされた女はそのまま空中で姿勢を立て直し、地面に着地した。
「大丈夫だったか!?」
「……ああ、すまない」
「気にすんなって!それよりどうすればいいと思う?」
「味方じゃないなら倒すしかない」
俺はポケットからナイフを取り出して、ナイフを構える。
「おいおい、ナイフで戦うのか?」
「無いよりはマシだ」
正直勝てる気はしない、俺ではあの女から逃げることも殺すこともできないと感じた。
(ナディアはまだ治療中、ハルはどこに行った?)
周りを見渡してみるがハルの姿はない、恐らく村のどこかに居るだろう。
(どうにかして伝えられればいいが…)
そこでナディアに教えてもらった魔法で試すためにアルに声をかける。
「アル、閃光弾は分かるか?」
「あぁ?馬鹿にしてんのか?」
「分かるならいい、目を閉じて、どっちの手でもいいから手を上に広げて、閃光弾を打ち上げる想像をしろ」
「んん?こ、こうか?」
アルが目を閉じて、片手を上にあげて手を広げるとそこに光の玉が出来上がり、すぐに空へと飛んで行き、空中で明るい光が輝く。
「何をふざけている!」
ふざけているわけではないと反論したいが相手には関係のない話だろう。
女はアルに向かって一直線に素早く距離を詰めてきた。
「ハッ!」
「うぉっ!危ねぇ!」
間一髪のところでアルが避け、女が次の攻撃をする前に俺がアルの後ろからナイフで女の首へ目がけて斬りかかるが、次の瞬間脇腹のあたりに強い衝撃が走り、近くにあった家の瓦礫へと飛ばされた。
「……ジョン!」
ナディアが心配したのか普段よりも大きな声で俺の名前を呼んだ。
奴の攻撃は俺には見えなかったが俺の体は切れていない、両手で剣を持っているため恐らく足で俺を蹴ったんだろう。
「邪魔よ、人間」
「おい!大丈夫か!?」
「人の心配より自分の心配をしたらどうかしら?」
意識が朦朧としている中戦っているアルと女の声が聞こえるが俺は体を起こすこともできない、脇腹のあたりが何故か熱い気がする。
(血か…)
奴に蹴り飛ばされたときに運悪く瓦礫の中にあった尖っている木材に刺さったようだ。
無理に動こうとするととても痛いがここで動かずにいるわけにもいかない、必死に体を動かさそうとするが激しい痛みに襲われて中々抜け出せなかった。
「や、やべぇ!」
「これで終わりよ!」
どうやらアルが追い詰められているようだ。
(なんとか抜けないのか?)
体を動かすと激しい痛みを感じるがそれでも無理やり体を動かして木材から体を引き抜く。
「ぐぅっ!!」
木材が脇腹から抜け、破けた服の間からは血が流れて出ていた。
「ジョン!…動いちゃダメ」
どうやら向こうの女性の治療が終わったらしく、ナディアが俺のところへ来てくれた。
「ナディア…俺は…大丈夫だ。アルを助けてやってくれ…」
「大丈夫…ハルが来てくれたから、だからジョン…動かないで…」
「そうか、来てくれたか……すまない…頼む、ナディア」
「うん、任せて」
ナディアが治療してくれている間、俺は家の瓦礫の影からハル達の様子を見ていた。
「最近の魔王軍の幹部は遊びすぎじゃないか?」
「何故私が魔王軍の幹部だと?」
「貴様、この我の声を覚えていないのか?我は貴様のことを覚えているぞ?」
「さぁ?私は物覚えが悪いのよ。誰がどんな声かなんて覚えてないわね」
女はそう言うと剣を構えなおして、ハルに剣を向けた。
「そうか…それは残念だ。貴様は優秀な幹部だったが、我のことを覚えてないばかりか剣を向けるとは……仕方ない、よく聞くがいい」
ハルがまだ喋っている時に女はハルに斬りかかった。
「我が名はハルバード、大魔王ハルバードである」
「なっ!」
ハルはどこからか剣を取り出したのかわからないがいつのまにか持っていた剣でハルは女を切った。
切られた女は紫色の炎に包まれて消えた。
「ふん、まだまだ半人前だな」
いつの間にか出していた剣から手を離し、剣を消すとさっきまで女のいた場所にハルが呟いた。
「これでもう大丈夫」
「ああ、ありがとうナディア」
さっきまで血が流れていた脇腹の傷口は跡もなく消えて、破れていたはずの服も元通りになっていた。
「凄げぇなハル!、お前カッコ良いな!」
「そうか」
「ああ!スゲェカッコ良かったぜ!どうやって剣とか出してたんだ!?俺にも教えてくれ!」
「別に教えてやっても構わないが…」
「マジで!?よしゃあ!!」
「珍しい…ハルが嬉しそうにしてる」
「そうなのか?」
(俺には無表情に見えるが…)
よく顔を見てみても、ハルは無表情で嬉しいと言うよりは面倒と言うような表情だった。
「うん、凄く嬉しそう」
「あっ!そうだ!あの女の人はどこだ?」
アルは周りを見渡し、俺も見渡してみるが、ナディアが安全な場所へ移動させたのか女性は見えなかった。
「それなら……こっちに居るよ」
「……落ち着きのない男だ」
女性は左腕は無くなったままだがどうやら命だけは助かったようだ。
「良かったぜ助かって、他にもいるんじゃないか?」
「我が見回ったが生き残りがいなかった」
「そうなのか……酷い事しやがる」
「昔は魔王軍も無闇に周辺の村や町を襲ったりはしなかったのだがな、我がナディアに倒された後、新しい大魔王が他の魔王を束ねていたのだが、そいつが誰かに殺されてからは魔王軍はやりたい放題だ」
「ごめんなさい…私がハルを倒したから…」
「いや、ナディアが我を倒さなくても何処かの魔王が計画していたらしい、我を倒さなくとも何も変わらなかっただろうな」
「何処かの魔王が?」
「そうだナディア、まだ信頼のおける部下に今調査させているところだ」
「うーん?そいつが犯人だったりしないのか?」
「何故そう思う転生者?」
「えーと、確かテレビだったかな?一番犯人と思われにくい奴が犯人って言ってたの思い出したんだ」
「なるほど……もしそうなら面白そうだ」
ハルはそう言うと指を鳴らした。
すると突然使用人のような服装をした女性が現れた。
「お呼びでございましょうか?」
「もしお前が犯人だったら、いつ殺すか教えてくれ」
「はい、当時私はとある用事で他の魔王様の所へと出かけることになっており、書類整理をひと通り終えた後、他の魔王様の所へと出発致しました。もし仮に私がシュバルツ大魔王様を殺すのであれば、書類の整理を終え、他の魔王様の所へと行くために必要な外出許可を大魔王様から得る時でしょう」
「だが大魔王を殺したのは他の魔王なのだろう?」
「はい、その件でご報告がございます。その犯人がわかりました」
「そうか。誰だ?」
「はい、シュバルツ大魔王様を殺害したのはサドゥラー様だと判明致しました」