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Unlucky  作者: 碧眼の黒猫
第八章 過去、忘れることのできない記憶
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ジョンの過去・1

「おいジョン!早く動かせって、戻ってきちゃうぞ」


「うるさいな、だったら自分でやればいいじゃないか」


「車を鍵無しで動かせるのジョンしか居ないんだから仕方ないじゃん」


 そう言ってくるのは大将気取りのエミール、いつも俺にあれを盗め、これを盗めと言ってくる。

 そのくせ、自分で盗もうとしないわがままな奴。


「はーやーくー、動かせよ」


「よし、後はこうして……できた!動かせるぞ」


 車のエンジンを動かして車を動かせるようにするとエンジンの音が車内まで聞こえてくる。


「よっしゃ、やべっ!ピザが気付いたみたいだぞ!」


 シートに座って外を見ていたエミールは太った中年の男、ピザが出てきたことを教えてくれた。


「アクセルだ!ジョン!」


「どのくらい押せばいい?」


「床に着くまで!」


「それだとすぐに事故おこすよ、半分くらいにしとく」


 アクセルペダルを手で押して車を動かすと俺には空しか見えないけど、窓から見える外の景色が動いた。

 俺とエミールはまだ七歳の子供だ。

 身長は車を運転するのに適してない為、二人で協力して車を動かす……予定だった。


「ハンドルが動かねぇ!ジョン!ブレーキ、ブレーキ!」


 俺はすぐにブレーキペダルを押し込んで車を急停止させるとエミールがドアを開けて外へ飛び出した。

 俺も後を追うようにして車から出るとピザ男が走って追いかけてきていた。


「このクソガキ共!!待ちやがれ!!」


「その豚みたいな足で捕まえてみろピザ野郎!」


 エミールは男を挑発すると走って裏路地へ逃げ込み、俺も続いて裏路地へ逃げ込んだ。


 裏路地を走り続けて大通りに出ると振り返って男が追いかけてきていないか確認すると俺達は息を整えた。


「ふぅ、ちぇっ……古そうな車だったのにハンドルロックなんか付いてやがった」


「車は諦めてそこら辺のマーケットから菓子でも盗んで一休みしようぜ」


「おう、じゃあ俺はオレンジジュースが欲しいから頼むな」


「嫌だね、欲しいものは自分の手で手に入れろよ。マーカスにも言われたことあっただろ?」


「出た、お前の母ちゃんの教え」


「マーカスは男だぞ?エミールは目が腐ってるのか?」


「そう言うお前は脳みそが腐ってるのか?お前がいつもマーカス、マーカスって言うから母ちゃんについていく子供みたいだから母ちゃんって言ってるんだぞ?」


「う、うるさいな!ほらさっさと行くぞ!」


 俺はマーカスのことをいつも誰かに話していたせいか、いつの間にか俺の母親みたいな扱いをされていることに恥ずかしくなり、誤魔化すようにしてマーケットの中へと走って入っていった。


「よし、じゃあいつも通りお前が店員の目を引き付けろ」


「わかった。捕まるなよ」


「わかってるって」


 俺達は別れると一人の店員を見つけると駆け寄って服の袖を引っ張った。


「ん?なんだいお嬢さん?」


 俺はパーカーのフードを脱いだ状態だと肩まで伸びた髪の毛のせいでよく女の子と間違えられることを利用して、店員の気を引きエミールの為に時間を稼ぐ、これがいつもやっている作戦だ。


「お母さんとお父さんを探してるの。近くにいると思うから店員さんに肩車して貰いたくて……」


 声も男の子なのか女の子わからないと言われる声だった為、この作戦で囮をやるには適役だった。


「あー迷子になっちゃったのか、お兄さんに任せて……それ!さぁ、お母さんとお父さんを探そう」


 店員はゆっくりと俺の体を持ち上げて肩車をさせてくれた。

 この人には悪いが少しの間、俺の存在しない両親探しに付き合ってもらう。


「お兄さん、こっちには居ないみたいだから反対側に向いて」


「ああ、わかったよ。どうだい?」


「もっと棚に近付いてくれないと向こう側見えないよ」


「ゴメンゴメン、これで見えるかい?」


「うん!……えーと」


 俺は少女になりきって店員に協力してもらいながら透明な両親を探す。

 俺が探しているふりをしていると後ろから袋が落ちるような音がして店員が俺を肩車したまま振り向いた。


 そこには服の中に菓子の袋を入れようとしていたのか、エミールが床に落ちた菓子を拾い上げて服の中に入れると走って行った。


(なにやってるんだ、エミール……)


「あっ!おい!ごめん、ちょっと待っててね。おい!待て!」


 店員は俺を肩から下ろすと走ってエミールを追いかけていった。

 店員の走る速さからして簡単に捕まってしまうだろうと予想した俺は目的の菓子とジュースを急いで棚から取って後を追いかけた。


 後を追いかけてやっと追い付くと予想通りエミールが店員に捕まっていた。


「放せ!この!」


「今すぐ棚に戻せば警察は呼ばないぞ!だから早くそれを返すんだ!」


「騙されないぞ!そんな嘘に騙されもんか!」


「嘘じゃない!さぁ、早く!」


 俺はフードを被り直して店員に近付くと空いている右手で股間を殴った。


「うっ!……おおぅぅぅ……」


 股間を殴られてうずくまる店員の隣を走って通り抜け、エミールと一緒に走って店の外へと出た。

 外へ出てもまだ安心せずにさっさと裏路地へ逃げ込み、走って安全なところまで逃げる。


 走って人気の無い公園に辿り着くと俺達はドーム状の遊具の中に入って息を整え始めた。


「はぁ…はぁ…ありがとう、助かった。はぁー……休むか……」


「はぁ…はぁ…まったく、なんで店員の後ろの菓子を取ろうと思ったんだ?…はぁ…はぁ、もう少しで捕まるところだった……」


「悪かったよ、つい欲しくなっちゃってさ」


「まったく……まぁいいや、菓子を食べて休もう」


 俺は持っていた菓子と飲み物を置いてお互いに戦利品を見せ合った。


「三つも大きい袋を掴んできたのか!?凄いな」


「そう言うエミールは?」


「俺はグミをいっぱい取ってきた」


 エミールは服の中から次から次へと小さい袋を出した。

 グミの他にもポテトチップス、チョコレート、クッキーと色々服の中から出した。


「ジョンがそんなに大きいポテトチップスの袋取ってくるなら取らなきゃ良かったな」


「そんなことない、それバーベキュー味のポテトチップスじゃん。俺のは塩味とサワークリームオニオン味だから取ってきて正解だよ」


「味少なくてお前が可愛そうだから俺のグミ分けてやるよ」


「じゃあ俺はサワークリームオニオンをエミールにあげるよ」


「……あんまりサワークリームオニオン好きじゃないけど、わかった」


 俺達はお互いに戦利品を分け合ってお互いに手に入れた菓子の食べ終わった後、他にやることも思い付かなかった為、スラムへと帰った。








「なるほど、女の子……今はどうなんですか?」


「何がだ?」


「今は女性みたいな振る舞いとかできますか?」


「よせ、あくまでも誤魔化す為に覚えたことだ。誰かに見せるためのものじゃない」


「ジョンさん、今は女性みたいに見えることですし、ボスに頼んでみるのはどうでしょうか?」


 確かに今の俺は髪が腰まで伸びてしまっている為、女性と間違われやすいだろうが女装をすることには抵抗がある。


「ただエリカが見たいだけじゃないのか?」


「はい、見たいです」


「素直だな、だがいくら頼まれても女装はしない」


「ジョンさん、メイド服とか修道服とかが似合いそうですね……」


「おい、話を聞いていたのか?いくら頼まれてもしないぞ」


「学生服とかミニスカートとかも似合いそう……」


 自分の世界に入ってしまっているのか、エリカは独り言を言いながら俺の話は聞いていない様子だった。


「わかった、俺が女装したくない理由を教えてやる。だから話を聞いてくれ」


 少し大きめに声を出してエリカに言うとエリカは自分の世界から出てきて真剣な顔をして聞く姿勢になった。


「俺が十五歳の時だ。俺はスラムを離れて一人で生活していた。ある日、裏路地で捨てられていた赤ん坊を拾った。見た感じはまだ一歳か二歳くらいだった」

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