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Unlucky  作者: 碧眼の黒猫
第八章 過去、忘れることのできない記憶
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人の過去

「ボス、どうしてここに?」


「もうボスと呼ぶ必要はないんだが……、まあいいか、もう出てきていいぞ」


 ボスは奪ったガバを返してくれると後ろを向いて小屋に向かって呼んだ。

 ボスの呼び声に応じて、小屋の中からジョンさんが武装して出てきた。


 ジョンさんとボスの姿を交互に見るとやっぱり似ているように感じた。

 雰囲気や身長はほとんど違いが無く、顔や喋り方も似ていた。


「さぁ、早くここから出るぞ。ゆっくり話すのは後にしよう」


 ボスはシャッターの開閉スイッチを押すとシャッターがゆっくりと上に上がっていく。

 その間にボスはBMW R75に跨がり、エンジンをかけた。


「さぁ、早く乗れ」


 ジョンさんはサイドカーに乗り、私はボスの後ろに乗って出発する準備を整えた。

 シャッターが上がりきる前にボスはバイクを走らせると頭を低くしてシャッターにぶつからないようにし、私達もボスと同じように頭を低くして外へ出た。


 外へ出ると警備隊の他に応援の部隊が駆け付けたらしく、空には戦闘ヘリ、地上には戦車や歩兵に装甲車まで来ていた。


「さて、身分証明書は誰か持ってるか?」


「いや、持っていないな」


「ボス、いきなり何を……」


「それじゃ検問所を強行突破するしかないな。掴まってろ!」


 聞く間も無く、ボスはスピードを上げて検問所を凄い速度で突破した。

 検問所には二人の兵士が立っていたけど、二人とも驚いた顔をして私達を目で追うだけで何もしてこようとはしなかった。


 雪が積もっているのにボスはスピードを少し緩めた程度で、まだ危険な速度のまま木々の間を走り抜けていく、私はボスの身体にしっかり掴まって振り落とされないように身体をボスの背中に密着するようにしてしがみついていた。


「スノーモービルじゃなくても大丈夫そうだな。このまま私のテントまで行くぞ」


「ボス……ありがとうございます」


「礼はいい、気にするなエリカ」


「はい……」


 私達はボスのテントまでお互いに一言も喋らずに雪の積もった枯れた木々の間をボスの運転するバイクで向かった。







 ジェーンの運転するバイクに揺られて数十分ほど森を走ってジェーンが止まった場所には洞窟があった。

 テントは洞窟の中に組み立てられていて、俺達はそのテントの中でジェーンの作ったボルシチを食べていた。


「美味しい、流石です!」


「うん、これは旨いな。久しぶりに旨いものを食べた」


「口に合って良かった。全部食べてもいい、私は着替えてくる」


 ジェーンはそう言うとテントから出ていき、テントの中で二人きりになった俺達はボルシチを食べながら雑談をしていた。

 彼女は最初の話題として何故かバイクのことについて熱く語り始めた。


「ジョンさんもバイクは好きなんですか?」


 やっと彼女が落ち着いたところで彼女が俺に聞いてきた。


「そうだな、バイクはパーツを売れば金になるし、丁寧に扱えば仕事の相棒としても使えるからな」


「いえいえ、そうじゃなくてですね。乗ることは好きですか?と言うことです」


「あぁ、なるほど……。そうだな、車よりはバイクの方が乗っていて気持ちが良かった。これは乗ることが好きってことでいいのか?」


「そうだと思いますよ。私もバイクに乗っていると気持ちがいいですし、何より自分で手を入れたバイクに乗って旅に出るのは更に気持ちが良いんですよ」


「バイク好きの奴が似たようなことを言っていたな、確か……世界に一つしかない自分だけのバイクに乗るのは最高の幸せ、だったな」


「その方とは気が合いそうですね。……ちなみにどんなバイクに乗ってましたか?」


 何気なくバイク好きだった奴のことを言ったからか、そいつのバイクについて聞いてきた。


「ん?……あぁ、どんな………良いバイクだ。かなり手を入れられていた」


 曖昧な表現になってしまい、彼女は目を細めて不機嫌そうな表情になった。


「それだけじゃわかりませんよ」


 彼女にそう言われることはわかっていたが、俺はあいつのバイクを思い出すのは、とても辛かった。


「………この話は止めよう、何か他の話を……」


「それじゃあ、ジョンさんの過去の話を聞かせてください」


「俺の?」


「ジョンさん、今まで誰かに過去のことを話したことは?」


「……二人だ。……二人だけなら……ある」


 思い出す限り、自分のことを気軽に話したのはマーカスとナタリアの二人だけだった。

 と言うのも、あまり人の過去に触れない奴らばかりだった為、仲間内で過去のことについて話すのは少なかった。


「良ければ、私に話してくれませんか?」


「……人の過去なんて、聞いても何も特はない」


「私は知りたいんです。貴方について……」


「……そうか、なら……エリカは他人の俺に過去を話せるか?なにも関係の無い他人の俺に」


 そう言うと彼女は皿を置いて俺の隣に来て座った。


「あまり……声を出して言える過去じゃないので、近くに座りますね」


「……本当に話すつもりか?」


「えぇ、ジョンさんの過去を知りたいですから」


「……そうか、無理はするな」


「お気遣い感謝します。でも、大丈夫です」


 彼女は微笑むと少し間を置いてからゆっくりと話し始めた。


「……私は、トラゲーディエと言う国の出身なんです。私はその国で両親を奴隷商人に殺され、まだ子供だった私は商人達に奴隷として売られました」


 俺は食べ終わった皿を置いて彼女の話に耳を傾けた。


「ある日、貴族の男性が私を買いました。その男性はとても人間味のある人で、おかしな人でした」


 彼女は懐かしむような口調で言うと目に涙を浮かべていた。

 彼女の表情からして、恐らくもう既にその男はこの世を去っているのだろうと悟った。


「その人は不器用で何処か頼りなくて、危なっかしい方でした。いつも周りの人が心配するような人でしたが、不思議と周りから好かれていたんです。でも、その周りから好かれてしまう雰囲気のせいで事件が起きてしまったんです」


 彼女は涙を拭き取ると両足を抱き抱える姿勢に変えた。


「私があの人のメイドとしてやっと一人前になって新人の指導もしていた頃でした。いつも新人が呼びに行くことになっていたのですが、その日はいつもよりも遅く、心配になった私は他の方達に迎えに行くことを伝えて部屋へ向かいました」


 彼女の話の流れから俺は先の話がなんとなくわかるような気がしたが、あくまでも憶測に過ぎないことだった為、黙って彼女の話を聞いていた。


「部屋へ着くと扉が開いていて、中をゆっくりと覗くとそこにはベットの上で裸になった血まみれの新人と同じように裸で血まみれになっていたあの人がいました。その二人をホールドオープンした状態のワルサーPPKを持ったメイド長が見下ろしていました」


「……肉体関係か」


「私は思わず声を出してしまい、メイド長がこっちを見た瞬間、私は扉から離れて無我夢中で屋敷を飛び出しました。どこまで走ったのか自分でもわからないほど走り続け、気が付いた時は何処かもわからない森の中でした。そして、そこで私は偶然ボスと出会いました」

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