外を目指して
穴を抜けた先に生ゴミが荷台に溜まったトラックがあり、俺達は生ゴミが溜まっている荷台へと落ちた。
生ゴミがクッションになってくれたことで衝撃はそれほど強くはなかったが、臭いが酷く、とても息ができるような状況ではなかった。
「はぁ…はぁ……ゲホッ…ゲホッ……臭い……」
「酷い臭いだ。さっさと下りるぞ、立てるか?」
「はい……ゲホッ…ゲホッ……気持ち悪い……」
なるべく息を止めてトラックの荷台から先に下りて続いて同じように荷台から下りてきたエリカを支えた。
「おい、大丈夫か?」
口元を手で押さえて下りてきた顔色の悪いエリカが心配になり、大丈夫か聞くと頭を横に振って大丈夫じゃないことを伝えた。
「服から凄い臭いがするぞ、脱いだ方が……いや、それは無理か」
思ったことを途中まで言ってから彼女にも女性としての恥じらいがあるだろうと思い、俺は他の方法を探した。
周りを持っているライトで照らすとトンネルのような空間の中に一つだけ洗浄用らしきホースのついた水道があることに気が付いた。
「水道みたいなのがあるな、少し待っててくれ」
トラックの反対側にあった水道に駆け寄り、バルブを回してみるとホースから水が出てきた。
「ちゃんと出るな」
一旦水を止めてエリカの元へと戻り、水で服を洗ってみる提案をしようと考えた俺はすぐに動いた。
水を止めて彼女がいるトラックの近くまで来ると嫌な声が聞こえた。
「うぷっ………うう………うっ……ヴォェェ……ゲホッ……ゲホッ……」
どうやら我慢できなかったようだ。
俺はホースを取りに水道に戻り、水を出してホースから出る水を撒き散らしながらトラックに近付いてエリカのいる反対側に向かった。
「はぁ…はぁ……ジョンさ……!!?」
俺は口元から少しだけ嘔吐した跡が残っているエリカに水をかけた。
顔は狙わずに体と足にかけて服の汚れと臭いを落とそうとしてみる。
「……ジョンさん、ジョンさん!」
エリカが少し怒っているような気がした俺は水をかけるのを止めて今度は自分の体に水をかけて自分の体を洗い始める。
「もう……ずぶ濡れになっちゃったじゃないですか……」
「すまないな、だが水をかければ少しは臭いも落とせるぞ」
「あと……その……」
「なんだ?」
彼女は少し顔を赤くして小声で何かを言おうとしていた。
「あ、あの……あまり、見ないでください……服が張り付いて体のラインが出ているので……」
そう言う彼女の足元には着ていたはずのボディアーマーが置かれ、暗くて気にしていなかったが確かに彼女の言う通り、服が張り付いて彼女の体のラインが出てしまっていた。
「いい体をしているな」
からかうように言ってみると彼女は顔を更に赤くして自分の体を庇うように抱き締めた。
「なっ、なにを言ってるんですか!?」
「ふふ、冗談だ」
「……変態ですね」
「悪かった。トラックのエンジンをかけてくれ、奴らが追ってこないとは限らないからな」
「わかりました」
エリカはトラックの扉を開けると運転席を少し覗き込んでガッカリした表情をして俺に顔を向けた。
「駄目です。キーがありません」
「無くても動く、ナイフを貸してくれ」
俺はホースを捨ててエリカからナイフを受け取って運転席に座り、ハンドルの下の辺りにあるカバーのネジをナイフを使って外し、カバーを外した。
カバーを外したらある特定の二つのコードを引きちぎって銅線を出してあわせて離すを繰り返す。
何回か繰り返すとエンジンがかかり、トンネル内にエンジンの音が響き渡る。
「凄い……映画みたいですね」
「あとはハンドルのロックだが……このトラックにはついていないらしいな」
ハンドルを軽く回してロックがかかっていないことを確認した。
「よし、これで走れるようになった。助手席に乗ってくれ」
「はい」
エリカが一旦アーマーを取りに戻ってから反対側に回ると助手席の扉を開けて乗り込み、扉を閉めたところで俺はアクセルペダルを踏んでトラックを走らせた。
ライトをつけてトンネルの中を走っていると助手席で濡れた上着を脱いで彼女はタンクトップ姿になると腕の傷口に包帯を巻き始めた。
「怪我は大丈夫か?」
「はい、大したことありませんから」
「そうか」
トラックを使ってひたすらトンネルを進んでいく、所々に何かの装置があり、リーナの屋敷に向かう際にハンクが使った装置に似ていた。
いつもは電源がついていれば、あの装置を使っているのかもしれない、そう思っていると服を着てアーマーを再び着たエリカが銃の点検をし始めた。
隣で入念に銃の点検をするエリカは真剣だったが、銃口をこっちに向けたまま弾倉を抜き、引き金に指をかけたところでまさかとは思いつつも銃口の向きを確認して少し前屈みのような状態からシートに張り付くようにして射線を避ける。
運転し辛いと思いながら横をみた瞬間、銃から銃弾が放たれて運転席側のドアガラスを割った。
「あっ……」
「……なに考えてる」
「ご、ごめん……なさい………」
「どうやら点検の必要は無いらしい、ちゃんと撃てるようだからな」
「本当にごめんなさい!銃から弾を抜くのを忘れるなんて……ごめんなさい……」
故意にやったことでは無いことは俺もわかってはいるが、殺意の無い発砲はとても恐ろしい。
「いや、死んでないからいいが、次は気を付けてくれ」
「はい……ごめんなさい」
しかし、少し手が震える程恐ろしい思いをして何もしないのがなんだか嫌だった俺は、エリカに仕返しをすることにした。
「エリカ」
「……はい」
「君は本当に軍人か?」
「うっ………ぐ、軍人……です」
「銃を扱うなら点検もできないと苦労するぞ?俺は素人だが、素人の俺よりも酷い」
「ぐっ……わ、私は…その……衛生兵なので……」
「衛生兵でも銃を握らない訳じゃないだろう?」
「そうですが……軍人だから点検が必ずできるなんて偏見ですよ!」
「そうか?じゃあ、君は軍人じゃなくてただ銃が撃てるだけの医者だな。いや、看護師か?」
「もう!ちゃんと謝ったじゃないですか!意地悪ですよ!」
「意地悪をしたくもなる。目の前を弾丸が横切ったんだからな、少しズレてたら俺の頭に風穴が空いていた」
「だからそれは何度も……ジョンさん!」
少し面白がってエリカに仕返しをしていると突然、窓に博士の研究室で襲ってきたゾンビのような実験体がドアに張り付いて窓から上半身を入れて俺の体を掴むと噛もうとしてきた。
実験体を片手で押さえてハンドルを回し、トラックを壁にぶつけて実験体をトラックから剥がした。
「一体何処から……」
「ジョンさん!前を!」
エリカに言われて前をみるとシャッターが下りている場所に大勢の実験体が集まっていた。
「全速力で行く、掴まってろ!」
アクセルを床まで踏むとエンジンが轟音を鳴らしながら加速し、かなりのスピードで実験体の群れに突っ込んだ。
群れに突っ込んで次々と実験体を轢いてもスピードはそこまで落ちることなくシャッターに突っ込み、シャッターに大穴を開けると外に飛び出した。
しかし、外に出てすぐに建物があった為、ブレーキを踏みながら右に急ハンドルをきるとトラックが横を向いて建物に突っ込み、その反動でトラックが横転してしまった。