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Unlucky  作者: 碧眼の黒猫
第七章 新たな出会い
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ルーザー隊

「何か私に聞きたいことがあれば、聞いてください」


 包帯を巻かれている間、俺が何も話さずにいると彼女はどうしても会話をしたいのか、包帯を巻いていく手を止めずに言った。

 とりあえず彼女が包帯を巻き終えるまで彼女に質問をしてみることにした。


「……あんたの仲間は?他にも仲間がいただろう」


「他の仲間ですか?階段に置き去りです。そもそも仲間と言えるのか怪しいですね。私の部隊は懲罰部隊で、ルーザー隊と呼ばれています」


「……敗者部隊?」


「そう言われることもありますが、よく言われるのは負け犬部隊……ですね」


 そう話す彼女の顔は悲しそうな表情になり、とても辛いことを思い出しているように見えた。


「何故そんな部隊に?」


 俺は何故彼女がその部隊に入れられることになったのかが気になり、質問した。


「私は………私は助けられる仲間を………見捨ててしまいました。恐怖心に負けて……自分だけ………助かってしまいました」


 彼女の手が止まり、彼女の目から涙が流れているのが見えた。

 ライト一本だけで照らされた部屋の床に彼女の頬を伝い、一瞬だけ光った涙が床に落ちた。


「……ご、ごめんなさい………私……」


 彼女は手の甲で涙を拭うが、涙は止まることなく流れ出てきているようだった。

 彼女は深呼吸をして心を落ち着かせようとしていた。

 数回深呼吸をすると落ち着いたのか、涙を拭って包帯を再び巻き始めた。


「ごめんなさい、見苦しいところを見せました」


「……すまない」


「謝らないでください、貴方は悪くありません。それで私は、仲間を見殺しにした罪で懲罰部隊に入隊させられることになりました。当然と言えば当然です」


 罪悪感を感じた俺は彼女に謝った。

 彼女がどれだけ辛いのかは俺には理解することはできないが、仲間を救えなかったことの後悔は俺も何度も味わった。


 俺はどことなく彼女は俺と似ているような気がした。


「できました。今から魔法を使って傷を塞ぎます」


 包帯を巻き終わった彼女は包帯を途中で切り、テープを使って包帯をとめた後、包帯の上から体に手で触れると手から眩しくない程度の光が出てきた。

 彼女が魔法を使って治療してくれている間に彼女の名前が気になり、俺は聞いてみることにした。


「……あんた、名前は?」


「なんですか?」


 声が小さかったせいか彼女が聞き返してきた。

 あまり人の名前を聞いたことがない俺は少し恥ずかしい気持ちもあり、声が思うように出なかった。


「……はぁ、名前だ。あんたの……名前」


「名前ですか?私はエーリカ・ベッケラートです。名前を呼ばれる時はエリカと呼ばれています。貴方は?」


「……俺はジョンだ。家名は無い」


「ジョンさん…ですね。よろしくお願いします」


「……ああ、よろしく」


 俺に家名が無いことには触れず、彼女は治療を続けた。

 エリカは俺の顔を見ると何故か微笑んだ。


「……なにがおかしい」


「いえ、なんでもありません」


 しかし、彼女の表情はまるで微笑ましい光景を見たような表情になっていた。


「なんの意味もなく微笑むのか?なんでもないわけないだろう」


「なんでもありませんよ、少し可愛いと思っただけです」


「……馬鹿にしてるのか?」


「そんなことありませんよ?」


 からかうような口調で彼女が言う、俺は余計に恥ずかしくなり、顔が熱くなっているような感覚になる。


「いいや、馬鹿にしてるだろ。顔が赤くなったから可愛いと思ったんだろう?違うか?」


「よくわかりましたね」


「……はぁ……全く、慣れてないことをするんじゃなかったな」


「いいえ、挑戦してみることはいいことです。よく頑張りました」


「……そうか」


 彼女の目を見て彼女の言葉が素直な言葉だったとわかると俺は恥ずかしいという感情が更に増して顔を背けた。

 見えないが彼女は笑っているらしく、静かな笑い声が聞こえた。


「終わりました。もう動いても大丈夫です」


「……ああ、ありがとう」


「包帯を外しましょう、体を起こしてください」


 彼女に言われた通りに体を起こすとテープを剥がして巻き付けられた包帯を取っていった。

 包帯を取り終わり、自分の体を見ると多くの傷痕が残されていた。


「どうしてこんなに痕が……」


 エリカは俺の体に残された傷痕を触りながらそう言った。


「本来は魔法を使えば傷痕も残らないのか?」


「はい、本来ならば傷痕は残らないはずなのですが……こんなことは初めてです」


 俺が質問をするとエリカは傷痕を指で撫でながら答えた。


「……撫でて治るのか?」


「あっ、すいません、無意識に撫でてしまいました。ごめんなさい」


「いや、謝るほどのことじゃない、動けるようになったのなら早くここを出ないと……」


 俺は立ち上がり、扉に視線を向けた瞬間、扉が蹴り破られて三人の兵士達が入ってくると一斉に銃を撃ち始めた。


 突然のことにとっさに振り返ってエリカを庇おうとしたが、彼女の方が動いたのが早く、逆に俺が庇われてエリカに庇われながら一緒に床に伏せた。


「……大丈夫ですか?」


「ああ、俺は大丈夫だ。……腕を撃たれたのか?」


 彼女の右腕に弾丸がかすったような傷ができて、血が流れ出ていた。


「この程度、大したことありません」


 彼女はそう言うと右脚のホルスターから左手で拳銃を抜き、足でテーブルを倒すと右手を添えずに片手で銃を撃ち、応戦し始めた。


「ジョンさん、そこに落ちている銃を使ってください」


「いいのか?」


「お気になさらず、自分の命を優先してください」


「……あぁ、わかった」


 俺は床に落ちていたサブマシンガンとライトを拾い、応戦する。

 部屋の中に銃声が響き渡り、硝煙が充満し始める。


「くっ……遮蔽物が……」


 周りを見渡して遮蔽物を探すが、隠れても大丈夫そうな場所は厨房の中ぐらいだった。

 テーブルを倒して隠れていても場所がほんの少しわからなくなる程度で弾丸は簡単に貫通されてしまうため、安全な隠れる場所にはならない。

 だが、厨房なら腰以上にある仕切りに隠れながら撃つことができる。


「エリカ、俺が援護する。その間に厨房に入ってくれ」


「わかりました。厨房に入ったら貴方を援護します」


 俺の考えていることを察してくれたのか、エリカはすぐに動く準備をしてくれた。


「頼む」


 一言だけ彼女に言うと頷いて答えてくれた。

 俺は息を整え、相手の銃撃が弱くなったところで素早く立ち上がり、銃を構える。


 俺は銃を乱射して兵士が隠れさせ、隠れた場所に今度は弾がすぐ切れないように断続的に撃ち、顔を出す隙を与えないようにすると隣にいたエリカが走って厨房の中へと入っていった。

 エリカが援護できるようになったことを確認すると俺は頭を下げて厨房の中へ向かう。

 俺が撃つことを止めるとすぐに兵士達が射撃を再開し、それにエリカが厨房から応戦して俺を援護してくれた。


「うぐっ!!」


 エリカが援護してくれている間に厨房へ入ることが出来たが、援護している間に撃たれたらしく、撃たれたエリカは仰向けに倒れた。

 俺はすぐにエリカに近付いて怪我の様子を見た。


「エリカ、大丈夫か?」


「くぅ……はい、大丈夫です。……アーマーのお陰で助かりました」


 彼女の着ている服の胸元に三つほど穴が空き、弾丸は三発とも彼女が着ていたボディアーマーが受け止めてくれていた。


「そうか、大丈夫ならよかった。まだ死なれたら困る」


「私もまだ死ぬつもりはありません」


 彼女はそう言うと立ち上がって仕切りの向こうにいる敵を撃つのではなく、壁に空いている人が入れそうなほどの穴の中を覗き込み、穴から顔を出すと顔をこちらに向けて俺に手招きをした。


「なんだ?まさか、穴の中に入るつもりか?」


「そうです。この先にゴミの回収車が止まっているはずです。それを使って地上を目指しましょう」


 彼女が穴の中へ入ろうと足から先に入れた時、後ろに何か落ちる音がした。

 振り返ると黒く缶詰を小さくしたような形をしたものが木の柄についたような見た目のものが転がっていた。


 手榴弾だ。


 俺は慌ててまだ穴の入り口で座っているエリカを押すようにして穴へ入った。


「な、なにを!」


「急げ!爆発する!」


「ちょ、ちょっと待って……うわぁぁぁぁっ!!」


 エリカを抱き抱えて穴の中へ入ると体が落ちていく感覚を全身で感じ、すぐに後ろから爆音が響いて聞こえた。

 俺達は勢いよく下へと落ちていき、俺はウォータースライダーを滑っているような気分になっていた。

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