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Unlucky  作者: 碧眼の黒猫
第七章 新たな出会い
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悪夢の世界へ

 暗い廊下を一人で歩いて別のルートを探すが、何処にも別のルートらしき所は無かった。

 非常階段へ行ってみたが、階段に荷物を置かれて一人ではどうにも持ち上がらないような物まで階段に置いてあった為、非常階段は諦めて廊下を歩いて部屋に入っては隈無く探索することを繰り返していた。


(ここも外れか………)


 床に落ちていたリンゴジュースとラベルに書いてある小瓶を拾い、近くにあった栓抜きで蓋を取って飲み干した。


「はぁ………不味いな、腐っていたか?」


 リンゴジュースにしては甘味ではなく、苦味がとても強く、のどが渇いていなければ飲み干そうとは考えなかった酷い味だった。


 飲み終わった瓶を机の上に置き、周りを見渡してみる。

 恐らく食堂と思われる広い空間の部屋には大型の冷蔵庫があり、近付いて扉を開けると中が少しだけ冷えているような気がする電源の入っていない冷蔵庫にはいくつか飲み物が入っていた。

 俺は冷蔵庫の中からぶどうジュースとラベルに書かれた瓶を取り出した。


 流石に不味い飲み物を連続で飲むのは嫌だった為、白い机の上に少しこぼしてみると色は紫色でぶどうジュースと言われても違和感のないものだった。


 次に味を確認する為に瓶の中身を少しだけ口に含んで味わってみると普通のぶどうジュースだった。

 とりあえず安心した俺は近くで横向きに倒れていた椅子を起こして座り、ライト一本で照らされた暗く広い部屋の中でぶどうジュースをゆっくり飲んで休憩をする。


 喉の渇きは潤わせることができたが、次は空腹をどうにかしたい。

 食べ物は缶詰があったがひとつ手にとって開けてみると放置したままなのか、どれも異臭を放ち、色もおかしくなって食べられるような物ではなくなっていた。


(もったいないな……)


 こうなっても茹でたり焼いたりすれば、食べられるようになるはず、加熱して菌を殺さないと菌に殺されかねない、ここにはコンロらしきものはあるがどうやっても火が着かなかった。


 仕方なく開けた缶詰を台の上に置き、テーブルの上に置いていた懐中電灯を取ろうと手を伸ばすと突然、視界がぼやけ始めて立っているのが辛くなり、睡魔に襲われた。

 ふらつきながらなんとかテーブルに手をついて立った状態を維持しようとしたが、上手く支えられずに俺は椅子を押し倒しながら倒れ、意識が遠のいていった。



 気が付くと何処かの霧で覆われた村の中で俺は立っていた。

 人の気配はない、だが何処からか声が聞こえてきた。


「人は睡眠を適切に取らなければなりません。適切に睡眠をしなければ体に様々な異常が出てきます。頭が働かなくなったり、病気への免疫が弱くなったり、酷い場合は妄想や幻覚症状に陥ります」


 その声はフリーゼの声だった。


 ここに来たのも初めてではない、ある日ここに立っている夢を見た。

 今と変わらず村は霧に覆われ、人気はない村で俺がただ一人立っているだけの夢。


「あまり無理をなさらない方が良いですよ?人は睡眠を我慢し過ぎると死んじゃいます。睡眠不足で死ぬなんてとても辛くて、惨めな死に方じゃないですか?」


 霧の中から歩いて現れたフリーゼは手に持っていたナイフを撫でていた。


「私はジョンさんのことを心配しているのです。貴方は必要最低限の睡眠しか取らずに動き回っているのですから」


 フリーゼは目の前で立ち止まると俺に抱きつきながら首にナイフを当てて、耳元で囁く。


「それとも、本当に………死にたいんですか?」


 その囁きはとても冷たく、殺気に満ちている声だった。


 この空間では何故か俺は喋ることも動くこともできない、ここでは俺は自由に動けずに服屋のマネキンのように立っていることしかできない。


「良いですよ、そんなに死にたいのなら私が殺してあげます。楽に殺してはつまらないので、じっくりいたぶって、悲鳴を上げさせながら殺しますね」


 そう言うとフリーゼは首に当てていたナイフを首から離すとナイフで胸の辺りから腹にかけてナイフで無闇に切りつけてきた。


 瞬く間に俺の体は傷だらけになり、傷から血が流れ出てくる。

 出てきた血で俺の体は赤く染まり、服はボロボロになった。


「アッハハハハ!無様ですねぇ………何もできずにただ自分の体が傷だらけになっていくのを見ていることしかできないなんて……フフ……アハハハハ!」


 俺は目の前で笑っているフリーゼに何もできずに立っていることしかできなかった。

 そして悪趣味なことに痛みに苦しむ声だけは出せるらしく、俺の叫び声は反響して村中に響いた。


「さぁ、次はどうしましょうか?そうだ、貴方の愛する人を目の前で殺してみるとかどうでしょうか?」


 フリーゼが指を鳴らすとフリーゼの近くにナタリアが現れた。


 フリーゼはナタリアに近寄るといきなり腹に目掛けてナイフを振った。

 振られたナイフがナタリアの腹に突き刺さり、ナタリアは苦しそうにナイフの刺さった場所を手で押さえるが、もう一度フリーゼに腹を刺された後にフリーゼがえぐるように動かすと口から血を吐き出し、そのまま地面に倒れた。


 偽物だと分かっていてもこれを見せられていい気分にはならなかった。


 殺してやりたい、だが、どうにもできない。


「フフ、そう……貴方は無力で何もできません、目の前で愛する人が殺されてもどうすることもできない非力な人間、そんな貴方に生きている意味なんてあるんですか?貴方の周りに居た人達は貴方のせいで死んだようなものです」


 すぐにでもこいつを黙らせてやりたい、だがどうやって?。

 俺はこいつになにもすることはできない、こいつの言う通り、俺は非力な人間だ。

 それにここは奴の空間、黙らせる方法どころか逃げることも耳を塞ぐこともできない。


「貴方が親のように慕っていたマーカス、貴方が唯一親友だと思っていたトーマスも………貴方は守れなかった」


 人の記憶を勝手に覗くな。


「今の貴方は私の物、貴方の記憶は全て見えていますよ。これは私の趣味でもありますからね。貴方は無力、誰も守れず、周りの人間は貴方の近くに居るだけで死に、貴方はたった独りぼっちになってしまう。生きていても辛いだけじゃないですか?」


 やめてくれ、そんなこと自分でもよくわかっている。

 だが、俺はマーカスとの約束を……。


「そのマーカスは死にました。彼の死ぬ前に残した遺言などに価値はありませんし、彼はただ貴方に生きてほしいと無責任なことを言っただけ、貴方が守り続けたその言葉には価値もなにもないんですよ?」


 黙れ、黙ってくれ、喋るな。


「何度でも言いましょう、彼の残した遺言は………無責任で無価値なのです」


 …………………。


「貴方もわかっていたでしょう?彼の言葉を守っていても良いことなどひとつもないと、貴方は感情に流されるような方ではない、他の人とは違い、冷静に人の言った言葉に価値があるのか無いのか、それがわかる貴方なら……わかりますよね?」


 …………好きにすればいい。


「ふふ、やっぱり貴方は賢い人ですね。十分楽しみましたし、そろそろ御別れです。では……さようなら、ジョンさん」


 フリーゼが俺の首にナイフを当てようとしてきたところで目の前の景色が突然、村もフリーゼも消えて黒一色に変わった。


 頬に少し痛みを感じながら目を開けると黒い服装をした誰かが顔を覗き込むようにして見ていた。


「起きましたか?……大変だったようですね」


 ぼやけていた視界が段々と鮮明になってくると俺の横には赤い目をした銀髪の女性が、仰向けになっている俺の横で膝立ちになって顔を覗き込むようにして見ていた。


「………何故だ」


「何がです?」


「何故、殺さない……?」


 俺がそう聞いたのは胸に付けていた部隊章が、階段で会った兵士達が付けていた物と同じだったからだ。

 声も隊長のような感じがしていた兵士の声と同じ声だった。


「何故か?それは私の気分です。助けたかったから……ではいけませんか?」


「………あんたの任務はここの掃除じゃなかったのか?」


「そうですね。ですが、気が変わりました。とにかく、貴方を助けてあげますから……」


「いや、いい……俺に構わないでくれ……」


 俺はそう言って手を貸そうとしてきた兵士の手を払った。


「そうですか……」


 残念そうな顔になり、諦めてくれたかと思ったが、彼女は俺の隣で膝で立つのをやめて、横になった。


「何してる」


「横になりました」


「見ればわかる。どうして横になる必要がある」


「膝で立っているのは膝が痛くなるので、寝てしまった方が楽だと思ったので」


「……椅子を使えば良いんじゃないか?」


「私は人と話す時は同じか、それに近い目線で話したいので」


「……はぁ、何を話すんだ。何も話すことはない、放って置いてくれないか?」


 ため息をついて目を閉じるが、目を閉じて夢に引きずり込まれたくないと思い、仕方なく目を開けて上半身を動かそうとする。


「まだ動かない方が良いですよ」


 兵士が上半身を動かそうとした俺の肩に手を置いて動こうとする俺を止めた。


「傷は浅いですが、動くと傷口が広がります。動かないで、寝ていてください」


 動くことを阻まれた俺は手で体を触ってみる。

 手の感触からして彼女の言う通り、上半身に傷がいくつもあるようだ。


 それに痛い、当たり前だが。


「……体は見ない方が良いか?」


 手から伝わってくる感触から体が酷いことになっているとわかってはいたが、見る勇気が出なかった為、体を見るか見ないかを彼女の答え方で決めることにした。


「ええ、見ない方がいいです。かなり凄いので吐かない自信があるなら見ても構いませんよ」


「……遠慮しておこう」


 今は心がボロボロで、彼女の言う通りなら耐えられる気がしない。


「また眠らないようにお話をしませんか?治療もしないといけないですし」


 彼女はバックから包帯を取り出すと慣れた手付きで俺の体に包帯を巻き始めた。


「……包帯?魔法は使えないのか?」


「使えないことはないですが、使うなら包帯で巻いてから使うようにしています。その方が私には合っているので」


「……そうか」


 俺は彼女が包帯を巻き終えるまで動かずにじっとして彼女が包帯を巻き終えるのを待っていた。

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