謎の液体の効果
廊下へ出る前に拾い上げた銃とライトを持って引きずられた跡を辿って階段へ向かう、後ろからは高笑いが聞こえてくるだけであの怪物が追ってくることはなかった。
跡を辿っていると途中でソフィと合流した。
「ジョンさん!お怪我は……………あ、あれ?」
「ソフィか、俺は大丈夫だ。早く戻るぞ」
「えっ?……あ……は、はい!」
ソフィと一緒に階段へ向かい、階段に着くと素早く階段を駆け上がった。
体がいつもより動く、さっき打たれた液体の効果なのだろうか。
いつもよりも調子のいい体を頼りに次々と階段を上っていくと二人に追い付いた。
「戻ってきたな!」
「早かったわね………えっ?」
フェアリスが俺の顔を見た瞬間驚いた表情になった。
さっきもソフィに驚かれたが、もしかすると顔が変わってしまっているのではないかと心配になった。
「なんだ?」
「い、いいえ………」
フェアリスはそれ以上何も言わずに顔を背けて俺の顔を見なかった。
「アル、俺は何かおかしくなってるか?」
「ん?うーん、いいや?なにもおかしくねぇぜ、たださっきより肌が綺麗になったな」
「肌が綺麗になった?」
自分で顔を触ってみるが触っただけでは肌が綺麗になっているかは、当たり前だがわからない。
「後ろから何か来ます!」
俺が肌を気にしていると後ろにいたソフィが何かが来ると報告してくれた。
さっきの怪物だろうと思いながら銃の準備をする。
しかし、後ろから聞こえてくる音は怪物が出していた関節の動く音ではなく、回転工具の音だった。
「チェーンソーの音か?」
階段を駆け上がって行きながら音をよく聞き、チェーンソーの音かもしれないと予想した。
「急いで上りましょう!」
俺達はペースを上げて階段を駆け上がるが、音は離れずに段々と近付いて来ていた。
後ろから追ってくる何かに追い付かれないように階段を上り続けていくと途中の階から硝煙の煙が階段に立ち込めていた。
階段を上り、上の階に行くと階段に兵士と白衣を着た女性死体などが階段に倒れていた。
死体の中には体の一部が無くなっている死体もあった。
「……酷いな」
「恐らく、あの男がやったんでしょうね。ここから先は死体だらけよ」
顔を合わせずにフェアリスはそう言った。
壁や床には銃弾が空けた穴や爆発した痕などが多く残されていた。
相当激しい攻撃をしていたらしく、壁の一部は崩れ、天井からは配線のような物も火花を散らしながら垂れ下がり、床にはライトの光で輝く薬莢と這いずってできたと思われる血の跡が残されていた。
次の階へ行っても同じような光景が続き、俺はそれを横目に見ながら階段を上り続けた。
階段を上り続けていると途中でガスマスクなどをした四人の兵士が上の階から下りてきた。
兵士達は俺達を見ると全員で銃を向けてきた。
「止まれ!」
「待って!敵じゃないわ!」
「……フェアリス?どうして貴女がここに?警備隊は許可を貰った者のみしか施設には入れないはずですが?」
「ええ、確かにそうね。だけど異常事態の時にはその規則は無効になるのよ、知らないのかしら?」
「………そうでしたか、確かにそうでしたね。私は警備隊ではないので、そんなことは忘れていました」
隊長と思われる兵士は銃を下ろすと周りの兵士も銃を下ろした。
「貴女達は………その部隊章………まさか……」
「………私としては、貴女にはここに居て欲しくなかったのですが………仕方ありません」
フェアリスがそう言うと銃を下ろした兵士達が銃を構え直した。
「……貴女は優秀な方でしたが、これが私達の仕事なので………」
「くっ……」
目の前の兵士達は引き金に指をかけ、銃を撃とうとしていた。
自分達が居るのは階段の途中、逃げるにしても遅い、撃つにしても相手の方が撃ち始めるのはどう考えても銃を構えていないこっちより速いはず、俺はどうにかしてこの状況を打開できる方法を考えたが、思い付くものは最期に道連れにすることくらいしか思い付かなかった。
「サンダーボルト!!」
俺の後ろにいたアルが叫ぶようにして言うと俺の横を稲妻のようなものが通り過ぎて兵士達に襲いかかった。
稲妻に襲われた兵士達は悲鳴をあげながら痙攣すると、震えながらその場で兵士達は倒れた。
「ふう、丁度ジョンが前にいてくれたお陰で気付かれずに魔法が使えたぜ」
後ろを振り向くとアルが手を突き出していた手を下ろしてから汗を拭う仕草をした。
「………助かった、ありがとう」
「ありがとうございます、アルさん。お手柄ですね」
「……ふう、危機一髪ね。ありがとう、助かったわ」
「へへっ、礼を言われるのは嬉しいもんだな」
「………魔法は便利だな」
アルのお陰でなんとか状況を打開できたことに安心し、階段を上って兵士の近くに行くと隊長と思われる兵士はまだ意識があるようだった。
「はぁ……はぁ………ゆ、油断………しました……うっ……まさか…………後ろに…………いた男が……うぐっ………魔法を………使える…なんて…………」
少し痙攣しながら仰向けに倒れている兵士は言うと俺の足に手を置いた。
「………でも………これで………いい…………貴女を………う、撃つことに…………ならなか…った………から…………ボ………ス…………」
俺の足に置かれた手はゆっくりと地面に落ち、兵士は微動だにしなくなった。
「誰かと間違えられたようだが………またジェーンか?」
「…………」
フェアリスに視線を向けるとフェアリスは横を向いたまま、答えようとはしなかった。
「そう……かもしれません、今のジョンさんはとてもジェーンさんに似ていますから………兵士の皆さんからも躊躇いを感じました」
「いいえ、似てないわ。そう、似てるわけがない、男なんだから………ジェーンは胸がちゃんとあるし、声だって違う」
そう言うフェアリスはソフィに言っていると言うよりは自分に言い聞かせているように感じた。
ソフィの言葉を聞いて俺はやっと二人が俺の顔を見た時に驚いたのかがわかった。
ソフィやフェアリスが顔を見た時に驚いたのは、俺がジェーンによく似ているからだったのだろう。
フェアリスも胸と声以外に違うと言った所は無かった為、俺はもう少し聞いてみることにした。
「それ以外はよく似ているのか?」
「似てないわよ!!全然似てないわ!!」
何故かフェアリスは怒るとこっちを向き、俺と目が合うとフェアリスは段々と顔を赤く染めて顔を両手で隠して後ろへ向いた。
しかし、顔を隠しても横に長い耳まで赤くなっているため、顔が赤くなっていることを隠しきれていなかった。
「ぐぅぅぅ…………似てない、似てないわ………」
「そうか、悪かった」
謝罪の言葉をフェアリスに言うが、フェアリスはこっちを向かずに顔を隠していた手を顔から離して銃を持つとそのまま階段を上って行ってしまった。
後に続くようにして二人と一緒に階段を上っていくと突然大きく揺れ始め、その揺れで俺は足を滑らせて下まで転がった。
「ジョンさん!」
ソフィが階段を下りようとした時、階段の真ん中に大穴を空けて化け物が下から出てきた。
化け物は人間の上半身部分の後ろにひっついている何かを引き剥がそうと必死にもがいていた。
俺は巻き込まれないように後ろへ這いずるようにして壁まで行くと壁に背中を付けた。
化け物が暴れまわり、壁を突き破って段々と離れて行った隙に俺は壁に手をついて痛みをこらえながら立ち上がり、壊された階段の近くまで歩いていき、階段の状態を確認すると階段は崩れ落ちて上へ上れなくなっていた。
「ジョンさん!無事ですか!?ジョンさん!」
「ああ、大丈夫だ。ソフィの方は無事か?」
上の階から聞こえてくるソフィの声に俺は答えて聞き返すと今度は上の方から振動を感じると天井のひび割れた所から崩れた壁の一部が更に崩れて落ちた。
「こっちに来てるぞ!急げ!ソフィ!」
「ま、待ってください!ジョンさんが!」
「待てねぇよ!待ってたら死んじまうぞ!」
「……ジョンさん!無事でいてください!必ず助けに来ますから!」
上から何かが壊される音が下にいる俺の所まで響いてくる。
上から伝わってくる音や振動で上であの怪物が暴れまわっていることが容易に想像できた。
俺は壊された階段以外の道を探すためにライトで暗い廊下を照らしながら進むことにした。