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Unlucky  作者: 碧眼の黒猫
第七章 新たな出会い
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再会

 男から逃げながら兵士は銃の弾倉を外すと投げ捨て、新しい弾倉をベストの胸ポケットから出すと銃に装填し、銃の部品の一部を引っ張った後に離すと部品が元に戻り、金属音が聞こえた。


 廊下を走って兵士に付いていくとライトで照らされた兵士の耳が横に長いことに気が付いた。


「着いた、ここから上の階に行ける」


 ライトで階段を照らすと非常階段よりも広く三人で横に並んで歩いても問題ない広さだった。

 俺は兵士を抱えたまま階段を急いで上り始める。


「貴方、名前は?」


 階段を上りながら兵士が名前を聞いてきた。


「ジョンだ」


「ジョンね、私はフェアリス、よろしく」


 名前をお互いに名乗り合いながら急いで階段を上る。

 先頭を行くフェアリスの後に続いて階段を上るが、装備のせいで重くなっている彼女を抱えたままでは素早く動けず、必然的に階段を上る速度も落ちる。


 先に行きながら階段の途中で俺の後ろと階段の先を警戒しているファアリスの動きは素早く、焦っているようにも見えなかった。

 彼女の動きと冷静な様子は安心感を持たせてくれた。


 しばらく階段を上り続けると誰かが銃を撃っている音が聞こえてきた。


「誰かいるみたいね、警戒して」


「仲間じゃないのか?」


 思ったことを口に出して言うと階段を上り続けながら彼女は答える。


「救助隊として下りてきたのは私を含めた三人しかここには来ていないの、他は皆怯えて上でゲートや扉、排気口等を閉鎖して待機しているはず」


 俺と彼女は階段を上る速度を落とさずになるべく音が出ないように足音を小さくして階段を上っていった。


 階段を上っている間に銃声は止み、静かになると階段を誰かが降りてくる音が聞こえてきた。

 俺は一旦抱き抱えていた兵士を降ろして、兵士が持っていた銃を借りて階段の先に狙いをつける。


「アルさん、もっと慎重にお願いします!これじゃ、ジョンさんを探す暇もありません!」


「悪ぃ、気を付けてんだけど好奇心には抗えないって言うか………明るいな、おーい誰か居るのかー?」


「人の話を聞いていませんね!?」


 聞き覚えのある男の声が上の階から響いてくる。

 できればここでは静かにしてもらいたいが、階段の先から聞こえてくる会話からして、無理な話なのかもしれない。


「こんな所で大声を出すなんて………」


「馬鹿だから仕方ない、とりあえずこの声は俺の知り合いだ。敵じゃない」


 銃を兵士に返し、再び抱き上げて階段を上ると上から聞こえてきた声の持ち主達が姿を現した。


「おっ!救助対象発見!」


「ジョンさん!御無事でしたか!」


 階段の先から現れたのは予想通り、アルベルトとソフィだった。

 二人とも兵士のような装備に身を包み、カスタマイズされた銃を持っていた。


「あぁ、死んではいない」


「良かった……その女性は?」


 ソフィが俺の腕で抱き上げられている兵士に視線を落とす。


「ああ……さっきまでは意識があったが気絶したようだ」


「何があったんですか?」


「すまないが説明は後だ。急がないと追い付かれる」


「わかりました。アルさん、ジョンさんの代わりに彼女をお願いします」


「えぇっ!?……まぁ、良いけどよぉ」


 突然のお願いにアルは答えると俺に近付いて両手を出した。


「慎重にな、それと銃を取らせてくれ」


「おう」


 俺はゆっくりとアルに兵士を引き渡すと兵士の持っていた銃を取った。


「ん?なんか濡れ……」


 アルが口走りそうになったところを素早く頬に銃口を押し付けて黙らせる。


「気のせいだ、いいな?」


 強めの口調でアルに言うと銃口を突き付けられたまま頷いた。

 アルの頬から銃口を離して階段を上り始める。


「地下四十一階………まだ先は長いか」


 階段の途中のプレートに書いてある字を見てフェアリスは呟いた。

 確かにまだ先は長い、この研究所は何故こんなにも深い場所まで作られているのかと疑問に思いながら階段を上っていく。


「その胸に付いてる部隊章はグリムリーパー隊の物ね。貴女、新入り?」


 フェアリスは階段を上る速度をゆっくり落としていくと階段を歩いて上りながら、ソフィの服の右胸についているワッペンを見てそう言った。


「はい、そうですが………」


「ふふ、珍しいわね。人間の新入りなんて、あの部隊基本的に人間は入れない筈なのに、入隊試験辛かったんじゃないかしら?」


「あ、あの……」


「あぁ、私としたことが……ごめんなさい、ちゃんと名乗らないとね。私はフェアリス、よろしくね」


「私はソフィです。よろしくお願いします」


 二人は銃から片方の手を離すとお互いに握手を交わした。


「俺の方が先輩だけどな!」


「え?」


 二人が握手を交わしている時にアルがソフィの隣に並ぶと体をフェアリスに向けて胸のワッペンを見せていた。


「は、はぁ………貴方が?」


「おう、って言っても一ヶ月くらいだからそんな離れてるわけでもねぇけどな」


「………ハルバード直属の部隊になったって話は聞いていたけれど、レベルが低くなったのね……」


 残念そうにため息を吐いたフェアリスは銃に視線を落とすと銃を撫で始めた。


「人を見た目で判断すると後悔するぜ」


「見た目通りだと思うが」


「ぐっ………そんなことねぇし、俺だってやる時はやる男なんだよ」


 アルは目を逸らしながらそう言ったが、説得力は無いに等しい。


「フェアリスさんはエルフの方のようですが……もしかして部隊に?」


 俺とアルの会話が終わると同時にソフィがフェアリスに質問をした。


「えぇ、でももう随分と昔のことね。まだジェーン直属の部隊だった時に隊長を任されていたわ」


「た、隊長をやられていたんですか、凄い……」


「昔のことよ、別に凄くないわ」


 ここでもまたジェーンと言う名前の女性が出てきたことに俺はそこまで影響を周りに与える人物なのかと思った。


「なぁなぁ、エルフって露出が大好きなファンタジー本の種族だよな?」


 少しジェーンのことを考えていると歩く速度を落として隣へ並んできたアルに小声で聞かれた。

 確かにエルフと言えば、耳が長く高身長で美しく、不老不死で魔術に長けていて、自然が好きなあまり露出が好きなのだと聞いたことはあった。


 だが、フェアリスは首から上を露出しているだけで他に露出している所はなかった。


「実際は違うんじゃないか?」


「そうだな、だけど胸がでけぇって話は本当みたいだぜ」


 アルの言う通りフェアリスの胸はソフィよりも少し大きく、服の上からでも胸を見ると胸が大きいことがよくわかる。


「脱いだら凄そうだよな」


「変なことを考えて抱えてる兵士を落とすなよ」


「わかってるって」


 アルは兵士を抱え直して再び二人の隣に並んで話に割って入った。

 俺はその様子を後ろからついていきながら見ていると何かの視線を感じ、後ろに視線を向けようとした時、足に何かが絡み付き、強く俺の足を引っ張った。


「なっ!」


「ジョンさん!?」


 一瞬にして俺は引きずられていき、持っていた銃を向ける余裕すらないまま階段から引きずり降ろされ、ひとつの部屋の中へと引きずりこまれた。


 部屋のなかに引きずりこまれた俺は蜘蛛糸のような糸に天井から宙吊りにされ、目の前には蜘蛛の体と女性の上半身が合体したような見た目の怪物がいた。

 人の形をした部分は白衣を着ていることから恐らくここの人間が何らかの理由で怪物になったのだろう。


「何か音がすると思えば………生きのいい人間じゃないか……ヒヒヒ」


「俺を食う気か?」


「いや?……私はカニバリストじゃないからね、ただ実験をさせてもらうだけさ。早くしないと私も体に意識を乗っ取られてしまう……ヒヒ」


 狂気を感じさせる目の前の生物はデスクに置かれている水色の液体が入った注射器を手に取るとそれを持って俺に近付いてきた。


「おい、何をする気だ?」


「痛いのは一瞬だ、これが成功すれば君は人間を超えられる力を手に入れられる……ヒヒ……ヒヒヒ」


「そんなもの必要な……ぐっ!」


 俺が喋っている途中で勢いよく首に注射器を俺の首に刺すと注射器の中の水色の液体を一気に打ち込んだ。


「くっくっく……さぁ、何か変化があるかね?……フフ……フヒヒヒ」


 早く実験とやらの結果を知りたいのか笑いながら俺を見ていた。

 だが、特に何も起こることはなく、変化と言えば何だか体が軽くなったのと髪が伸びたくらいだ。


「……髪が長くなったな」


「これは……違う、こんなはずは…………まさか、お前は転移者か?」


 結果に納得が行かなかったらしく、何故か俺に転移者かと聞いてきた。


「答えなくてもいい、転移者だな………なるほど、予想外だったが最後の実験はいい結果で終わりそうだ」


「何?……どういうことだ?」


 これがいい結果とは実験をするような人間じゃない俺でもいい結果ではないとわかる。

 だが、何故かこの怪物は笑顔でいい結果で終わりそうだと言った。


「フフ………フフフ………そ、そろそろ……お別れだ………永遠の命を手に入れた………転移者………」


 怪物の人の部分の肌が紫色に変わっていき、怪物が言っていた意識の乗っ取りが始まったことに俺は体を揺らしてどうにか抜け出そうと試みた。


 予想していたよりも簡単に糸が外れ、俺は部屋から出ると部屋の中から廊下に響き渡るほどの高笑いが聞こえてきた。

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