転生者との遭遇
腹を軽く叩かれて目を開けるとハルが車の後ろを見て何かを警戒しているようだった。
「おい、人間。誰か来たようだぞ?」
「誰か?」
「この気配は転生者かもしれん。こっちに近付いてくるぞ」
バックミラーを見て後ろを見た後、自分の目で後ろを見るが相変わらず霧に覆われていて周りがよく見えない。
「ハル、後ろからか?」
「そうだ。どうする?人間」
俺が転生者と戦ったところで2人の逃げる時間を稼げるかも怪しい、戦う選択は避けたいが逃げようにも霧に覆われていてどっちに逃げれば良いのかわからない。
「徒歩なら道が見えるが俺の足では追いつかれる…、車で逃げるには周りが見えない…」
逃げる方法を考えていると、突然ハルが扉を開けて霧が立ち込める車の外へと出ていった。
「簡単なことだ人間、敵なら殺せばいい」
「簡単に言うが転生者は並みの人間の強さじゃないんだろう?」
「だが私の敵ではない」
ハルがどのくらい強いか知らないが転生者を殺すと言うのだから恐らく殺せるくらいの実力はあるんだろう。
「来たようだな」
霧の中から影が現れる、その影はごく普通の人間の形をしていて俺と同じくらいの背丈だ。
「おお、やっと人を見つけた!すまねぇ!少し助けてくんねぇか!?」
霧の中から現れた男は走ってハルに近付こうとしたが、ハルに何もないところから黒い剣を出し、男はハルより少し離れた所で止まった。
「ん?、ちょっと待ってくれ戦う気は無いぜ?ただ助けて欲しいだけで…」
「ほう?、助けて欲しいのか?。お前の答え方次第では助けてやろう。転生者がここで何をしている?」
「いや、道に迷ってな。ここが何処だかわかんねぇんだ。だから道を教えーー」
「間抜けな奴だ。死ね」
ハルは持っていた剣を振って男の首をはねようとした。
それに驚いた男は剣を紙一重で避け、尻餅をついていた。
「ちょっ!待て待て!!何でそんなに殺す気満々なんだよ!」
この男の声は聞き覚えがある気がするが、気のせいと思うことにして後ろを見ることをやめ、俺は倒したままのシートに寝た。
「お前は敵か?敵でなくとも転生者なら殺すがな」
「ちょ、ちょっと待ってくれぇぇーー!!そんなこと言わないでくれよ!道を教えてくれるだけで良いんだよ!本当に!」
「何を言う、ここで会ったのが運の尽きだ。潔く諦めるんだな転生者」
後ろを見ていなくともハルが男を殺そうとしていることは簡単に想像できる。
「…何かあった?」
助手席で寝ていたナディアが起きてしまったようだ。
これだけうるさくしていれば当然だろう。
「転生者が来たらしい、今ハルが話をしている」
そう伝えるとナディアは車のドアを開けて外に出るとハルのところへ歩いて行った。
「ハル…私が話すよ」
「……そうか」
ハルは持っていた剣を手放すと剣は散り、跡形もなく消え、ハルは助手席に乗りドアを閉めた。
「ナディア1人で大丈夫か?」
「心配するな人間。ナディアは転生者に負けるほど弱くはない」
「……そうか」
「話は終わったようだ」
ハルが隣でそう呟く、ミラーを見るとナディアは男と一緒に車に戻って来た。
「ジョン…乗せてあげて」
「…ああ」
一旦運転席から降りて、席を倒して後ろに乗りこめるようにする。
「ん?お前確かあの時の奴だよな?」
気付かれたか、あの時と同じ格好をしていれば当然だろう。
この男は俺がこの世界に来る前に一緒に仕事をした男だった。
「……ああ」
「相変わらず口数少ない奴だなぁ、まあいいや、よろしくな!」
そう言って男はナディアの隣に座り、俺も席を戻して車に乗り込みドアを閉める。
「ジョンの知り合い?」
「ん?ああ、こいつとは一緒に仕事した仲間なんだぜ?」
「たった一度だけだがな」
「……良かったら…一緒に旅をする?」
「え!?良いのか?」
「……うん、私達だけだとあまり盛り上がらないから、貴方が居てくれたら…盛り上がるんじゃないかなって」
「おお!、可愛い女の子にそう言われたんじゃ断る理由もねぇし、そうしようかな!」
「調子に乗るな、転生者。もしナディアに手を出せばお前を原型が無くなるまで我が潰してやろう」
「お、おう、わかった」
「それよりどうする?さっきよりは道が見えるが車を走らせるか?」
ナディア達が話をしている内に段々霧が晴れてきた。
これなら車を走らせることができそうだと思った俺はナディア達に聞いた。
「ここで止まっていても仕方ないだろう人間?走れるならさっさと走らせろ」
「私もその方がいいと思う」
「……そうか、分かった」
車を発進させて道なりに進んで行く、この道を進んで行けば恐らく町か村には着くだろうとナディアとハルが言うのだから信じて車を走らせるしかない。
「貴方……名前は?」
「ん?俺か?俺はアルベルトって言うんだ。アルって呼んでくれ」
「私はナディア、こっちはジョンとハル。よろしくね、アル」
「おう、よろしくな!。お前ジョンって名前だったのか?」
「名前は無い、好きなように呼べ」
自己紹介をしている間、車を走らせていると村のような集落に行き着いた。
だが村からは黒煙が上がっており、まるで襲撃を受けたような様子だった。
車を一旦止めて村の様子を見る。
「なんか様子がおかしくねぇか?」
「…見れば分かる、恐らく襲撃を受けたんだろう」
ハルは車から降りて集落へと歩き出した。
俺達も後を追うように車から降りてハルを追いかける。
「…くるま?、しまっておいた」
「…ああ、ありがとう」
「しまったってどこにだ?」
「魔法で」
「魔法だって?そんなの使えるのか?」
「お前も使えるんじゃないのか?」
「そうなのか?そういやそんな事をここに来る前に凄え美女に説明された気がするな」
「…それ多分、女神様」
そんな話をしていると何処からか助けを求める声が聞こえてきた。
「……誰…か……誰……か………助け……て」
「誰か居るぞ!何処だ?」
「…こっち」
ナディアが指をさした方を見ると今にも崩れそうになっている家があった。
「そこか?じゃあ俺が見てくるぜ、ここで待っててくれ」
瓦礫をかき分けながらアルが家の中へと入っていく、しばらくするとどうやらなにかを見つけたようで家の中でアルが何かしている音が聞こえ、するとアルが女性を抱えて外に出てきた。
「おい!ひでぇ怪我してんだ!治療できねぇか!?」
「…私に任せて」
家から十分離れて瓦礫の少ないところに女性を寝かせるとナディアが手を出すと手から青い光が出てきた。
女性は左腕の肘から腕が無く、左目が開けられない状態で意識も朦朧としているようだ。
「ナディア、助かるのか?」
「うん、大丈夫」
「おい!しっかりしろ!大丈夫だからな!」
アルが必死になって声をかけているが女性は今にも死にそうだ。
ナディアが治療をしているのを見守っていると後ろから誰かが近付いてきた。
「……誰だ?」
「貴方達こそ、誰かしら?」
振り向くとそこ居たのはナディアより少し背の高く
、髪を1つに束ねた女性だった。