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Unlucky  作者: 碧眼の黒猫
第六章 囚われの身
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クローンの二人

 博士から実験の内容を聞かせてもらったが、博士が直接実験に関わっていた訳ではないらしく、情報は書類に書かれているところまでだった。


「私がやりたくないって言ったら陛下は「やりたくないなら無理にやる必要はない」って言ってくれたんだけどね~、人体実験やってる他の人達がうるさくて仕方なく助言くらいはしてあげるって言っただけなんだよ、私」


「それで書類がここにあるのか」


「その通り、私の実験の報告を見た感想を聞きたいだろうから言うとね、この実験は成功させるのはほぼ不可能、助言をしたところで何も変わらない人命を軽視した実験……かな」


「……何だって?」


 博士の言葉に俺は憤りを感じ、博士を睨み付けた。

 睨み付けるつもりは無かったが、感情を抑えられずに睨み付けてしまい、俺は博士を睨み付けたまま口を開いた。


「成功しないとわかっていてそんな実験をやっているのか?」


「怖い顔しないでよ、私は本当に実験には直接関与してないんだって」


 俺は両手を振って否定する博士を睨み付けるのをやめて床に視線を落とした。

 マーカスの行方が知りたいが、今マーカスがどんな状態で何処に居るのかもわからないことに冷静さを失い、焦りを感じた。


「くっ………どうしてマーカスが……何故なんだ……」


 呟くように言っていると横に居たティファニーが俺の背中に手を置いた。

 俺はティファニーに目を向けるとティファニーはまた目を閉じていた。


「貴方にとって……大切な人なのね、マーカスさんは……」


 目を開けてそう言った彼女は悲しそうな表情を浮かべていた。

 占いで俺がマーカスの最後を見届けたのが見えたのだろうか。


「………………ああ、大切な………家族だった」


 マーカスのことを思い出すとマーカスとの思い出がよみがえり自然と目に涙が浮かんでしまった。

 深呼吸をして落ち着きを取り戻し、涙を手で拭った。


「大丈夫?」


 博士は心配そうな顔をして聞いてきた。

 隣に居たティファニーも心配そうな表情をしながら俺の背中を撫でてくれていた。


「大丈夫だ、気にしないでくれ」


「いやいや、泣かれたら心配になるよ。そうだ、じゃあ今からマーカスの居場所を諜報部に聞いてみるよ、多分知ってるだろうし」


 博士は机の上にあった電話の受話器を取ると何処かへ連絡を取り始めた。

 諜報部が何かはわからないが、情報を得られるのならと思い、俺はソファから立ち上がって博士の机の近くに立って静かに会話を聞くことにした。


「うーん、いつもならすぐに繋がるんだけど………」


 博士は受話器を耳に当てて空いている方の手で机を指で叩きながら繋がるのを待っていた。

 しばらくしても繋がらず、博士は受話器を戻した瞬間に部屋の照明が消えた。


「ありゃ、真っ暗だ」


「停電か?」


「こんなに長く停電なんてしたことないんだけど、てか真っ暗なの好きじゃないからさっさと予備電源に切り替わらないかな~」


 俺はその場で動かずにじっとしていると誰かに抱き締められる様な感触を感じた。

 一瞬ティファニーかと思ったが、少しだけ聞こえてくるすすり泣く様な声がティファニーの声では無いことに気付き、俺は博士に聞くことにした。


「博士、ティファニー以外に誰かこの部屋に居たか?」


「いいや?多分、暗い所が嫌いな子が居たから部屋から飛び出してきて人の気配がするところに来たんじゃないかな」


「暗闇の中ここまで来たのか」


 全く照明が付くような気配がない部屋の中で誰かに抱き付かれたままでいると博士が何かを机から取り出すような音がした。

 そして、博士の顔が下から明るく照らされ、いきなり目の前に博士の顔が現れたことに驚いていると俺の体を力強く抱き締めていたはずの感触が無くなり、後ろから誰かが倒れるような音がした。

 振り向くと誰かが倒れていたが、白目を剥いてそのまま動かなかった。


「博士、悪ふざけはやめてくれ」


「あー、まさか倒れるほどとは思わなかったんだけどねぇ………ごめんね、クリス」


「クリス?……クリス?……駄目ね、気絶してる」


 ティファニーが近寄って声をかけたが、白目を剥いたまま動かず、床に倒れていた。

 仕方なく、クリスを持ち上げてソファに寝かせてクリスの目を閉じた。


 クリスの目を閉じる際に気付いたが、顔がハンクに似ていることに気付いた。

 彼女もクローンなのだろうかと疑問に思った俺は博士に顔を向けた。


「博士、彼女は……」


「彼女はクリスタル、ハンクとジェーンの細胞を使って生み出されたクローンだね。ちなみにティファニーもアナスタシアとジェーンの細胞を使ったクローン」


「そのジェーンと言う名の女性は一体何者なんだ?」


 俺はティファニーに聞かされた占いのことも気になっていたため、ジェーンとは何者なのか気になっていた。


「ジェーンは行商人だよ、色々な物を売ってくれるね。陛下も溺愛してるくらいに美人で優しく、何でもできちゃう人だ」


 そう言いながら机の引き出しから写真を一枚取り出すと俺に差し出した。

 俺は写真を受け取って見ると葉巻を吸いながら夜空を見上げる眼帯をした金髪の女性の横顔が写っていた。


「……見覚えがあるな、確か……旅館の混浴で会った女性だ」


「こ、ここ、混浴!?」


 いきなりクリスが起き上がり、顔を真っ赤にして目を見開いて俺を見てきた。


「あ、ああ、貴方まさか覗き!?変態!!……ああいや、混浴……?と言うことは二人とも合意して?」


 相当混乱しているらしく、頭が回ってないことが一目でわかった。

 こういうときに誤解を解こうと近付くとろくなことにならない、俺は近付こうとはせずに言葉で落ち着かせようと試みた。


「男は皆変態だと教えてもらったが、少なくとも俺は女目当てで混浴に入った訳じゃない、風呂に入ろうと思って近くの風呂場に入ったらたまたま混浴だっただけだ。向こうがどんな理由で混浴にいたのかは知らない」


「え?……つ、つまり……えぇっと……ぐ、偶然だった……?」


「そういうことだ」


「な、なるほど……すぅ……はぁ……落ち着け、私……ただの勘違い……すぅ……はぁ……」


 深呼吸をして自分に言い聞かせるようにして落ち着きを取り戻そうとしている様子を俺は黙って見ていた。


「よし、申し遅れました。私はクリスタル、人間ではなくある人のクローンです」


「あぁ、聞いている。俺はジョン、ジャックとも呼ばれている。どっちでも好きなように呼んでくれ」


「へー、ジョンって名前なんだ~。じゃあ親しみを込めてジャックと呼ばせてもらおうかな~」


 クリスタルとお互いの名前を紹介しあっていると横から博士が会話に割り込むようにしてそう言った。


「私もジョンよりはジャックの方がいい……」


「確かにジョンよりジャックの方が良いような気がする」


「それに何かカッコいいと思わな~い?」


「私も思った……、カッコいいよね」


「私は呼ぶときにしっくりきたからで、カッコいいとかはわからないかな……」


 ティファニーもクリスもジャックと呼ぶのが良いらしく、俺はジャックと呼ばれることになった。

 親しみのない人から呼ばれるのは少し慣れないが、俺は慣れようと思いながら黙って会話を聞いていた。


「あ、そう言えばいつまで暗いまんまなんだろう?……なんか暑いし」


「確かにな、予備電源だったか?いつになったら切り替わる?」


「いつもだったらすぐに切り替わるから一瞬暗くなるだけなんだけど、それこそ停電と気付かないくらい速くね」


 部屋を照らしているのは博士が取り出した懐中電灯一本のみ、そのため部屋の中は照らしきれていない場所があり、不気味に感じた。


「電話も繋がらないし、電気は来てないし、空調が止まって暑くなってきたしもうやだ~」


「何処か出口は無いのか?博士」


「う~ん、使うことないだろうと思ってけど……脱出用の地上に繋がってる非常階段がある……だけど……」


「なにか問題があるのか?」


 嫌そうな顔をしながら非常階段の話をする博士は机に突っ伏すと話の続きをした。


「非常階段は嫌だ、だってここ地下八十二階だし、階段使ったら結構歩くじゃん、私は体力ないからそんなに歩けない」


「疲れたら休めば………なんの音だ?」


「ん?……あー、私映画とか良く見るんだけど………この展開って……非常に不味いんじゃないかな~」


 扉の向こうから聞こえてくるうめき声の様な声が段々と近付いてくることに俺は嫌な予感がし、扉まで行き鍵を閉めて後ろへ下がると扉が激しく叩かれた。

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