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Unlucky  作者: 碧眼の黒猫
第六章 囚われの身
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ガスマスクの少女

 少女はただじっとこちらを見たまま何もしてこようとはしてこなかった。

 ヘリから出る風に煽られ、少女の着ていた服が強く揺れていた。


 少女を見ているとあることに気が付いた。

 少女の身長がナディアとよく似ている上にフードとガスマスクの横からでている髪の色もナディアと同じだった。

 それに先程ハンクが言っていた魔法を使うと言う情報もナディアの特徴と一致していた。


「ジャック!急ぐんだ!」


 リーナに呼ばれて後ろを振り返るとハンクとリーナがヘリに乗り、俺を待っていた。

 すると突然強風が吹き、ヘリは揺れながら上昇していくと回転しながら何処かへと飛んでいってしまった。


「これで良し………貴方には悪いけれど、捕まってもらうよ……」


 ガスマスク越しに聞こえた声で俺はナディアだとすぐにわかった。

 しかし、ナディアは俺に気付いていないらしく、俺を捕まえようとしているようだった。


「捕まるつもりはない」


 スカートの中に隠し持っていたスモークグレネードを取り出してピンを抜き、足元に転がすと一瞬にして俺は白い煙に包まれた。


 スカートの中にはスタングレネード、スモーク、火炎瓶がある。


 煙に包まれている間に俺は走って逃げようとすると煙の中と言うのにナディアは腕を掴んできた。

 俺はすぐにスタンを取り出してピンを抜き、ナディアと俺の間に落とすと耳鳴りの音で何も聞こえなくなり、ナディアが手を離した隙に俺は走ってその場から逃げ出した。


 森の中を走り、耳がやっと聞こえるようになってくると後ろを向いて誰も追って来ていないことを確認し、木の後ろに隠れて少し休んでから動くことにした。


「……邪魔だな、もう必要ないか」


 着けていたウィッグを外してその場に置き、スカートの中に貼り付けていたあるグレネードの数を確認する。


 スカートがあまり重くならないように二つずつしか貼り付けていないが、それでも走る邪魔になってしまっていた。

 二つ消費して少しは軽くなったが動きづらいのは変わらず、いくつか置いていこうと考えた。


 持っている物を取り出していると強い雨が降り始め、火炎瓶が使えないと判断した俺は火炎瓶二本を置いてスタンとスモークを一つずつ持って俺は再び立ち上がると光の壁が俺を囲むようにして出来上がった。


「……もう十分?」


 俺は振り返り、ナディアを見るとゆっくりと歩いて俺より少し離れた所で止まった。


「……諦めるつもりはない」


「……そう、じゃあ無理矢理諦めさせるしかないね」


 ナディアはそう言うと目の前から消え、気が付いた時には目の前で俺の腹に触れていた。

 すぐにグレネードを取り出そうとしたがそれはナディアにあいている方の手で阻まれた。


 その手から電流のようなものを感じた瞬間、目の前が白く点滅して体が激しく震えた。

 俺は体を自由に動かすことができなくなり、その場に膝から崩れ落ちた。


「な、何を………した………」


 何が起こったのか理解できなかった俺はなんとか声を絞り出して言うが、ナディアは黙ったまま俺を見ていた。


 意識が遠のいていき、目の前が暗くなって何もできないことを悟った俺は静かに目を閉じた。




 ~ヘリ機内~


「ハンク!助けに行かないとジャックが……!」


 両肩を掴んで揺すってくるリーナの両手首を掴んで私はリーナの目を見て口を開いた。


「無理だリーナ、今戻れば確実にヘリが落とされる。そうなったら私の計画は水の泡になってしまう、奴には悪いが助けには行けない」


「くっ………ジャック………」


 ようやく私の肩から手を離してくれたリーナは機内の椅子に座った。

 私としてはこれで計画通りだが、リーナには辛い想いをさせてしまったかもしれない。

 それほど奴のことを気に入っていたのだろう。


 危ないところもあったがなんとか計画通り奴を囮につかって国外へ出ることはできそうだと思うと、安心して肩の力が抜けた私は椅子に座ったまま目を閉じた。


「ハンク………」


 元気の無いリーナの声に目を開けてリーナを見ると悲しそうな表情をして私のことを見ていた。


「ハンク、ジャックは………何でもない………何処へ向かってるんだ?」


 何かを言いかけたリーナだったが、続けずに話題を変えた。

 私はそれほど奴の話に興味はなかった為、リーナの質問に答えることにした。


「リーナも知っているジェーンのところだ。ところでどうして奴にジェーンと名乗るように言ったんだ?」


 ふと思った疑問をリーナに聞くとリーナは目を合わせずに答えてくれた。


「なんて言うか……似ていたんだ。ジャックとジェーン、凄く似てたからそう名乗らせようと思った……」


「そうか、だがジェーンと奴が似ているとは思えないな」


「そう……かな?……ハンクは知らないだろうけど、ジャックはジェーンと同じように凄く優しくしてくれるんだ。それに料理も洗濯も掃除もできるところも似てるし……」


 私は似ているとは感じなかったが、どうやら私の知らない内にリーナは奴と仲良くなっていたようだ。

 ここ半年の間は脱出の準備で忙しかった為、奴と会うのが特訓するときだけだったせいで、奴をあまり知る機会がなかった。


「ふむ、じゃあ他に似ているところは?」


「なんだかんだ言っても言ったことを聞いてくれるところ!」


 私が質問するとリーナは元気よく大声で言った。


「なるほど、他には?」


「あんな感じだけど平和主義なところとか、口癖とか古い物好きだったりとか……」


 リーナが長々と似ているところを言っているのを聞いているとジェーンとは少し違うところもあったが、ほとんどがリーナの言う通り凄く似ていた。


「………認めたくないが、リーナを信じるとかなり似ているな」


「そうだろ?本当によく似てるんだよ」


 不思議に思っていると無線機から何かノイズのようなものが聞こえ、私は無線機を手に取った。


「何だ?」


 無線機から出るノイズが気になったのか、リーナが横から無線機を覗き込むようにしてきた。

 無線機の周波数を変えて聞こえるようにしようと試みると声が聞こえた。


「…………ら、ジェー………ハンク…………えてい…るか?…………………たら応………………くれ」


 ハッキリと聞こえない為、周波数を変え続けると綺麗に聞こえるようになった。


「こちらジェーン、ハンク聞こえているか?聞こえたら応答してくれ」


 間違いなくジェーンの声とわかった私は無線機のスイッチを入れて無線機に話しかけた。


「こちらハンク、無事に外に出られた。久しぶりだなジェーン」


「繋がったか、無事に外に出られたようだなハンク、記念にパーティーでもするか?」


 無線機から相変わらずのジェーンの声を聞いた私は少し懐かしく感じていた。

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