死にたくなる夢
今回はジョンの悲惨な過去の話が入ってますので、気分が悪くなるかもしれません。
誰でも死ぬほど怖いと思う夢を見たことはあるとマーカスは言っていたが、俺の見る夢は死ぬほど怖いではなく、死にたくなるような夢ばかり見ている気がする。
今見ている夢がそうだ。
「ああぁぁぁぁぁ!!」
叫びながら肉を解体する機械に入っていくのは、まだ13の子供だ。
俺は他のスラムの奴等に仲の良かった仲間達と一緒に捕まっていた。
そいつらはマーカスを殺す為に俺達を捕まえてマーカスを誘き寄せる為に俺達を捕まえたようだったが、仲間達がずっと挑発を繰り返していたため、それが原因で俺達は一人一人肉を解体する機械に入れられていった。
仲間は八人居たが、今は次々と殺されて俺を含めてもう四人しか居ない。
あと三人殺されてしまえば俺もあの機械の中へと放り込まれる。
「イヤだぁぁぁぁぁぁ!!」
泣き叫びながら暴れる仲間をスラムの奴等が三人で持ち上げるとそいつらは笑いながら機械の中へ放り込み、さっきまで泣き叫んでいた仲間は機械によってひき肉にされてしまった。
仲間はあと二人。
「さぁ~次はどいつがいいかな~?」
「い、嫌だ。死にたくない!!」
仲間の一人が逃げ出そうと立ち上がって走ろうとするとそれを再び男の大人が三人がかりで捕まえて持ち上げると暴れまわる仲間に一人が顔を蹴られた。
「チッ、痛えなクソガキが!」
仲間はなんとか逃げ出そうとしていたが、大人の力に子供が勝てるはずもなく、そのまま機械へ放り込まれてしまった。
「ああぁぁぁぁぁあああ!!」
逃げ出そうとした仲間も機械でひき肉にされた。
あと、一人……。
「んじゃあ次は~………お前にしようか。その服、マーカスのお気に入りの服だろ?その服を着てるってことはマーカスのお気に入りってことだよな?」
男は笑いながら俺に近付いてくる。
俺の背後には壁があり、もう逃げることはできない、終わりだ。
そう思って目を閉じると俺の前に誰かが立ち塞がった。
「あぁ?」
「ジャックに手を出すな……!」
俺の前に両手を広げて震える声で立ち塞がったのは、トーマスだった。
トーマスは元気がよく、活発でスラムでは人気者だった。
そんなトーマスは俺のたった一人の親友だった。
「なんだお前、先にひき肉にされたいのか?」
そう言われても俺の前から退こうとはせずに手を広げたまま、男と向き合っていた。
「へ~、おい!こいつ先にひき肉にされたいらしいぜ?さっさと入れてやれ」
男の仲間三人がトーマスを捕まえて持ち上げる。
それを見た俺はすぐに立ち上がった。
「やめろ!!」
三人の内一人の膝裏を狙って蹴りを入れると男は簡単に倒れた。
倒れた衝撃で仰向けで苦しんでいる男の腹を踏んで次を狙うがそれはもう一人の男の足に蹴られたことで阻まれた。
「ぐぁっ!!」
蹴り飛ばされて地面に叩き付けられ、身体中に痛みが走る。
男は俺に近付いて俺のパーカーのフードを取ると髪を引っ張って首を掴み、俺は無理やり顔を上げさせられた。
「ほ~ら、よく見とけよ?最後の仲間がひき肉になるところをよぉ」
「ふざ…けるな……クソ野郎……」
首を掴まれて声が出し辛かったが、なんとか声を絞り出すように言うと男は首を掴む力を強くした。
「安心しろよ。もうすぐお前もあんな風になっちまうんだ。自分がどうなるのか知っておけば安心して死ねるだろ?」
何を言っているんだこの男は、と俺は思った。
ひき肉にされると言われて安心して死ねると言う奴は世界のどこを探してもいないはずだ。
居るわけがない、もしいれば相当頭のおかしい奴だろう。
トーマスは二人の男の手から逃れようとしていたが何をしても逃れることはできないようだった。
それは当たり前かもしれない、子供が大人二人に腕を掴まれているのだから、子供の力では逃げることはできないだろう。
「トーマスっ!」
俺は必死に男を振り払おうとするが、力はこっちよりも強く、振り払うことはできなかった。
男は手を首から肩に移すと髪を引っ張ったまま背中に乗って俺を組伏せた。
「離せっ!……クソ!」
「よく見とけ、大人を舐めるとどうなるのか」
男達がトーマスを持ち上げ、機械へ放り込もうとしていた。
俺はそれを見ていることしかできなかった。
いつもそうだった。
俺は誰かが殺されそうになったり、死にそうになっているのに見ていることしかできず、助けてやることはできなかった。
「ジャック……ごめん……」
何故トーマスが謝ったのか、その時の俺には理解できなかった。
抵抗すれば逃げられるチャンスを作れるかもしれないのに、トーマスは放り込まれる直前にはもう抵抗することを止めていた。
「やめろぉぉぉぉ!!」
動かせる右手を伸ばしても、その手がトーマスに届くことはなかった。
トーマスが機械へ放り込まれた瞬間、俺は目を覚ました。
「っ!……はぁ……はぁ………」
目が覚めると周りを見渡し、自分が今いる場所があの工場ではないことに安心して深く息を吐いた。
額から汗が流れるのを感じ、服の中も汗で湿っていた。
パーカーの前を開けて熱を外へ逃がすようにしてフードを取ろうと手を頭に近付けた時にフードをしていないことに気が付いた。
フードを取ろうとした手を下ろして天井を見上げると扉が開いた。
「すまないな、思ったより時間がかかった。ん?そんなに汗をかいてどうしたんだ?」
ハンクは不思議そうな顔をして俺の顔を見た。
「何でもない、少し寝ていたら汗が出ただけだ」
「寝ていただけでそんなに汗をかくのか?……まぁいい、そんなことよりまだ体力はあるな?」
ハンクは偽物のナイフを持つと俺に手を出した。
俺はその手を掴んで立ち上がるとハンクは手を離して俺と少し距離を取った。
「お前には特別に私が特訓相手になってやる」
「どうして俺に?」
何故俺に特訓をしてくれるのか、気になった俺はそう言うとハンクは「なんとなくだ」と答えた。
「お前にはナイフ持ちの対処を覚えてもらった後、銃持ちの処法も教えてやろう」
「なんとなくでそこまで教えてくれるのか?」
ハンクは機嫌を悪くしたのか、不機嫌そうな顔になった。
「ああ、教えてやる。だからお前は黙って覚えればいい、わかったな?」
俺は黙って頷き、それ以上は何も聞かないことにした。
「それでいい、始めるぞ」
ハンクは急ぐように始めるともう一本ナイフを取って俺にナイフを投げて渡してきた。
「お前は見た技を真似するのが得意なんじゃないか?」
気が乗らない様子のハンクだが、それでも教えてくれようとしているようだ。
もしかすると俺に特訓をして何かしようと企んでいるのかもしれない。
そう思いながら俺は質問に答える。
「覚えるのは得意だが、真似をすることが得意だとは思っていない」
「さっきのリーナとの特訓で私はお前が早い段階でリーナの攻撃を見切っていたこと、リーナの投げ技を見様見真似で使ったことから、真似も得意だと私は思ったんだがな」
ハンクは構える姿勢になると俺との間合いを少しずつ詰めてくる。
「私の真似をしてみろ」
そう言うとハンクはナイフを振り、その攻撃を避けた後に俺が反撃をするとハンクはナイフを持っている右手を左手で反撃を反らし、右へ体をこっちに向けたまま避けた。
反らされた右手の勢いで体勢を崩して隙ができてしまったが、ハンクは避けた後に攻撃をすることはなかった。
体勢を直すと同時にハンクが攻撃をしてきたため、俺はハンクの真似をしてナイフを持っていない左手で攻撃を反らして左に避けるとハンクは体勢を崩すことなく、次の攻撃をしてきた。
その攻撃を避けて再び俺が反撃をすると今度は左手で右手首を掴まれてお互いの体が触れそうな距離までハンクは距離を詰めると、右手に持っていたナイフを逆手に持ち替え、ナイフを首に当てられると同時にハンクの右足が俺の右足の後ろに出されるとナイフを押し付けられ、俺はナイフの刃から逃れようとして右足に邪魔をされて後ろへ倒れた。
倒れた後にハンクから距離を取るように横へ転がり、立ち上がる。
ハンクはこっちの体勢が戻ったことを確認するとナイフを逆手に持ったままナイフを振ってきた。
俺はそれをハンクと同じように左手で右手首を掴んで距離を詰め、ナイフを逆手に持ち替え、ハンクの首にナイフを当てながら右足をハンクの右足の後ろへ出してナイフで押すとハンクは俺と同じように後ろへ倒れた。
手を離すとハンクは立ち上がるとナイフを投げ捨てた。
「なかなかやるな。やはり真似をするのが得意らしい」
ハンクは先程とは違い、気が乗らないような様子から変わって、機嫌が良くなっているようだった。
「さぁ、この調子で覚えていってもらうぞ」
そう言うとハンクは構え直し、俺も合わせて構え直して次の攻撃を待った。
あとこの話を入れて3話で50話に行くようです。
まだまだ更新していく予定ですので、引き続き読んでいただけたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございます。