特訓の前に
相変わらず接近戦の書き方に苦戦している筆者です。今回は特訓の前のお話で、次回から特訓開始になります。
簡単に料理を作り、食べ終わった後に使った皿を洗っているとハンクとリーナが厨房へ入って来た。
「ジャック、後片付けをしているのか?」
リーナは皿を洗っている俺の横に来て俺が皿を洗っているのを見て言った。
「そうだ」
そう答えて俺は洗い終わった後、手を拭いて皿を近くにあった数枚の布の中から綺麗なものを選んで皿を拭き始める。
「ジャックはできることが多いんだな。他には何ができるんだ?」
リーナの質問に自分ができることを一つずつ考えながら言ってみる。
「そうだな、掃除に洗濯、料理と家事については最低限はできると思っている」
「じゃあ、裁縫もできるのか?」
「ああ、裁縫も服作りも最低限ならできる」
「ふ、服も作れるのか……服作りの最低限ってなんだ?」
リーナは横にいたハンクに顔を向けて聞くとハンクは知らんと答えた。
「戦うこと以外なら最低限できるはずだ。仲間がいた頃は評価も悪くはなかった」
質問に答えながら俺は拭き終わった皿を元々置いてあった棚に戻した。
「戦うこと以外か……よし、じゃあ私と一緒に戦いもできるようになろう。ジャック」
「……私と一緒に?」
どういうことなのかわからず、聞き返すとリーナは背後に回ると俺を押し始めた。
「私の特訓に付き合って貰うのさ、さあ早く行くぞ!」
俺はリーナに押されて俺は厨房から出ると厨房から離れていない部屋に入れられた。
その部屋は床が木ではなく、藁のような物でできていた。
「ここは?」
「ここは接近戦の訓練をするための場所なんだ。よくハンク達が使っていたよ」
部屋の中には木製のバットや金属製のバットにパイプ、偽物のゴム製のナイフなどが置かれていた。
中には剣や槍なんかもあるが、どれも刃がゴム製のようだ。
「ナイフや剣は人を殺せないようにしてあるのに何故、使い方では人を殺せるバットとパイプなんかが置いてある?」
思った疑問をハンクに顔を向けて言うとハンクは壁の近くでホルスターを外して、上に着ていた防弾ベストを外して置いていた。
「あらゆる武器に対して対応できるようにするためだ。ナイフなどの短い武器、バットやパイプのような少し長い武器、槍のような長い武器と武器によって戦い方も変えなくてはならない、それにお互いに気を付けていれば殺すことも死ぬこともないからな」
ハンクは袖をまくると俺に近付いてきた。
「ナイフを使って私に攻撃してみろ」
「ナイフを?」
「ああ、そうだ。リーナに手本を見せるためにな」
ハンクは部屋の真ん中に歩いていき、俺がナイフで攻撃をするのを待った。
俺はハンクに言われた通り、ナイフを取ると付けていたウィッグを外して壁の近くに置いた。
「行くぞ」
ハンクに向けて言った後、俺はナイフを持ってハンクに切りかかった。
あの時とは違う方法で切りかかる。
ナイフを右手で持ち、腰の辺りから突き刺すようにナイフを出すとハンクは左に避けて左手で俺の右手首を持ちながら体を俺の右腕に体を向けるようにして、右手を左肩に置くのと同時に見えないが恐らく右足を俺の右足の後ろに出して右足が後ろへ行けないようにすると左肩を押されて俺の体は簡単にバランスを崩して床に倒れた。
「うぐっ!」
床が少し柔らかったおかげで痛みはあの時よりは少ないが、それでも声が出るほどには痛かった。
ハンクは俺の手からナイフを奪うとリーナの方を向いた。
「痛そうだな……」
「痛くなかったら意味がないだろう。今のが手本だリーナ、もっと詳しく説明したいんだが本はどこに?」
「えっと、ちょっと待ってて」
リーナは部屋から出ていき、部屋にはハンクと俺だけになった。
俺はゆっくりと立ち上がるとハンクがこっちを見てきた。
「お前は仲間が居ないのか?」
突然そんなことを聞かれ、俺は少し間を開けてハンクを見ずに答えた。
「……ああ、居ない」
「あの女は仲間じゃないのか?」
あの女とは恐らくソフィのことだろう。
確かに他人から見れば仲間に見えなくもないだろうが、ソフィは俺が巻き込んだ一般人だ。
「ソフィは違う、ただの一般人だ。俺が巻き込んだ平和に暮らせるはずだった女性だ」
「ソフィ……それがあの女の名前か」
「……?」
ハンクを見るとハンクもこっちを見ていた。
「お前は人の名前を誰にでも言うつもりか?」
「昔からそうしてきたが……」
「ならその癖は直せ、名前も個人情報だ。巻き込みたくない人間も巻き込むことになるぞ」
ハンクに言われたことを考えてみると確かにそうだ。
名前だけでもその人物の名前を言えば、俺のような犯罪者がその人物の名前を言ったことでその人物がなにも関係もないことに巻き込まれてしまう危険がある。
スラムでは皆名前で呼び合い、他のスラムの奴等も俺の仲間の名前を知っていたため、自然と誰にでも名前を言う癖がついていたようだ。
「わかった。だが他に何て言えばいい?」
「男なら彼、女なら彼女でいいだろう。何故そんなことを聞く?」
「そういう習慣が無かったからだ」
「人と話すときにいちいち名前を言っていたのか?」
ハンクは腕を組んで体をこっちへ向けた。
「そうだ」
「……誰もそれを指摘しなかったのが不思議だな」
「……そうだな、指摘はされたことがあったような気がする」
俺はハンクの方を見ると自然と目が合った。
その時、俺はハンクの目に光がないことに気が付き、ハンクの目をじっと見つめた。
「……なんだ?」
じっと見ていたせいでハンクが睨んで来たが、俺は目を離さなかった。
「ハンク、目に光が無いようだな」
「…………お前にそんなことがわかるのか」
ハンクは驚いた表情を見せると後ろを向いてこっちに背中を向けた。
「……お前も目に光が無い、その目は生きることに何も希望を持っていない目だ。なのに何故、生きている?」
背中を向けて言うハンクに俺は答えるべきか、迷った。
だが、不思議と言っても良いような気がして答えた。
「俺の育ての親の言葉を守っているだけだ。死ぬ前に言った言葉を」
「……言葉か、何て言ったんだ?そいつは」
「生きて欲しいと言った。もし俺が自分で自分を殺すようなことをしたら許さないとも言っていた」
「………生きて欲しい……か、残された者にとってどれだけ重い言葉なのか、考えてから言って欲しいな」
ハンクは顔を下に向けて泣いているのか、目を拭いていた。
「ハンク、聞き返すようだが何故ハンクは生きている?」
そう聞くとハンクは背中を向けたまま答えた。
「……死ねない体だからだ」
「何?」
死ねない体とは不老不死とでも言うのだろうか。
俺は次の言葉を待った。
「……不老不死、人間が夢見ることだ。私はその不老不死になった人間の一人、復讐するために得た力であり、復讐の代価だ。私は……死を捨て、人間をやめた人間だ」
彼女は深呼吸をして、気持ちを落ち着かせようとしていた。
そして、深呼吸をやめるとこっちを向いた。
「と言ってもお前は信じないだろう」
彼女の顔は普段通り無表情になっていたが、目には少し泣いた後が残っていた。
「いや、信じよう」
「気をつかわなくて良い」
「本当だ」
俺はハンクに歩いて近くに行くとハンクの目を見て言った。
ハンクは驚いたのか少し驚いた表情に変わって後ろに一歩下がった。
「な、なんで近付いてくる」
「……いや、こうすれば本当だと思ってくれるかと思ったんだが」
「わかった。わかったから離れろ、近付かなくていい」
ハンクは少し顔を赤くして俺から離れた。
「……別に信じなくていい、信じてもらっても困る」
ハンクはまた後ろを向いて俺に背中を向けた。
「敵に背中を向けるのはよくないと思うが?」
「お前に背後から抱き付かれようと私は対処できる」
「そうか」
ハンクが背中を向ける理由を聞いた俺は試そうと言う好奇心に駆られて背後からゆっくりと近付いてどこに手を回すかを考えた。
ハンクは胸が大きいため、脇から通せば間違いなく胸を揉む形になってしまうだろう。
そこで肩か腰だが、腰は酷い目に遭っていた奴が居たことを思いだし、俺は肩から手を回すことにした。
ゆっくりと近付き、ハンクの背中から抱き付こうとした時、ハンクが右の太腿に右手を置いた。
「あっ、そうか、スコットの銃は置いたんだったか」
「スコットの銃?」
俺は姿勢を戻してハンクが小声で言った言葉の一部を言った。
「な!?お前いつの間に!?」
どうやら相当気を抜いていたのか、俺の気配に気が付かなかったようだ。
「右足のホルスターに入れていたのはリボルバー、あれがスコットの銃か?」
「お前には関係の無いことだ」
そう言われてしまうと確かに関係は無いため、俺はそれ以上は聞かないことにした。
そこへ扉を開けてリーナが部屋へ戻ってきた。
「や、やっと見つけた。まさか落ちて袋のなかに入ってるなんて思わなかった」
相当探したのか、リーナは息を荒くして床に仰向けになって倒れた。
ハンクはリーナのところへ近寄り、リーナの手から本を取ると本の無事を確かめるように見てからしゃがんだ。
「お疲れ、少し休んでから訓練を始める。それでいいな?リーナ」
リーナは倒れたまま頷き、それを見たハンクは立ち上がると壁を背にして本を読み始めた。
俺はメイド服だとスカートが邪魔で動き辛いため、着替えるために一旦部屋を出ることにした。
「着替えてくる」
「待て、それなら私も行く」
ハンクはリボルバーの入ったホルスターを足に付けると本を床に置いた。
ハンクの準備が終わったことを確認してから俺は部屋を出て、ハンクと一緒に化粧室へ向かった。
次回は特訓開始して、アンゲリーナとジョンが特訓をしているようすを書きたいと思います。