部屋掃除
最近は展開が忙しいような気がしたので、ゆったりとした話を書いて行きたいと思います。
廊下を歩いてリーナについて行きながら外を見ると太陽は沈み始め、夕方になっていた。
「手伝って欲しいこととは?」
リーナについて行きながら手伝って欲しいことについて聞いてみることにした。
「ああ、部屋の掃除と整理を手伝って欲しいんだ。一人じゃ面倒だからそのままなんだ」
「そうか」
リーナについて行き、さっき入って来た玄関まで行かないところにあった階段を登り、上の階へ上がって行く。
フレデリカの居た場所とは違って、ここは誰ともすれ違うことがない、そもそも人の気配もなかった。
「ここにはリーナだけなのか?」
気になったことを聞いてみるとリーナの歩く速さが遅くなった。
少し間を置いてからリーナは口を開いた。
「昔は……十人以上は居たんだ。とても……賑やかだった」
リーナがうなだれている様子を見るに何かが原因でここに居た人達は居なくなってしまい、今はハンクだけなのだろう。
「ああそうだ。ジャック、部屋は好きな部屋を使っていいぞ。空き部屋は沢山あるんだ」
思い出すことが辛くなったのか、リーナは話題を変えた。
笑顔でこっちを向いていたが、その笑顔からは悲しいと言う感情が抜けきれていなかった。
「そうか」
「………ジャック?」
リーナが階段を登りながらリーナが振り向いてこっちを見た。
「ジャックはその……こんなところにいきなり連れてこられて、ここから出たいとか、逃げたいとは思わないのか?」
俺はリーナのペースに合わせて階段を登りながらリーナの質問に答えた。
「……出たいとは思うが、出ても何処にも居場所も帰りを待っている仲間も家族もいない。だから外に出ても何もない」
そう言うとリーナが階段の途中で止まって振り向いた。
「そ、そうなのか?本当に……何もないのか?」
「……ああ、何もない」
俺も登る足を止めてリーナと向かい合った。
「……辛くないのか?」
「……………死にたくなるくらい辛いな」
マーカスが死ぬ時に言ったあの言葉を俺はずっと守っていた。
自分で自分を殺すような真似、つまり自殺、そしてわざと死ぬようなことも俺はしていない。
マーカスの言葉通りにすることが俺にとっては生きる意味にもなっていた。
「……すまない」
「……いや、気にしなくていい」
「………早く、部屋に行こうか」
「……そうだな」
俺とリーナは階段を登って三階へ来ると右へ曲がると何も装飾されていない普通の木の扉をリーナが引いて開けた。
扉の奥はスラムよりも酷いゴミの山だった。
部屋の中は足の踏み場が無いほどの本や雑誌など色々散乱し、服や靴なども散乱して床が見えない状態だった。
「…………見るに堪えないな」
「そ、そんなに酷いか?……いや酷いとは思ってはいるんだが、肩を落とすほどか?」
自分では気が付かなかったが、どうやらあまりの光景に俺は自然と肩を落としていたようだ。
「綺麗好きじゃないが、これは酷すぎるな」
「そ、そうか……そんなに酷いのか……」
リーナはそんなに酷いとは自分では思っていなかったようで、俺に言われて扉のドアノブに手をかけたまま、うなだれていた。
「ここまで酷いとは思わなかったが、なんとか綺麗にしてみよう」
俺は手始めに足の踏み場を作る為に手前から掃除をしようと考えた。
「袋が欲しいな、ゴミを入れられる袋はあるか?」
「ゴミとは失礼だな。本や雑誌、服や靴もゴミじゃないぞ」
「俺にはゴミにしか見えないが……」
「とにかく!ここにある本などはゴミなんかじゃない!掃除して欲しいのは部屋の汚れだ、汚れ」
どうやら本や雑誌などは整理して、部屋の汚れを取って欲しいと言うことなんだろう。
とても骨が折れる仕事になりそうだ。
「じゃあ、袋をーー」
「だからゴミじゃないと言っているだろう!!」
俺が再び袋を頼もうとすると言葉の途中で遮られてリーナに大声でゴミではないと否定された。
「違う、落ち着け。整理する為に袋が必要なだけだ」
「本当か?捨てたら怒るからな」
疑いの目でこちらを睨むリーナだったが、ナディアやフレデリカ達が使っていた物をしまえる魔法で青い光の中から袋を取り出してくれた。
「大丈夫だ。心配ならリーナが持っているといい」
「む、そうだな。うん、そうしよう」
「整理する為に袋がいくつか必要そうだ。あと三つほど出してくれないか?」
「ああ、わかった」
俺は手始めに入り口付近に散乱している靴や雑誌などを袋へ入れていく、靴は靴だけを入れる袋を決めて入れていき、雑誌も同じように袋を決めて入れていく。
「……なんだかその姿だと様になってるな」
「ん?……あぁ、メイド服だからか。そうだな、あとカチューシャでもすれば完璧なんじゃないか?」
俺は自分の着ている服を一瞬だけ見て作業に戻った。
「カチューシャを知ってる男なんているんだな」
「ああ、服について詳しい仲間が居たからな。散々着せ替え人形にされながら説明を何度も聞かされたせいで服については自然に少し詳しくなった」
「……着せ替え人形、と言うことはもしかして……メイド服を着たのは初めてじゃないのか?」
「………ああ」
「他には何を着せられたんだ?」
一旦作業を止めて後ろを振り向くと笑っているリーナが居た。
答えたら何かされるような気がしてならなかった。
「何故そんなことを?」
「気になるじゃないか、他には何を着せられたんだ?修道服とか、ナース服とか……あっ!ミニスカートとか穿いたことがあったりとかするのか!?」
段々と近付きながら言い寄ってくるリーナを無視して俺は作業に集中することにした。
「無視しないで教えてくれ!ジャック!」
「後にしてくれ、俺は忙しい」
「ほほう、つまり私が言った物全て着たことがあるんだな?」
「そう思うならそう思ってくれて構わない」
俺は作業の手を速めながら次々と袋の中へ入れていき、気がつくと袋が既にいっぱいになりそうだった。
「ふーん、なるほどぉ……今夜は楽しくなりそうだ」
何やらリーナは俺に何かをするつもりのようだ。
再び作業の手を止めて部屋の中を見ると入り口付近は床が見え始めていた。
「……そこだけしか片付けていないわりには袋がすぐにいっぱいになったな」
「ふふふ、ジャック、袋ならいっぱいあるぞ」
何故か笑うリーナを見て俺は危険を感じた。
恐らく俺を着せ替え人形にするのが楽しみで笑っているのだろう。
俺はゆっくりと袋を受け取って部屋の掃除に戻った。
(あの時のようにまた着せ替え人形にさせられるのか、俺は)
〜回想〜
「あら、似合うじゃない。美男子って男の娘にもなれるのね」
俺はミニスカートにタイツを穿いていた。
ズボンなどでは感じない空気の流れを股間で感じていた。
「脱いでいいか?」
「パンツだけで居る覚悟があるならそうしなさい」
俺にそう言った女性はリーゼロッテ、服をかなり多く持っていて、服が大好きな変人だ。
リゼと呼ばれていて、彼女に服を渡せば金にして来てくれるのだが……時々気に入った服は自分のタンスやクローゼットにしまってしまうことがあるため、金が貰えない時もある。
スカートを穿く羽目になったのは仕事中にズボンを引っ掛けてしまい、ズボンの左足の外側が裂けて左足が見えるようになってしまったため、リゼに代えを頼んだところスカートとタイツを渡され、嫌々穿いたが穿いた後にやっぱり嫌になって他の物を頼もうとした。
「……他にはないのか?」
「ロングスカートが良いかしら?」
「いや、スカートじゃなくて普通のカーゴパンツだとかジーパンだとかあっただろう」
「さぁ?何のことかしらね。嫌ならそのスカート返してちょうだい」
これ以上言ってもスカートを取り上げられてパンツ一枚にされると思い、俺は大人しくスカートを穿いたまま約一ヶ月ほど仕事をした。
待っていてもリゼがズボンを渡してくれなかったため、仕方なく服屋へ忍び込んで盗んだカーゴパンツを穿き、スカートはリゼへ返した。
その一週間後、リゼから呼び出されて行ってみるとリゼが色々な服を用意していた。
「何してるんだ?」
「貴方に合いそうな服を選んでるの」
「……聞き間違いだと思いたい、そこにあるのは女物の服だ」
「ええ、そうよ?。貴方には今から私が選んだ服を着るのよ。色々教えてあげるわ」
「断る」
俺は外へ出ようと扉を押して出ようとした時、マーカスが扉を引いて入って来た。
「おお、ジャック…何してるんだ?こんなところで」
中へ入ってくるマーカスの為にスペースを空けようと俺は横へ移動してマーカスが入って来れるようにした。
「マーカス、ジョンに服のこと教えようと思ったんだけど、ジョンが逃げようとしたの」
「あーなるほどな、だが女物を着させる気か?」
マーカスも俺に女物の服を着せようとしているリゼに聞くと、リゼは微笑みながら口を開いた。
「マーカス、貴方ジョンの足に思わず目を奪われたってこの前言ってたわよね?」
リゼにそう言われたマーカスは困ったような表情になっていた。
「お、おい、リゼ……その話は……」
「やめて欲しいならジョンを説得しなさい」
マーカスはゆっくりと俺を見ると右手を俺の肩に置いた。
「すまん……実は、俺もお前の女装が見たいと……お前がスカートを穿いていた時に思ってな、嫌なら良いんだ。……だが、できることなら、お前の女装した姿を見せて欲しい」
「マーカス……」
ふざけずに真剣にそう言われた俺は悩んだ。
断ると言う選択をするべきだとは思っていたが、マーカスのお願いと言うこともあって断れずに俺は仕方なく、覚悟を決めてリゼの着せ替え人形となった。
〜現在〜
これ以上はあまり思い出したくないため、作業に集中して部屋を整理して行き、ついに床が見えるようになった。
いっぱいになった袋はリーナへ渡している為、袋を置く場所を考えなくて少し楽だった。
「汚れを落として欲しいと言っていたが……そこまで目立つような汚れはないな」
部屋の汚れはそれほど酷くはなく、虫なども出てくる様子はなかった。
こまめに掃除はしていたのだろうか。
「これなら箒で掃くだけで充分そうだな」
「箒より掃除機の方が楽だろう?これを使うと良い」
リーナは見たことが無い掃除機を出して渡してくれた。
使ったことは無いが見たことはあるため、なんとなく使い方は知っている。
「……ここを押せば良いのか?」
小声で言いながらスイッチを押すと勢いよく掃除機が埃を吸い始めた。
埃が吸われていき、綺麗になっていく光景は楽しく感じた。
「なかなか面白いな、確かに箒より楽だ」
「そうだろう?……それにしてもどのくらい時間経ったんだ?もう外が暗いと言うことはわかるんだが」
リーナが扉を開けて廊下を見ると廊下には明かりが灯って廊下を明るく照らしていた。
リーナが扉を開けたことで気が付いたが、かすかに雨の匂いと音が聞こえた。
「リーナ、雨が降っていないか?」
「うん?……本当だ。今夜は冷えそうだな」
リーナは窓へ近付くと外を眺めていた。
俺も掃除を終えて、掃除機の電源をを切ると窓へ近付き、外を眺めた。
外は真っ暗で何も見えないが、一瞬何かが反射したような光が窓の外に見えた。
「……何か光らなかったか?」
リーナにそう聞かれた俺は頷いた。
「ああ、何か……刃物が光るような光だったな」
「まさか幽霊だとか言わないよな……」
幽霊と言うことは無いだろうとは思いながらさっき光った場所をよく見てみるが、窓に付いた水滴のせいで遠くはよく見えなかった。
「リーナ」
「うわぁあっ!?……ハ、ハンクかぁ……脅かさないでくれ、心臓に悪いぞ……」
突然現れたハンクにリーナは驚いて俺の腕に抱き付いて来た。
ハンクだとわかった後も俺の腕を掴んでいた。
「すまない、脅かすつもりはなかった。食事の用意ができたぞ。食堂へ来てくれ」
ハンクは無表情のまま振り返ってそのまま階段を降りて行った。
ハンクが行った後もリーナは相変わらず俺の腕を掴んで離さなかった。
「そろそろ離しても良いんじゃないか?」
「え?……あ、ああ悪い、無意識に掴んでた」
リーナは手を離すと窓の外を再び見た。
「………幽霊なんていないよな。うん、いないに決まってる」
リーナはそう言って窓から離れて階段へ向かった。
俺もその後ろをついて行くようにして、リーナと一緒に食堂へと向かった。
読んでいただきありがとうございます。
まだまだ初心者ではありますが、頑張って書いていきたいと思います。