表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Unlucky  作者: 碧眼の黒猫
第五章 続く災難と不運
40/115

避難命令

今回はソフィの視点で物語が進みます。

 薄暗い狭い通路を私は女性に担がれて進んでいた。

 まだ戻ればジョンさんを助けられるんじゃないかと思うけど、彼女は避難用の通路に入った時に扉に鍵をかけていた。

 避難用の通路に入ってからも彼女は汗を流しながら走り続けていた。

 私は担がれたままただ泣くことしかできなかった。


 できれば彼を助けたかった。

 私は彼に助けてもらってばかりだったから、少しでも役に立ちたかった。

 でも、やっぱり私は何もできずにただ泣くことしかできなかった。


「ごめんなさい………ごめんなさい……」


 結局、私はどうすることもできなかった。

 私の命を救ってくれた恩人を、親切にしてくれた人を私は助けることができなかった。


 次第に彼女の走るペースが落ちていき、彼女は私を肩から降ろして壁に手をついた。

 彼女は荒くなっている息を整えると身につけていた防弾ベストを脱いで地面に置いた。


「はぁ……申し訳ありません、お客様。私が力不足なばかりに……」


 彼女は悪くない、あそこでもし私を彼女が止めてくれなければ、彼が足止めをしようとしてくれたことが無駄になってしまうところだった。


「………ジョンさん」


 来た道に視線を向けて小さい声で名前を呼んでも、通路には彼の姿が現れることはなかった。


(もしかしたらジョンさんはあの女性に……)


「……お客様、行きましょう」


 彼女は私の腰に左手を回して私と彼女は並ぶ様にして狭い通路を歩いて進んで行った。


「あの……お客様?」


「……はい」


「御名前を伺ってもよろしいでしょうか?」


「私は……ソフィ、ソフィ・ヴェルシアです」


「素敵な御名前でございますね。申し遅れました。私はセシリア、セシリア・ウィルヘルムと申します。お見知りおきください」


「セシリア…さん?」


「はい、ソフィ様」


 名前を呼ぶと笑顔でセシリアさんは返事を返してくれた。


「あ……えっと……す、進みましょう」


 何故か恥ずかしい気持ちになって、私は前を向いてセシリアさんと一緒に再び歩き出した。

 しばらく歩いて通路を進んでいるとセシリアさんの持っていた無線機から王様の声が聞こえて来た。


『こちらフレデリカ、守備隊は全隊城から撤退せよ。繰り返す、撤退せよ。こちらの被害は甚大、城は放棄し、兵士達と合流して住民の救出と避難誘導にあたれ、兵士諸君は住民の救出と避難場所への誘導に努めよ。生きているものは全員生きて国を脱出するように……避難場所で会おう、以上だ』


 無線機の内容は国から脱出して避難場所へ向かうようにと言うことだった。

 そこまでこの国は被害を受けてしまったのかと、私もセシリアさんも驚きを隠せなかった。


「そんな……」


 産まれて育った国が崩壊していく様子を見ていないせいか、私はあまり実感がわかなかった。


「……王様、元気がありませんでしたね。それに王様が嘘を仰るとは思えませんから、本当……なのでしょう……」


 両手で持っている銃を強く握りしめ、深呼吸をすると銃から左手を離して私の右手を握った。


「私が必ず御守りします。必ず避難場所まで生きて辿り着きましょう」


「は、はい!………お願い……します」


 手を握られて恥ずかしさがさらに増して、顔が熱くなって鏡を見なくてわかる。

 きっと今の私の顔は耳まで赤くなっているだろう。


 ジョンさんにお姫様抱っこで抱き上げられていた時はこんなに恥ずかしいという感情が湧かなかったのに何故、セシリアさんに手を握られただけで恥ずかしいと思ってしまうのだろう。


「あっ、ご、ごめんなさい、あぁいや、し、失礼しました!」


 私の顔が赤くなっていることに驚いたのか、セシリアさんは慌てて謝罪して手を離した。


「い、いえ、大丈夫ですよ。そんなに慌てないでください」


「はっ!……私としたことが取り乱してしまいました。申し訳ありません、ソフィ様」


「大丈夫です。……でも、お陰で少し落ち着きました。ありがとうございます」


 御礼の言葉を言うとセシリアさんはさっきと同じように笑顔になり、自然と私も笑顔になった。


「さぁ、ソフィ様。避難所へ向かいましょう」


 私は頷いて前を向いて歩き始めたセシリアさんの背中を追うようにして通路を進んで行った。

 通路を進みながら改めて周りを見渡すと通路は大人が三人ほど並んで通れるくらいで、壁はコンクリートでできているのか灰色だった。

 通路の天井はそこまで高くなく、手を伸ばして跳べば届きそうな高さで、天井からはあまり明るくないオレンジ色の明かりが通路を照らしていた。


 周りを見渡しながら歩いていると強い揺れと一緒に通路内の明かりが消えてしまい、強い揺れでバランスを崩してセシリアさんを押すように倒れてしまった。


「ソフィ様!大丈夫ですか!?」


 暗くて何も見えないけれど、セシリアさんの上に倒れていることはわかった。

 恐らく倒れそうになった時に反射的に私に怪我をさせないように下敷きになってくれたのかもしれない。

 力強い心臓の音が聞こえることから、私はセシリアさんの胸元に耳を当てているのだろう。


「は、はい、大丈夫です」


「良かった……少々お待ちください、今ライトを……」


 セシリアさんはなにかを探してポケットに手を入れて探しているのが見えなくても音でわかった。


「ありました」


 暗かった通路に白い明かりが照らされて、暗くなった通路が見えるようになった。


「ソフィ様、立てますか?」


「はい、大丈夫です。ごめんなさい……」


 私は立ち上がるとセシリアさんはライトを持って立ち上がり、通路を照らした。


「いえいえ、ソフィ様が御無事で良かった。ここも安全では無くなってきているようです。急ぎましょう」


 そう言うと通路を照らしなが早歩きで進み出したセシリアさんの後を追った。


 歩き続けて数十分くらい、セシリアさんが照らしている先に扉が見えた。

 セシリアさんはライトを持ったままもう片方の手に拳銃を持って構えて扉に近付いた。


「ソフィ様、しっかり私の後について来てください」


 セシリアさんはライトを消してしまい、扉をゆっくり開けると扉の左右を確認して、ゆっくりと進んだ。

 私はセシリアさんの後ろをついて行きながら、周りを見渡した。


 通路の出口は岩でできていて、洞窟のような空間に繋がっていた。

 少し湿気があるように感じることから水場が近くにあるのか、雨が降っているのかもしれない。


「大丈夫なようです」


 そう言って拳銃をしまうと壁に近付いてセシリアさんが手を壁に当てると壁の一部がシャッターが開くように上に壁が上がって、その中には車庫のような空間があった。

 バイクや車、装甲車に戦車と色々ある様子だった。


「こ、これは……?」


「実はここは秘密の車庫で、なんでも国が作られた時からあったとか、万が一国が敵国に攻められて落とされたとしても、ここの車両を使って逃げることができますし、予備をここに置いておくことも考えて作られたんだそうです。開けられるのは王様とその側近と兵士の皆さんだけで、知っているのも王様と側近と兵士の皆さんだけです」


 セシリアさんが中へと入って行くとセシリアは何かに気付いたのか、急に動きを止めた。

 セシリアさんについて行こうとしていた私もセシリアの後ろで止まった。


「……ソフィ様、離れてください」


「え?」


「どうやら罠が仕掛けられているようです」


 私はセシリアさんから離れるとセシリアさんは車庫の中を見渡していた。


「バイクなら動かせるかもしれません。少しお待ちください」


 そう言ってセシリアさんは車庫の中の壁に近付いて、箱のような形をした物を触っていた。

 何をしているかはわからないけれど、何かの部品を外しているようだった。


「……まずは一個」


 そう呟いて次は車の下を覗くと車の下へ入り込んでまた何かを触っている様子だった。


「これで二個目」


 何をしているのかと考えてセシリアさんの動きを見ているとセシリアさんはバイクに段々と近付きながら、何かをしている様子だった。


「これで三個目」


 そしてバイクの近くにセシリアさんは辿り着くとバイクの周りを回って見渡していた。


「こんなところに……」


 セシリアさんはしゃがむとバイクの前輪とカバー間から包みのような物を取り出すと地面へ置いた。


 次にセシリアさんはバイクに乗るとエンジンをかけた。

 力強いエンジンの音が空間の中に響き渡って、反響していた。

 セシリアさんは一旦降りるとバイクを押して車庫の中から出て来た。


「お待たせしましたソフィ様。さぁここを出ましょう」


 私は頷いてバイクに近付いた。

 バイクの後輪の上辺りに座れるようにされている席があった。

 セシリアさんが先にバイクに乗るとバイクのハンドル部分に引っかかるようにして置いてあったヘルメットを私に渡した。


「少し汚れていますが、何も無いよりはいいはずです」


 私はヘルメットを受け取って被り、セシリアさんの肩を使って後ろの席に乗るとセシリアさんはゴーグルをしてハンドルを握った。


「ソフィ様、しっかり私の体にしがみついてください」


「はい!あっ……でも何処に?」


「できれば肩に手を置いてもらうか、お腹の辺り手を置いてもらえると良いです」


 私は肩に手を置くか、お腹に手を置くか迷った。

 私はセシリアさんのお腹に手を置いて、セシリアさんがバイクを動かすのを待った。


「さぁ、行きますよ!」


 セシリアさんがそう言うとバイクがゆっくりと動き出して洞窟の中をバイクに付いたライトで照らしながら速度を上げていった。


 すぐに洞窟の外に出て私は街のあった方角を見た。

 街は赤々とした火柱を上げながら黒煙を出していた。

 まだ兵士の皆さんが残っているのか、街から銃を撃つ音も聞こえてきていた。


 すぐ上を馬車の中から見た同じ形のヘリ、ハインドが街へと飛んで行った。

次回もソフィの目線でやって行きたいと思っています。少しジョンの目線を入れます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ