少しだけの平穏
もっと書きたいのに時間が足らない……。
俺とソフィは教会から出ると裏へと回った。
そこには一つの家が建っていた。
少し黒くなっている茶色の木でできている家で出入り口の木でできた扉の右横には窓が一つあり、屋根には煙突があり、煙突からは煙が出ていた。
中へと入ろうと扉をソフィが開けるとと料理の匂いが家の中に充満していたせいか扉を開けた瞬間料理の匂いが家の中から出てきた。
「………ソフィ、この匂いはなんだ?」
「私もお手伝いさせて貰いましたから……大丈夫な……はずです」
家の中に入って料理を見なくても匂いでわかるがこれは食材が死んだ匂いだ。
俺に料理を教えたあいつにこの匂いを嗅がせたら涙を流して発狂しているだろう。
「あら、ジョンさん。お目覚めになりましたか」
異臭の漂う家の中から出てきたのはエプロンを着けたフランシールだった。
よくこんな臭いのする場所に居られるものだ。
「ああ、この匂いで完全に目が覚めた」
「それは何よりです。さぁ、上がってくださいな」
正直、入りたくはないが来てしまった以上入らない訳にはいかないだろう。
俺は躊躇っているソフィの横を通って家の中へと入って行った。
「今、料理をお持ちいたします」
「ああ」
相変わらず漂うなんとも言えないような臭い匂いが鼻を殺しに来ているがじっと我慢をして椅子に座っていた。
「……スラムの臭いよりも酷いな」
「うっ……ご、ごめんなさい!ジョンさん!」
ソフィは勢いよく立ち上がると扉を開けて外へと出て行ってしまった。
頑張って入ってきたソフィだったが流石に料理が出てくるまでに耐えられなかったようだ。
「お待たせしました」
フランシールが持ってきた皿をテーブルの上に置いた皿の上を見ると何処から取ってきたのかわからないような虫や何かの肉、そこら辺で生えていそうな草だった。
「あら、ソフィさんは?」
「ああ、新鮮な空気を吸いに行った」
「そうですか、では先に召し上がるといたしましょう」
ソフィの分の料理とは言えない料理の乗った皿を置くと自分の分の皿を持ってきてテーブルの上に置いた。
「では、頂きましょう」
「食ったら死にそうなんだが……」
「大丈夫です。これを食べるだけで1日分の栄養が取れますから」
「栄養が取れても死んだら意味がないと思うが……」
「大丈夫です。生きた虫が体内を徘徊するぐらいですよ」
つまり寄生虫という事のようだが、フランシールは俺を殺そうとしているのだろうか。
だが殺気も何も感じない、むしろ良心的なものを感じるが目の前の動く料理が良心的なものには見えない。
そして更に問題があった。
朝食とは言え、料理の量が少なすぎる。
それにこの料理からは家の中に充満している強烈な匂いはしない。
聞きたくはないが後から出てくるよりは良いと思い、聞いてみることにした。
「……料理はこれだけじゃないだろう?」
「あ、忘れていました。少しお待ちくださいな」
フランシールはキッチンへと戻り、何か液体を器へと注ぐ音が聞こえた。
そして、その器を持ってフランシールが戻ってきた。
「お待たせしました」
フランシールがテーブルの上にスープ器を置いた。
器の中には見た目はとても綺麗な紅い色の液体が入っていた。
「………酷い臭いだ。腐った生ゴミより臭いぞ」
「そうでしょうか?」
フランシールは首をかしげていた。
俺はどうしてこんな料理が作れるのかと疑問に感じた。
「食べられないのであれば、私が食べさせてあげましょうか?」
「断る」
「遠慮なさらずに」
「遠慮しているわけじゃない、危険を感じるから食べないだけだ」
そう言うとフランシールはずっと表情は笑顔だったが、嬉しそうに少しだけ声を出して笑った。
「何か可笑しいか?」
「ふふ、いえいえ……人が嫌がる姿を見るのが久しぶりで……つい嬉しくなってしまっただけです」
「……人が嫌がる姿を見るのが好きなのか?」
「ええ、とっても好きですが……私の友人に怒られてしまうので、血を流したり、殺したり、精神を壊すといったような真似はしませんよ」
「それならこの料理も嫌がる姿を見るためか」
「そうです……と言いたいのですが、これは私がいつも食べているもので、人に食べさせるようには考えていない料理です」
「つまり……いつも通りに自分が食べるための料理を作ってしまったと?」
「お恥ずかしながらその通りです」
少し顔を赤くしてフランシールはそう言った。
しかし、こんな料理を食べる人間がいるわけがない、フランシールは一体何者なのか。
「フランシールは……一体何者なんだ?」
「おや?気になりますか?」
「こんな料理を食べるような人間はいないだろうからな」
「確かにそうですね………では、お教えいたしましょう。私はーー」
フランシールが自分の正体を話そうとした時、何かに気付いたフランシールが話すことをやめたことで外からヘリの音が近付いてくることに俺も気付いた。
フランシールは椅子からゆっくりと立ち上がって窓の外を見た。
「これはこれは、随分と大勢で来ましたね」
俺は椅子から立ち上がって窓の外を見るとヘリの大群が飛んでいた。
「ジョンさ……うっ!」
ソフィが慌てて外から家の中へと入って来ると鼻を右手で覆うようにした。
「大丈夫ですよ。恐らく通りすぎるだけでしょうから」
フランシールがそう言うとヘリの大群はすぐ上を次々と通り過ぎて行く。
その内の二機が大群から離れて花畑へと着陸し、ヘリの中から兵士が出てきた。
「どうやら通り過ぎるだけじゃないらしい」
「あら、できれば通り過ぎて貰いたかったのですが……仕方ありませんね。あれは、どうやら精鋭部隊……ハントレス隊のようですね」
窓に映るフランシールの目が一瞬だけ開いたように見えた。
もう一度、窓に映るフランシールの顔をよく見るが目は開いていなかった。
「女狩人?まさかとは思うが、あそこにいるのは全員女か?」
「ええ、ですが女性だけと言ってもあの部隊はかなり強いですよ。大体の隊員が転生者相手に単独で勝てるほどです」
「俺は転生者の強さをよくわかっていない、もっと他に強さがわかるような説明はできないか?」
「そうですか、では……たった独りで飢えている肉食動物に囲まれても無傷で生還するほど強いと言えば、わかりますか?」
「大体はわかる……」
「そんな感じです」
「そうか、わかった。それで?どうするんだ?」
降りてきた兵士の強さをなんとなく理解したため、これからどうするのかフランシールに聞いた。
「そうですね……どうしましょうか?」
そんなことを話している内に兵士は俺達の居る家の前まで来ていることが窓から外を見なくても、足音でわかった。
その足音に気付いたフランシールは扉を開けた。
「皆様!おはようございます!」
扉を開けたフランシールは大声で銃を持った兵士達に言った。
俺は窓からあまり顔を出さないようにしてフランシールと兵士達の様子を見ていた。
ソフィも外の様子が気になるのか、俺の後ろから窓の外を覗いていた。
兵士達は素早く持っていた銃の銃口をフランシールへと向けたが、フランシールを見た兵士達は一歩ずつ後ろへと下り始めた。
「おや、流石は精鋭部隊の皆様ですね。もう私が人間では無いと気付きましたか、逃げるなら早く逃げた方がよろしいですよ?」
兵士達は一歩ずつ下がって行くが、兵士の一人が銃の引き金に指をかけていることがわかった。
俺はフランシールを援護しようとホルスターから銃を抜いて扉を開けたが、扉を開けるとさっきまで見ていた光景ではなくなっていた。
兵士達の首から血が吹き出し、呻き声のようなものを発しながら兵士が次々と倒れた。
俺が窓から見ることをやめて扉を開けるまでの間に一体何があったのか、俺は理解できなかった。
「ハァ……血を浴びるのは何年ぶりでしょう。もう、覚えていませんね」
ひとりの兵士の首を血塗れになったフランシールが右手で掴み上げていた。
そのままフランシールが掴み上げていると兵士の腕がフランシールの右手から離れ、フランシールは兵士の首から手を離した。
離された兵士は力無くその場に倒れた。
騒ぎを聞きつけたのか、教会の中に入っていたと思われる兵士達が外へ出てくるとフランシールに向けて銃を撃ち始めた。
流れ弾がこちらにも飛んできたため、俺は家の中へと戻り、窓からフランシールの様子を見ていた。
フランシールは弾を避けながら魔法から取り出した銃を左手で持って兵士達を撃った。
撃たれた兵士は次々と倒れて行ったが、上空を飛んでいたヘリがフランシールを機銃とロケットで攻撃し始めた。
飛んでいたヘリは俺達を襲ったヘリとは形が少し違うようだったが、似たようなヘリだった。
ロケットによって出た煙でフランシールの姿が見えなくなったが、ヘリは攻撃をし続けていた。
攻撃を続けていたヘリは弾が切れたのか、攻撃をやめて低空で煙が晴れるのを待っているようだった。
やがて煙が晴れるとフランシールの姿は何処にもなかった。
先ほどまでフランシールの居たはずの場所にはヘリの攻撃に巻き込まれた兵士達の死体があるだけだった。
俺はフランシールを家の窓から探していると突然、ヘリが揺れ始め、ヘリは回転しながらそのまま高度が下がって行き、教会に突っ込んだ。
「あらあら、これは修復が大変そうですね」
後ろから声がし、俺は振り向くとそこには外にいたはずのフランシールが血塗れになった姿で立っていた。
相変わらず笑顔のままだった。
「いつの間に……」
「まぁ、その必要はなさそうですが……」
「どういう事だ?」
「そろそろ私の友人の街へ向かおうかと思っていましたから」
「その友人とは?」
俺はフランシールが友人と言っている人物のことが気になり、フランシールに聞いた。
「フレデリカと言う、今は国の王様をしている元魔王ですよ」
フランシールは料理の腕が壊滅的なわけではないです。うっかり自分用の料理しか作らなかったのです。