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Unlucky  作者: 碧眼の黒猫
第四章 忘れ去られた修道女
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謎の修道女

 修道女姿の人物は両手を前で重ねた状態で目を閉じたまま歩き、俺達に気付いたのか数十メートル先で止まった。


「あら?こんな場所に何か御用でしょうか?」


「いや、逃げている内にここにたどり着いただけだ」


 修道女の問いかけにそう答えると修道女は微笑みを浮かべていた。


「逃げているうちにですか、随分とお疲れのようですね……私の教会で休んではいかがでしょうか?」


「教会で?……随分と古そうな感じのするあの教会か」


 修道女の後ろに見える古い教会らしき建物を見て言う。


「確かに古い教会ですが、ここよりも安全ですよ?」


 見るからに怪しげな雰囲気の修道女に俺は関わりを持ちたくはなかったが安全な場所を探していたため、俺はどうするか悩んでいた。


「ジョンさん……あの……」


「どうかしたか?」


「その……なんとなくですが……多分、この修道女さんは信じても大丈夫な気がします」


「なんとなく……か」


 ソフィのその一言で悩むことをやめ、教会で休むことにした。


「わかった。休ませてもらいたい」


「では、一緒に向かいましょうか」


 修道女は振り返ると来た道を戻るようにして歩き出し、俺はソフィを抱え直すと修道女について行くようにして教会へ向かう。


「ここに人が来るのは久しぶりですね。もう何十年と来ていませんでしたから」


 修道女が前を向いたまま独り言のように呟いた。


「何十年もですか?」


「はい、ここは人々の心を癒すための場所なのですが……近くの温泉の方が体と心を癒してくれるらしく、ここには人が来なくなってしまったのです」


 修道女の独り言にソフィが反応すると修道女は前を向いたまま話をした。


「でも何十年も人が来ないなんて……」


「恐らくこの場所はもう誰も覚えていないのでしょう。誰も来ないので私は一人でここで花の世話だけをしていたのです」


「一人でこの数の花の世話だけをしているとは……苦労しないのか?」


 俺は周りの花畑を見渡しながら修道女に聞いた。


「苦労はしませんよ。ここの花はどんな環境でも咲き続けてくれる花達ですから、水やりと虫に気を付ければ大丈夫です」


「……なるほど」


 そんな話をしているといつのまにか教会の前へと着いていた。

 遠くに見えるように感じたがそれほど離れてはいなかったらしい。


「さぁ、お入りください」


 教会の扉を開けた修道女に中に入るように勧められ、俺は教会の中へと入って行った。


 教会の中は静かで、木でできている長い椅子がいくつか置いてあり、教会の中の明かりは窓から入った月の明かりだけで薄暗かった。


「幽霊でも出そうな雰囲気だな」


「言われてみればそうかも知れませんね。今、灯りをつけましょう」


 修道女は教会の1番奥に置いてあった机の引き出しからマッチ箱を取り出して教会の中にあるロウソクに火をつけ始めた。

 ソフィを長椅子に座らせて足を見ると紫色になっていた。


「さっきより酷くなってるな」


「大丈夫です。自分に回復魔法をかければ治りますから」


「自己治療もできるのか?」


「はい、私の場合は頑張ればですが……」


「頑張れば?そうしないと自分を治療できないのか?」


 そう聞くとソフィは黙ったまま頷いた。

 何か理由があるようだが、それは聞いてはいけない気がした。


「無理はしない方がいい」


「優しいですね。ジョンさんは」


「……そうでもない」


 ソフィの言葉にそう返すと修道女が灯りをつけ終えて戻ってきた。


「まだ暗いですがこのくらいで十分でしょう」


 教会の中を見渡すと教会の中にある全ての蝋燭をつけたわけではなく、俺達のいる場所の近くの蝋燭だけつけてあった。

 入ってきた入り口は暗いままだったが、今いる場所は蝋燭の火で明るくなっていた。


「気になったことがあるんだが、何故教会の外に?」


 最初に会った時から思っていたことを言うと修道女は特に表情を変えることなく、笑顔のまま答えた。


「外が騒がしかったもので、少し様子を見に行こうと思っていたのです。今、外は一体どうなっているのでしょうか?」


 どうやら外の騒ぎが気になって出て来たようだ。


「俺にもよくわからないが……泊まる予定だった街で突然、戦争が起こった」


「戦争ですか、この近くの街と言うと温泉が有名な街ですが……その街が?」


「ああ、そうだ。街は焼かれてその街にいた市民も無差別に殺されていた」


 街の状況について伝えると修道女はさっきまでの笑顔の表情ではなく、悲しそうな表情を浮かべた。


「それそれは……よくここまで逃げて来ました。ここなら安全ですから、ゆっくり休んでください」


「ああ、助かる」


 礼を言うと修道女はさっきと同じように笑顔になった。

 修道女はソフィに近付いてしゃがむと足の怪我に手を触れた。


「これは酷い怪我ですね。すぐに治しましょう」


「目を開けなくてもわかるものなのか?」


「ええ」


 修道女の触れた手から光が一瞬だけ出るとソフィの足の怪我は一瞬で消えた。


「凄い…!一瞬で治してしまうなんて…」


 ソフィの驚く顔を見るからにソフィから見ても異常なほど速いらしい。


「貴女は……一体何者なんですか?」


 ソフィが修道女に質問をすると修道女は笑顔のまま質問に答えた。


「そうですね。何者と言われましても……私はただの修道女…の真似事をしている者としか言えませんね」


 ソフィの質問に答えた修道女は立ち上がると入ってきた扉へ向かって歩き、扉の前に行くと振り向いた。


「そういえば、まだ自己紹介をしていませんでしたね。私はフランシールと言う名前でございます」


「フランシールさんですか……私はソフィです。こちらはジョンさんです」


「元々名前は無いが……とりあえずそう名乗っている」


 ソフィの言葉に付け加えるようにして言うとフランシールは笑顔の表情から無表情になった。


「そうなのですか……まるで私達のよう…」


「私達?」


 フランシールの言葉を繰り返すように言うとフランシールは表情を笑顔に戻した。


「なんでもありませんよ。気にしないでください」


 フランシールはそう言って扉を開けると教会の外へと出て行った。


「フランシールさん……何者なんでしょうか?」


「見た目は普通の修道女だな。ソフィはもう寝た方がいい」


「ジョンさんは寝ないんですか?」


「俺はまだ寝るつもりはない、フランシールが帰ってくるまでは見張りをしていないとだからな」


 バックパックから銃を取り出して俺は長椅子に座った。


「ジョンさん、疲れていますよね?無理しないでください」


「大丈夫だ。気にしなくていい」


「でも、ジョンさん……顔色がよくないですよ」


 ソフィの言う通り、今日は走り回ったせいで体は疲れ切っていた。

 椅子に座って少し力を抜くと緊張が解けたせいか身体中が痛く感じた。


「ジョンさん、見張りなら私でもできますからゆっくり休んでください」


「………そうか、何かあったらすぐに起こしてくれ」


 正直、ソフィに任せるのは少し心許ないがソフィを信じて俺は休むことにした。


「はい、任せてください。あ、本をお借りしても良いですか?」


「ああ、好きにしていい」


 俺は銃を横に置くと座ったまま目を閉じた。

 横でソフィがバックパックから本を取り出している音が聞こえたが後はそれ以外に何も聞こえなくなった。

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