赤く染まる街
外から爆発音が次々となり、窓から見えるところだけでも燃え盛っていた。
「一体なんだ?」
何が起こっているのかわからなかったが、とにかくここに居てはいけない気がした。
「ソフィ、ここを出よう」
俺は脱いでいた防弾ベストを着ながら言った。
「ナディアさん達はどうするんですか?」
「恐らくこっちに向かってるだろう」
俺は銃の入った袋を持ち、扉の方を見た時に扉が開いてナディアが入って来た。
「空襲みたい……街から出よう」
「空襲?」
「そう、ここは危ないから早く出ないと……」
ナディアはいつも通りの表情で慌てることなく言った。
「これ、ソフィの」
ナディアは銃の入った袋をソフィに渡した。
「女将さん達はどうするんでしょうか…」
「とにかくここを出よう」
俺は扉から出て出口へと向かおうとした時、廊下が爆発で崩れた。
突然の爆発にとっさに顔を腕で守った。
「……まずいな、廊下が塞がった」
「ど、どうしましょう?」
「確かこっちに非常用の通路があったはず……付いて来て」
俺とソフィはナディアについて行き、非常用の通路から旅館を出ることになった。
非常用の通路は崩れておらず、何事もなく玄関まで来ることが出来たがそこには人だかりができていた。
「外は危険です!シェルターへ向かってください!」
従業員が必死になって客を外に出さないように玄関で人の壁を作り、外へ出さないようにしていた。
従業員は必死になって止めていたが客の方が数が多く、数で押されているようだった。
「皆様!シェルターはこちらです!落ち着いて!」
数人の従業員がシェルターへ案内しようとしていたが客の数人しか聞いていないようで玄関から人だかりが消えることはなかった。
「2人を馬車に乗せた時はこんなことになってなかったのに……」
ナディアはどうやら2人を先に馬車に乗せてから俺たちのところへ来たようだ。
「ナディア、なんとかなるか?」
「力任せに押し通れば行けるけど……」
「それだと従業員が危険だな、大勢に踏まれて死ぬかもしれない」
仕方なく別の道を探そうと思い、周りを見渡していると大勢の人の声でわかりにくかったが銃声が聞こえるような気がした。
そして玄関であれだけ騒いでいたはずの大勢の人が急に静かになった。
聞こえるのは外から扉を開けるように言う誰かの声だった。
「なんでしょうか?」
「……嫌な予感がする」
俺は良く耳をすませて何を言っているのか聞き取ろうとしたが玄関から離れているせいで聞き取れなかった。
静かになってから時間が少し経ったところで外からの声も聞こえなくなった。
「……なんだったんでしょうか?」
ソフィが小声で俺に聞いてきたが俺にもわからなかった。
このまま何もなければいいと思った時、玄関爆発し、それと同時に大量の銃弾が飛んできた。
俺はとっさにソフィを伏せさせ、俺自身も一緒に地面に伏せた。
ナディアの方を見ると先程までいたはずのナディアは居なくなっていた。
さっきまで玄関を塞いでいたはずの人の壁は段々無くなっていき、血しぶきで玄関が血に染まっていく光景を見てしまったソフィは酷くは震えていた。
「ソフィ見るな、こっちだ」
俺はソフィの肩を揺さぶり、ソフィの顔をこちらへと向かせて玄関から遠ざかろうと這いずって玄関からは見えないところまで行き、立ち上がった。
「ソフィ、無事か?」
「ジョンさん……私、足が震えて……」
ソフィの足を見ると怪我をしているわけではないようだが恐怖で足が震えているようだ。
「人が大勢死ぬところを見てしまったんだ。そうなるのは仕方ない、歩けそうか?」
「……すいません、足が震えて……動かないんです」
ソフィは震えて足がまともに動かなくなっているようだった。
俺は持っていた袋からライフルを取り出して弾が入っているか確認した。
「急いでここを出よう、このままだと殺される」
「どうするんですか…?」
ソフィは恐怖で涙目になりながら聞いてきた。
「1人ずつ片付けるか、気付かれないように通るしかない。奴らはマシンガンを持っているようだった」
「そんなの無茶です!」
「無茶でもやるしかない、ソフィ、銃は持っているな?」
俺はソフィの持っている袋を指を差して言った。
「私には……人を殺すことなんて……」
「殺さなくていい、もしもの時のために出しておくだけでいい」
「でも、それではジョンさんが……」
「独りで戦うのは慣れている。心配しなくていい」
俺はライフルを持ち直し、通路から玄関の様子を見た。
どうやら敵は死体を確認しているらしく、下を向いて歩いていた。
近くに落ちていた木の破片を持って俺は敵に見つからないように玄関近くまで近寄り、敵が見ていないうちに俺がいる通路とは別の通路に木の破片を投げた。
木の破片は音を鳴らし、敵はそれにつられるようにして移動し始めた。
今なら音を立てなければ敵の近くを通って玄関から外へ出られる。
俺はソフィのところへ戻った。
「今なら敵はこっちを見ていない、行こう」
「……わかりました。すぅ……はぁ……お願いします」
俺はソフィを抱き上げると音を立てないようにゆっくりと歩いて玄関へと向かった。
敵は音がしたところを見ているらしく、近くの部屋などを見ていた。
ソフィは目を閉じて、なるべく呼吸する音を立てないように努力していた。
ゆっくりと慎重に倒れている死体の上を通り、外を目指す。
ゆっくりと歩いてあと少しで外に出そうになった時、敵の方を見ると敵の1人と目が合ってしまい、足を止めた。
敵も俺達を見て少し固まっていた。
俺はソフィの背中から手を離し、右足に付けているホルスターから拳銃を抜いて敵を撃った。
こっちに気付いた敵の胸に弾が当たり、血が舞った。
「なんだ!?」
「生き残りだ!」
しかし、1人倒してもこっちは数と武器で負けている。
俺がしたこの行動は失敗だった。
俺は銃を持ったまま、ソフィを抱え直すと全力で外へ出た。
旅館から出ると外は酷い光景になっていた。
道には死体が転がり、ほとんどの家屋が燃えていた。
走って馬車の止めてあった場所へ行くとまだ無事のようだった。
急いで馬車の中へと入り、ソフィを椅子に座らせる。
「お帰りー、ジョンサン」
「無事でしたか!心配しましたよ」
馬車の中には2人が先に乗っていた。
しかし、馬車の中にナディアはいなかった。
「……ナディアがいないな」
「ナディアさんはどうしたんですか?」
「わからない、どこかに消えた」
「消えたって……」
「とにかく今はナディアが来るまで持ちこたえるしかない」
俺はバックパックを馬車の中に置いて外へ出た。
「何をする気ですか?」
「時間を稼ぐ、敵から銃と弾薬を奪えば戦えるはずだ」
「そんなことができるんですか?」
「……やらなければ全員死ぬ」
俺は馬車の止まっている小屋から出ると迫ってきていた敵をライフルで撃ち抜いた。
「いたぞ!!撃て!!」
敵は仲間と一緒に銃を撃ってきた。
俺は身動きが取れなくなることがないように路地へ入って身を隠した。
結局戦争に巻き込まれてしまい、頼れる仲間のナディアは消え、段々状況が悪くなっていきますね。